猛暑に耐えた草花たちが、ようやく穏やかな表情を見せる秋は、庭仕事が盛りだくさん。夏の間、手入れを怠り伸び放題になっている雑草や草木の剪定、花がら摘み、暑さで枯れてしまった草花の後始末などキリがありません。そんな中、「来春へ向けた準備も着々と進めている」という神奈川県で小さな庭づくりを楽しむ前田満見さんに、この時期行う、花の採種や種まき、春咲き球根の植え付けなど、一年で最も楽しみな庭仕事について教えていただきます。
目次
花の命を繋ぐ採種
開花を終えた花が、シードヘッドへと姿を変える秋は、花の採種や種まきも大切な庭仕事の一つ。一年草のアサガオと多年草のオダマキ、チョウジソウを採種します。
アサガオは、5年前から鉢植えで楽しんでいる‘江戸風情’。小輪房咲きの濃紫色の絞り模様が美しい品種です。最近は、真夏は花数も少なく花びらの開き具合も7〜8割程度。朝夕の気温が徐々に下がり始める晩夏から初秋に満開の姿を目にするようになりました。もしかすると、記録的な猛暑や豪雨など、自然の変化が影響しているのかもしれませんね。
とはいえ、夏の余韻を纏った花姿もまた、儚げな何とも言えない風情があります。
赤いルコウソウが突然変異したといわれる‘江戸風情’。採種の度に、心に語りかけてくるのが、この花を世に広めてくださった「ホンマ農園」さんのご夫婦の心温まる秘話です。天国の奥様が形見としてご家族に残されたこのアサガオは、有り難いことに、今ではわが家の夏の風物詩。来年も再来年も愛でることができるようにと願うばかりです。
そして、多年草のオダマキは、可憐な‘ピンクランタン’と、凛とした立ち姿が魅力の‘ノラバロー’と‘ブルーバロー’。どれもこぼれ種でも増えますが、夏の暑さに耐え切れず株が枯れてしまうことがあるので、念のために採種してストックしています。
チョウジソウは、強健で株張りもよいので取り立てて採種は不要ですが、プロペラに似たシードヘッドが個性的で、花の少ない夏庭のいいアクセントになります。サワサワと涼しげな柳葉も、秋には黄色に紅葉し色鮮やかに。星形の水色の小花が咲く初夏から晩秋まで、季節ごとに目を楽しませてくれます。
そんなチョウジソウを採種するのは、この花を庭に迎えたい花友さんに分けたり、実家の庭に播いて増やしたいからです。
そう、採種の一番の喜びは、花の命を分け合えること。一粒の小さな種がさまざまな場所に根を下ろし、花を咲かせ、人の心に喜びを与えることができたなら、こんな嬉しいことはありません。
そしてもう一つ、忘れてはいけないのがスイートピーの種まきです。鉢植えで育てているスイートピーは、豆さやが乾燥して茶色になったものから早々に採種し、10月半ば頃に種を播きます。スカイブルーの鮮やかな小花が目を引く‘アズレウス’と、赤褐色の絞り模様がシックな‘セネター’は、知人とわが家のアサガオ‘江戸風情’の種を交換し合いました。今は、種も花苗もインターネットで簡単に手に入れることができますが、こんなふうに、「手から手へ」花の命を繋ぐことで、元の花主さんの愛情が直に伝わり、より愛着が増しますね。
どうか無事に冬を乗り越えて、来年もまた、つるバラと競演する愛らしい姿を見られますようにと、一粒一粒に願いを込めて種を播きます。
心躍るチューリップの球根の植え付け
毎秋、地植えと鉢植え用に新しい球根を植えているチューリップ。以前は、幾つか掘り上げ保存しておいた球根を植えていましたが、葉っぱだけが育ち花が咲かない状態を何年か繰り返し……。結局、諦めて新しい球根を植えるようにしました。そうすると、春には確実に花が咲き、咲き終わった後も葉を残さず抜くことができます。そこにできた程よい空間のおかげで、後に開花する多年草の生育も良好になりました。
