まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
前田満見の記事
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おすすめ植物(その他)
【初夏の庭】緑豊かなシェードガーデンづくりにおすすめの植物
豊かな葉物で瑞々しく 日陰や半日陰は、何となく暗くてジメジメしたイメージですが、直射日光を好まない植物たちにとっては天国。なかでも、カラーリーフなどの葉物は生き生きと育ちます。 その代表格がホスタ。日本原産のギボウシが欧米で品種改良されたものです。斑入りや青灰系、黄緑系など、色彩や模様のバリエーションに富み、ホスタだけでもシェードガーデンができると言っても過言ではないほど数多くの品種があります。しかも、もともとは日本原産なので、日本の風土にもよく馴染みます。 左/青灰系のホスタ‘エルニーニョ’。右/黄緑系のホスタ‘ゴールデンティアラ’。 もちろん、わが家の北東のシェードガーデンにも5種類のホスタを植えています。濃い緑系の‘フランシー’、青灰系の‘ハルション’と‘エルニーニョ’。黄緑系の小葉が愛らしい‘ゴールデンティアラ’。名前を忘れてしまいましたが、白い斑入りのホスタは鉢植えに。 なるべく色味が重ならないようにセレクトしているので、緑のグラデーションだけでも十分見栄えします。放射状にふわっと開く葉の形状も優雅で、夏には、ユリ科らしい薄紫色の花をいくつも立ち上げ、花のない日陰の庭に涼しげな彩りを添えてくれます。まさに、シェードガーデンの主役です。 壺の左下付近に茂る丸い葉がツワブキ。その右、写真中央でふわふわと小さな葉を四方に伸ばすのがクジャクシダ。右のフェンス沿いに生える青灰色の葉がコンテリクラマゴケ。 そんなホスタの脇役が、ツワブキやシダ類、ヒューケラです。ツワブキは、白い斑入りの‘ウキグモニシキ’。清涼感のある丸葉が美しい品種です。常緑で一年中みずみずしい葉色を保ってくれるのも嬉しいところ。昔から日本人に親しまれてきたツワブキは、落ち着いた和の風情がありシェードガーデンに似合いますね。 ニシキシダ‘ゴースト’ シダ類は、枝分かれした葉の形状が孔雀の尾羽のように華やかなクジャクシダと、褐色の葉軸とシルバーリーフのコントラストが目を引く ニシキシダ‘ゴースト’。 そして、青灰色の葉が魅力的なコンテリクラマゴケの3品種。それぞれが個性的ですが、なかでもコンテリクラマゴケは、シダ類としては珍しい這性で、極日陰のほうが青灰色が冴えて光沢感が増し、数少ない日陰のグラウンドカバーに最適です。 また、這性を生かして試しにハンギング仕立てにしてみたところ、青白い光を纏って枝垂れる様子があまりに神秘的で見惚れてしまいました。日陰のハンギングとしても活用できるなんて、何とも嬉しい限りです。 鉢植えにしたヒューケラ‘トパーズ・ジャズ’。 そして、ヒューケラ(ツボサンゴ)は、ハニーゴールドからオリーブグリーンに変化する‘トパーズ・ジャズ’。明るい葉色とレモンイエローの小花が、シェードガーデンに華やかさを添えてくれる大好きな品種です。ヒューケラは、なぜか地植えにすると消えてしまうので鉢植えで育てていますが、気軽にレイアウトを変えて楽しめるので意外と重宝しています。 バリエーション豊かな葉物は、丈夫で手間いらず。その組み合わせを考える楽しさと、ほぼ一年を通して変わらない瑞々しさは、花にも劣らない魅力があります。 特に、強い陽射しが照りつける夏は、目にも涼しく癒やされます。 つる性植物で壁面に緑を シェードガーデンをできるだけ明るく見せるために、カラーリーフのつる性植物も欠かせない一つ。わが家では、ブドウ科のヨーロッパブドウ‘プルプレア’と黄金ノブドウを庭の入り口付近に、ヘンリーヅタとアメリカヅタをガーデンシェッドの壁面に誘引しています。 壁面のアクセントとして、一年草のロフォスをハンギングに。暑さや水切れに強く、ハンギングに最適です。 ヨーロッパブドウ‘プルプレア’は、シルバーリーフがクールでお洒落。黄金ノブドウは、名前の通り輝くような黄金葉が魅力です。この2種類を庭の入り口付近の木製フェンスに誘引し、その足元にホスタとヒューケラの鉢植えを置いています。扉を開けると目に飛び込んでくるカラーリーフのハーモニーが、わが家のウェルカムリーフ。メインガーデンへと静かに誘います。 そして、ヘンリーヅタとアメリカヅタは、どちらも端正な葉の造形が魅力です。ひと株でガーデンシェッドの壁面を覆ってしまうほど生育旺盛で、植えてから2年ほどで殺風景な壁面に緑の装飾を施してくれました。特にヘンリーヅタが絡まるガーデンシェッドの窓辺が一変。 外見はもちろんのこと、内見の仄暗さに浮かぶヘンリーヅタは、まるで絵画のようです。春の褐色の葉から秋の紅葉まで、さまざまな表情を見せてくれるので、季節ごとに窓辺を飾る楽しみもできました。 そんな「絵になる景色」が、今ではシェードガーデンの見所の一つに。つる性植物のデザイン力、やっぱり素晴らしいですね! 白い花が誘う庭の入り口 ジギタリスとシノグロッサムが咲く夏のシェードガーデン。 葉物の緑が中心のシェードガーデンですが、半日陰で育つ白い花を差し色に植えています。なぜなら、日向より白色が際立ち、より一層緑が瑞々しく見えるから。 春咲くバイカオウレン(左)とユキザサ。 春はバイカオウレンとユキザサの山野草。初夏はジギタリスとシノグロッサム、秋はホトトギスが彩ります。緑に包まれて咲く白い花々は、とても静かな佇まい。目にするだけで心が安らぎます。 そして、庭の入り口の扉には、初夏になるとつるバラとスタージャスミン、クレマチスの白い花が咲き乱れ、シェードガーデンが一気に華やぎます。つるバラは一重咲きの‘キフツゲート’、クレマチスはフロリダ系の‘白万重’です。 一重咲きのつるバラ‘キフツゲート’。 ‘キフツゲート’は、とても樹勢が強く暴れん坊。冬には強剪定して何とか樹勢を抑えていますが、毎年、可憐な花をたくさん咲かせてくれます。 白い星形の極小花が降り注ぐように咲くスタージャスミンは、心が洗われるような愛らしさ。満開時は、息を呑む美しさに圧倒されます。更に、艶のある常緑の葉も、一年中緑を保ってくれるありがたい存在です。 上から、スタージャスミン、‘キフツゲート’、‘白万重’が混ざり咲く格子戸。 クレマチス ‘白万重’は、ライムグリーンとクリーム色の八重咲きが品よく、どことなく和の風情も。咲き始めから終わりまで、さまざまな表情を見せてくれる大好きなクレマチスです。クレマチスもつるバラも、日当たりを好む植物ですが、幸いにもこの2種類は、半日陰のこの場所を気に入ってくれたようです。 低木のチンシバイ(ニワナナカマド)。 さらに、スタージャスミンの側に、低木のチンシバイもふわりと寄り添います。数え切れないほどの白梅に似た小花、真珠のようなつぼみの何と清楚で可愛らしいこと。明るい黄緑色の切り込み葉と相まって、清々しい景色を醸し出しています。 シェードガーデンの白い花々の競演は、これからが見頃。甘い香りのつるバラ‘キフツゲート’とスタージャスミンが、とっておきのブレンド香を振りまいて庭へと誘います。
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一年草
春一番を花で楽しもう! ビオラとスミレの花あそび
