おかざき・ひでお/早稲田大学文学部フランス文学科卒業。編集者から漫画の原作者、文筆家へ。1996年より長野県松本市内四賀地区にあるクラインガルテン(滞在型市民農園)に通い、この地域に古くから伝わる有機栽培法を学びながら畑づくりを楽しむ。ラベンダーにも造詣が深く、著書に『芳香の大地 ラベンダーと北海道』(ラベンダークラブ刊)、訳書に『ラベンダーとラバンジン』(クリスティアーヌ・ムニエ著、フレグランスジャーナル社刊)など。
岡崎英生 -文筆家/園芸家-

おかざき・ひでお/早稲田大学文学部フランス文学科卒業。編集者から漫画の原作者、文筆家へ。1996年より長野県松本市内四賀地区にあるクラインガルテン(滞在型市民農園)に通い、この地域に古くから伝わる有機栽培法を学びながら畑づくりを楽しむ。ラベンダーにも造詣が深く、著書に『芳香の大地 ラベンダーと北海道』(ラベンダークラブ刊)、訳書に『ラベンダーとラバンジン』(クリスティアーヌ・ムニエ著、フレグランスジャーナル社刊)など。
岡崎英生 -文筆家/園芸家-の記事
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育て方
9月の庭仕事 ハーブ・野菜・草花のタネを播こう
秋播き野菜の種播き① パクチー エスニックな風味で大人気の野菜、パクチー。一般的には春にタネを播いて栽培しますが、9〜10月もタネの播き時です。発芽率が非常によく、プランターやコンテナでも栽培できます。 3号(9cm)ポットに培養土を入れ、水やりをしてよく湿らせてから、2〜3粒ずつ播きます。発芽して本葉5枚ぐらいになったら、家庭菜園やプランター、コンテナなどに植え替えましょう。 草丈20cmぐらいになったら、葉を順次収穫し、料理に利用します。 秋播き野菜の種播き② ビーツ ウクライナ料理のボルシチでお馴染みのビーツは、カリウム、ビタミンB類、亜鉛などをたくさん含んでおり、栄養満点。 タネはすじ播きにして、発芽したら何度か間引いて約10cm間隔にします。 『植物に合わせた3つの「種播き」の方法』 種播きから約50日後、根茎が7〜8cmの大きさになったら収穫します。さあ、ボルシチ風のスープをつくって、早速いただきましょう! <ボルシチ風スープの材料(4人分)> ビーツ 1個 牛すね肉 400g 玉ねぎ 1個 トマト 2〜3個(またはトマト缶) コンソメ 小さじ2(顆粒) 塩、コショウ 少量 水 適宜 サワークリーム 適量 <ボルシチ風スープの作り方> ビーツを4等分にして皮をむき、薄切りにする。 玉ねぎをみじん切りにして、しんなりするまで炒める。 上記と牛すね肉、トマトを鍋に入れ、材料がかぶる程度の水を入れて、中火の弱火で2時間ほど煮込む(圧力鍋を使うと1時間に短縮できる)。 途中で様子を見て、水分が足りなくなっていたら、水を加える。 牛すね肉が柔らかくなったら、コンソメと塩、コショウで味を調えて、でき上がり! サワークリームを添えていただきます。ボリュームたっぷりですが、とてもさっぱりとした味わいです。 秋播き野菜の種播き③ 春菊 春菊も秋の種播きがおすすめ! コンテナでも育てられます。 コンテナに入れた培養土に深さ1cmほどの播き溝をつくり、タネが重ならないようにすじ播きします。軽く覆土し、上から押さえてよく圧着したら、たっぷり水を与えましょう。 発芽後は何度か間引きを繰り返し、草丈20〜25cmくらいまで生育させます。間引き菜も利用しましょう。ベビーリーフはクセがなく、生のままサラダ入れても美味しく食べられるほど。おひたしや白和えにもおすすめです。 草丈20〜25cmになったら、主枝を途中で折り取って収穫します。根元のわき芽が再び伸びて成長するので、その後も何度か収穫できます。 秋播き野菜の種播き④ ほうれん草、リーフレタス、葉大根 ほうれん草やリーフレタス、葉大根なども9〜10月の種播きがおすすめの野菜です。 秋播き草花の種播き① ペチュニア 種播き専用の用土を3号ポットに入れ、水やりをして用土をよく湿らせてから、タネを1粒ずつ播きます。好光性のタネなので、覆土はしません。 タネを用土に押しつけて圧着し、霧吹きでたっぷり水を与えましょう。発芽するまで、この霧吹きによる水やりを続けます。 通常、7〜10日で発芽します。本葉4〜5枚になったら一回り大きなポットや鉢に植え替え、日当たりのいい窓辺などに置いて冬越しさせます。 翌年4月中旬になったら、冬越しさせた苗をプランターやコンテナ、ハンギングバスケットなどに定植しましょう。4月下旬から咲き始め、6月末まで咲き続けます。 秋播き草花の種播き② ニゲラ(クロタネソウ) 移植を嫌うので、花壇や培養土を入れたコンテナ、プランターなどに直播きします。タネを播く前に水やりをして、土をよく湿らせておきましょう。 タネを薄くバラ播きし、用土にしっかり押しつけて圧着します。嫌光性のタネなので、その後、軽く覆土します。水やりはタネが流れてしまわないよう、優しく、ていねいに。 発芽まで約2週間かかります。発芽して幼苗が生育を始めたら、霜のあたらないところに置き、冬越しさせます。 花は翌年4月中旬から咲き始め、6月末まで咲き続けます。 咲き終わると、花茎の先端に丸い球果ができます。それを刈り取ってドライフラワーにし、室内に飾ると素敵なインテリアになります。 球果の中にはタネがたくさん入っています。集めて保存しておき、秋にまた種播きをしましょう。 秋播き草花の種播き③ カンパニュラ 種播き専用の用土にバラ播きし、タネを用土に圧着した後、薄く覆土します。水やりは優しく、ていねいに。霧吹きか、あるいはハス口のついたジョウロを使うとよいでしょう。 本葉2〜3枚の頃、培養土を入れたポットや鉢に植え替えて生育させ、本格的な寒さが来る前に花壇やコンテナなどに定植します。耐寒性は強いほうですが、なるべく日当たりがよく暖かいところで冬越しさせます。 花は翌年の4月末から咲き始め、7月初旬まで咲き続けます。 草丈は1mほどになり、たくさんの花を咲かせて初夏の庭やベランダを華やかに彩ってくれます。 秋播き草花の種播き④ ジギタリス 水やりをしてよく湿らせた種播き用用土にバラ播きし、タネを用土によく圧着させます。覆土はしません。タネが非常に細かいので、発芽するまで霧吹きでの水やりを続けましょう。 発芽し、幼苗が生育を始めたら、何度か間引きを繰り返し、元気な苗だけを残します。 本葉数枚になったら、培養土を入れた3号ポットに植え替えます。その後、生育に合わせて少しずつ大きなポットに植え替えていき、冬越しさせます。 翌年も日当たりと風通しのいい場所で管理を続け、翌々年の4〜5月に花壇やコンテナなどに定植します。 花が咲くのは種播きの翌々年──。 花穂の下から順に咲き上がっていき、6〜7月のおよそ2カ月間楽しめます。高さ1m以上にもなる花穂が、たくさんの花をつけて風に揺れている様子は、とても華やか。まさに初夏の庭やベランダガーデンの主役です。 花が咲き終わると、花穂にタネの入っている小さなサヤがたくさんできます。それが茶色くなるのを待って採取し、保存しておきましょう。採取したタネは、また秋に播くことができます。 ●バラと相性がいいジギタリスの記事はこちら ●近年登場した人気のハイブリッド・ジギタリスの記事はこちら 秋播きハーブの種播き ハーブ類は春にタネを播いて育苗するのが普通ですが、タイム、カモミール、チャイブは秋にもタネを播いて育てることができます。 ●春播きのハーブはこちら 秋播きハーブの種播き① タイム 浅い木箱に種播き専用の用土を入れ、水やりをしてよく湿らせてから、バラ播きします。イチゴの空き容器の底に小さな穴を開け、種播き用のトレイとして利用することもできます。 タネを播いたら、軽く覆土し、優しく水やりをします。 発芽までには10〜15日かかります。それまで用土が乾かないように管理を続けます。 発芽したら何度か間引きを繰り返し、生育のよい苗だけを残します。その後、3号ポットから始めて、徐々に一回り大きいポットに植え替えていきながら、日当たりのいい窓辺などで冬越しさせます。 タイムは料理にほんの少量加えるだけで、風味をぐっとアップさせてくれます。時々刈り取って、ドライフラワーにしておくと、とても便利です。 秋播きハーブの種播き② カモミール、チャイブ カモミールとチャイブもタイムと同様に9〜10月に種播きして育苗し、冬越しさせます。春に種播きしたけど失敗したという人は、ぜひ秋播きに挑戦してみましょう! Photo/1)Stanislav71 / 2)boommaval /3)Surachet Wisetngamwasin /4) marcin jucha /5)Mark Skalny /6)Hecos /7)Floki /8)Nataly Hanin /12)Peter Turner Photography /13)Far700 /14)/Sveten /15)Ga_Na /16)PRILL /17)photosarahjackson /18)Ksenia Lada /19)Claudio Divizia /20)Real Moment /21)Liudmila Ivashina /22)Flower_Garden /23)Boris Pralovszky /24)Kazakov Maksim 26)Lacey Dent /27)ktkusmtku /28)martiapunts /29)Kazakov Maksim /30)Deyan Georgiev /31)CrispyPork /32)Tatyana Mi/Shutterstock.com
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育て方
7月の庭仕事 花のタネ採り、果実や夏野菜を収穫
