寒さに強いパンジーやビオラは、花の少なくなる晩秋から春を華やかに彩ってくれるかわいい花です。寒冷地では冬の間は雪に埋もれてしまったり、霜や寒風にあって縮こまり、枯れてしまったかに見えますが、春を迎えると再び花を咲かせ、こんもりと繁ります。花色や花姿も豊富で、花壇、寄せ植え、ハンギングバスケットと利用範囲が広いのも魅力。では、パンジー・ビオラは、どのようにすれば増やすことができるのか。パンジー・ビオラを増やしたいときに準備すべきことや、増やし方の手順をみてみましょう。All Aboutガイドで、ガーデンライフアドバイザーの畠山潤子さんにお聞きしました。
目次
パンジー・ビオラを育てる前に知っておきたいこと
厳しい寒さにも負けず、健気に可憐な花を咲かせるパンジーとビオラ。どちらもスミレ科、スミレ属の植物で、人の気持ちをほっこりと温めてくれます。
パンジーとビオラは、花姿が非常によく似ています。以前は「花径が4㎝以上はパンジー」、「小輪多花はビオラ」といったような分け方がされていましたが、現在は人工交配により花径の大きいビオラなども登場し、両者の境界は曖昧となっています。従って、パンジーかビオラかの区別は、種袋に記載されている名称や苗の植物ラベルに頼るほかないのが現状です。育て方に特に違いはないので、ここでも「パンジー・ビオラ」と並列して解説します。
パンジー・ビオラの基本データ
学名:Viola × wittrockiana
科名:スミレ科
属名:スミレ属
原産地:ヨーロッパ、西アジア
和名:三色菫(サンシキスミレ)
英名:Pansy、Viola
開花期:10~6月
花色:赤、ピンク、黄、オレンジ、白、青、紫、黒、複色
発芽適温:15~20℃前後
生育適温:5~20℃前後
切り花の出回り時期:12~3月
花もち:4~6日
パンジー・ビオラをポット苗から育てるなら、秋10~11月頃か、春3~4月頃が適期です。ガーデニングシーズンの秋と春にはポット苗がよく出回っていますので、園芸ビギナーのかたなら苗から育て始めるとよいでしょう。
パンジー・ビオラを種から育てるなら、8月中旬~9月頃が種まきの適期です。
植物を増やすには、いくつかの方法があります
パンジー・ビオラの増やし方を説明する前に、植物はどのようにして増やすことができるのか、その方法について知っておきましょう。
一般的な植物の増やし方は、「種子繁殖」と「栄養繁殖」とに大別できます。
「種子繁殖」とは、その名のとおり、種による繁殖方法です。一方の「栄養繁殖」には、以下のような方法があります。
挿し木
葉、茎、根など植物体の一部を切り取って用土や水に挿して発根させ、新たな個体を得る手法。
株分け
親となる植物を根とともに分けて、複数の株を得ること。いちどに得られる株数は少ないですが、大株になったものや老化した株の更新にも用いられる手法です。
接ぎ木
植物の一部を、台木となる別の植物に接合して生育させる方法。病害に強い丈夫な個体を得るために、バラのほかトマトやキュウリ、ナスなどの果菜類にもよく用いられます。
取り木
親となる植物の一部に傷をつけて、発根させたあとに、親株から切り離して新たな個体を得ること。挿し木でうまくいかない植物でも増やすことができます。観葉植物や樹木などで多く用いられる手法です。
球根
球根は、葉や茎、根が変化した部分に養分を蓄えたもの。変化した器官により、鱗茎、球茎、塊茎、根茎、塊根と分類されます。
このほかに、ムカゴや木子(きご)といった形で増える植物があります。また家庭の園芸で行なうことはまずありませんが、「組織培養」という手法で人為的に増やす方法もあります。
パンジー・ビオラを増やす、最適な方法と時期
前項で述べたように、植物はさまざまな方法で増やすことができます。