春色のビオラのコンポート 3月になると、暖かな陽射しを浴びて可憐な花を溢れんばかりに咲かせる鉢植えのビオラたち。その姿は、まるで群舞する蝶々のように華やかです。程よく伸びた花茎に青々と繁った葉も美しく、春のビオラは切り花にも最適。さまざまな器にあしらって春一番の彩りを楽しみます。 器は、浅鉢やコンポート、リキュールグラスやミルクピッチャーなど、食器棚にあるものを用います。例えば、直径20〜25cmの浅鉢やコンポートは、縁に沿って挿すとリースのような花あしらいになります。やや大きめのフリルビオラをあしらうだけでも十分華やかですが、クリスマスローズや葉物をプラスすると色彩が豊かになります。葉ものは、ヒューケラやワイルドストロベリー、ゲラニウムなど、小ぶりで形の可愛らしいものを。 また、この時季、道端や空き地でよく見かけるカラスノエンドウもお気に入りです。ご存じの通り、カラスノエンドウはいわゆる雑草ですが、スイートピーに似たピンクの小花も交互に並んだ小葉も、クルンと巻いたひげも何とも愛らしく、目にするとつい手にとってしまいます。 そんなカラスノエンドウは、意外にもビオラを引き立てる名脇役。しなやかな花茎をあえて無造作にあしらうと、ナチュラルで生き生きした印象になります。極小ながら鮮やかなピンクの花もいいアクセントに。とても雑草とは思えない存在感です。 うららかな春の野辺を思わせるこんな花あしらいは、ダイニングテーブルに飾るのが最適。旬の食材やお茶菓子と合わせれば、五感が喜ぶ季節感に溢れた食卓に。家族や親しい友人と心躍るひとときを味わえます。 また、つる性植物をリース状に丸めて添えても素敵です。以前、友人の庭から分けてもらった種子付きの冬咲きクレマチスをひと枝添えてみたところ、ふわふわの綿毛を纏ったクレマチスとビロードのような濃紫色のビオラの、儚なくも凛とした美しさに見惚れました。 冬を彩ったクレマチスと、春への希望を託されたビオラ…。器の中で季節の移ろいを感じられる趣のある花あしらいができるのも、庭の草花だからこそですね。 小花を束ねたブーケのように グラスに脚と土台が付いたゴブレットやリキュールグラスなども、ビオラの花丈に程よく使い勝手のよい器。ガラス製や陶器製、素材を変えて楽しみます。 普通のグラスよりちょっとリッチなデザインなので、フリル咲きのビオラを1輪あしらうだけで様になるのも嬉しいところ。小ぶりのビオラは、数輪まとめると可憐さが際立ちます。 さらに、早咲きのスイセンやバイモユリ、ムスカリなどの球根花を添えると、春一番の彩りを束ねた小さなブーケのように。初々しい色合いとほのかな香りに癒やされます。 片手で容易に持ち運びできるので、チェストやサイドテーブル、また、キッチンカウンターなど、その日の気分で飾る場所を変えて楽しみます。たったそれだけで、部屋の空気が変わり、居心地がよくなります。 暮らしの其処此処で、ふと目にした先にある庭の花は、わたしの心の癒やし。特に、寒い冬を耐えて春一番に咲く花たちは、ポジティブな力を与えてくれます。 野趣あふれるスミレの花あしらい この時季、薄紫色の絨緞のように庭を彩るタチツボスミレ。もともとこの庭に自生していた山野草ですが、いつの間にか増えて、今では待ち遠しい春の風物詩です。 ビオラより花も葉っぱも小さく、花茎も極細で短いので、一株を根っこごと抜いて小鉢に植えたり、根洗いして浅鉢にあしらいます。そうすると、次々とつぼみも開花して自然な姿を長く堪能できます。 また、タチツボスミレと同じ山野草のユキノシタを添えると、野趣あふれる風情に。「春は足元から…」。そんな景色が眼に浮かびます。それにしても、地味な姿からか、つい見過ごしてしまうユキノシタも、こうして見ると縞模様の斑入りの丸葉が何と愛らしいこと。楚々としたスミレによくお似合いです。 心躍るスミレの砂糖菓子 一輪一輪、卵白をつけて砂糖を纏わせます。 数え切れないほど花をつけるタチツボスミレは、花をカットして砂糖漬けにするのも楽しみの一つ。スミレの砂糖漬けといえば、ウィーンのDEMELやパリのLADUREEが有名ですが、さすがにお値段もなかなかのもの。それならばと、数年前にタチツボスミレで手作りしてみたところ、意外と簡単にできました。見栄えは劣りますが、一つひとつ丁寧に砂糖を纏わせる手作業は、何だかお化粧をしているような気分。庭のスミレが、次第にお洒落なお菓子に変身する姿を目にするだけでワクワクします。 さらにもう一つ、昨春は、スミレの砂糖漬けを使って琥珀糖を作ってみました。琥珀糖は、寒天に砂糖を加え乾燥させて固めた和菓子。一説によると、何と江戸時代に誕生したお菓子だそうですが、ここ数年、カラフルな見た目の美しさから「食べる宝石」といわれ、女子に大人気ですね。老舗の和菓子屋さんやインスタグラムでも度々見かけるようになりました。 ずっと気になっていたので作り方を調べてみたところ、材料も手順もシンプルなことが分かり、早速作ってみることに。そこでふと、カラフルな色の代わりにスミレの砂糖漬けをトッピングすることを思いつきました。出来上がった琥珀糖は、ガラスのような透明感にスミレの砂糖漬けがキラキラ輝いて、とても綺麗。薄紫色のスミレの色と相まって、思いのほか品よく仕上がりました。 外側はシャリッと、噛むとプルルンとした独特な食感が味わえる琥珀糖。甘さも控えめで癖のない味は、緑茶やほうじ茶などの日本茶や紅茶にもぴったりです。 今年の春も、こんなスミレの琥珀糖をたくさん手作りして、僅かな乙女心をくすぐるような華やいだひとときを過ごせたらと思っています。
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おすすめ植物(その他)
マストバイ‘おしゃれプランツ’丈夫で、よく咲く、小さな庭のベスト9
植えれば必ず咲く球根花、早春の妖精「スノードロップ」 スノードロップ/球根/開花期2〜3月 木枯茶色の土の中から、真っ先に顔を出すスノードロップの和名は待雪草。下萌えの頃、いち早く春を告げるスプリング・エフェメラルの一つです。その名の通り、雪のように純白で、草丈10cm足らず。花径は1〜1.5cmと極小の花です。 落葉樹の足元で朝露をまとった花弁をふっくらと閉じて咲いているスノードロップは、人差し指で触れると、今にも零れ落ちそうな雪の雫のようです。 春を心から待ちわびるガーデナーにとって、新たな季節の歓びと希望を与えてくれる特別な花。晩秋に植えると翌年の早春に出会えます。まだ植えるのは間に合います! 植えっぱなしでOKの麗しの「ジャーマンアイリス」 ジャーマンアイリス/球根/開花期5〜6月 凛とした立ち姿、波打つ大輪の花びら、芳しい香り……アイリスの仲間の中で最も華やかで優雅な花が咲くジャーマンアイリス。別名「虹の花」ともいわれる通り、花弁がバイカラーのものや覆輪になるものなど、バリエーションに富み多彩です。 わが家では、シックな紫系とピンク系の花色をセレクトして、山モミジの株元に。和の雰囲気にもしっくり馴染みます。 また、青味がかった真っ直ぐ伸びる葉も清々しく、花の前後も観賞価値が高い。多湿を避けて植えるだけで、植えっぱなしでほぼ無肥料という管理のしやすさも嬉しい特徴です。 こぼれ種でよく増える「オダマキ‘ピンクランタン’」 オダマキ‘ピンクランタン’/宿根草/開花期5〜6月 淡いピンク色の花びらと黄色いシベが優しげで温かみを感じる花姿。山野草の風鈴オダマキのような楚々とした風情もあり、春風にチラチラ揺れる様子が何とも可憐で癒やされます。同じ時期に咲く、背景のブルーベルとも調和します。 草丈40cm前後で細く伸びる茎の先に俯くように花が咲き、繊細な見かけによらず生育旺盛。耐寒性もあり、こぼれ種でよく増えるのも魅力です。 和の庭にも似合う魅惑の花色「つるバラ‘レイニー・ブルー’」 つるバラ‘レイニー・ブルー’/落葉樹/開花期5〜6月 数あるバラの中でもこのバラを選んだ一番の魅力は、何といってもロゼット咲きの灰色を帯びた薄紫の花色。そのしっとりと品のよい花姿に、どことなく和の風情を感じます。 わが家では、和室から見える場所に、野アヤメや山アジサイ、小菊など、和花と合わせて植栽しています。また、シュラブ系の小中輪房咲きなので、狭い場所に植栽できるのも嬉しいところです。‘レイニー・ブルー’と一緒に絡み咲くのはクレマチス‘ビエネッタ’。白い花びらと花心のコントラストが美しく調和します。 