初めは、たった1年で球根を処分してしまうことに躊躇していましたが、今では、狭い庭だからこそ、時にはこんな思い切りも必要かなと。なので、チューリップの球根は、あらかじめ植え込み場所に適した数やテーマカラーを決めて無駄なく選びます。
また、地植えの際に心掛けていることは、まず、植え込む場所を耕し堆肥やミリオンを補って土壌改良しておくこと。ミリオンは、酸性土壌の中和、根腐れ防止、発根の促進など、弱アルカリ性の土壌を好むチューリップにとってよいこと尽くめの土壌改良材です。次に、多年草の間に球根をばらまいてランダムに植えること。ついでに多年草の葉もスッキリ整理しておくと植えやすいですね。こうすると、きっちり間隔を守ってお行儀よく植えるより、花が咲いた時によりナチュラルに見えます。
そして最後に、球根の芽(やや尖った先の部分)の向きを揃えます。このひと手間で葉っぱと花の向きが揃い、チューリップの群生美が引き立ちます。
鉢植えは、ビオラと寄せ植えをするため、地植えから約1カ月後に植え付けます。心掛けることは同様ですが、ビオラの根と喧嘩しないよう、やや深植えにしています。
それにしても、フカフカの土にコロコロと並んだ球根の何と愛らしいこと。手のひらにすっぽり収まるサイズ感、ふっくら丸みを帯びた形、すべすべの質感に、母性本能をくすぐられるのはわたしだけでしょうか。これから迎える寒い冬も、この寝床なら大丈夫! チューリップの花が咲き揃う春の景色が、今から楽しみです。
それからもう一つ、ガーデンシェッドの窓辺には、水耕栽培のヒヤシンスの球根を。ダイニングの窓辺でひと足早い春を楽しむために、年が明けるまで、ここで休ませます。
新たな春へ希望を繋ぐビオラの鉢植え
10月半ば、園芸店にビオラが並び始めると、店の雰囲気も一気に華やぎ、目にする度にワクワクします。そのうえ、毎年、ガーデナーを虜にする魅惑的な新品種も続々と。つい、あれもこれもと目移りしてしまいます。中でも、ブランドビオラは、流通が少ないうえに、店頭に並び始めるのがやや遅め。逸る気持ちをぐっと抑えてタイミングを待ちます。
最近のブランドビオラの人気は凄まじく、入荷しても直ぐに売り切れるし、思わず二度見してしまうほど高価なものも……。そういえば、店員さんも「もはや、一年草の値段じゃないよね」と、苦笑いしていました。にもかかわらず、年々熱気を帯びるこの人気ぶり。それだけ魅力があるということですね。
もちろん、わたしもブランドビオラに魅せられているガーデナーの一人です。秋の庭仕事の最大の楽しみは、何といってもビオラの鉢植え。毎年、チューリップの球根と寄せ植えする大鉢と、ガーデンテーブルの上に飾る小鉢をいくつか作ります。
大鉢のビオラは、チューリップの花と好相性の色合いのものを。ひと鉢に3〜5株必要なので、比較的安価で手に取りやすいものを選びます。
小鉢には、心ときめいたブランドビオラを贅沢にひと株ずつ。そうすると、各々のニュアンスカラーを存分に堪能できるし、ガーデンテーブル周りも華やいで、冬の間も此処が見所になります。
そして、仕上げに全てのビオラの株元に落ち葉を敷き込みます。これは、ちょっとしたわたしのこだわり。一番の目的は防寒対策ですが、草木が紅葉し始める晩秋の風情にも馴染みます。
庭が眠りにつく冬から春へと希望を繋いでくれるビオラの鉢植え。きっと、凍えるような寒さも、この小さな花たちが温もりを与えてくれることでしょう。
Credit
写真&文 / 前田満見
まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
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