パンジー・ビオラの場合は、「種まき」「挿し芽」で増やすことができます。ただしF1(※)と呼ばれる改良品種は不稔(種を結ばない)の場合があり、うまく採れたとしても、優れた親の性質を受け継ぐものではありません。
また、挿し芽で増やす場合、品種登録されているものについては、許可なく営利目的の増殖をすることが法律で禁止されています。これは「種苗法」という、よりよい品種を作り出す育種家を保護するための法律です。家庭のなかで予備苗を作る程度であれば問題ありませんが、このような法律があることを頭の片隅に入れておくとよいでしょう。
種まきの適期
パンジー・ビオラの種まき適期は、8月中旬~9月頃です。しかし、発芽適温は15~20℃くらいなので、30℃を超えるような高温では芽が出にくいです。
挿し芽の適期
秋10月頃か、春3~4月頃が適期です。これより遅れると、秋は根がしっかり張る前に冬が来ますし、春は観賞期間が短くなってしまいます。
※F1(エフワン)品種 一代交配種、雑種第一代、ハイブリットとも呼ばれる。交配した一世代に限り、その交配親よりも品質、収量などが優れているもの。
知りたい! パンジー・ビオラの増やし方「種まき」
準備するもの
・ 市販のお茶パック、だしパックなどの袋
・ 保存用の袋(容器)
種を採る手順
パンジー・ビオラの開花後に種を採って増やしたい場合は、花後の花がらのついた茎は摘まずにとっておきます。
ただし、花後のパンジー・ビオラは体力が落ちていますので、普段より病気にかかりやすい状態です。花がらのついた茎葉がたくさんあると蒸れやすくなるので、種を採るために残す枝は必要最低限にして、他は剪定するほうが株への負担は軽くなるでしょう。
パンジー・ビオラの種は、気づかない間にこぼれてしまっていることがあります。子房が膨らんできたら、お茶パックなどの袋をかぶせておくと楽です。種が熟すと自然に莢が弾けて、袋の中にポロポロ落ちるので、後でそれを回収します。
種の保存方法
採取後は種を乾燥させ、名前と採取日を書いたクラフト封筒などに入れておきます。さらに密閉できるジッパー袋などに入れておくと、比較的長く保存できます。
採取後の種は、年数を重ねるごとに発芽率が落ちてきます。いつまでも後生大事にとっておかず、次の種まき適期に忘れずにまいてあげましょう。
種まき方法
パンジー・ビオラの種は、一旦ピートバンや育苗箱、セルトレイなどに種まきしたあと、丈夫な苗を選別して植え場所に移植するようにします。
パンジー・ビオラの種は、ゴマ粒程度の大きさです。厚紙に種をのせてパラパラと「ばらまき」にするか、ピンセットでひと粒ずつ種をつまむ、あるいは湿らせた爪楊枝の先にひと粒ずつ吸いつけるようにして、まき床に「点まき」にします。種まき用土は、あらかじめ十分に湿らせておきましょう。
パンジー・ビオラの種は、発芽の際に光が必要な「好光性(こうこうせい)」の種です。種をまいたあとに、あまり厚く土をかぶせてしまうと発芽しません。種まき後は、種の上に土をふりかけるように薄く覆土します。
芽が出るまでは、種が乾いてしまわないように管理します。発芽後、芽が混んでいるところは適宜間引きを行ない、本葉が3~4枚になったら、ポットに植え替えします。ポットに移植したあと、十分に根が回ったら定植します。その後は、『パンジー・ビオラの育て方。コツとお手入れ、植え替えや寄せ植えを一挙紹介します』の「パンジー・ビオラと仲よくなる、日々のお手入れ」と同じように管理します。
発芽のコツ
パンジー・ビオラの種は、種まきから1~2週間ほどで発芽します。前述のとおり、種まき適期であっても高温下では発芽しにくいので、事前に低温処理を行うと発芽しやすくなります。やり方は、蓋ができる容器に湿らせたコットンなどを敷いて種をばらまき、蓋をして冷蔵庫に数週間おきます。このあと、通常どおりに種をまきます。