驚異的な開花期間を誇る「クレマチス‘白万重’」 クレマチス‘白万重’/宿根草/開花期5〜11月 端正なつぼみから、幾重にも花弁を重ね、淡黄緑色から白色へ変色しながら咲き進むクレマチス‘白万重(しろまんえ)’。表情豊かな優美な花は、花もちがよいうえ花期も長く、秋まで咲きます。 左は開花間もない頃。右は咲き進んだ頃。花形が変化する過程も楽しめます。 花の終盤には、ポンポン菊のような花姿で目を楽しませてくれます。また、半日陰でも育ち、花つきも良好。わが家では、北東の庭の入り口に植栽しています。新旧両枝咲きのフロリダ大輪系なので、冬に葉が枯れてきたら株全体の半分以下に切り詰めて、来年に向けてリセットさせます。 半日陰もOK! 「クレマチス‘カイウ’」 クレマチス‘カイウ’/宿根草/開花期5〜10月 毎年新しいつるが伸び出る性質の新枝咲きのクレマチス‘カイウ’。壺形やベル咲きの花が多い、ヴィオルナ系のグループの中で唯一、白花が咲く種類です。小指の先ほどしかない小さな小さな小輪のベル形の花は、先端がクルンと反り返るところが何とも愛らしく、花茎が細くて長いので、フワフワと浮遊しているように見えます。 また、肉厚の花は、花もちがよくて花期が長いのも嬉しいところ。見かけによらず生育旺盛で、半日陰でも育つ強健さも魅力です。 つるを無造作に活けても絵になるクレマチス‘カイウ’。 梅雨時期に庭が華やぐ「シャンデリアリリー」 左からピンクフレーバー、レッドベルベット、ピンクジャイアント。 シャンデリアリリー/球根/開花期6〜7月 カノコユリの仲間のシャンデリアリリーは、すらりと伸びた花茎に下向きの反り返った花弁の花が次々と咲き、まさにシャンデリアリリーの名に相応しいゴージャスな花姿。わが家には、ピンクフレーバー、レッドベルベット、ピンクジャイアントの3種類を植えっぱなしにしていて、一輪、また一輪と色鮮やかな花が開花する度に、庭が華やぎます。 また、梅雨の時期に開花するので、ジメジメした空気を一掃し、心まで晴れやかな気分にさせてくれます。草丈80cm以上にすらりと伸び上がるので、小さな庭で立体感のある景色になるのもメリット。年を重ねるごとに、この花の華やかさに魅了されています。 粋な模様花「アサガオ‘江戸風情’」 アサガオ‘江戸風情’/一年草/開花期7〜11月 アサガオにはさまざまな花色がありますが、この白と濃紫色の絞り模様が粋な朝顔‘江戸風情’に出会ってから、わが家の夏に欠かせない花になりました。一つとして同じ模様がなく、毎朝目にする一輪一輪が一期一会。半日花の儚さもまた、この花の魅力です。 さらに、窓辺に設えると、ハート形の葉が愛らしいグリーンカーテンとなり、夏の強い陽射しを遮ってくれます。その光景はわが家の夏の風物詩に。また、花後に実る種子を採ることで、来年、再来年と花の命を繋いでいく喜びも実感できます。 よく増える金平糖のような愛らしい花「清澄シラヤマギク」 清澄シラヤマギク/多年草/開花期10〜11月 細く分岐した褐色の花茎と薄紫色の小花が特徴の清澄シラヤマギク。満開時は、まるで金平糖を散りばめたよう。その愛らしさとフワフワと風に揺れる野趣溢れる風情に癒やされます。また、地下茎でよく増えるので、株分けして移植する楽しみもあります。菊の中で一番好きな品種です。 西洋カマツカの下で木漏れ日を浴びる程度の日差しの中、草丈70〜80cmほどになりますが、自立してくれるので、あえて切り戻しはせず自然樹形で育てています。清澄シラヤマギクと一緒に咲く黄金色の花は、アワコガネギクです。花径1cmほどの極小花で、小さな庭で咲かせても圧迫感がなく、毎年咲いてくれる長い付き合いになる植物です。
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育て方
小さな庭と花暮らし「来春に想いを馳せる秋の庭仕事」
花の命を繋ぐ採種 開花を終えた花が、シードヘッドへと姿を変える秋は、花の採種や種まきも大切な庭仕事の一つ。一年草のアサガオと多年草のオダマキ、チョウジソウを採種します。 アサガオは、5年前から鉢植えで楽しんでいる‘江戸風情’。小輪房咲きの濃紫色の絞り模様が美しい品種です。最近は、真夏は花数も少なく花びらの開き具合も7〜8割程度。朝夕の気温が徐々に下がり始める晩夏から初秋に満開の姿を目にするようになりました。もしかすると、記録的な猛暑や豪雨など、自然の変化が影響しているのかもしれませんね。 とはいえ、夏の余韻を纏った花姿もまた、儚げな何とも言えない風情があります。 赤いルコウソウが突然変異したといわれる‘江戸風情’。採種の度に、心に語りかけてくるのが、この花を世に広めてくださった「ホンマ農園」さんのご夫婦の心温まる秘話です。天国の奥様が形見としてご家族に残されたこのアサガオは、有り難いことに、今ではわが家の夏の風物詩。来年も再来年も愛でることができるようにと願うばかりです。 そして、多年草のオダマキは、可憐な‘ピンクランタン’と、凛とした立ち姿が魅力の‘ノラバロー’と‘ブルーバロー’。どれもこぼれ種でも増えますが、夏の暑さに耐え切れず株が枯れてしまうことがあるので、念のために採種してストックしています。 チョウジソウは、強健で株張りもよいので取り立てて採種は不要ですが、プロペラに似たシードヘッドが個性的で、花の少ない夏庭のいいアクセントになります。サワサワと涼しげな柳葉も、秋には黄色に紅葉し色鮮やかに。星形の水色の小花が咲く初夏から晩秋まで、季節ごとに目を楽しませてくれます。 そんなチョウジソウを採種するのは、この花を庭に迎えたい花友さんに分けたり、実家の庭に播いて増やしたいからです。 そう、採種の一番の喜びは、花の命を分け合えること。一粒の小さな種がさまざまな場所に根を下ろし、花を咲かせ、人の心に喜びを与えることができたなら、こんな嬉しいことはありません。 そしてもう一つ、忘れてはいけないのがスイートピーの種まきです。鉢植えで育てているスイートピーは、豆さやが乾燥して茶色になったものから早々に採種し、10月半ば頃に種を播きます。スカイブルーの鮮やかな小花が目を引く‘アズレウス’と、赤褐色の絞り模様がシックな‘セネター’は、知人とわが家のアサガオ‘江戸風情’の種を交換し合いました。今は、種も花苗もインターネットで簡単に手に入れることができますが、こんなふうに、「手から手へ」花の命を繋ぐことで、元の花主さんの愛情が直に伝わり、より愛着が増しますね。 どうか無事に冬を乗り越えて、来年もまた、つるバラと競演する愛らしい姿を見られますようにと、一粒一粒に願いを込めて種を播きます。 心躍るチューリップの球根の植え付け 毎秋、地植えと鉢植え用に新しい球根を植えているチューリップ。以前は、幾つか掘り上げ保存しておいた球根を植えていましたが、葉っぱだけが育ち花が咲かない状態を何年か繰り返し……。結局、諦めて新しい球根を植えるようにしました。そうすると、春には確実に花が咲き、咲き終わった後も葉を残さず抜くことができます。そこにできた程よい空間のおかげで、後に開花する多年草の生育も良好になりました。 初めは、たった1年で球根を処分してしまうことに躊躇していましたが、今では、狭い庭だからこそ、時にはこんな思い切りも必要かなと。なので、チューリップの球根は、あらかじめ植え込み場所に適した数やテーマカラーを決めて無駄なく選びます。 また、地植えの際に心掛けていることは、まず、植え込む場所を耕し堆肥やミリオンを補って土壌改良しておくこと。ミリオンは、酸性土壌の中和、根腐れ防止、発根の促進など、弱アルカリ性の土壌を好むチューリップにとってよいこと尽くめの土壌改良材です。次に、多年草の間に球根をばらまいてランダムに植えること。ついでに多年草の葉もスッキリ整理しておくと植えやすいですね。こうすると、きっちり間隔を守ってお行儀よく植えるより、花が咲いた時によりナチュラルに見えます。 そして最後に、球根の芽(やや尖った先の部分)の向きを揃えます。