都会のマンションの最上階、25㎡のバルコニーがある住まいに移って26年。自らバラで埋め尽くされる場所へと変えたのは、写真家の松本路子さん。「開花や果物の収穫の瞬間のときめき、苦も楽も彩りとなる折々の庭仕事」を綴る松本路子さんのガーデン・ストーリー。今回は20数年、思考錯誤した結果たどり着いた、鉢植えの冬のお手入れについて心がけているポイントをご紹介します。

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20数年間の試行錯誤

初夏のバラ咲くバルコニー
5月のバラに溢れたルーフバルコニー。リビングからの眺め。

都心のマンション4階のルーフバルコニーで、バラづくりを始めて26年。今では60鉢のバラ苗に囲まれて日々を過ごしている。

広めのバルコニーのある部屋に移り住んだ時、直感的にその空間をバラで埋め尽くしたいと思った。だが当時、鉢植えのバラは育てるのが難しいとされ、特につるバラは専門家ほど「無理」との意見だった。それでも「何とかやってみたい!」との思いで、10本の苗木からスタートしたのが事始めである。

何年か経った頃、鉢植えバラにとっての2大ポイントは、水やりのタイミングと冬の土替え作業であることが、実感として分かってきた。特に限られた土での鉢栽培では、植えつけ後の土管理を怠ると、翌年から徐々に花数が減ってくる。肥料を加えるだけでは補えないのだ。

バルコニーで咲く‘シティ・オブ・ヨーク’。
バルコニーのへりを縁取る‘シティ・オブ・ヨーク’。

20数年にわたる試行錯誤の末、何とかわが家なりの冬仕事の方法が定着した。その頃から苗木がぐんぐんと成長して花数も増えてきた。中でも‘シティ・オブ・ヨーク’の苗木は7mほど枝を伸ばし、バルコニーのへりを縁取っている。

休眠期をつくる

バラ アイスバーグとムタビリス
12月に咲いた‘アイスバーグ’と‘ムタビリス’を部屋に。

通常、バラは冬の数カ月は葉を落とし、休眠期を迎える。3月初旬に新芽が膨らむまで苗を休め、養分を蓄えるのだ。だが気候の温暖化のせいだろうか。近年、四季咲きバラは冬になっても咲き続け、そのままにしておくと1月、2月までも花をつける。

わが家ではクリスマスシーズンになると、12月に咲くバラをカットして部屋に飾ることにしている。さらにすべての葉を取り除く。「さあ休んでください」と、人の手で休眠期をつくり出すのだ。

無農薬栽培を続ける

アイスバーグ
12月に咲いていた‘アイスバーグ’。ドイツのコルデス社により1958年に作出され、長年愛されている名花。木立ち性の‘アイスバーグ’は一年を通じてよく開花する。ドイツ名はシュネー・ヴィッチェン(白雪姫)。

葉を取り除くのにはもう一つ意味がある。バラ栽培を始めてから一度も農薬を使用していないので、バラ特有の黒点病(黒星病)を予防するためだ。

3月の新芽から、5月中旬の春バラの最盛期を迎えるまで、葉は何とか美しいまま保たれるが、秋にはやはり黒点病が現れる。それを翌春まで持ち越さないため、すべての葉を取り除く作業が不可欠。

さらに土替えの際にはまず鉢の表面の土を3cmほど取り除く。これも同じ理由で、土中に潜む病原菌を残さないためだ。

真冬の土替え作業

シャリファ・アスマ
12月に咲いていた‘シャリファ・アスマ’。1989年作出のイングリッシュローズで、四季咲き性が強く、わが家では‘エブリン’と並ぶ香りのバラ。オマーン国の王女の名前を冠する。完熟したレモンの木を背景に。

1月から2月にかけての休眠期に、枝の剪定と鉢の土替え作業を行う。つるバラがほとんどなので、剪定は枝の先端15〜20cmほどをカットすることが多い。我が家の鉢はほとんど10号以上の大きさなので、毎年すべての土を入れ替えることは行っていない。ただ苗ごとに根の状態を見て、生育の状態がよくない場合は、新しい土に植え替えて再生させる。

ほとんどの苗は鉢いっぱいに健康的に根を張っているので、土の1/3〜1/4を取り除いて、新しい土と入れ替える。その際にバラ園から取り寄せた乾燥馬糞を混ぜ込む。以前は鶏糞や牛糞も試したが、それに比べ馬糞の力はかなり大きいようだ。

マルチング

イントゥリーグ
12月に咲いていた‘イントゥリーグ’。1981年アメリカ、ウォリナー作。12月の花色は淡いが、春秋には濃いワインレッドで神秘的な色合い。英名は「陰謀」という意味だが、私は「恋のはかりごと」と勝手に訳している。

土替え作業の最後は、鉢の表面数cmに腐葉土を敷き詰める。さらに、土壌改良と同時に株元のマルチングのため、ココナツヤシの繊維でできたチップを載せる。

マルチングは防寒対策、さらに水やり時による菌の跳ねを防ぐ役割もある。ココナツヤシチップは、コガネムシの幼虫対策。コガネムシは地中に潜り込み、卵を産みつける。その幼虫が根をすべて食べつくすのだ。ある年、数本の苗木が弱ってきたので鉢土の中を見ると、たくさんの幼虫が根を食い荒らしていた。虫を取り除くと元気を取り戻したが、以来、コガネムシが産卵に飛来する6月から夏にかけてはチップを増やしている。

春を思い描いて

ブラザー・カドフィール
12月に咲いていた‘ブラザー・カドフィール’。1990年作出のイングリッシュローズの名花。秋はやや小ぶりになるが、春には花径10cmほどの大輪花をたくさん咲かせる。推理小説(『修道士カドフェルシリーズ』)の主人公の名を持つバラ。

日頃からバラ苗を見回り、その声に耳を傾けていれば、必ず何らかのSOSの信号が目にとまる。葉やつぼみの病虫害は早期発見で取り除けるし、また苗の状態がよくない時は、土の中を見れば、水や肥料不足、根腐れなどほとんどの原因が発見できる。そうして冬に土を改良し、苗を丈夫にしておけば、無農薬でもトラブルが少ないバラ栽培が可能となる。

冬の寒さの中、外での土替え仕事は厳しいが、60鉢すべての作業を終えた後のすがすがしさには格別なものがある。何よりもこの季節に枝だけになった苗木が、春を迎え芽吹いた時のときめき、さらにバルコニーがバラの花で溢れんばかりになる光景を思い描くと「苦もまた楽し」となる。

ライラック・ローズ
12月に咲いていた‘ライラック・ローズ’。1990年作出のイングリッシュローズ。深いローズ色で、独特の香りを持つ。一年を通じてよく開花する、我が家では古参のバラ。

毎年5月にバルコニーを訪れることを心待ちにしている親しい友人たちの笑顔や、バラたちへの称賛の言葉も心強い味方だ。バラの花びら入りのシャンパンでの乾杯の光景が目に浮かぶ。

写真を撮り、カードをつくり、バラ風呂に浸る。こうしたバラ遊びの数々は、毎年の冬仕事を過ごした私への、バラからの贈りものに他ならない。

併せて読みたい

写真家・松本路子のルーフバルコニー便り「ベルギーゆかりのバラたち」
鉢植えバラの冬のお手入れ「来春よく咲かせる!とっておきの話」
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Credit

写真&文/松本路子
写真家・エッセイスト。世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2018-19年現在は、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルムを監督・制作中。

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