ブラックベリーのお酒づくり Lesya Dolyuk/Shutterstock.com 7月はブラックベリーの収穫期。あまり熟しすぎないうちに摘み取って、お酒をつくりましょう。 つくり方は? ブラックベリー酒のつくり方は梅酒のつくり方と同じ。焼酎に氷砂糖とブラックベリーの実を入れ、1年ほど寝かせます。焼酎のかわりに果実酒用のブランデーを使っても美味しいお酒ができます。 ジャムもオススメ! ブラックベリーはジャムにしても美味しいです。 レッドカラントのジャムづくり Seva_blsv/Shutterstock.com 真っ赤に熟したレッドカラント(房すぐり)の小さな丸い実は、まるで宝石のよう。収穫する時は、繁みの奥にハチが巣をつくっていることがあるので、事前によく確かめましょう。 つくり方は? sarsmis/Shutterstock.com レッドカラントの実は生食ではあまり美味しくありません。けれども、加熱すると風味がよくなり、砂糖を加えて煮詰めると、甘酸っぱくて美味しいジャムになります。 お酒づくりもオススメ! レッドカラントのお酒づくりもオススメ。つくり方はブラックベリー酒や梅酒と同じ。何年も長く寝かせて熟成させると、より美味しいお酒になります。 木いちごを育てよう Besklubova Liubov/Shutterstock.com 6月末から7月にかけては、そのほかにもジューンベリー、マルベリー(桑の実)など、いろいろな木いちご類が熟す時期。鉢やコンテナでの栽培も可能で、苗木もよく市販されています。おうちで木いちご類を育て、お酒やジャムにして楽しみましょう。 ジギタリスのタネ採り Natalia van D/Shutterstock.com 初夏の庭を華やかに彩ってくれたジギタリスが咲き終わり、長い花穂が残っています。 しばらくそのままにしておき、全体が茶色くなり枯れてきたら地際から刈り取り、花穂にたくさんついているちっちゃなサヤを採取しましょう。 タネを播くのは9月 HHelene/Shutterstock.com そのサヤの中にジギタリスの非常に細かいタネがぎっしりと入っています。それを保存しておき、9月になったら庭やコンテナにまきます。ジギタリスのタネは好光性なので、覆土はしません。 タネ採りは7月中旬までには済ませましょう。 ニゲラのドライフラワー作り Stanislava Karagyozova/Shutterstock.com ニゲラ(クロタネソウ)は空色や白、ピンクの花が咲き終わると、花茎の先にヒゲがいっぱいついた丸い球果をつくります。この花茎が少し枯れっぽくなってきた頃に刈り取り、室内に吊るすと素敵なインテリアになります。 タネを保存しよう また、この球果の中にはニゲラのタネがたくさん入っています。室内に吊るしておくと、そのタネの追熟が進み、球果の中でカラカラと音をたてたり、床にこぼれ落ちたりするようになります。 そのタネを集めて保存しておき、9月に庭やコンテナに播きます。ニゲラのタネも好光性なので覆土はしません。手の甲などでタネを用土にしっかり圧着させ、発芽するまで霧吹きで毎日水やりをしましょう。 ラベンダーの花穂の刈り取り Subbotina Anna/Shutterstock.com 青紫色に色づいたラベンダーの花穂は、1茎で平均50〜80個つく、小さな花の集まりです。 それが下から順に咲き上がっていき、最上段に達すると、隣の列のつぼみが再び下から咲き上がっていきます。10数日かけてこの開花を計3回繰り返すと、ラベンダーは満開となります。 刈り取りの適期は? zsu044/Shutterstock.com 花が満開になった花穂をそのままにしておくとタネをつけようとするので、樹勢が弱まります。花穂はなるべく早めに刈り取るようにしましょう。 刈り取りの適期は満開の少し前。初めに最上段まで咲き上がり、次の列の最下段の花が咲き始める頃です。この時期は樹液の活動が活発なので最も香りがよく、刈り取った後も香りが長持ちするのです。 利用法は? Jelena Yukka/Shutterstock.com 刈り取ったラベンダーの花穂はドライフラワーにして保存しましょう。 ドライの花茎でラベンダーバンドルズを作るほか、花粒でサシェ(匂い袋)やピロー(枕)をつくるのもオススメです。 朝顔の花がら摘み SOMRERK WITTHAYANANT/Shutterstock.com 朝顔はその名の通り朝に開花し、夕方にはしぼむ一日花です。しぼんだ花は摘み取りましょう。昔の子どもたちは、しぼんだ花を水につけて青や赤の色水をつくって遊んだものでした。 タネをつくらせる Keith Manfredi/Shutterstock.com しぼんだ花を摘み取らずにおくと、やがてそこにタネができます。あえてタネをつくらせて、翌年それを播いてもよいでしょう。 入谷の朝顔市 KPG Payless2/Shutterstock.com ちなみに、東京の夏の風物詩「入谷朝顔まつり」(朝顔市)は例年、台東区入谷の鬼子母神(真源寺)にて7月6・7・8日の3日間開催されます。 ポピーとヤグルマギクの後片付け Anstey33/Shutterstock.com 5〜6月の庭の主役だったポピーやヤグルマギクも、いまや花期の終わり。枯れ始めると倒伏しやすくなり、庭の景観を乱すので、早めに抜き取って片付けましょう。 自家製堆肥をつくろう 抜き取ったポピーやヤグルマギクは庭の隅に積んでおき、堆肥化することをオススメします。完熟堆肥、米ぬか、油粕などを混ぜ、時々水をかけると発酵が進み、堆肥化が早まります。 堆肥ができたら花壇や菜園に施しましょう。 夏野菜の収穫 janken/Shutterstock.com キュウリ、ナス、ズッキーニなどの夏野菜が次々に実る頃です。採れたての美味しさをたっぷり楽しみましょう。 肥大化に要注意! LedyX/Shutterstock.com キュウリとナスは菜園の見回りを怠って肥大化させてしまうと、樹勢が衰え、収穫できる期間も短くなってしまいます。毎日、あるいは1日おきに菜園を見回って、適期に収穫しましょう。 ズッキーニも放っておくとどんどん巨大化し、しまいにはとんでもない大きさになってしまいます。長さ20〜30cmの頃に収穫するようにしましょう。 巨大ズッキーニの美味しい食べ方は? Zhukovskaya Elena/Shutterstock.com 巨大化してしまったズッキーニも小さく切ってカレーやシチューに入れれば美味しく食べられます。直火で焼き、カツオブシと醤油をかけて食べるのもオススメです。
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ストーリー
幕末の京都・ラベンダー物語
元号が変わるとき 元号が「令和」に変わって1カ月あまり。今回は新天皇の即位に伴っての改元でしたが、かつては天変地異や大事件の直後に、その厄を払うという意味で元号が変えられたこともありました。 桜田門外の変 例えば──。 安政7年(1860)3月、時の大老・井伊直弼が桜田門外で暗殺されるという事件が起きました。そのため、元号はすぐに「万延」へと変更されました。 実はこの暗殺事件の1カ月前、総勢77名からなる幕府の使節団が横浜港から出航。アメリカへと向かっていました。一行が大老の非業の死と万延への改元を知ったのは、アメリカでの最初の寄港地サンフランシスコか、あるいは首都ワシントンに到着してからのことだったでしょう。 以上のような事情により、この使節団は「万延元年遣米使節団」として歴史にその名を残すことになります。 使節団の意外な一面 ところで、この使節団にはある意外な特色がありました。随行員として参加した武士たちの中には、花好き、植物好き、園芸好きが非常に多く含まれていたのです。 使節団ナンバーツーの村垣範正も、その一人。彼は幕府の役人としては、いささか凡庸な人物でした。けれども、サンフランシスコで日本にはない珍しい草花を見つけ、早速それを採集。押し花にして、江戸の家族への手紙に添えて送りました。 外国方支配調役の塚原重五郎と外国奉行支配組頭の成瀬善四郎も、大の花好き、園芸好き。二人は行く先々で種苗店を探しては花の種を買い、日本に持ち帰りました。成瀬はアメリカから帰ると下谷の自宅の庭に種をまいて、栽培もしています。 重要な任務を果たして帰国 一方、幕府もこの使節団に対して、アメリカでなるべく多くの薬草の種を収集し、日本に持ち帰るよう指示していました。 というのも、当時はまだ化学薬品などない時代。病気やケガの治療に用いる医薬品としては薬草以外にはなかったからです。 使節団はアメリカで2年前に締結した日米修好通商条約の批准書の交換を行い、ボルチモア、フィラデルフィア、ニューヨークなどを歴訪して各地で大歓迎をうけ、万延元年の11月末に帰国。欧米の文明の圧倒的な先進性を物語る写真機、ミシン、医療器具、武器、辞書、学術書といった文物とともに、野菜の種や花の種を多数持ち帰りました。 アメリカ土産の野菜の種、花の種 井伊大老が暗殺された直後という混乱期だったため、幕府はそれらの種について公式の記録を残すことができませんでした。 しかし、近年の研究により、以下のような植物の種が持ち帰られたことが分かっています。 アマ、キャベツ、ニンジン、ダイコン、カブ、チコリ、トマト、パセリ、タバコ、ネモフィラ、ノラナ、ハナビシソウ、ヤグルマギク、キンギョソウ、スイートピー、ペチュニア、ラベンダー。 種を手に入れた人々 同じく近年の研究により、そうした種の多くが岐阜・大垣の医師で薬草学の権威、飯沼慾斎(1782〜1865)の手に渡ったことも分かっています。 遣米使節団の派遣が決まったとき、アメリカでぜひ植物の種を収集してくるようにと、使節団のメンバーに強力に働きかけたのが慾斎だったからです。 慾斎は手に入れた種のうち24種類を自宅の庭にまいて栽培し、その様子を観察した記録を残しています。また彼は、江戸で医学を学んでいたときに同門だった京都の医師、山本榕室に、かなりの量の種を贈呈しました。ラベンダーの種も彼のプレゼントの一部でした。 いつどこで、誰が? このラベンダーの種を、使節団員の誰が、アメリカのどこで手に入れたのかは、今のところ分かっていません。 しかし、このときの遣米使節団には何人かの医師が随行員として加わっていました。種を手に入れたのは、その医師の一人であったろうと考えられます。 というのも、この時代の日本の医師は蘭学と薬草学を修めた人々であり、ラベンダーが貴重な薬草であることを知っていましたし、とくにそのエッセンシャルオイル(花精油)は切り傷や刺し傷の特効薬であり、鎮痛剤としても効果を発揮することを知っていたからです。 種苗店でラベンダーの種が売られているのを発見して、欣喜雀躍。「これは絶対に買って帰らなければ!」と勇んで買い求めたのは、もしかしたら飯沼慾斎と交流のあった佐賀藩の医師、川崎道民だったかもしれません。 最も花が美しく、香りのよい種類 ラベンダーには、花が最も美しく香りも素晴らしいコモン・ラベンダー、花は美しいけれど香りにちょっと癖のあるスパイク・ラベンダーなど、いくつかの系統がありますが、種が売られているのは、通常はコモン・ラベンダーです。 京都の山本榕室の手に渡ったのも、おそらくはコモンの種だったのでしょう。 さて、榕室はその種をどうしたのでしょうか? 慾斎のように自分で種まきをして、ラベンダーを栽培してみたのでしょうか? 空想のラベンダー庭園 ラベンダーは夏に長い花穂を伸ばし、青紫色の美しく香りのいい花を咲かせる多年生のシソ科の小灌木です。 けれども、種まき栽培をすると、咲くのは青紫色の花だけとは限りません。ラベンダーの種には多様な遺伝子が秘められているため、時にはピンク色や白色の花も出現するのです。 もし山本榕室が飯沼慾斎から贈られたコモン・ラベンダーの種をまいて、栽培を試みていたとしたら──。 彼の家の庭には青紫色やピンクや白の花が咲き乱れ、風に揺れて甘い香りを放ったことでしょう。 残念ながら、幕末の京都に本当にそんな庭があったかどうか、今日ではもはや確かめることができないのですが。 Credit 文/岡崎英生(文筆家・園芸家) 早稲田大学文学部フランス文学科卒業。編集者から漫画の原作者、文筆家へ。1996年より長野県松本市内四賀地区にあるクラインガルテン(滞在型市民農園)に通い、この地域に古くから伝わる有機栽培法を学びながら畑づくりを楽しむ。ラベンダーにも造詣が深く、著書に『芳香の大地 ラベンダーと北海道』(ラベンダークラブ刊)、訳書に『ラベンダーとラバンジン』(クリスティアーヌ・ムニエ著、フレグランスジャーナル社刊)など。
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育て方
6月の庭仕事 種まき、収穫、切り戻し…。盛りだくさんの作業を解説!