このひと手間で葉っぱと花の向きが揃い、チューリップの群生美が引き立ちます。 鉢植えは、ビオラと寄せ植えをするため、地植えから約1カ月後に植え付けます。心掛けることは同様ですが、ビオラの根と喧嘩しないよう、やや深植えにしています。 それにしても、フカフカの土にコロコロと並んだ球根の何と愛らしいこと。手のひらにすっぽり収まるサイズ感、ふっくら丸みを帯びた形、すべすべの質感に、母性本能をくすぐられるのはわたしだけでしょうか。これから迎える寒い冬も、この寝床なら大丈夫! チューリップの花が咲き揃う春の景色が、今から楽しみです。 それからもう一つ、ガーデンシェッドの窓辺には、水耕栽培のヒヤシンスの球根を。ダイニングの窓辺でひと足早い春を楽しむために、年が明けるまで、ここで休ませます。 新たな春へ希望を繋ぐビオラの鉢植え 10月半ば、園芸店にビオラが並び始めると、店の雰囲気も一気に華やぎ、目にする度にワクワクします。そのうえ、毎年、ガーデナーを虜にする魅惑的な新品種も続々と。つい、あれもこれもと目移りしてしまいます。中でも、ブランドビオラは、流通が少ないうえに、店頭に並び始めるのがやや遅め。逸る気持ちをぐっと抑えてタイミングを待ちます。 最近のブランドビオラの人気は凄まじく、入荷しても直ぐに売り切れるし、思わず二度見してしまうほど高価なものも……。そういえば、店員さんも「もはや、一年草の値段じゃないよね」と、苦笑いしていました。にもかかわらず、年々熱気を帯びるこの人気ぶり。それだけ魅力があるということですね。 もちろん、わたしもブランドビオラに魅せられているガーデナーの一人です。秋の庭仕事の最大の楽しみは、何といってもビオラの鉢植え。毎年、チューリップの球根と寄せ植えする大鉢と、ガーデンテーブルの上に飾る小鉢をいくつか作ります。 大鉢のビオラは、チューリップの花と好相性の色合いのものを。ひと鉢に3〜5株必要なので、比較的安価で手に取りやすいものを選びます。 小鉢には、心ときめいたブランドビオラを贅沢にひと株ずつ。そうすると、各々のニュアンスカラーを存分に堪能できるし、ガーデンテーブル周りも華やいで、冬の間も此処が見所になります。 そして、仕上げに全てのビオラの株元に落ち葉を敷き込みます。これは、ちょっとしたわたしのこだわり。一番の目的は防寒対策ですが、草木が紅葉し始める晩秋の風情にも馴染みます。 庭が眠りにつく冬から春へと希望を繋いでくれるビオラの鉢植え。きっと、凍えるような寒さも、この小さな花たちが温もりを与えてくれることでしょう。
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育て方
小さな庭と花暮らし「庭の草花と夏の暮らし」
庭の緑に涼を呼ぶ草花 七夕が終わると、ガーデンテラスの夏椿の周りに、水生植物や涼しげな植物の鉢植えを置いて夏の模様替えをします。 例えば、丸いフォルムが愛らしいウォーターポピーは、ポットごと古い燗鍋に。水草のホテイアオイやフロッグピットは、陶器の浅鉢に水を張って浮かべます。とても簡単で、時々、器を洗って水を替えるだけの手間いらず。庭の緑に水生植物が加わると、細やかでも水辺の景色が生まれ、テラスが夏仕様に一変します。 また、イネ科の風知草や十和田アシも涼を呼ぶ最適な植物。風知草は少し大きめの鉢植えに、十和田アシは盆栽鉢に植えて、ガーデンテーブルの上に飾ります。盆栽鉢のよいところは、屋内外、気軽に持ち運べて、わずかなスペースに対応できるコンパクトさ。夏はこの場所が定番ですが、玄関や和室のインテリアにもよく合います。 万緑の木漏れ日の下、そよそよと風になびく爽やかさはイネ科ならでは。外気の熱風をも忘れさせてくれます。 リビングと和室の窓越しに見えるガーデンテラスは、わが家のもう一つの部屋。緑あふれるこの部屋のおかげで、厳しい夏の暑さも随分凌げます。 そして、夏庭に欠かせない草花といえば、朝顔「江戸風情」。5年ほど前に苗を購入して以来、毎年、種子を採取しています。 種まきは5月上旬。1週間ほどで双葉が顔を出し、本葉が2〜3枚になったところで苗床から鉢に植え替えます。竹を用いたオベリスクや格子仕立てが定番ですが、こぼれ種が思いがけないところで発芽することも。こんなサプライズも新たな植栽アイデアのヒントになります。 花は約2カ月足らずで開花しますが、通常の朝顔と異なるハート形の本葉も愛らしく、つるが伸びて緑のハートがリズミカルに並ぶ様は、それだけで癒やし効果抜群。窓際に置くと緑のカーテンとなって、程よく日射しも凌いでくれます。 さらに、やや小さめの花は、紫色のシックな絞り模様で、どこか粋な風情があります。また、一つとして同じ模様がなく、どれも繊細で見惚れるほどの美しさ。 時には、白や紫一色の花を咲かせることもあります。そんな花の命も、わずか半日…。 毎朝目にする1輪1輪は、まさに一期一会の出会いです。「今朝は、どんな素敵な出会いがあるかな」と、ワクワクしながらブラインドを開ける瞬間が、夏の朝の何よりの楽しみです。 ビタミンカラーの夏野菜で食卓に彩りを 花の少ない夏は、鉢植えのミニトマトや夏野菜も有難い庭の彩り。昨夏は、初めてソバージュ栽培を試みました。ソバージュ栽培は、脇芽欠きをせず野生的(ソバージュ)に育てる方法で、地植えのトマト栽培では意外とポピュラーなのだとか。とはいえ、鉢植え栽培にこの方法が適しているのか、ちょっと不安でした。 ところが、その不安に反して、主枝は支柱を超えて軒下まで達し、放ったらかしの脇芽のほぼ全てに結実しました。なんと、収穫は例年の2倍以上。とはいえ、流石に葉が茂りすぎてトマトに日が当たらなくなってしまった箇所をカットしたり、伸びすぎた主枝を摘心したり、ある程度手を入れました。それにしても、鉢植えでここまでソバージュ栽培ができるなんて嬉しい限り。収穫が倍になると、食の楽しみも増えますね。 形よく熟したミニトマトは、ひと粒ひと粒が瑞々しく艶々で、食するのがちょっともったいないくらい。カットしたら、しばらくカゴに入れて眺めます。細やかでも自分で育て収穫した歓びはひとしおです。 もちろん収穫したミニトマトは、定番の夏野菜のパスタやマリネに。保存用にセミドライトマトも作ります。手軽に利用できるセミドライトマトは、朝食用のピザトーストにぴったり。トマトの旨味が濃厚で、チーズとバジルを添えただけでとても美味しくいただけます。 そしてもう一つ、夏庭に欠かせないのが生育旺盛なバジルです。清涼感のある色と香りは、食欲をそそる夏の食卓の救世主。摘みたてを肉や魚、野菜にと、とても重宝します。 また、バジルも保存用にジェノベーゼソースを手作り。食材を揃えたらブレンダーで撹拌するだけですが、フレッシュバジルで作るジェノベーゼソースは、味も香りも格別です。これまた、どんな食材にも使えて、とても便利。小分けに瓶詰めして冷凍しておくと、風味を損なわずしばらく保存可能です。 こうしておくと、日々の食卓はもちろん、家族や友人へのちょっとした手土産にも喜ばれます。 キッチンカウンターに並んだ、手作りの梅シロップやラッキョウの甘酢漬け。そして、夏の日射しを浴びてすくすくと育ったビタミンカラーのミニトマトとバジルは、酷暑の夏を乗り切るパワーの源です。 シダ植物で涼しげなしつらえを 室内に観葉植物を置かないわが家は、四季折々の庭の草花が緑のインテリア。夏は、花の代わりにシダ植物をしつらえます。 例えば、枝垂れる細い茎と繊細な羽片が美しいカニクサ。カニクサは、林縁や石垣、道端にも見られる雑草ですが、カットして器に活けると、まるでしなやかなレースのよう。枝垂れる特性を生かして吊り花器や、高台のあるガラスの器に活けると、その美しさが際立ちます。 庭にいつの間にか生えていたカニクサですが、今では緑のインテリアに欠かせない存在です。 ただ、いわゆる雑草なので繁殖力も旺盛。あちこちで子株が成長するとちょっと厄介なので、見つけたらこまめに抜くようにしています。 