みなさんの庭で、夏に活躍するのはどんな植物ですか? 神奈川県横浜で小さな庭のある暮らしを楽しむ前田満見さんの庭では、強い日射しをやんわりと凌いでくれる雑木の緑や鉢植えの朝顔、ミニトマトなどの夏野菜も、花の少ない季節の彩りです。今回は庭の草花を生かして涼を呼ぶ、前田満見さんの夏の暮らしについて教えていただきます。
目次
庭の緑に涼を呼ぶ草花
七夕が終わると、ガーデンテラスの夏椿の周りに、水生植物や涼しげな植物の鉢植えを置いて夏の模様替えをします。
例えば、丸いフォルムが愛らしいウォーターポピーは、ポットごと古い燗鍋に。水草のホテイアオイやフロッグピットは、陶器の浅鉢に水を張って浮かべます。とても簡単で、時々、器を洗って水を替えるだけの手間いらず。庭の緑に水生植物が加わると、細やかでも水辺の景色が生まれ、テラスが夏仕様に一変します。
また、イネ科の風知草や十和田アシも涼を呼ぶ最適な植物。風知草は少し大きめの鉢植えに、十和田アシは盆栽鉢に植えて、ガーデンテーブルの上に飾ります。盆栽鉢のよいところは、屋内外、気軽に持ち運べて、わずかなスペースに対応できるコンパクトさ。夏はこの場所が定番ですが、玄関や和室のインテリアにもよく合います。
万緑の木漏れ日の下、そよそよと風になびく爽やかさはイネ科ならでは。外気の熱風をも忘れさせてくれます。
リビングと和室の窓越しに見えるガーデンテラスは、わが家のもう一つの部屋。緑あふれるこの部屋のおかげで、厳しい夏の暑さも随分凌げます。
そして、夏庭に欠かせない草花といえば、朝顔「江戸風情」。5年ほど前に苗を購入して以来、毎年、種子を採取しています。
種まきは5月上旬。1週間ほどで双葉が顔を出し、本葉が2〜3枚になったところで苗床から鉢に植え替えます。竹を用いたオベリスクや格子仕立てが定番ですが、こぼれ種が思いがけないところで発芽することも。こんなサプライズも新たな植栽アイデアのヒントになります。
花は約2カ月足らずで開花しますが、通常の朝顔と異なるハート形の本葉も愛らしく、つるが伸びて緑のハートがリズミカルに並ぶ様は、それだけで癒やし効果抜群。窓際に置くと緑のカーテンとなって、程よく日射しも凌いでくれます。
さらに、やや小さめの花は、紫色のシックな絞り模様で、どこか粋な風情があります。また、一つとして同じ模様がなく、どれも繊細で見惚れるほどの美しさ。
時には、白や紫一色の花を咲かせることもあります。そんな花の命も、わずか半日…。
毎朝目にする1輪1輪は、まさに一期一会の出会いです。「今朝は、どんな素敵な出会いがあるかな」と、ワクワクしながらブラインドを開ける瞬間が、夏の朝の何よりの楽しみです。
ビタミンカラーの夏野菜で食卓に彩りを
花の少ない夏は、鉢植えのミニトマトや夏野菜も有難い庭の彩り。昨夏は、初めてソバージュ栽培を試みました。ソバージュ栽培は、脇芽欠きをせず野生的(ソバージュ)に育てる方法で、地植えのトマト栽培では意外とポピュラーなのだとか。とはいえ、鉢植え栽培にこの方法が適しているのか、ちょっと不安でした。
ところが、その不安に反して、主枝は支柱を超えて軒下まで達し、放ったらかしの脇芽のほぼ全てに結実しました。なんと、収穫は例年の2倍以上。とはいえ、流石に葉が茂りすぎてトマトに日が当たらなくなってしまった箇所をカットしたり、伸びすぎた主枝を摘心したり、ある程度手を入れました。それにしても、鉢植えでここまでソバージュ栽培ができるなんて嬉しい限り。収穫が倍になると、食の楽しみも増えますね。
形よく熟したミニトマトは、ひと粒ひと粒が瑞々しく艶々で、食するのがちょっともったいないくらい。カットしたら、しばらくカゴに入れて眺めます。細やかでも自分で育て収穫した歓びはひとしおです。
もちろん収穫したミニトマトは、定番の夏野菜のパスタやマリネに。保存用にセミドライトマトも作ります。手軽に利用できるセミドライトマトは、朝食用のピザトーストにぴったり。トマトの旨味が濃厚で、チーズとバジルを添えただけでとても美味しくいただけます。
そしてもう一つ、夏庭に欠かせないのが生育旺盛なバジルです。清涼感のある色と香りは、食欲をそそる夏の食卓の救世主。摘みたてを肉や魚、野菜にと、とても重宝します。