ラベンダーの雨よけ しとしと降り続く雨。その雨が止むと、カッと照りつける太陽──。 乾燥した冷涼な気候を好み、高温多湿を苦手とするラベンダーにとって、梅雨時は一年で最も過酷な季節です。 気温が高い中、長雨が続くとラベンダーは蒸れて枯死してしまうことが多く、数年前、北海道のラベンダー園が大きな被害を受けました。 この時期、鉢植えで育てているラベンダーは、雨の当たらない場所に移動させましょう。レンガなどの台の上に置き、鉢底周りの風通しをよくするのも、蒸れを防ぐのに有効な方法です。 花穂は早めに刈り取る 北海道では7月の上〜中旬がラベンダーの見頃ですが、本州では6月の梅雨の時期には花が咲き始めます。 青紫色に美しく色づいたラベンダーの花穂は、雨に当たると一晩で茶色く変色してしまいます。花穂はなるべく早めに刈り取り、ドライフラワーにしましょう。 ドライの花粒を小さな布の袋に入れて、「サシェ(匂い袋)」を作るのもオススメです。 バジルの種まき 雨の晴れ間に、バジルの種まきをしましょう。 大きめの鉢やプランター、コンテナなどに種まき専用の清潔な用土を入れ、ばらまきするか、少し間隔をあけて2〜3粒ずつ点まきにします。 覆土は、ごく薄く──。種が隠れる程度に土をかけたら、霧吹きで水をやりましょう。 家庭菜園では、まき溝をつくって条(すじ)まきか点まきにしましょう。 ポットに種をまいて苗を育成し、本葉が出てきたら、鉢やプランターに移植することもできます。 利用法は? バジルはサラダやパスタなど、いろいろな料理に使える大変有用なハーブです。ナッツ類とニンニク、塩少々、オリーブオイルをミキサーにかけてバジルペースト(ジェノベーゼソース)を作るのもオススメです。 ・料理嫌いにこそおすすめしたい畑ごはん!「絶品ペースト2種」 このペーストがいかに美味かを知ったら、もうバジル栽培は止められません! バジルの葉は、オリーブオイルに漬けて保存することもできます。 今が種まきの最高の適期 バジルは、温暖な地方では4月から、寒冷地でも5月からがまき時とされていますが、筆者の経験では、6月中旬以降、気温と地温が十分に高くなってからまいたほうが、発芽率が格段によくなります。 梅雨時は、バジルの種まきの最高の適期なのです。 ローズマリーやタイムの収穫 この時期、ローズマリーやタイムが旺盛に生育し、次第に形が乱れたり、徒長したりしはじめます。 整姿をかねて、徒長している部分などを刈り取り、ドライにしましょう。 とくに木立性のタイムは、徒長部分をこまめに刈り取らないと、内側から次第に枯れ込んできます。徒長させないように気をつけましょう。 利用法は? ローズマリーとタイムも、いろいろな料理に使える非常に有用なハーブです。 ドライにしたものをカレーやシチュー、パスタのソースなどにほんの少量加えるだけで、味が格段にアップします。また、チキンとジャガイモ、ガーリックともとても相性がよいので、これらを全てオーブン皿に入れて焼くだけでも美味しい一皿が完成します。 雑草取り 家庭菜園では、梅雨時にはアッという間に雑草が生い茂ります。雨の晴れ間をみて、こまめに雑草取りをしましょう。 病虫害の発生を予防するためにも、これは大切な作業です。 自家製堆肥をつくる 抜き取った草は、菜園の隅に場所を決めて積み重ねておき、堆肥にしましょう。油粕や完熟堆肥を混ぜ、時々水をかけると、発酵が進んで堆肥化が早まります。 こうしてつくった自家製堆肥を菜園に戻すと、野菜の出来と美味しさが全然違います。もちろん、花壇にも使えます。 バラの花がら摘み(花後の剪定) 5月上〜中旬から次々に美しい花を咲かせてくれたバラ──。 早咲きはすでに咲き終わり、遅咲き種もそろそろ花期の終わりを迎える頃です。この時期に大切なのが、花がら摘み(花後の剪定)。 咲き終わった花の数節下で、剪定をかねて切り戻しておきましょう。四季咲き種はこうすることで二番花の開花が期待できるようになります。 一季咲きのオールドローズやつるバラは、花後の剪定は不要です。 クレマチスの花がら摘みと切り戻し 品種が多く、花の色や形がきわめて多彩なクレマチス──。 6月になってもまだ豊かに花を咲かせ続けていますが、咲き終わった花は順次、摘み取りましょう。そのままにしておくと、返り咲きが見られません。 人気品種の‘エトワール・バイオレット’や‘プリンセス・ダイアナ’は、満開を過ぎて花が散り始めた頃、根際近くで切り戻すと、再びつるが伸びて秋にも花が楽しめます。 アサガオの摘心と誘引 5月に種をまいたアサガオが順調に生育しています。 本葉4〜5枚になったら、つるの先端を摘み取り(摘心)、側枝が出るのを促しましょう。こうすることにより、花の数を増やすことができます。 摘心をせずに、伸びた1本のつるを支柱に誘引していくやり方もOKです。誘引するときは、支柱に対して左巻きになるように行います。 トマトとナスの脇芽かき 4〜5月に植えたトマトやナスの苗が、6月になると大きく成長。一番花や二番花が咲き始めます。と同時に、葉柄のつけ根から伸び始めるのが脇芽。脇芽を放っておくと、側枝がたくさん伸びて花を咲かせ、結果的に小さな実しかならなくなってしまいます。 なので、トマトもナスも脇芽はすべてかき取りましょう。ハサミを使うとウィルス病に感染するリスクが高くなりますので、手で脇芽をかき取ります。 傷口がなるべく早く乾くように、わき芽かきは晴れた日の午前中にやりましょう。 ナスの3本仕立て ナスは脇芽をかき取って、主枝と側枝2本を伸ばし、3本仕立てにします。そして、大きな実を育てるために、一番花と二番花、三番花は摘み取ります。 水を大量に必要とする野菜ですので、水切れにはくれぐれも注意しましょう。 ミニトマト ミニトマトも上記の要領で同じように脇芽かきを行います。 やがて第一花房が見え始めたら、苗の周りを軽く耕し、ようりん、魚粉、化成肥料を少量、追肥として施します。その後は2週間に1度、追肥を続けます。 ジャガイモの芽かきと土寄せ 九州や西日本など温暖な地方では、6月は新ジャガの収穫期ですが、関東以北の寒冷地では、種イモの植え付けは5月の上〜中旬。今、ようやく芽が出て花を咲かせようとしている頃です。 元気な種イモからは芽がたくさん出ます。それをそのままにしておくと、小さなイモばかりになってしまいます。なので、芽が10〜20cmほどに伸びたら、生育のいいもの2〜3本を残して、他はかき取りましょう(間引き)。 このとき、カリ分の多い肥料を追肥として施し、株の周りに土寄せをします。さらにその2〜3週間後、2回目の土寄せをします。 ジャガイモは地表に出て日光を浴びると、表面が緑色になり、有毒な成分が生成されます。土寄せは、それを防ぐために必要な作業です。 ジャガイモの花は摘み取る ジャガイモの芽が伸びると、やがて花が咲き始めます。その眺めもなかなか美しいのですが、よいイモを収穫するためには、花はすべて摘み取ったほうがよいといわれています。 もちろん、花をそのまま咲かせておいてもジャガイモの収穫はできます。 ネギの土寄せと追肥 春先に定植したネギが元気に生長し、白い部分が目立つようになっています。その白い部分がなるべく長いネギを収穫するために、土寄せをして白い部分に土をかけます。 土寄せを終えたら、油粕などを追肥として施します。 このとき注意したいのは、分けつ部分(緑の葉が二股に分かれているところ)の上まで土をかけないようにすることです。分けつ部分を土で覆ってしまうと、新たな分けつが発生。よいネギができません。 土寄せと追肥を、夏まで3〜4回繰り返しましょう。土寄せは腰と背中に負担のかかるかなりの重労働ですが、白い部分が長いネギを収穫するためには、この作業は欠かせません。
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ハーブ
読者のお悩みに経験豊富なGarden Story執筆陣が回答! ②高地でのハーブ選び
高地の庭の花選び(草花編)についてはこちら。 標高900mの庭でのハーブ栽培、どんなものを選べばいいですか? ハーブのほとんどは寒さに強く、それほど制限はありませんが、熱帯地域が原産といわれるレモングラスや、南アフリカ原産のゼラニウムなどは寒さが苦手です。このように、耐寒性や耐暑性の判断は、その植物の原産地が手掛かりになります。代表的なハーブの原産地は、地中海沿岸やヨーロッパの中緯度地帯が多く、高地での栽培には後者のほうが向いています。 例えば、ローズマリーもいろいろな料理に重宝する非常に有用なハーブですが、残念ながら高冷地では冬越しをすることができません。私は自分で増やした10株ほどを山あいの畑に移植したことがありますが、一冬ですべて枯れてしまいました。 ただし、熱帯地域原産のものでも一年草であれば、ご自宅で苗を育てておいて十分地温が上がり、霜の心配がなくなってからクラインガルテンの庭に移植することで、楽しめるものもあります。私自身、そのようにしてバジルなどの収穫を楽しんでいます。それでは私の経験も含めながら、オススメのハーブをご紹介します。 おすすめハーブ① カモミール 初夏から夏にかけて、甘い香りの小さな白い花を咲かせるハーブです。ヨーロッパでは、乾燥させた花に熱いお湯を注いだものが、カモミールティーとしてよく飲まれています。このティーには心を穏やかにしてくれる効果があり、ホットミルクで煮出して飲むと安眠できます。 本来は秋になると枯れてしまう一年草ですが、こぼれ種でよく増え、毎年楽しむことができます。 苗は市場に出回りませんので、4〜5月頃、自分で種をまいて苗を育成することになります。発芽率が抜群によいので、誰でも簡単に苗を育てられます。 おすすめハーブ② タイム 木立性や匍匐性など、いくつかの種類がありますが、高地では匍匐性がよいでしょう。庭のグラウンドカバーとしても活躍し、雑草を抑えるのにも重宝します。生育旺盛で次第に形が乱れてきますので、時々、整姿をかねて伸びすぎているところを刈り取り、それを麻縄などでしばって保存し、ドライフラワーにします。 このドライのタイムを、ほんの少量、指先でもんで、カレーやシチュー、パスタ料理のソースなどに加えると、味が格段にアップします。 おすすめハーブ③ バジル バジルは、ハーブの中でもとりわけ有用な植物です。苗が市場に出回ることは少なく、出てもすぐに売り切れてしまいますので、自分で種をまいて苗を育てましょう。 種のまき時は通常は5月中〜下旬とされていますが、筆者の経験では6〜7月頃、気温や地温が十分に高くなってからまいたほうが、発芽率が格段によくなります。あなた様の場合は、ご自宅でポリポットなどにまいて苗を育成し、クラインガルテンに移植されるとよいでしょう。 バジルは盛夏から秋にかけて、白い小さな花を咲かせます。その花は適宜摘み取り、側枝がたくさん出るようにします。葉を適宜収穫し、サラダなどに加えると、素晴らしい香りと風味が楽しめます。 また、バジルの葉でペーストを作るのもオススメです。ジェノベーゼソースとも呼ばれるバジルペーストは、トーストに塗ったり、パスタ料理のソースにしたりすると超美味です。 [バジルペーストの作り方] バジルの葉 30g ニンニク 1片 ナッツ類、または剥き胡桃 2〜3個 塩 小さじ1/2 オリーブオイル 60g 以上をミキサーやグラインダーにかけてペースト状にし、煮沸消毒したガラス瓶に入れて冷蔵庫で保存します。ペーストの表面にオリーブオイルを少量加えておくとカビを防ぐことができます。小瓶に分けて保存し、作った分はなるべく早く食べきって、また新たにペーストを作るようにしましょう。 おすすめハーブ④ ミント類 ペパーミントなどのミント類も、料理に添えたり、ティーにしたりできる大変有用なハーブですが、一度植えると地下茎でいたるところに増えまくるので、栽培する場合には、波板トタンなどを地中に埋め込んで囲いを作り、地下茎が伸び広がらないようにする必要があります。さまざまな種類があり、苗も多く流通しています。 おすすめハーブ⑤ 花のきれいなハーブ キャットミント ブルーの花が美しいハーブです。宿根草で、大株になってくると内側から枯れ込んでくるので株分けをします。アブラムシなどを食べてくれる益虫のハナアブの棲み処にもなるので、コンパニオンプランツとしてもオススメです。 エキナセア 6月中旬頃から咲き始め、暑い夏の盛りに元気よく庭を彩ってくれます。春か秋に、日当たりのよい場所に元肥を施して花苗を定植します。花がらをつけたままにすると美観上もあまりよくありませんし、種ができると花が咲かなくなるので、長く花を楽しむためには、花がらをこまめに摘むとよいでしょう。開花期間が一通り終わったら、株元からバッサリ切ります。 ・ハーブティーで風邪予防! 免疫力を上げる「エキナセア」をおいしく飲もう アキレア 花色豊富なアキレア(写真では赤い花のほう)。とにかく丈夫で、寒さにも暑さにも乾燥にも強く、痩せた土地でも日当たりさえよければスクスク育って花を咲かせます。植えどきは秋か春で、その頃、園芸店や通販で苗が出回ります。地植えの場合、植栽したての頃は水やりをしますが、多湿にすると茎が倒れやすくなるため、根付いた後は、ほとんど放任でOKです。一度根を張ると、こぼれ種のほかに地下茎でも増えます。数年したら増えすぎに注意して、必要に応じて間引くとよいでしょう。 ・夏の庭に欠かせない名脇役「アキレア」と夏の花の組み合わせ カレンデュラ 耐寒性のとても強いハーブです。タネを秋にまき、11月初旬くらいまでに定植します。タンポポのように葉っぱが地面に張り付いたような「ロゼット状」になっている場合は、−15℃ほどの寒さにも耐えます。春から咲き始め、涼しい場所なら夏まで花を咲かせ続けます。 ・私のガーデンストーリー 「庭の花を摘んでカレンデュラオイルを手づくり」 野菜づくりも花の庭づくりも、たくさんの喜びをもたらしてくれます。あなたの楽しいクラインガルテン生活を応援しています! Credit 文/岡崎英生(文筆家・園芸家) 早稲田大学文学部フランス文学科卒業。編集者から漫画の原作者、文筆家へ。1996年より長野県松本市内四賀地区にあるクラインガルテン(滞在型市民農園)に通い、この地域に古くから伝わる有機栽培法を学びながら畑づくりを楽しむ。ラベンダーにも造詣が深く、著書に『芳香の大地 ラベンダーと北海道』(ラベンダークラブ刊)、訳書に『ラベンダーとラバンジン』(クリスティアヌ・ムニエ著、フレグランスジャーナル社刊)など。
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宿根草・多年草
読者のお悩みに経験豊富なGarden Story執筆陣が回答! ①高地の庭の花選び
標高900mでの花の庭づくり。どんな花を選べばよいですか? クラインガルテンとは宿泊・滞在ができる市民農園。世界各地に同様のシステムがあり、与えられた敷地内には菜園ができるスペースに加え、一区画ごとに簡易的な宿泊小屋が建っています。日本には現在、全国に68のクラインガルテンがあり、お便りを寄せてくださった読者の方のクラインガルテンもそのうちの一つ。利用条件などはそれぞれに異なりますが、こちらでは農作物の他に「草花を育てること」が条件とのこと。冬は-5℃まで下がる場所で、イングリッシュガーデンのような花とハーブの彩る素敵な庭をつくってみたいと夢見ていらっしゃいます。ご自宅では鉢植えでビオラやチューリップなどを育てた経験しかないので、高地での庭づくりではどんな花を選べばよいかとお悩みです。 このご質問にはGarden Storyの執筆陣の一人で、日本で最初にできたクラインガルテン、長野県松本市の「坊主山クラインガルテン(標高650m)」に24年以上通い続け、庭づくりや野菜づくりを楽しむ岡崎英生さんがお答えします。 おすすめ① ラベンダー こんにちは。このたびはお便りをありがとうございます。送っていただいた写真を拝見すると、とても素敵な雰囲気の場所ですね。農作物もお花も、ここでならきっと健やかに育つことでしょう。さて、ハーブや宿根草を植えたいのだが、というお問い合わせについてですが、まずオススメしたいのは、ラベンダーです。 ラベンダーは、日本では戦前にフランスから輸入した種をもとに試験栽培が始められ、戦後の昭和30年代になって「おかむらさき」「ようてい」「はなもいわ」「濃紫(のうし)3号」という4品種が北海道で作出されました。 育てやすい濃紫3号 上記の4品種のうち、最も強健で育てやすいのは、「濃紫3号」です。 苗は北海道のラベンダー園(中富良野町の“彩香の丘”佐々木ファームなど)から通販で取り寄せるとよいでしょう。 耐寒性が強い ラベンダーはもともと野生の植物で、乾燥した冷涼な気候下でよく生育します。高温多湿には弱いものの耐寒性が非常に強く、原産地の一つである南仏プロヴァンス地方では、標高1,400mの高山地帯にも自生していたほど。あなたがこれから庭づくりをされる標高900mのクラインガルテンでも、おそらくよく育つはずです。 植えるときは? ラベンダーは酸性の土壌を嫌いますので、苗を定植する2週間以上前に、植える場所をよく耕し、酸性を中和する苦土石灰を散布しておきます。完熟堆肥もいっしょに散布しておきましょう。 水はけが悪いと根腐れを起こしやすいので、畑をよく観察し、もし必要なら腐葉土や、もみがら燻炭などを混ぜ、なるべくふかふかの土にしておきます。 年々生長して、次第に大株になりますので、株間は30〜40cm前後あけるようにします。苗を植え終わったら、たっぷり水をやりましょう。その後はほとんど放任でよく、水は雨水に任せておくだけで十分です。 その後の管理は? 標高900mの高地だと、長い花穂が伸び、その花穂が青紫色に色づくのは7月初旬から中旬にかけてになるでしょう。美しい花と甘い香りをしばらく楽しんだら、早めに花穂を刈り取り、ドライフラワーにすることをオススメします。花を咲かせたままにしておくと、タネをつけようとして株が弱りますので、花穂は必ず刈り取りましょう。 秋には本格的な寒さが来る前に、なるべく丸く刈り込み、株の周りを少し耕して油粕、骨粉などの有機肥料と完熟堆肥を与えましょう。ラベンダーにとっては、これが元肥。春先、新芽が吹く前に施すのが追肥となります。 楽しみ方は? ラベンダーはドライフラワーにすると、いつまでも香りが残り、花の色もあせません。室内に飾れば素敵なインテリアになりますし、空気を清浄にする働きもあります。 ドライの花粒を小さな布製の袋に入れて、「サシェ(匂い袋)」を作るのもオススメです。 ラベンダーの甘い香りには沈静作用があり、緊張や不安、怒りなどを鎮め、安眠を促してくれます。かつてヨーロッパでは、お客さまが眠るベッドの枕の下にラベンダーのサシェを忍ばせておくのは、最高のもてなしの一つとされていました。 ラベンダーの香りには防虫効果もあります。衣装戸棚やタンスにラベンダーのサシェを入れておくと、ほのかな甘い香りが移るだけでなく、大事な衣類の虫食いの防止になります。 ナメクジもラベンダーの香りが嫌い。来てほしくない場所にはドライの花粒を散布しておきましょう。 おすすめ② クリスマスローズ 次にオススメしたいのは、春まだ浅い頃に花を咲かせてくれるクリスマスローズ。花色がきわめて豊富で、花の姿も一重や八重と多彩。何株か列植すると、庭に優美な雰囲気をつくり出してくれます。また、花が終わった後も葉は常緑のまま残りますので、庭の景観保持に役立ちます。 植えるときは? 植え時は3月から6月にかけて。花期は翌年の2〜4月頃となります。 肥沃で水はけのよい土壌を好みますので、苗を定植する2週間以上前に植える場所をよく耕し、苦土石灰、完熟堆肥、腐葉土などを土に混ぜ込んでおきましょう。 苗を植え終わったら、たっぷり水やりをしますが、その後は、よほど乾燥が激しいときでない限り、水やりの必要はありません。 その後の管理は? 枯れた葉や傷んだ葉は、適宜刈り取りましょう。 こぼれ種でよく増えますので、発芽した苗がまだ小さいうちに掘り上げ、お好きな場所に移植するとよいでしょう。 おすすめ③ フジバカマ 花の庭は、草丈の低いものと中ぐらいのもの、高いものを組み合わせ、高低差をつけると、美しさがいっそう引き立ちます。というわけで、草丈の低いクリスマスローズと中ぐらいのラベンダーの奥には、高さ50cmほどになるフジバカマを植えてはいかがでしょうか? 四季折々、花を咲き継がせる フジバカマは秋の七草の一つ。9月から10〜11月にかけて淡い紫色の花を花茎の先端に咲かせます。従って、早春のクリスマスローズ、夏のラベンダー、秋のフジバカマと、四季を通して花が咲き継いでいくことになります。 植えるときは? 植え時は3月から6月にかけて。 苗を定植する前に植える場所をよく耕し、苦土石灰、完熟堆肥、腐葉土などを混ぜ込んでおきましょう。 その後の管理は? フジバカマは、植えた後はほとんど放任でよく、手間いらずの植物です。 地下茎で増え、年々群生するようになっていきますので、3〜6月の間に株分けをするとよいでしょう。 秋、花が終わったら、お礼肥えとして油粕、完熟堆肥などを施しておきます。 楽しみ方は? フジバカマは花が咲いているときは香りませんが、花穂を刈り取ってドライフラワーにすると、素晴らしい芳香を放つようになります。 しかも、それはアロマオイルのような強い香りではなく、そこはかとなく漂う上品な香り。平安朝の姫君たちをふと連想してしまうような香りです。 花の勢いがまだ衰えないうちに花穂を刈り取り、ぜひドライフラワーを作りましょう。それを2階の階段の踊り場などに吊り下げておくと、通ったときにフワッと香ってくれますよ。 旅をする蝶が飛来するかも? フジバカマは、北海道から沖縄まで長い旅をすることで知られているアサギマダラという蝶の食草としても有名です。長野県の菅平は、そのアサギマダラの渡りが見られる場所の一つ。同じように標高の高いあなたのクラインガルテンも、フジバカマを植えれば、もしかしたらアサギマダラの飛来地になるかもしれませんね。 おすすめ④ その他の宿根草・球根類 ここまでご紹介してきた植物は、宿根草(しゅっこんそう)というグループの草花です。宿根草は、一度庭に植え付けると年を経るごとに株が大きく育ち、見事な姿に生育していくので、庭の成長を感じられるでしょう。