また、這性でエメラルドグリーンのコンテリクラマゴケ(別名レインボーファン)も、緑のインテリアに最適。別名の通り、見る角度によって変化する色合いを堪能するには、やはり透明なガラスの器が一番です。気に入りは、骨董市で見つけたガラスの器。実際は、虫捕り用に使われていたものだそうですが、ドーム形のふくよかなフォルムと、ゆらゆらガラスの溶けるような風情が魅力です。 丁度、内側に凹みがあるので、そこにコンテリクラマゴケを沿わせるように入れ水を注ぎます。すると、緑のガラスドームの出来上がり。ガラスのゆらぎとコンテリクラマゴケのエメラルドグリーンが相まって、何処となく神秘的な雰囲気になります。さらに、氷を入れると瑞々しさが増して、まるで水草のよう。あまりの美しさについ見惚れてしまいます。冷んやりした器の感触も気持ちいいので、手にしやすいダイニングテーブルの上へ置いて楽しみます。 その他、黄緑色が鮮やかなクラマシダもガラスの器と相性のよいシダ植物。茎は極細ですが、しなやかさと強度があるので、こちらは一輪挿しにシンプルに。キッチンカウンターに置くと、清潔感が漂い、辺りがパッと明るくなります。 また、クラマシダの色鮮やかさと造形美は、お料理を盛り付ける際の「かいしき」にも最適です。特に、焼き魚やお造りに添えると涼しげで夏にぴったり。スーパーで買ってきた食材が、料亭でいただくような季節感あふれるひと皿になるなんて、主婦にとっては有難いですね。 いつもは、庭の半日陰でどちらかといえば脇役のシダ植物も、わが家の夏に欠かせない緑のインテリア。軽やかで清涼感あふれる佇まいは、日々の暮らしを快適にしてくれます。 和室で味わう夏の涼 暑さが厳しい日中は、リビング&ダイニングのエアコンもフル稼働。唯一、その風を直接受けないのが和室です。昔からエアコンが苦手なわたしにとって、和室は避難場所。何となく体調が優れない時や気分転換したい時は、此処で過ごします。 一昨年、畳の張り替えをしたので、さらりとした感触が素足に心地よく、い草の香りもほんのりと…。ゴロンと横になるだけでも癒やされますが、椅子を運んで読書をしたり、時には、小盤を置いてお茶を楽しみます。座布団を敷いて座ると、腰窓と掃き出し窓から庭の万緑を間近で見ることができるのも嬉しいところ。ちょうど、輝くような橙色の満開のオニユリも堪能できます。 そう、此処は夏の特等席。冷茶と水菓子を用意して過ごすひとときは、暑気の不快感から解放されて、心身共にホッとする贅沢な時間です。
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暮らし
小さな庭と花暮らし「日々の暮らしに寄り添うリネン」
リネンの衣類で快適に<衣> リネンのナチュラルな素材感が好きで、季節を問わず身につけていますが、特に汗ばむ季節は、リネンの衣類が最適。ニットやシャツ、スカート、ワンピース、ワイドパンツなど、軽くてさらりとした肌触りは、他のどの素材よりも涼やかです。 お出かけには、気に入りのブランドものを愛用していますが、ほぼ毎日、部屋着として身につけているワイドパンツは、洋裁の得意な母が、専用におこしてくれた型紙と、好みのリネン生地で作ってくれるオーダーメイドです。部屋着なので、ウエストはゴムの簡単仕上げですが、裾幅や裾丈までフィットして、とにかく動きやすい。この快適さは、既製品では物足りなく感じてしまうほどです。 長年愛用しているものは、驚くほど柔らかい風合いになりましたが、さすがに色褪せて見た目が悪くなり…。昨夏は、母にねだって3枚新調してもらいました。何だかもったいない気もしますが、またクタクタになるまで働いてもらおうと思っています。 そして、蒸し暑くなるこれからの季節、ガーデニングに欠かせないのが、リネンの長袖シャツ。吸水性と通気性がよいので、涼しく作業できます。 ガーデニング用には、UNIQLOやMUJIのシャツが一番。カラーやサイズが豊富なので、選ぶ楽しみと、何より、手頃なお値段が嬉しい。どんなに汗をかいても汚れてもジャブジャブお洗濯できるし、買い替えも気兼ねなく。本当に重宝しています。 リネンで家事や食事を楽しく<食> 吸水性と速乾性に優れているリネンは、台所仕事や食事の場面でも大活躍。 例えば、食器を拭いたり手を拭いたり頻繁に取り替えるキッチンクロスは、濡れてもすぐに乾くのでとても衛生的。すぐ手に届くキッチンカウンターの上に、カゴに入れて常備しています。好みの色柄を揃えておけば何となく気分も上がり、ちょっと億劫な台所仕事も楽しくなります。 やや小さめのクロスは、ハンカチ代わりにしたり、お弁当を包んだり、何かと便利。ナチュラルなリネンの風合いは、竹やアケビ、山ブドウの天然素材と相性がよいので、根菜類を入れている竹カゴや、アケビの手提げバッグに掛けて楽しんでいます。竹カゴには季節感のある色柄を、バッグは洋服との色合いを意識して。 さもないことですが、こんなふうにちょっと意識して身の回りのリネンを選ぶと、より愛着も湧いてきます。 また、大きめのクロスは、ピクニックの敷物やガーデンテーブルに使用します。雨ざらしのガーデンテーブルは、土汚れやホコリが気になるもの。水拭きした後にリネンクロスを掛けると、清潔で見た目もお洒落に。そのうえ、どんな食事も、まるでレストランのように美味しそうに見えます。 木漏れ日のガーデンテーブルで食事をしたり、季節の手仕事をするひとときは、このうえない癒やしです。 そしてもう一つ、台所仕事に欠かせないのがリネンエプロン。主婦歴30年以上のわたしにとって、もはや肌身離せないものです。これまで穴があくまで使い込んだリネンエプロンは数知れず。 それでも毎年、子供たちが母の日にリネンエプロンをプレゼントしてくれるので、常に5着以上、家事室の壁に掛けています。こうすると、サッと手に取りやすく、たたむ手間も省けてシワにもなりません。 毎朝、着替えを済ませてエプロンをキュッと締めるのが、一日の始まりのルーティーン。自然とスイッチが入ります。 リネンエプロンの使い勝手のよさは、つい付着してしまう調味料や油汚れの落ちやすさと、身に付けたまま水で洗ってもすぐに乾くところ。 また、使い込むほど柔らかな風合いになり、軽やかに身体にフィットします。春夏の着け心地のよさはもちろん、秋冬の厚手のウールセーターに合わせても重量感がなく、意外と保温性にも優れているようで、腰回りが暖かく感じます。オールシーズン快適に使用できるのも魅力の一つですね。 さらに、ここ数年は、さまざまなブランドのリネンエプロンを目にするように。その色柄、デザインも豊富になり、選ぶ楽しみも増えました。主に、サロンエプロンを愛用していますが、その日の洋服とコーディネートしたり、来客時には、ワンピース風のエプロンドレスでよそゆきに。このデザインなら、お客さまの前でも違和感なく着用できます。また時には、エプロンドレスで近所へ買い物に行くことも。エプロンでお洒落も楽しめるなんて、嬉しい限りです。 インテリアとして楽しむリネン<住> リネン生地は、厚手や薄手、織りの緻密さによって、見た目や風合いが異なります。 厚手のものは、丈夫で程よい柔らかさ。その特徴を生かしたクッションカバーやチェアーマット、ブランケットをリビング&ダイニングで愛用しています。クッションやマットは、荷重や摩擦が気になるところですが、これまで一度も破れたこともなく、厚手のリネン特有のシャリ感が心地よく感じます。 一方、軽やかな透け感が魅力の薄手のものは、キッチンの勝手口や家事室の小窓のカーテン代わりに。どちらも、生地屋さんの切り売りで購入して手作りしました。あえて、裾の部分は切れ端のまま、ナチュラルな風合いを楽しんでいます。 また、薄手のリネンの透け感は、陽射しを和らげ、やんわりと目隠しにも。陽に透けるシルエットが何とも美しく、ふと目にするだけで心が和みます。 こんなふうに、織り方で生地の表情も変わるリネン。インテリアとしても実用性と装飾性を兼ね備えた暮らしの必需品です。 前田満見さんも使うエプロンや手ぬぐいのリネン製品を「ガーデンストーリーWeb Shop」で販売中! ガーデンストーリーWebショップ リネン特設ページはこちら
