都会のマンションの最上階、25㎡のバルコニーがある住まいに移って26年。自らバラで埋め尽くされる場所へと変えたのは、写真家の松本路子さん。「開花や果物の収穫の瞬間のときめき、苦も楽も彩りとなる折々の庭仕事」を綴る松本さんのガーデン・ストーリー。今回は、旅で出合ったベルギーゆかりのバラ‘ルドゥーテ’、‘ロザリータ’、‘グラヴァン・ミッシェル・デュッセル’についてご紹介します。

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思い出を想起させるバルコニーのバラ

ベルギーとフランスの旅から帰った私を迎えてくれた、バルコニーの秋バラ。中でも‘ルドゥーテ’と‘ロザリータ’が咲く様子には感慨深いものがあった。9年ほど前にベルギーのバラの庭園を巡る旅に出かけた時の記憶がよみがえってきたのだ。

‘ルドゥーテ’という名のバラ

バラ ルドゥーテ

旅は南西部の小さな町、サン・チュベールから始まった。ここは植物画家のピエール=ジョゼフ・ルドゥーテが生まれ育った町。記念館があり、館長はルドゥーテの画家としてのルーツはすべてこの町にあると語った。彼が絵の修業をした教会の裏手には「ルドゥーテバラ園」がつくられ、市民の憩いの場となっている。

バラ ルドゥーテ

そこで私が出合ったのが‘ルドゥーテ’という名前のバラ。デビッド・オースチンが1992年に作出したバラは、19世紀に『マルメゾンの庭園』の挿絵を描き、またその時代のバラのほとんどを収めた『バラ図譜』3巻を出版した画家へのオマージュとして、その名を冠された。ほんのりとピンク色がかった美麗な花姿のイングリッシュ・ローズは旅の記念にと、その年我が家のバルコニーにやってきた。

ベルギー王妃のバラ‘ロザリータ’

ベルギー王妃のバラ‘ロザリータ’

庭園巡りの旅の途中に立ち寄ったのが、ベルギー北西部、北海に面した町オステンド近郊にあるレンズバラ園。ここは創立が1870年という歴史あるナーサリーで、800種を超える苗を育て、新種の開発にも力を注いでいる。レンズ作出のバラで知られているのは、‘ラッシュ’、‘パスカリ’、‘オミ・オズワルド’など。だが、私はそこで見かけた‘ロザリータ’という名前のバラに心惹かれた。半つる性の房咲きで、株一面に白い5弁の花をつける。

く鉢仕立ての‘ロザリータ’
都会のバルコニーで咲く鉢仕立ての‘ロザリータ’。

その名前の由来を聞くと、いっそう興味が湧いてきた。ベルギーのパオラ前王妃のプリンセス時代の愛称から名付けられたのだという。イタリアで800年続く名家出身の彼女は、バラをこよなく愛し、しばしばナーサリーを訪れたという。

1997年に新たに作出されたバラが王妃に捧げられ、‘ロザリータ’が生まれた。そういわれれば、ベルギーの庭にはたくさんの白いバラが咲いていた、と思い当たる。ベルギー国王アルベール2世の妃として、2013年まで王妃の座にあった彼女は、今も現国王フィリップの母として、国民に愛され続けている。

房咲きのロザリータ
‘ロザリータ’は房になってたくさんの花が咲く。

わが家の‘ロザリータ’は、苗が日本に輸入されるようになってすぐに入手した。以来毎年たくさんの花を見せてくれる(日本での販売名は‘ロザリタ’)。

ヘックス城のデュッセル伯爵夫人のバラ

半つるバラ グラヴァン・ミッシェル・デュッセル
香りがよい半つる性バラ‘グラヴァン・ミッシェル・デュッセル’。

ベルギー東部のトングレン近くにあるヘックス城は18世紀に建てられ、優美な姿と広大な庭園をもつ。そこで年2回開かれる、ローズフェスティバルがよく知られている。庭園のバラのコレクションの大部分は、現城主の今は亡き母デュッセル伯爵夫人の手になるもの。夫人は特に野バラやオールドローズを愛し、それらを中心に1,200種ものバラが咲く庭園をつくり上げた。さらに城内の主だったバラ61種に自ら解説を加えた『ヘックス城のバラ』という図譜を出版している。

バラ グラヴァン・ミッシェル・デュルセル

夫人に捧げられたバラは、彼女の希望で夫である伯爵の名前を冠し、‘グラヴァン・ミッシェル・デュッセル’と名づけられた。これもまたレンズバラ園作出のバラである(日本での販売名は‘グラヴァン・ミッシェル・デュルセル’)。

伯爵夫人もイタリア出身で、パオラ前王妃とは幼馴染だったという。バラを愛する2人の女性が、ともに異国の地で何を語らっていたのだろうか。ヘックス城の正面の庭には伯爵夫人に捧げられたピンクのバラと、王妃に捧げられた白いバラが並び、咲き誇っていた。その光景が今でも鮮明に思い出される。

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Credit

写真&文/松本路子
写真家・エッセイスト。世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2018年現在は、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルムを監督・制作中。

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