宿根草としては、つる性のクレマチス、小花のゲラニウム、豪華なシャクヤク、花色豊富なオダマキ(春〜初夏)、甘い香りを放つハニーサックル、エキナセア(夏)、大株に育つシュウメイギク(秋)などもオススメです。 一方、一年草はワンシーズンで寿命を終えるので、宿根草に加えながら庭づくりをすると、毎年庭の雰囲気が少し変わり、新鮮な気持ちで楽しむことができます。 球根もおすすめ また、秋にスノードロップ、ヒヤシンス、クロッカス、水仙、チューリップ、ムスカリなどの球根を植え込んでおくと、春にはカラフルでにぎやかな庭の眺めが楽しめるでしょう。チューリップは原種系のものを選ぶと、毎年花を咲かせてくれます。 冷涼地だからこそ育てられるものも こんなふうに、高冷地でもたくさんの草花の選択肢があります。というより、昨今の異常な夏の暑さを考えると、あなたがこれから庭づくりをされる標高900mの地は、イングリッシュガーデン風の庭づくりに、むしろうってつけといえます。というのも、本場英国の庭では見事な大株に育っているのに、日本の蒸し暑い気候ではどう頑張っても咲かせられない素敵な植物がたくさんあるからです。上の写真のアルケミラモリス(黄色の花)やアストランティア(白い花)も、多くの人が憧れを持ち続ける、そんな花です。 植物を購入するときは「耐寒性」を意識して選ぶとよいでしょう。私は宿根草専門のナーセリー「おぎはら植物園」に苗を買いに行ったり、通販で取り寄せたりすることが多いです。クラインガルテンのある同じ長野県の上田市にあり、耐寒性の強い植物を多く扱っています。 そして、同じく冷涼地の観光ガーデンへお出かけになって、どんな花が元気に育っているのか見てみるのもオススメです。北海道には複数の観光ガーデンをつないだ「北海道ガーデン街道」がありますし、長野県軽井沢にも「軽井沢レイクガーデン」など、イングリッシュガーデン風の庭があります。 ・連休の花庭お出かけ情報! 日本全国、花の旅にオススメの観光ガーデン保存版【中部・近畿】 さて、オススメのハーブもたくさんあるので、次回『読者のお悩みに経験豊富なGarden Story執筆陣が回答! ②高地でのハーブ選び』でご紹介します。 Credit 文/岡崎英生(文筆家・園芸家) 早稲田大学文学部フランス文学科卒業。編集者から漫画の原作者、文筆家へ。1996年より長野県松本市内四賀地区にあるクラインガルテン(滞在型市民農園)に通い、この地域に古くから伝わる有機栽培法を学びながら畑づくりを楽しむ。ラベンダーにも造詣が深く、著書に『芳香の大地 ラベンダーと北海道』(ラベンダークラブ刊)、訳書に『ラベンダーとラバンジン』(クリスティアヌ・ムニエ著、フレグランスジャーナル社刊)など。
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家庭菜園
ガーデニングの季節到来! 5月の庭仕事
◎5月の庭仕事 ガーデニングが最も楽しい季節がやってきました! 風薫る5月──。 バラやクレマチスが咲き始め、野菜の苗はぐんぐん伸びています。 さあ、陽光を浴びながら、今月の庭仕事を始めましょう! 野菜の苗の定植 Elena-Grishina/Shutterstock.com 5月はトマト、ナス、キュウリなど、いろいろな野菜の苗の定植の時期です。ホームセンターや園芸店で苗を入手し、家庭菜園やプランターに植えつけましょう。 自分で3月中旬頃にタネを播いて育ててきたトマトなどの苗も、すでに大きく育ち、一番花が咲く頃になっています。こちらもやはり、そろそろ定植の時期です。 定植前の準備とは? alicja neumiler/Shutterstock.com 野菜の苗を定植する約3週間前に、植えつける場所をよく耕し、土壌の酸性を中和する苦土石灰と、完熟堆肥を散布しておきます。油粕や魚粉などの有機肥料を土に混ぜ込んでおくのもよいでしょう。 3週間経ち、堆肥や肥料分が土に馴染んだ頃に定植すると、その後、苗はよく生育します。 水やりは? 苗を植えつける時、まず植え穴にたっぷりと水を注ぎます。そして植えつけた後も、苗の周りにたっぷりと水を与えます。この時、株元の土を寄せてクレーター状にしておくと、水が流れ広がるのを防いで、効率よく苗に吸水させることができます。 植えつけ前に植え穴に水を注いでおく。 株元の土を寄せてクレーター状にすると水が流れない。 定植後は自然の雨水にまかせておけばよく、水やりの必要はありません。 水で育つナス、乾燥を好むトマト Alvintus/Shutterstock.com 定植後に水やりの必要はないといっても、ナスは「水で育つ」といわれるほど水を好む野菜。定植後は水切れに注意し、乾燥が激しい時は早朝、あるいは夕方に水やりをするようにします。日中、暑い時間帯の水やりは避けます。 goodmoments/Shutterstock.com 一方、トマトはむしろ乾燥気味に育てるほうがよく、水やりの必要はありません。 野菜のタネの直播き FotoDuets/Shutterstock.com 気温が上昇し、地温も高くなる5月は、トマトやナス、キュウリなどのタネの直播きの適期です。 よく耕し、苦土石灰や完熟堆肥などを施しておいたところにタネを播きましょう。ズッキーニやゴーヤも、この時期にタネを直播きにして育てます。 タネの播き方は? タネの播き方には、野菜の種類によって「点播き」「すじ播き」などの方法があります。タネの袋の指示に従ってまくようにしましょう。 タネを土壌に密着させる 点播き、すじ播き、どちらの場合も、タネを播く場所にまずたっぷりと水をやります。そして、播いた後はタネを土壌に押しつけ、密着させます。その後、タネの上に軽く土をかけ、再びたっぷりと水やりをします。 発芽するまで、種をまいた場所が乾燥しないよう、水やりを続けましょう。 直まきの利点とは? トマトやキュウリ、ナスなどのタネを菜園に直播きすると、市販の苗よりも病虫害に強い健康で丈夫な苗が育ちます。市販の苗を買って定植した場合より、収穫の開始はやや遅れますが、秋までの全体の収量はほとんど大差ありません。 葉もの野菜のタネ播き Milosz_G/Shutterstock.com ホウレンソウや小松菜など、葉もの野菜も5月がタネの播き時です。 少しずつ時期をずらして播き、長く収穫を楽しめるようにしましょう。 間違っても、家庭菜園では、袋に入っているタネを全部播いたりしてはいけません。収穫期にたくさん採れ過ぎて、困り果てることになってしまいます。 遅霜に注意! BrunoK1/Shutterstock.com 九州や西日本など、暖かい地方では5月にはもう霜が降りる心配はありませんが、関東以北の寒冷地では5月になっても遅霜が降りることがあります。 例えば、長野県松本市郊外、標高650mの四賀地区では、10年ほど前、ゴールデンウィークもとっくに過ぎた5月23日に遅霜が降りました。 レタスなど、ごく一部の野菜を除き、野菜の苗の多くは遅霜に当たると一夜にして萎れ、枯れてしまいます。ジャガイモの新芽も、やはり萎れてしまいます。 野菜の苗の定植やタネの直播きは、自分の住んでいる地域に遅霜の心配がなくなってから行うようにしましょう。 一年草のタネも今が播き時 Quang Ho/Shutterstock.com 5月になったら朝顔のタネを播きましょう。朝顔のタネは硬いので、一晩水につけてからまくと、よく発芽します。 ShaikhMeraj/Shutterstock.com そのほか、インパチェンス、ペチュニア、ジニア(百日草)、ナスタチウム(金蓮花)、ニゲラ(クロタネソウ)、マリーゴールドなどのタネも、5月中下旬までには播いておきましょう。いずれも夏の庭を美しく彩ってくれる花々です。 ハーブのタネ播き mama_mia/Shutterstock.com カモミール、タイム、セージ。コリアンダー(パクチー)などのハーブ類も、5月がタネの播き時です。 バジルは地温が上がってから バジルも5月からタネを播くことができますが、むしろ6月、地温が充分に高くなってから播いたほうが、発芽率が格段によくなります。 併せて読みたい
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宿根草・多年草
宿根草とは? その特徴&春夏秋冬のおすすめ品種20選
春に開花する宿根草おすすめ5選 ① クレマチス クレマチス‘エトワール・ヴァイオレット’。Natalia Greeske/Shutterstock.com 種類が非常に多く、花の大きさも小輪・中輪・大輪とさまざま。また花色も紫、空色、白、ピンクと多彩です。つるが長く伸びるタイプも多いので、種類に合わせてトレリスやフェンスに絡ませて楽しみましょう。 初心者でも育てやすいのは、濃い紫色の小ぶりの花がたくさん咲く‘エトワール・ヴァイオレット’。その年に伸びたつるに花が咲きます。7月中旬には散りますが、このとき地際まで切り戻しておくと、夏の終わりから秋にかけて再び花を咲かせてくれます。晩秋にはすべてのつるが枯れますので、地際で剪定(切り取る)して、翌年に備えます。このとき株の周りに完熟堆肥や少量の肥料を散布しておくとよいでしょう。 ② シャクヤク(ピオニー) Ivan Masiuk/Shutterstock.com 日当たりと風通しのよい場所なら、ほぼ植えっぱなしの放任でOK。毎年、4月末から夏の初めにかけてボタンに似た大輪の花が楽しめます。さまざまな品種があり、花色も多彩。花壇はもちろん、鉢やコンテナでの栽培もできます。 花が散ると、すぐにタネをつくろうとし始めますので、花がらはこまめに摘み取りましょう。 冬には地上部分は枯れますが、地中の根は生きていて越冬し、翌春再び芽吹いて花を咲かせてくれます。地上部分が枯れた頃、翌年に備えて表土に完熟堆肥や肥料を少し散布しておくとよいでしょう。 ③ 宿根アマ Sarycheva Olesia/Shutterstock.com 細い茎の先に淡い空色の花が咲き、それが風に揺れている様子がとても美しい。何株かを群植すると見事な景観をつくり出してくれます。英名‘ペレニアル・フラックス’。 日当たりがよく、やや乾燥気味の場所を好みます。苗がまだ小さいうち(草丈7〜8cm程度)に、摘心(てきしん/新芽の先端を摘み取る)をすると、側枝が伸びて花数が増えます。 4月末から咲き始め、1〜2日で花は散りますが、6月中旬頃まで次々に咲いてくれます。咲き終わったら、順次こまめに花がら摘みをしましょう。 ただし、花がら摘みをしなければ、秋には丸い球果ができ、その中には小さな黒いタネがたくさん入っています。このタネを播いて自分で新たな苗を育ててみるのもいいでしょう。 タネの播き時は9〜10月、または3〜4月。タネは好光性で、発芽には光を必要としますので、覆土はしません。発芽率はかなりよく、4〜5日から1週間程度で発芽します。秋播きした場合は、冬の間は日当たりのいい窓辺などで育苗を続け、翌春、定植しましょう。 秋にできた丸い球果をそのままにしておくと、こぼれダネでもよく増えます。 ④ タイツリソウ Rosarin Phomsatet/Shutterstock.com 弓なりの花茎に小さなハート形の花が一列に並んで咲きます。