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ガーデンデザイン
小さな庭と花暮らし「シンボルツリーの木漏れ日と春の花」
清々しいユリ科の球根花 放射状に広げたみずみずしい緑葉から真っ直ぐ花茎を伸ばし、釣り鐘状に薄紫色の小花を咲かせるシラー・カンパニュラータ。 シンボルツリーのヤマボウシとほぼ同じ時期に植栽したこの球根花は、よほどこの場所が気に入ったようで、かれこれ18年近く咲き続けています。嬉しいことに、年を重ねる毎に分球して花数も増え、ここ数年は、植えた覚えのない場所でも咲くようになりました。きっと、こぼれ種が根付いたのですね。 あまり増えすぎても困るので、種を付けないように花後に花茎をカットしているはずなのに…。とはいえ、長い歳月を経て密かに育まれた命の愛おしさは格別で、宝物を見つけたように嬉しくなります。 小さな庭に響く薄紫色のベルの音は、まさに春の歓び。日増しに賑やかになるその音色に心も弾みます。 そして、シラー・カンパニュラータに少し遅れて咲き始めるのが、オーニソガラム・ヌタンス。白と黄緑色の透明感のある花弁のコントラストが清々しい球根花です。その容姿から、「ガラスの花」という別名も。 また、「ヌタンス」とは、ラテン語の「垂れ下がる」という意味だそうで、星形の花は「ベツレヘムの垂れ下がる星」ともいわれているそうです。「ベツレヘムの星」といえば、クリスマスツリーの頂上に飾るオーナメント。キリスト誕生を知らせた星の象徴ですね。 そういえば、キリストの生誕地で、何世紀にも渡り受け継がれてきたベツレヘムパールの手工芸品にも、「ベツレヘムの星」のデザインが見られます。じつは以前、手芸店で実物を手にとって見たことがありますが、繊細な貝細工のブローチやボタンの清浄な美しさに目を奪われました。その風情は、ひと目で心が浄化されるようなこの花と似ています。 さらに、シラー・カンパニュラータと咲き揃う様は、ベル形と星形の花と淡く清らかな色合いが相まって、どこか神聖な雰囲気も。降り注ぐ木漏れ日も不思議と神々しく感じます。 そんな光景を眺めていると、自然と新たな春を迎えられた喜びと感謝で胸がいっぱいになります。 凛とした佇まいが美しい西洋オダマキ〜ピンクランタン〜 そして、球根花との競演を楽しみにしているのが西洋オダマキ。西洋オダマキは、欧州や北米原産、およびその交配種で、多様な園芸品種があります。また、日本原産の高山性オダマキに比べて丈夫で育てやすいのも嬉しいところ。ただ、夏の暑さと直射日光が苦手なので、わが家ではヤマボウシの木陰になるこの場所がお気に入りのようです。 植栽している西洋オダマキのなかで、一番の早咲きは‘ピンクランタン’。ソフトピンクの花弁とレモンイエローの花心の色合いがロマンチックな品種です。うつむき加減に咲く小輪多花性の花は、深山オダマキや風鈴オダマキのような、可憐で野趣溢れる風情があります。そんな花をより引き立てているのが黄緑色の愛らしい3枚葉。よく茂り、花が終わった後も秋までカラーリーフとして楽しめます。 そのうえ、見かけによらず性質も強健で、植えっ放しでもいつの間にかこぼれ種で増えてくれます。多年草とはいえ、意外と短命なオダマキですが、これまで育てたどのオダマキよりもこの場所に馴染んでいるようです。 それにしても、春風にちらちら揺れる‘ピンクランタン’の何と愛らしいこと。パステルカラーの小さな灯りが灯る毎に、心までポカポカと温かくなります。 凛とした立ち姿が美しい西洋オダマキ〜ブルーバロウ&ノラバロー〜 満開の‘ピンクランタン’を追って咲き始めるのが、‘ブルーバロー’と‘ノラバロー’。どちらも華やかな八重咲きの品種で、丈夫な花茎を真っ直ぐ立ち上げる凜とした姿は、いつ見ても惚れ惚れします。八重咲きなので花期も長く、花後に花茎をこまめにカットしてあげると、次々と新しい花芽が立ち上がり、バラが咲き始める初夏まで咲き続けます。 ‘ブルーバロー’は、パッと目を引く濃青紫色。パステルカラーのアクセントになります。‘ノラバロー’は、覆輪咲きのエレガントなローズピンク。同じバロー系でも見た目の印象が異なるので、2種類植えると色彩に深みが生まれます。 また、バロー系は、この他にも‘ローズバロー’や‘ホワイトバロー’、‘ブラックバロー’があり、こちらも人気がありますね。比較的丈夫で育てやすい品種ですが、‘ピンクランタン’に比べると短命です。 右下が秋に採種した西洋オダマキの種。 残念ながら、わが家ではこぼれ種でうまく育ったことがないので、毎年、秋に採種してストックしています。このシードヘッドになった造形美も魅力的。振ると中の種がシャカシャカと、まるで楽器のマラカスのようです。 春から秋まで楽しませてくれる‘ブルーバロー’と‘ノラバロー’。春の庭に欠かせない大好きな西洋オダマキです。 春が巡る度に、満開の花を咲かせてくれる球根花と西洋オダマキ。こうして絶えることなく命を育んでこれたのも、豊かな木漏れ日を届けてくれるヤマボウシがあってこそ。 きっと今春も、このシンボルツリーの足元で、密かに新たな命が芽生えていることでしょう。 そう、若葉を湛えた太い幹では、シジュウカラも忙しなく巣作りを始めています。 今年も、無事に巣立ちを迎えられますように。
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ガーデンデザイン
早春の妖精スプリング・エフェメラル
冬から春へ、希望を灯す小さな花 木枯茶色の土の中から、真っ先に顔を出すスノードロップの和名は待雪草。その名の通り、雪のように純白で、花丈10cm足らず、大きさも1〜1.5cmの極小の花です。 吐く息が白い朝に、上着を羽織って庭に出ると、落葉樹の足元で朝露をまとった花弁をふっくらと閉じて咲いているスノードロップ。人差し指で触れると、今にも零れ落ちそうな雪の雫のようです。 柔らかな陽射しが差し込む昼間は、ふわりと花弁を広げてまた違った姿に。冷える夜に備えて温かい空気を溜め込んでいるそうですが、その姿はまるで蝶々のよう。しゃがんで覗き込むと、内弁に緑のハート模様が隠れています。姿形だけでもこんなに愛らしいのに、何というサプライズ! この模様を目にする度に、胸がキュンとします。 それにしても、スノードロップに心(ハート)があるなんて。きっと、「また会えたね」と、囁くわたしの声も聞こえているに違いありません。春を心待ちにしているガーデナーにとって、やっぱりこの花は特別。こんなに愛おしく再会に胸ときめく花は、ほかにはないような気がします。 そして、スノードロップの次に咲き始めるのが雪割草。葉が三角形になっていることから、三角草(ミスミソウ)ともいわれています。わが家の雪割草は紫色の一重咲きですが、白や桃色、八重咲きもあり種類が豊富です。この花の魅力は、なんといっても発色のよい整った丸い花弁と繊細な花心の美しさ。木枯茶色の景色に咲く一輪に、夜空に咲いた花火を連想するのは、わたしだけでしょうか。色鮮やかな雪割草を見ていると、気持ちまでパッと明るくなります。 冬の名残の寒さに負けず、たくましく春を告げるスノードロップの花言葉は「希望」、雪割草は「期待」や「自信」だそうです。 まさに、新たな春へ「希望」と「期待」を心に灯してくれる花たちです。 鮮やかな色彩のミニアイリス ここ数年、マイブームのミニアイリス。じつは、インスタグラムを始めて間もない頃、イギリス庭園の早春の景色に、ミニアイリスが群生している写真を見て心を奪われました。「小さな庭の何処かにこんな景色が作れたら」と、ネット通販や園芸店を覗いては球根を手に入れて、毎年少しずつ増やしています。