また、バジルも保存用にジェノベーゼソースを手作り。食材を揃えたらブレンダーで撹拌するだけですが、フレッシュバジルで作るジェノベーゼソースは、味も香りも格別です。これまた、どんな食材にも使えて、とても便利。小分けに瓶詰めして冷凍しておくと、風味を損なわずしばらく保存可能です。
こうしておくと、日々の食卓はもちろん、家族や友人へのちょっとした手土産にも喜ばれます。
キッチンカウンターに並んだ、手作りの梅シロップやラッキョウの甘酢漬け。そして、夏の日射しを浴びてすくすくと育ったビタミンカラーのミニトマトとバジルは、酷暑の夏を乗り切るパワーの源です。
シダ植物で涼しげなしつらえを
室内に観葉植物を置かないわが家は、四季折々の庭の草花が緑のインテリア。夏は、花の代わりにシダ植物をしつらえます。
例えば、枝垂れる細い茎と繊細な羽片が美しいカニクサ。カニクサは、林縁や石垣、道端にも見られる雑草ですが、カットして器に活けると、まるでしなやかなレースのよう。枝垂れる特性を生かして吊り花器や、高台のあるガラスの器に活けると、その美しさが際立ちます。
庭にいつの間にか生えていたカニクサですが、今では緑のインテリアに欠かせない存在です。
ただ、いわゆる雑草なので繁殖力も旺盛。あちこちで子株が成長するとちょっと厄介なので、見つけたらこまめに抜くようにしています。
また、這性でエメラルドグリーンのコンテリクラマゴケ(別名レインボーファン)も、緑のインテリアに最適。別名の通り、見る角度によって変化する色合いを堪能するには、やはり透明なガラスの器が一番です。気に入りは、骨董市で見つけたガラスの器。実際は、虫捕り用に使われていたものだそうですが、ドーム形のふくよかなフォルムと、ゆらゆらガラスの溶けるような風情が魅力です。
丁度、内側に凹みがあるので、そこにコンテリクラマゴケを沿わせるように入れ水を注ぎます。すると、緑のガラスドームの出来上がり。ガラスのゆらぎとコンテリクラマゴケのエメラルドグリーンが相まって、何処となく神秘的な雰囲気になります。さらに、氷を入れると瑞々しさが増して、まるで水草のよう。あまりの美しさについ見惚れてしまいます。冷んやりした器の感触も気持ちいいので、手にしやすいダイニングテーブルの上へ置いて楽しみます。
その他、黄緑色が鮮やかなクラマシダもガラスの器と相性のよいシダ植物。茎は極細ですが、しなやかさと強度があるので、こちらは一輪挿しにシンプルに。キッチンカウンターに置くと、清潔感が漂い、辺りがパッと明るくなります。
また、クラマシダの色鮮やかさと造形美は、お料理を盛り付ける際の「かいしき」にも最適です。特に、焼き魚やお造りに添えると涼しげで夏にぴったり。スーパーで買ってきた食材が、料亭でいただくような季節感あふれるひと皿になるなんて、主婦にとっては有難いですね。
いつもは、庭の半日陰でどちらかといえば脇役のシダ植物も、わが家の夏に欠かせない緑のインテリア。軽やかで清涼感あふれる佇まいは、日々の暮らしを快適にしてくれます。
和室で味わう夏の涼
暑さが厳しい日中は、リビング&ダイニングのエアコンもフル稼働。唯一、その風を直接受けないのが和室です。昔からエアコンが苦手なわたしにとって、和室は避難場所。何となく体調が優れない時や気分転換したい時は、此処で過ごします。
一昨年、畳の張り替えをしたので、さらりとした感触が素足に心地よく、い草の香りもほんのりと…。ゴロンと横になるだけでも癒やされますが、椅子を運んで読書をしたり、時には、小盤を置いてお茶を楽しみます。座布団を敷いて座ると、腰窓と掃き出し窓から庭の万緑を間近で見ることができるのも嬉しいところ。ちょうど、輝くような橙色の満開のオニユリも堪能できます。
そう、此処は夏の特等席。冷茶と水菓子を用意して過ごすひとときは、暑気の不快感から解放されて、心身共にホッとする贅沢な時間です。
Credit
写真&文 / 前田満見
まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
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