その花姿がとてもユニークで可愛らしい。花をつけたときの様子が鯛を釣り上げているように見えるところから‘タイツリソウ’の名がつきました。別名‘ケマンソウ’。 もともとは森林や湿った深い谷間に自生していた野生種でした。現在はさまざまな園芸品種がつくり出され、花色も赤、ピンク、白と多彩。葉が緑色ではなく、鮮やかな黄色の種類もあり、カラーリーフとしても活躍します。 苗の植えつけは2〜3月上旬。明るい半日陰を好みます。花期は4~6月上旬くらいまで。 数年経つと株の勢いが次第に衰えてきますので、新規に苗を購入して植え替えましょう。 ⑤ ジギタリス Sopha Changaroon/Shutterstock.com 草丈80〜120cmほどになり、まっすぐ伸びた花穂に小さなベル形の花が下から次々に咲き上がっていく様子は、まさに圧巻! 英国庭園にはなくてはならない花の一つで、今は日本でも大人気です。別名‘フォックスグローブ’、‘キツネノテブクロ’。 秋や早春に出回る苗を買ってコンテナや庭に植えつけます。できれば秋に植えつけ、苗を冬の寒さに当てましょう。そのほうが花つきがよくなるからです。日当たりと水はけのよい場所を好みます。 花期は5~6月中旬頃まで。 草丈が高くなるので、手前や周りには背の低い草花を植えましょう。 花が咲き終わると、花穂にたくさんの小さなサヤができ、その中に非常に細かいタネがぎっしり入っています。 そのタネを播いて、自分で苗を育てることもできます。播き時は9〜10月。タネ播き専用土か、「サカタのタネ」が販売している「ピートバン」にバラ播きし、タネを用土によく密着させます。好光性なので覆土はしません。発芽率はかなり良好です。 冬越しした苗を翌年植えつけると、その年の5〜6月か、あるいは翌々春に開花します。 夏に開花する宿根草おすすめ5選 ① アガパンサス Gekko Gallery/Shutterstock.com 長い花茎の先端に小さな房状の花を咲かせた姿が、とても魅力的。性質は強健で、育てやすく、ほとんど放任でOK。ガーデニング初心者にもおすすめの宿根草です。 植えつけの適期は3月と9月。日当たりと水はけのよい場所を好みます。 鉢やコンテナでも栽培できますが、夏の高温多湿と冬の寒風には弱いので、置く場所に注意。水やりは控えめにしましょう。 5月中旬から咲き始め、7月半ばまで花を楽しむことができます。肥料は春先に1回、花後に1回の年2回で十分です。 つやのある葉と茎は暖地では常緑ですが、寒冷地では冬になると地上部分が枯れます。ワラなどで株元を覆い、冬越しさせましょう。 ② ルドベキア ncristian/Shutterstock.com いくつか品種がありますが、オススメは、チョコレート色の花心と黄色い花びらが可愛いルドベキア‘タカオ’。 草丈60cmほどになり、細かく分枝した花茎の先に輝くような小花がたくさん咲きます。 植えつけの適期は5月上旬〜下旬。日当たりと水はけのよい場所を好み、多湿と多肥を嫌います。 花が咲き始めるのは6月中旬頃から。秋、10月いっぱいくらいまで花を楽しむことができます。 株の勢いがやや衰えてきたら、3分の1ほど切り戻し、一回り大きな鉢やコンテナに植え替えましょう。 ③ ルリタマアザミ(エキノプス) Savo Ilic/Shutterstock.com 長い花茎の先端に、アザミに似た青いボール状の花が咲きます。暑い時期の涼しげな花の色合いが魅力的。別名‘エキノプス’。 植えつけは秋10月頃か、春3月頃。植える前に完熟堆肥と苦土石灰を施しておきましょう。日当たりと水はけがよく、やや乾燥気味の場所を好みます。 花期は6月中旬~8月中旬。まだ花色が鮮やかなうちに刈り取ってドライフラワーにすると、素敵なインテリアになります。 ④ アスチルベ Julija Kumpinovica/Shutterstock.com ふわっとした柔らかい感じの花穂。とてもロマンチックな雰囲気の宿根草です。基本の色はピンクですが、白、赤、チョコレート色などの品種もあります。 花期は4月中旬~7月末頃まで。草丈が30cmほどと低いので、もう少し背の高くなる草花と混植すると華やかになります。 ⑤ カラミンサ I. Rottlaender/Shutterstock.com 草丈30〜50cm。こんもりしたブッシュ状になり、初夏から秋まで白い小花をたくさん咲かせ続けます。ほかに、ピンクや淡紫色の花が咲く品種も。 植えっぱなしの放任でよく、肥料もほとんどいりません。水やりもなるべく控えめに。庭植えの場合は雨水だけで十分です。 他の草花と組み合わせて鉢やコンテナに植えてもよく、花期が長いので玄関やベランダの彩りとして便利です。 ハーブの一種なので、全草にミント系のスパイシーな香りがあります。葉は乾燥させ、レモングラスなどとブレンドし、ハーブティーとして利用することもできます。 秋に開花する宿根草おすすめ5選 ① ワイルドストロベリー Marek Mierzejewski/Shutterstock.com ハーブの仲間。4月、春の陽光が日に日に強くなっていく頃、白い小さな花が咲き始めます。やがて、そこに赤く可愛いイチゴが! その後、猛暑の時期は少しお休みしますが、涼しくなると再び旺盛に生育を開始。秋遅くまで花と実が楽しめます。 植えつけは3〜5月。日当たりと水はけのよい場所を好みます。鉢やコンテナでの栽培も、もちろんOK。 植えつけ後、10日に1回程度、200倍ぐらいに希釈した液肥を与えましょう。株が充実してくると、こぼれダネでよく増えます。 実ったイチゴは、その都度収穫し、砂糖をふりかけてレンジでチン! 素晴らしい香りと風味のフレッシュジャムになります。 ② フジバカマ High Mountain/Shutterstock.com ドライフラワーにすると甘い芳香が得られることから、万葉人や平安朝の貴族たちにこよなく愛された草花。 秋の七草の一つで、海を越えて長距離の渡りをする蝶‘アサギマダラ’の食草としても知られています。 地下茎が伸びて増え、群生します。かつては草原や明るい林などに豊富に自生していたのですが、自然環境の悪化で激減。絶滅危惧種となってしまいました。従って、現在、フジバカマとして流通しているのは、雑種の‘サワフジバカマ’。 植えつけは3〜4月。7月下旬~10月下旬にかけて、長い花茎の先端に小さな花を房状にたくさん咲かせます。植えつけたときと花後の剪定をしたときに肥料を施しましょう。 全体の花姿は地味ですが、前述したようにドライフラワーにすると上品な甘い香りを放つようになります。その香りの正体は、香水にもよく使用されている芳香成分クマリン。玄関や階段の踊り場などに吊り下げておくと、通る度にほのかに香ってくれます。 ③ シュウメイギク SebastiaanPeeters/Shutterstock.com 秋、やや寂しくなりかけた庭やベランダガーデンに鮮やかな彩りを添えてくれる貴重な宿根草。 大輪の花のように見えるのは、実はがく片ですが、紅紫色の半八重咲き、白花の一重咲きなどの種類があります。どちらも草丈50〜120cmほどと背が高く、風に揺れる様子がとても素敵です。 性質はきわめて強健。庭植えはもちろん、鉢やコンテナでも栽培できます。秋の寄せ植えにも活躍してくれます。 植えつけは3〜4月頃。このときに完熟堆肥、油粕、苦土石灰を株の周りに少量施します。 植えつけ時には、たっぷりと水をやりましょう。庭植えの場合は、その後は雨水だけで十分です。鉢やコンテナ植えの場合も水やりにさほど神経質になる必要はありませんが、夏場の水切れには注意しましょう。 花期は8~10月末頃まで。花が終わったら地上部を剪定し、肥料を施して翌年に備えます。 ④ ホトトギス Jezophotography/Shutterstock.com きわめて風情のある草花で、庭やベランダガーデンに和風のテイストを添えてくれます。 植えつけは3〜4月。半日陰を好みますので、鉢やコンテナ植えの場合は置き場所に注意しましょう。 花期は7月中旬~10月中旬頃まで。草丈30〜90cmほどになり、葉の横から花が顔をのぞかせ、上を向いて咲きます。 白い花に紫色の細かい斑点のある様子がホトトギスに似ているところから、この名がつきました。 品種は非常に多く、白花のほかにピンク、紫、黄色など。さらに乳白色の花が咲く種類もあります。 春先と花後の剪定をしたときに、完熟堆肥、油粕などを株の周りに少量施しましょう。 鉢やコンテナ植えの場合は、毎年、新しい用土に植え替えます。 ⑤ 原種シクラメン Oksana Lyskova/Shutterstock.com 花期が長いので何カ月も花を楽しむことができ、育てやすいシクラメン。庭植えよりも、鉢やコンテナでの栽培がオススメ。秋のベランダガーデンを美しく彩ってくれる宿根草です。 さまざまな品種がありますが、オススメは淡いピンク色の花が咲く‘ヘデリフォリウム’。苗は街の園芸店やホームセンターなどでは手に入りませんので、ネット通販で宿根草専門ショップから購入しましょう。 植えつけは8月末~9月。水はけのよい用土に植え、半日陰の風通しのよい場所に置きます。 寒風に吹かれると葉や茎が傷みますので、鉢やコンテナを風の当たらない場所へ。 花は9~12月いっぱいくらいまで楽しめます。その間、薄い液肥を月に1回ぐらい与えましょう。 次第に根が混み合ってきますので、1〜2年に1回、新しい用土に植え替えます。 冬に開花する宿根草おすすめ5選 ① スノードロップ Marek Walica/Shutterstock.com 可憐な白い花がうつむいて咲く様子は、まるで雪の妖精のよう! 鉢やコンテナでの栽培がオススメ。球根を9〜10月に植えつけます。5号鉢(直径15cm)なら5〜7球ぐらいを目安とします。 芽が出る前の12月頃から薄い液肥を与えましょう。 花は1月頃から咲き始め、4月上旬くらいまで楽しめます。 花の時期は日向に置き、花後は日陰で乾燥させ、翌年に備えます。 ② クリスマスローズ Astrid Gast/Shutterstock.com 非常に多くの種類があり、花色はきわめて豊富。一重咲き、八重咲きなど、咲き方も多彩です。 花期は2~4月上旬くらいまで。 花が終わっても葉は常緑のままですので、鉢やコンテナに植えてベランダなどに置けば、一年中緑を楽しむことができます。宿根草のなかでも特に育てやすくて長持ちする丈夫な種類です。 苗は宿根草専門ショップで購入するのがおすすめ。3〜6月に肥沃で水はけのよい土壌に植えつけます。酸性を嫌いますので、苦土石灰を少量散布しておきましょう。 古い葉や枯れた葉は切り取って、花芽が出るのを促します。 庭植えにすると、こぼれダネでよく増えます。 ③ ゼラニウム Lena Ivashkevich/Shutterstock.com 鉢やコンテナでの栽培がオススメ。本来は、猛暑の時期を除き、一年中咲いている花で、ヨーロッパでは窓辺を飾るための花として愛好されています。 寒さにはやや弱く、霜に当たると枯れることがあります。しかし、室内に取り込み、日当たりのいい窓辺などに置いておくと、冬でも次々に花を咲かせてくれます。 