知りたい! パンジー・ビオラの増やし方「挿し芽」
準備するもの
・鉢(浅めで広口の駄温鉢など)
・挿し木用土(赤玉土やバーミキュライトなど肥料分のない新しい土)
・ハサミ(茎の導管を潰してしまわないよう、よく切れる物)
・細い棒(挿し穂を刺す際の穴あけ用)
・発根促進剤(なくても可。小さい容器で市販されている製品、ルートンやメネデールが入手しやすい)
挿し芽の手順
パンジー・ビオラを挿し芽にする場合は、以下の手順で行ないましょう。
①挿し穂として、若く元気な茎を切り取り、1時間ほど水あげしておきます。
②茎についた葉のうち、土に埋まってしまう部分は切り取ります。
③挿し芽の用土は、あらかじめ十分湿らせておきます。
④挿し穂を挿し込みやすくするため、用土に細い棒で穴を開けておきます。
⑤発根促進剤がある場合には、用土に挿す前に挿し穂の切り口に薬剤をつけてください。メネデールの場合は、100倍くらいに薄めた液に5分ほど浸けてから挿します。
⑥挿し穂を傷めないよう用土に挿し、隙間が生じないように、そっと土を寄せます。
⑦挿し穂を挿した鉢を、直射日光が当たらない明るい日陰に置きます。発根するまで、土が乾燥しないように管理します。
適温適湿を保っていれば、およそ3~4週間で根が出るでしょう。新しい葉が出てくれば、無事に発根しているはずです。根を傷めないように注意しながら鉢上げをして、新しい苗として育てていきましょう。
コツと注意点
パンジー・ビオラを挿し芽で増やすなら、「清潔に」を心がけるのが成功のコツです。
挿し床に使う用土は、新しい清潔なものを用意します。間違っても、古い鉢土を使ってはいけません。
また、挿し穂を準備する際の刃物にも注意してください。パンジー・ビオラの挿し穂を切り取る際に、導管(水の通り道)を潰してしまうと、うまく水あげができません。挿し穂の準備には、切れ味のよいハサミやナイフを使いましょう。なお、この刃物を媒介として病気がうつる場合があるので、この点も注意したいですね。
なお、挿し芽で得られた苗は、親株と同じDNAを受け継ぐ、いわばクローンになるわけですが、種の場合は「親と子」の間柄になります。従って結実した種は必ずしも親株の性質を100パーセント受け継ぐわけではありません。
種の場合「子孫を残す繁殖」という意味では増やすことができますが、Aという個体を複数に増やしたいのであれば、挿し木などの方法を取るとよいでしょう。
増やし方を知って、楽しみを広げましょう
夏の暑さに弱いため、1年草扱いされるパンジー・ビオラ。そのバリエーションの豊かさは短命であることを補って余りあるものだと思います。
品種が多いというのは、それだけ交雑しやすいということです。パンジー・ビオラやペチュニアなどは、家庭でも交配を試みることができます。
手順をごく簡単に説明すると、開花した花の雄しべから花粉を取り、異なる花の雌しべにつけて受粉させ、その種を採る、ということになります。少し細かい作業にはなりますが、ひょっとしたら見たことのない花が咲くかも?と想像するだけで、ワクワクしますよね。
Credit
監修/畠山潤子
ガーデンライフアドバイザー
花好きの母のもと、幼少より花と緑に親しむ。1997年より本格的にガーデニングをはじめ、その奥深さや素晴らしさを、多くの人に知ってもらいたいと、ガーデンライフアドバイザーとして活動を開始する。ウェブ、情報誌、各種会報誌、新聞などで記事執筆や監修を行うほか、地元・岩手県の「花と緑のガーデン都市づくり」事業に協力。公共用花飾りの制作や講習会講師などの活動も行っている。
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