最近は、嬉しいことに芽出し球根も出回るようになったので、鉢植えの後に地植えする楽しみも増えました。 意外と品種の多いミニアイリスですが、庭に植えているのは赤紫色のレティキュラータ‘パープルヒル’と、青紫色のレティキュラータ‘ブルーノート’の2種類です。鳥のくちばしのようなツンと尖った芽吹きが愛くるしく、花丈の割に花も大きく目が覚めるような色鮮やかさ。そのうえ、花弁にドキッとするような模様もあって、なかなか個性的です。 なので、ミニアイリスが咲き始めると急に庭が華やぎ、ちょっと洒落た雰囲気に。ミニアイリスのおかげで、ほんの少し憧れのイギリス庭園の早春の景色を味わえています。 そして、ミニアイリスとほぼ同じ頃に開花するシラー・シビリカブルー。以前はもっとたくさん咲いていましたが、年々減ってきました。きっと、あまりに球根が小さいので、多年草の植え替え時につい誤って傷つけてしまったことが原因ですね。所々植えるのではなく、位置を決めてまとめ植えしなくてはいけないと反省しています。 左の紫花がアイリス。その間に咲くブルーの花がシラー・シビリカブルー。 スノードロップと同じくらい極小の花ですが、房状に花が咲くので、咲き進むと華やかでとてもチャーミング。シラー・シビリカブルーの透き通るような清々しいブルーは、「青い宝石」ともいわれ、思わず見惚れてしまいます。やっぱり今秋こそ、球根を買い足して植え替えしましょう! 球根愛好家に人気のフリチラリア 赤紫色のギンガムチェック柄のフリチラリア・メレアグリス。手前で低く咲くのは、スミレ。 球根愛好家に人気のフリチラリア。調べてみると、インペリア種、ペルシカ種、ミハイロフスキー種、メレアグリス種と、意外に多品種です。それぞれが個性的で全品種を植えてみたいところですが、残念ながら暑さと湿度に弱いので、暖地にはあまり適さないようです。ですが数年前に、試しに落葉樹の足元にメレアグリス種の球根を植えてみたところ、毎年芽吹き花を咲かせてくれます。 とはいえ、植えた当初より随分減って、最近は1〜2輪ほど。きっと、梅雨〜夏場の高温多湿に耐えられなかったのでしょう。残念ですが仕方ありません。でも、だからこそ、たった1輪でも咲いてくれるだけでありがたいのです。 赤紫色のギンガムチェック柄が、何ともお洒落なフリチラリア・メレアグリス。見れば見るほど、ふっくらとした釣り鐘状の花の中から妖精たちが出てきそうですね。 そしてもう一つ、バードバスの足元に咲くのがバイモユリ(別名:アミガサユリ)。バイモユリは、山林の自生種というだけあって、半日陰〜日陰の場所なら比較的育てやすい花です。 すぅ〜っと伸びた花茎に、淡い黄緑色の釣り鐘状に咲く花は清楚で品があり、早春の柔らかな陽射しにとてもよく似合います。さらに、しなやかな細長い葉の先端もカールして、何とも軽やか。花だけでなく、葉の美しさもバイモユリの魅力です。 そんな風情が、茶花や生け花にも好まれたようで、幼少の頃から生け花に親しんできたわたしにとっても馴染み深い花。庭にバイモユリが咲き始めると、旧友に再会したような懐かしい気持ちになります。 そして、花数が増えてきたらカットして器に活けて愛でます。茶花のように一輪挿しにしたり、早咲きのスイセンを添えたり、ほんの数輪で表情豊かな挿花に。春一番に活ける庭の花は、いつもバイモユリ。この花を手に取ると、不思議と心が和みます。 薄紫色の絨毯のようなタチツボスミレ 最後にご紹介したい花は、薄紫色のタチツボスミレ。もしかしたら、スプリング・エフェメラルとはいえないかもしれませんが、下萌えの庭に、まるで絨毯を敷き詰めたように群れ咲くこの花が、わたしは大好きです。 じつは、20年ほど前、家を建てることになり土地を下見した時、この花があちこちに咲いていました。殺風景な空き地にひっそりと咲く健気さと可憐さに心を奪われ、「家を建てるならここがいい!」と、直感しました。 庭づくりを始めた頃は、外構工事や土壌改良で土を掘り起こしたため、しばらく消えてしまいましたが、いつの間にか、またこの庭に根を下ろし、今では絨毯を敷き詰めたように群生しています。 ゆっくりゆっくり時間をかけて現出したその景色は、決して人の手では創り出せないもの。自然の植栽力の素晴らしさに、感動で胸がいっぱいになります。そして、庭づくりは自然との共同作業だと、改めて気付かせてくれます。 そう、タチツボスミレは、わたしの庭づくりの原点。足元に広がる薄紫色の絨毯を目にする度に、あの時の直感は間違っていなかったなと、しみじみ感じています。 一輪、また一輪とスプリング・エフェメラルが咲くにつれて近づく暖かい春。きっと、今日も庭のどこかで新たな妖精たちが顔を覗かせていることでしょう。
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ガーデンデザイン
小さな庭と花暮らし「ガーデンシェッドの小窓に季節の彩りを 〜新しい年に思いを馳せて〜」
小窓にひと足早い春を 立春を迎える頃、冬枯れの庭で枯れ葉を掻き分けると、土の中から黄緑色の芽をちょこんと出し、今か今かと出番を待っている春咲き球根花。 ガーデンシェッドの小窓にも、晩秋に仕込んでおいたヒヤシンスやムスカリの水耕栽培の新芽が、初々しい彩りを添えています。 そしてもう一つ、この時季、窓辺に飾りたくなるのが芽出し球根。毎年、ホームセンターや花屋さんで見かけると、つい、いくつも手に取ってしまいます。スノードロップ、クロッカス、ムスカリ、早咲きスイセン「ティタ・ティタ」。気がつけば、いつもカゴの中はいっぱいです。これらの小球根は、小鉢に植え替えたり、1球ずつ根洗いしてガラスの器に植え替えます。また、丸いワイヤーリースを使うと、球根花たちが向かい合って、まるでおしゃべりしているような愛らしい寄せ植えに。 さらに、表面に苔や枯葉をあしらって、ナチュラルな雰囲気に仕上げます。ちょっと面倒だけれど、春に想いを馳せながら作業するこのひと手間も、なかなか楽しいもの。見た目もぐんとおしゃれになって、殺風景な小窓に華やぎを与えてくれます。 柔らかな陽射しが差し込む窓辺に並んだひと足早い早春の息吹。こんな風景を目にすると、外気の凍えるような寒さも心なしか暖かく感じます。 そう、小さな庭の四季は、ガーデンシェッドの小窓から始まります。 新緑が美しい春の小窓 日増しに暖かくなる陽射しに、庭の草花が一斉に芽吹き始める春は、冬の間に誘引したつるバラやクレマチス、ヘンリーヅタなどつる性植物の若葉が小窓を彩ります。勢いよく伸びるしなやかなつるとみずみずしい葉の美しさは、この時季ならでは。特にヘンリーヅタは、ガーデンシェッドの中から逆光で見る造形的な葉の形や褐色の葉色がとても美しく、何だか一枚の絵のように見えます。植物をこんな目線で観賞できるのも、この小窓のおかげ。庭の楽しみがより豊かになります。 初夏〜夏の小窓は花々に包まれて 鮮やかな新緑が目に眩しい初夏は、多年草の花々が咲き継ぐ彩りの季節。小窓の周りも、待ちに待ったつるバラとクレマチスの競演で一気に華やぎます。 まず咲き始めるのが、つるバラ‘ギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンド’。中輪房咲きのこのバラは、一日で花色が杏色〜淡い黄色〜白色へと変化するのが特徴で、見る時間帯によって表情がずいぶん違います。特に早朝は、杏色〜白色のグラデーションが際立ち、格別の美しさ。しかも、香りも濃厚。満開時には、毎朝、真っ先に庭に出て、その姿を心ゆくまで堪能します。 少し遅れて咲き始めるフロリダ系クレマチス‘ビクター・ヒューゴ’と‘流星’は、開花時期がつるバラと重なるので、小窓の景色をドラマチックに魅せる最適な品種。‘ギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンド’と反対色の濃紫色の‘ビクター・ヒューゴ’、それに淡藤色の‘流星’をセレクトして、互いが引き立つように植栽しました。