苗は春と秋に出回ります。市販の培養土、または小粒の赤玉土と腐葉土を7対3の割合で混合した用土に植えつけ、緩効性の肥料と酸性を中和するための苦土石灰を株の周りに散布します。 窒素系の肥料をやり過ぎると、葉ばかり繁って花付きが悪くなります。肥料を買うときは、窒素・リン酸・カリの配合比に注意しましょう。 水やりは控えめに。なるべく乾燥気味に育てましょう。株の成長に合わせて、その都度、一回り大きな鉢やコンテナに植え替えます。 ④ 日本水仙(ニホンスイセン) zzz555zzz/Shutterstock.com 地中海地方原産の花。日本には中国経由で伝わったといわれています。 何よりの魅力は、素晴らしい芳香があること。フランスでは、この花から抽出したエッセンシャルオイル(花精油)を香水の原料として用いています。 10~11月くらいまでの秋植えのシーズンの間に日当たりのいい場所に球根を植えつけ、その後、春先まで定期的に施肥を続けます。 緑色の葉が見え始めたら、こまめに水やりをしましょう。 花は1月中旬から咲き始め、4月半ばまで楽しむことができます。 鉢やコンテナ植えの場合は、花が終わったら日陰に置いて、そのまま乾燥させます。 ⑤ フクジュソウ HikoPhotography/Shutterstock.com キラキラと輝く黄色い大きな花を咲かせ、いち早く春の訪れを感じさせてくれる耐寒性がある宿根草。9〜10月、あるいは2〜3月に植えつけます。 肥沃な土壌を好みます。植えつけ後は定期的に施肥をします。 花は2月初旬から咲き始め、4月初めまで楽しめます。 花が終わると落葉し、休眠期に入ります。鉢やコンテナ植えの場合は、開花期には日向に置き、休眠期になったら半日陰に置いて越冬させましょう。
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宿根草・多年草
植えっぱなしで毎年花咲く「宿根草(多年草)」おすすめの種類と育て方
宿根草(多年草)とは? 一年草や二年草との違い 一度植えると、毎年、開花期に必ず花を咲かせてくれる多年草の一種である「宿根草(しゅっこんそう)」。 そんな宿根草には、次の2つのタイプがあります。 宿根草のひとつ、ギボウシの株。Sarycheva Olesia/Shutterstock.com Type1 花が終わった後、葉や茎などの地上部は枯れるが、根は生きていて冬を越し、翌年再び葉を茂らせせて、花を咲かせるもの。 スズラン mar_chm1982/Shutterstock.com ・小さいけれど強い植物! スズランの特徴や種類・育て方をご紹介 シャクヤク(ピオニー) Kuzmenko Viktoria photografer/Shutterstock.com ・初夏に花開く絢爛豪華な大輪花 シャクヤク クレマチス Flower_Garden/Shutterstock.com ・クレマチスの育て方。コツとお手入れ、植え替えや寄せ植えを一挙紹介します フジバカマ High Mountain/Shutterstock.com 上記の他、ミント類、オレガノ、カラミンサ、ヤロウ(アキレア、ノコギリソウ)などがあります。 Type2 花が終わった後も葉や茎が常緑のまま冬を越し、翌年再び花を咲かせるもの。 クリスマスローズ(ヘレボルス) billysfam/Shutterstock.com ・栽培歴15年以上の愛好家が教えるクリスマスローズを庭でかわいく咲かせるコツ ゲラニウム Przemyslaw Muszynski/Shutterstock.com ・ゲラニウムの豊富な種類と庭で育てる魅力 コモンセージ Irra/Shutterstock.com コモンセージなどのハーブ類にも、料理に活用できる宿根草があります。 ・宿根草ショップの店長が提案! 実用的でお得な宿根ハーブ5選 ・セージの育て方。コツとお手入れ、植え替えや寄せ植えを一挙紹介します 上記の他、ハニーサックル(スイカズラ)、タイム、コンフリーなどがあります。 一年草とは? wanchalerm_Thailand/Shutterstock.com 春にタネから発芽し、初夏から夏にかけて次々に花を咲かせるが、秋には枯れてしまうもの。あるいは、晩秋、霜が降りる頃まで花を咲かせ続けるが、その年のうちに枯れてしまうもののことを指します。 ・夏の花を咲かせよう! 花壇・庭・鉢で育つ人気の夏花22種【一年草編】 アサガオ Gemini Create/Shutterstock.com ・アサガオの育て方。コツとお手入れ、植え替えや寄せ植えを一挙紹介します インパチェンス Juehny/Shutterstock.com ・インパチェンスはカラフルな花が魅力の夏花! 特徴や花言葉、育て方について詳しく解説 ペチュニア aniana/Shutterstock.com ・ペチュニアの育て方! 可愛い花をたくさん咲かせよう 上記の他に、ナスタチウム(金蓮花)、ジニア(百日草)、カモミール、バジル、コリアンダー(パクチー)などがあります。 二年草とは? Ralf Gosch/Shutterstock.com 春、または秋にタネから発芽して冬を越し、翌年の春〜初夏に花を咲かせるもの。開花が翌々春になるものもあります。 ジギタリス pisitpong2017/Shutterstock.com ・国内入手可能! 世界一のガーデンショウでベスト1に輝いた夢の花「ハイブリッド・ジギタリス」 カンパニュラ Real Moment/Shutterstock.com ・【大人気】カンパニュラ・メディウム(ツリガネソウ)の育て方! 魅力から育成法まで徹底解説! ホリホック(タチアオイ) Ole Schoener/Shutterstock.com ・華やかな花を咲かせるタチアオイの育て方・ポイント・注意点を徹底解説! 多年草とは? 多年草とは宿根草のことです。両者が違うものであるかのように述べている解説もありますが、私たち一般の花愛好家は、園芸学的な細かい差異にこだわる必要はありません。多年草=宿根草と考えて全然OKです。 球根類は? Elena Zajchikova/Shutterstock.com 球根植物も、一度植えると毎年花を咲かせてくれますので、宿根草の一つの大きなカテゴリーと考えることができます。 ・夏植え球根を植えて秋の庭を華やかに! おすすめ品種6選・春咲き・秋植え球根の上手な買い方と植え方・今年の秋に植えたい 春咲く球根花10種類・10月に植えたい秋植え球根16選! 来春の庭を可愛く彩ろう! チューリップ Oat-Photo/Shutterstock.com ・チューリップの育て方。コツとお手入れ、植え替えや寄せ植えを一挙紹介します・【球根の買い時は9月】組み合わせてかわいいチューリップおすすめ品種 ユリ KPG Payless2/Shutterstock.com ・ユリの育て方! 夏花壇の主役、華やかなユリの分類と種類・故郷の風景を思い出す「ユリ」の種類とその美しさ 上記の他に、クロッカス、アネモネ、スノードロップ、ムスカリ、ダリアなどもあります。 宿根草(多年草)の育て方 (1)苗を買う Dasha Petrenko/Shutterstock.com 宿根草は春や秋に出回る苗を買って、庭や鉢、コンテナなどに植えるのが一般的です。 宿根草をタネから育てることもできなくはありませんが、発芽させるのが難しく、苗が成長して花が咲くようになるまで時間もかかります。信頼できる園芸店で苗を購入するようにしましょう。 (2)植える ・鉢やコンテナに植える場合 鉢植えのギボウシ。Wiert nieuman/Shutterstock.com 赤玉土(小粒)と腐葉土を7対3の割合にした用土に植えます。植え終わったら、株の周りに少量の油粕、完熟堆肥、土壌の酸性を中和するための苦土石灰を散布し、たっぷり水をやりましょう。 その後の水やりは、表土が乾いてから。可愛がっているつもりで頻繁に水をやりすぎると、宿根草は根腐れを起こして枯れてしまいます。 植える用土は市販の培養土を用いてもよいでしょう。ただし、あまり安価なものは避けましょう。 ・地植え(庭植え)する場合 庭植えしたギボウシ。vladdon/Shutterstock.com 植える2〜3週間前に目的の場所をよく耕し、腐葉土、完熟堆肥、土壌の酸性を中和するための苦土石灰を混ぜ込んでおきます。 2〜3週間後、そこに苗を定植します。株の周りに油粕を少量散布し、たっぷり水をやりましょう。 花壇など屋外の地面に地植えした場合は、その後の水やりは必要ありません。雨水だけで十分です。 (3)肥料や水やりの仕方 kram9/Shutterstock.com 肥料は年に1度、冬越しの前に株の周りに完熟堆肥や油粕を少量散布する程度で十分です。宿根草は多肥にすると株が軟弱になり、徒長して倒れやすくなったり、花が咲かなくなったりします。可愛がっているつもりの肥料のやりすぎはNGです。 水やりの仕方は前記の通り。鉢やコンテナで育てている場合は表土が完全に乾いてから、地植えの場合は雨水に頼るだけで十分です。 ・あげない方がよく育つ?! 肥料の嫌いな植物たち・花数アップや果実を甘くする効果あり!「肥料」の種類と使い方 (4)花がら摘みと剪定 ・花がら摘み vas_eka/Shutterstock.com 花が咲き終わったら、花がらを摘み取りましょう。放置しておくとタネをつけようとして、その分だけ株の体力を消耗してしまいます。ただし、こぼれダネで増やそうとする場合は花がら摘みはしません。花が完全に終わるまで放置せず、開花したら花茎を長めに切って、室内で切り花として観賞するのもよい方法です。 ・剪定 写真/3and garden 花が咲き終わった後、地上部分が枯れるものについては、そのままにしておくと景観を損ねますので、枯れた茎などを根際で切り取ります(写真、丸で囲った地際には新しい次シーズンの芽が出ていることもあります)。 また、クレマチスには新枝咲き、旧枝咲き、新旧両枝咲きという3つのタイプがあります。新枝咲きは秋の終わりに枯れたつるを根際でバッサリ大胆に剪定します。一方、旧枝咲きは、その年伸びた枝の半分程度を剪定。新旧両枝咲きは剪定しません。 ・新枝咲きや旧枝咲きってなに? 冬の間にクレマチスの剪定をしよう! (5)ネームプレートを自作しよう 写真/3and garden 花が咲き終わった後、地上部分が枯れてしまうタイプの宿根草は、何を植えたのか分からなくなってしまうことがあります。 地上部分が枯れたときに備えて、花の名前を記したプレートをつくり、庭や鉢・コンテナに立てておきましょう。小さな木片にカラフルな色を塗って自作すれば、ネームプレートは可愛いガーデンアクセサリーにもなります。 ・庭で育つ植物の名前を忘れないための必須アイテム「園芸用ラベル」の種類と使い方アイデア
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樹木
バラを育てたい! 初心者さん必見 野生種、オールドローズとモダンローズなどバラの種類を分かりやすく解説
バラにはどんな種類があるの? バラには、数万種類もの品種があり、さまざまな観点からの分類があります。ここではバラの大まかな歴史をたどってみることにします。まず、バラには自然の中に自生している野生種(原種)といわれる種類があります。野生種は北半球の世界中に150〜200種ほどが存在しているといわれますが、日本の山野によく自生しているノイバラ(野バラ)もその一つです。そしてこれらの野生種が交雑したり、交配したりして生まれた園芸種があります。さらに、園芸種には、古くから愛されてきた「オールドローズ」と、19世紀の末以降につくり出された「モダンローズ(現代バラ)」という2つの大きなカテゴリーがあります。 それではバラのいろいろな種類を順に見ていきましょう。 野生種は野趣溢れる雰囲気や素朴さが魅力 英国では15世紀に王位をめぐってヨーク家とランカスター家が激しく対立。両家の軍勢が戦いを繰り返す内乱が30年にわたって続きました。この時、ヨーク家が紋章としていたのが白いバラ、ランカスター家は赤いバラ。そのため、英国史に名高いこの内乱は「バラ戦争」と呼ばれています。 半八重咲きの赤いバラ、ロサ・ガリカ・オフィキナーリスはバラの野生種(原種)の一つで、ランカスター家が紋章としていたバラ。優美な花の姿と甘い香りが魅力的で、今も人気のバラとなっています。バラにはこうした野生種が150〜200種類あり、特徴は花が年に一度、春にしか咲かない「一季咲き」であること、そしてそれぞれに微妙にテイストの異なる芳香があることです。 日本にもハマナス、ノイバラ、テリハノイバラ、サンショウバラなど約10種類の野生種があり、海岸、平地、山岳地帯などに自生しています。 ヨーロッパ原産の野生種では、無数の小さな花を咲かせて華麗な景観をつくり出すつるバラのキフツゲート、桃色の一重の花が可愛いロサ・カニーナ、また葉が銅色でカラーリーフとしても重宝されるロサ・グラウカなどが人気です。中国原産の野生種で、春、ほかのバラに先がけて咲くモッコウバラは、江戸時代に日本に伝えられました。 こうした野生種はいずれも苗が市販されているので、家庭でも栽培できます。 ただし、年々巨大化するキフツゲートやモッコウバラは、スペースが限られた日本の個人庭では植え方や植え場所を工夫する必要があります。一方、ロサ・ガリカ・オフィキナーリスやロサ・カニーナは鉢植えでも栽培できます。 バラの園芸種の発展に寄与したナポレオン皇后 バラは野生種をもとに品種改良が行われ、さまざまな園芸種がつくり出されました。 皇帝ナポレオンの妃だったジョゼフィーヌは、ナポレオンから離別された後、住まいとして与えられたマルメゾン城の庭園で約250種類のバラを栽培し、園芸家たちに品種改良を行わせていました。当時はまだ黄色いバラがなかったので、もしかしたらジョゼフィーヌは「黄色いバラをつくって!」と園芸家たちに指示していたのかもしれません。 また、彼女は画家ルドゥーテに美しく精密なバラの絵を描かせ、『バラ図譜』という書物を刊行しました。この書物は今日、18世紀にはどんなバラが愛好されていたのかを知ることのできる貴重な歴史的資料となっています。 ジョゼフィーヌが栽培していたのは、どれもが心地よい芳香のあるバラばかりでしたが、花は年に一度だけ、春にしか咲かない一季咲きでした。 しかし、やがてバラの世界に革命的な変化が訪れます。日本では幕末にあたる1867年、ジョゼフィーヌのバラへの愛を受け継いだフランスの園芸家ジャン=バプティスト・ギヨーが、それまでのバラにはなかった「四季咲き性」という特徴を持つバラをつくり出したのです。ギヨーはこの画期的なバラを‘ラ・フランス’と命名しました。 その後、バラを愛する園芸家たちによって数多くの四季咲き性の品種がつくり出され、「モダンローズ」(現代バラ)の歴史が展開されてゆくことになります。 ‘ラ・フランス’以前のバラ、古代の人々やジョゼフィーヌが栽培していたようなバラは「オールドローズ」と呼ばれています。 それではオールドローズとモダンローズにはどんな違いがあるのでしょう? 優美で香り豊かなオールドローズ オールドローズは優雅な気品を感じさせる花が多く、甘い香りがあるのも魅力的。 しかし、ほとんどが春5〜6月の間の一時期にしか花が見られない一季咲きです。そのため、一年を通して咲く四季咲き性のモダンローズが登場すると、その爆発的な人気に押され、一時は忘れられた存在になりかけていました。 けれども、近年はモダンローズにはないエレガントな美しさと素晴らしい芳香が見直され、愛好者が急増。今ではモダンローズをしのぐほどの人気となっています。 (バラの開花周期についてはこちら) ちなみに、オールドローズにも秋に返り咲く性質を持っている品種がありますし、チャイナローズ(中国バラ)の系統の品種は四季咲き性です。 例えば、オールドローズの人気品種‘ラ・レーヌ・ヴィクトリア’(ヴィクトリア女王)や‘コント・ドゥ・シャンボール’(シャンボール伯爵)は返り咲き。チャイナローズ系の‘粉粧楼(フンショウロウ)’や‘ソフィーズ・パーペチュアル’は四季咲き性です。 これ以降にご紹介するモダンローズの四季咲き性という特徴は、チャイナローズとの交配によってつくり出されました。 四季を通して花が楽しめるモダンローズ ギヨーが最初のモダンローズ‘ラ・フランス’を発表した後も、数多くの四季咲き性のバラが次々につくり出され、モダンローズの世界はきわめて豊かになっていきました。花屋さんで販売されている切り花のバラは、「ハイブリッド・ティー」という系統のモダンローズがほとんどです。 現在もフランス、ドイツ、英国、アメリカ、日本などの園芸家たちが新種のバラをつくり出す仕事に取り組んでおり、毎年、新しいバラが発表されています。‘ラ・フランス’が誕生してから、およそ250年。モダンローズの世界はますます豊かにその裾野を広げつつあるのです。 しかし、モダンローズは新種をつくり出す時に四季咲き性という特徴や花の大きさなどに力が注がれたため、まったく香りのないバラも増えました。 そんな流れに一石を投じたのが、英国の園芸家デビッド・オースチンでした。 豊かな香りと四季咲き性を兼ね備えたイングリッシュローズ デビッド・オースチンはオールドローズの芳香とモダンローズの四季咲き性という特徴を併せ持つバラをつくりたいと考え、21歳の時からオールドとモダンの交配を開始。やがてその試みに成功し、1969年、自らつくり出したバラの一群を「イングリッシュローズ」と命名しました。 ほとんどが四季咲きで、しかも甘い香りがあることから、今はこのイングリッシュローズにも人気が集まっています。 ・花の庭巡りならここ! 大阪「デビッド・オースチン イングリッシュローズガーデン」 調香師が香りを表現するフランス、デルバールのバラ 近年、人気のバラのナーセリーとしては、フランスのデルバール社も注目を浴びています。デルバール社は自社のバラの最大の特徴を香りとし、品種ごとに調香師による「バラの香りのピラミッド」を作成。最初にかいだ香りの第一印象から時間経過をたどって残り香まで、バラの香りをまるで香水のように細やかに表現しています。 ・鉢植えバラの冬のお手入れ「来春よく咲かせる!とっておきの話」 花径2cmほどの小さなかわいい花、ミニバラ ミニバラはチャイナローズの性質を受け継ぐミニチュアサイズのバラで、四季咲き性のものが多く、春から秋まで繰り返し咲き続けます。 花色は豊富ですが、香りのいい品種はあまり多くありません。バラの専門店で通年販売されています。 バラの見頃の季節はいつ頃? バラ園が最も華やかなのは5〜6月。一季咲きのオールドローズと四季咲きのモダンローズがいっせいに花開き、素晴らしい眺めをつくり出してくれます。けれども、秋、10〜11月頃のバラ園にも驚くほどたくさんの花が咲いています。返り咲きや四季咲きのバラが、春よりはちょっと小ぶりだけれど、それでも充分に見応えのある花を咲かせてくれているからです。 ・バラを育てたい! 初心者さん必見 バラの種類・育て方・病気などを解説 例えば、ドイツで作出されたモダンローズの名花 ‘アイスバーグ’(ドイツ語名‘シュネーヴィトヘン’=白雪姫)は、春の花が咲き終わった後、夏はちょっとお休みしますが、暑さがおさまると再びつぼみをつけ始め、10〜11月まで何度も繰り返し花を咲かせ続けます。 そんなけなげなバラたちがたくさん咲いている秋のバラ園は、春より人が少なく、空気もさわやか。澄み切った青空の下、しっとりと落ち着いた雰囲気のなかでバラを楽しむことができます。 というわけで、バラの見頃は基本的には春(5〜6月)と秋(10〜11月)の年2回です。 けれども、バラ園のスタッフはしばしば、こう言います。「暑いので、あまり人は来ませんけど、バラは夏だって咲いていますよ」。 というのは、春の花の後、7月初め頃からつぼみをつけ、2番花を咲かせてくれる種類があるからです。その時期を含めれば、バラの見頃は年に3回あることになります。 「バラを育ててみたいな」と思ったら、まずはあちこちのバラ園にいろんな季節に出かけてみましょう。そして自分の好きな種類と品種を見つけましょう。 バラの香りの楽しみ方は? 香りのあるバラが最も強く香るのは、明け方から早朝にかけてです。 印象派の画家モネは、黄色い一重のつるバラ‘マーメイド’を2階の寝室の窓の下に這いのぼるように植えて、毎朝、その香りを楽しんでいました。また、英国の作家ヴァージニア・ウルフも、スパイシーな甘い香りのあるオールドローズ‘プレイリー・ナンバー・ツー’を寝室の窓辺に誘引し、その香りとともに目覚めるのを何よりの楽しみにしていました。 バラ園のなかには、開花時期には早朝にオープンして入園者を迎え入れ、たっぷりと香りを楽しませてくれるところもあります。数は多くありませんが、長崎の「ハウステンボス」、長野県軽井沢の「レイクガーデン」、新潟県見附市の「みつけイングリッシュガーデン」のように宿泊施設が付属しているバラ園も。 ・花の庭巡りならここ! 麗しき英国式庭園「みつけイングリッシュガーデン」 ・体と心を休める避暑地の庭園 長野「軽井沢レイクガーデン」 ・花の庭巡りならここ! ヨーロッパの街並みがバラで埋め尽くされる長崎「ハウステンボス」 そんなバラ園に出かけた時は、ぜひ早起きして朝食前に園内を散策するようにしましよう。 微かでほのかな甘い香り、フルーティな香り、スパイシーな香り、官能を刺激する濃厚な香り──さまざまなバラの香りがあなたを迎え、うっとりとさせてくれるはずです。 バラ園に行って、花だけを見て香りをかがずに帰るのは、せっかくの楽しみを半分捨ててしまうようなもの。オールドローズはもちろん、モダンローズのなかにも素晴らしい香りを持つバラがたくさんあります。バラを見たら、必ず香りをかいでみるという習慣をつけましょう。 甘い香りには、悲しみや苦しみを忘れさせ、心を癒してくれるという効果もありますよ。 併せて読みたい ・今年も新品種登場! 春まで咲かせる「シクラメン」品種12選&育て方のコツ ・マストバイ‘おしゃれプランツ’丈夫で、よく咲く、小さな庭のベスト9 ・きれいをロングキープ! 冬こそ楽しみたいミニバラが主役の寄せ植え