2つのクレマチスのダークな花心と整った剣弁が醸す、シックな雰囲気も大好き。 特に、‘流星’のシルバー系にも見える他にはない独特な花色が、初夏らしい爽やかさを添えています。 彩り豊かな花々と、芳しいバラの香りに包まれた初夏の小窓は、まさに極上の癒やしです。 そして、去年は、初めて小窓に朝顔「江戸風情」を誘引しました。数年前、紫の絞り模様の花に一目惚れして以来、毎年採種して鉢植えで楽しんでいる、夏の庭に欠かせない品種です。鉢植えに収まらないほど発芽してしまったので、試しに地植えしたところ、つるバラとクレマチスが咲き終わる絶妙のタイミングで開花し始めました。 ところが、なぜか、ここだけ絞り模様のない紫色の花ばかり。もともと模様に個体差がある「江戸風情」ですが、これにはちょっと驚きました。一体、どうしちゃったの…?未だ原因は定かではありませんが、こんなサプライズもガーデニングのおもしろさですね。 そんな朝顔の花を愛でることができるのも、たったの半日。だからこそ、日々開花する一輪一輪がいっそう愛おしく感じます。 新たに加わった小窓の夏景色……。 夏の朝の楽しみが、また一つ増えました。 秋〜冬の小窓は草花とオーナメントで賑やかに 残夏の夕暮れに虫の音が響く頃、真っ先に秋の訪れを告げる秋明菊。この花が咲き始めると、ノコンギクや清澄シラヤマギクなど野菊たちも次々と開花します。どの花も多花性で花もちがいいので、庭だけでなく切り花にして室内やガーデンシェッドの窓辺に飾って楽しみます。酷暑の夏は、庭の花を活ける機会がほとんどないので、久しぶりの花活けに心躍ります。しかも、秋は大好きな花ばかり。やっぱりガーデンシェッドの小窓には、素朴な庭の草花がよく似合います。 そして、秋のイベントといえばハロウィン。ここ数年、子どもたちが成長するにつれ、何となく気が向かなくなってしまいましたが、毎年、おもちゃカボチャでジャック・オー・ランタンを作って小窓に飾っていました。ハロウィン当日、灯りをともすと嬉しそうに手を叩いて喜んでくれた子どもたち。その顔が見たくて、慣れない彫刻刀を片手に黙々と。今となっては懐かしい思い出です。 それにしても、小窓にちょこんと並んだジャック・オー・ランタン。何とも愛嬌があって可愛いな。今年のハロウィンは、久しぶりに飾ってみましょうか。 草木がこっくりと色づく晩秋は、紅葉や実物を飾ります。例えば、紅葉のリースやバラの実と西洋カマツカの実を束ねたブーケ。自然と植物が織りなす色彩の何と美しいこと。宝石店のショーウィンドウを眺めているような、うっとりした気分になります。 初冬の気配が漂うクリスマスシーズンには、フレッシュな針葉樹のリースやスワッグを。すると、落葉して殺風景になった小窓に清々しい緑が映えて明るい雰囲気になり、クリスマス気分も高まります。 そして、庭の一年を静かに見守ってくれたフクロウ(オーナメント)も窓辺にお引っ越し。冬の間、ここがフクロウ親子の住処です。寒々しい冬枯れの庭より、ここのほうが居心地もよさそうです。もう一つの窓辺には、ヒヤシンスやクロッカスの水耕栽培を…。冬の小窓も、春を待つ生き物たちで意外と賑やかです。
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暮らし
紅葉と実ものを愛でる【小さな庭】 秋の花あしらい
五色ノブドウと秋の草花の花あしらい 夏椿の枝に自由奔放につるを絡ませて伸びる五色ノブドウは、褐色の茎と繊細な斑入り模様の葉がとても美しい落葉低木。春の芽吹きから一年を通して目を楽しませてくれます。中でも、秋の紅葉と宝石のような翡翠色の実の美しさは格別。それを最も堪能できるのがシンプルな一種活けです。実の一粒一粒、葉の一枚一が際立ち、伸びやかな茎の動きや虫食いの葉さえも、まるでアートのよう。移ろう季節をたくましく刻んできた姿は凛として、なんて美しいのだろうと、しばし見惚れてしまいます。 また、五色ノブドウは、庭の野菊や紅葉を合わせると野趣溢れる花あしらいに。 10月半ばから咲き始めるノコンギクや清澄シラヤマギクの可憐な野菊との組み合わせは、千利休の教えに倣い「花は野にあるように」。自然がお手本なので、一番身近に自然を感じられる庭で活けるとイメージが膨らみます。時折吹く乾いた秋風、チラチラと草花を揺らす木漏れ日、カサコソと囁く落ち葉…。庭の自然を五感で感じながら手を動かしていると、いつの間にか心地よい開放感に満たされ、花を活けるというより、写生しているような感覚になります。 器の中に描く自然の景色は、簡単なようで意外と難しく、毎回思い通りにならないけれど、試行錯誤する過程が楽しくて…。そういえば、庭づくりと同じかもしれませんね。 まだまだ、「花は野にあるように」という域には辿り着けそうにありませんが、やっぱりわたしは、こんな花あしらいと庭で過ごすひとときが一番好きです。 そしてもう一つ、ヤマモミジやキョウカノコを合わせて、紅葉を愛でる花あしらいも、この季節ならでは。赤紫の鮮やかな小菊とヨウシュヤマゴボウの実も添えると、まるで錦を織ったような彩りになります。なるべくありのままの姿を一輪ずつ丁寧に、宝箱に詰め込むイメージで器に活けます。 それにしても、小菊と実と葉っぱだけなのに、何と華やかなこと。冬の眠りにつく前の草花たちの眩いばかりの装いに、愛おしさと感動で胸がいっぱいになります。 心温まる西洋カマツカの花あしらい 夏の涼やかな緑色から、秋には真っ赤に色づく西洋カマツカの実も、晩秋の花あしらいに欠かせない花材です。さくらんぼのような愛らしい実はもちろん、黄〜橙〜赤と変化する紅葉も美しく、そのうえ、10月下旬から12月半ば頃まで観賞できるので、クリスマスシーズンにはさまざまな器に活けて楽しみます。 その一つが、小鳥の絵柄が美しいフランスアンティークのコンポート。本来の用途は、果物などを飾るお皿だそうですが、水を張れる深さもあるので花器としても重宝します。お洒落な佇まいはそれだけで絵になりますが、西洋カマツカの実をあしらうと、小鳥の絵柄と赤い実が相まって何とも微笑ましい雰囲気に。コンポートの縁に沿って枝を短くカットして活けると、リースのような花あしらいになります。 さらに、初冬の気配漂う肌寒い日には、中央にキャンドルを。赤い実と温もりのある灯りが心を和ませてくれます。 こんなふうに、花器以外の器に活けると、いつもと違うアイデアが浮かび、花あしらいがより楽しくなりますね。 そして、もう一つが、深さのあるガラスの花瓶。長い枝物を入れても安定感があるので、水に浸かる脇枝のみをカットして、できるだけありのままの姿を活けます。 クリスマス間近には、真紅の実だけが残った西洋カマツカの小枝に、ドングリやマツボックリのオーナメントを吊してクリスマスのしつらえに。羊毛で手作りされた小さなトムテンも添えて気分を盛り上げます。 これがわが家のクリスマス飾り。ささやかだけれど、今の暮らしに丁度いい気がします。 バラの実の花あしらい 秋の草花が終盤を迎える頃、北東の庭では、初夏に咲いた原種バラが、小さな真紅の実を結び輝いています。そのバラの名はロサ・フィリペス‘キフツゲート’。生育旺盛で鋭いトゲもある暴れん坊です。それゆえ手入れが厄介で、その都度心が折れそうになりますが、一重咲きの可憐な白い花とルビーのような美しい実を目にすると、それさえも忘れてしまいます。 木枯らしが吹く前にバラの実をカットして、ガーデンテーブルに集めたら、庭で花あそび。 バラの実と残花を束ねた花束をバードバスに、ガーデンシェッドの窓辺にもこんもりと飾ります。いたってシンプルだけど、それだけで、ちょっと洒落たオブジェのように見えるから不思議ですね。 それにしても、艶々と輝くバラの実を束ねていると、どうして、こんなにも幸せな気分になるのでしょう。 そう、この厄介なロサ・フィリペス‘キフツゲート’のバラの実は、庭からの最後の贈り物。わたしにとって、何より嬉しいご褒美です。