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読者のお悩みに経験豊富なGarden Story執筆陣が回答! ①高地の庭の花選び

読者のお悩みに経験豊富なGarden Story執筆陣が回答! ①高地の庭の花選び

Garden Storyへ読者の方からお便りをいただきました。標高900mの高地にあるクラインガルテンで、作物以外にどんな植物を植えたら楽しめますか? というご質問に、クラインガルテン歴20年以上の岡崎英生さんが丁寧に回答します。

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標高900mでの花の庭づくり。どんな花を選べばよいですか?

ポーランドのクラインガルテン
ポーランドのクラインガルテン。Traveller70/Shutterstock.com

クラインガルテンとは宿泊・滞在ができる市民農園。世界各地に同様のシステムがあり、与えられた敷地内には菜園ができるスペースに加え、一区画ごとに簡易的な宿泊小屋が建っています。日本には現在、全国に68のクラインガルテンがあり、お便りを寄せてくださった読者の方のクラインガルテンもそのうちの一つ。利用条件などはそれぞれに異なりますが、こちらでは農作物の他に「草花を育てること」が条件とのこと。冬は-5℃まで下がる場所で、イングリッシュガーデンのような花とハーブの彩る素敵な庭をつくってみたいと夢見ていらっしゃいます。ご自宅では鉢植えでビオラやチューリップなどを育てた経験しかないので、高地での庭づくりではどんな花を選べばよいかとお悩みです。

クラインガルテン

このご質問にはGarden Storyの執筆陣の一人で、日本で最初にできたクラインガルテン、長野県松本市の「坊主山クラインガルテン(標高650m)」に24年以上通い続け、庭づくりや野菜づくりを楽しむ岡崎英生さんがお答えします。

おすすめ①
ラベンダー

ラベンダー
岡崎さんのクラインガルテンで育つラベンダー。

こんにちは。このたびはお便りをありがとうございます。送っていただいた写真を拝見すると、とても素敵な雰囲気の場所ですね。農作物もお花も、ここでならきっと健やかに育つことでしょう。さて、ハーブや宿根草を植えたいのだが、というお問い合わせについてですが、まずオススメしたいのは、ラベンダーです。

ラベンダーは、日本では戦前にフランスから輸入した種をもとに試験栽培が始められ、戦後の昭和30年代になって「おかむらさき」「ようてい」「はなもいわ」「濃紫(のうし)3号」という4品種が北海道で作出されました。

育てやすい濃紫3号

上記の4品種のうち、最も強健で育てやすいのは、「濃紫3号」です。

苗は北海道のラベンダー園(中富良野町の“彩香の丘”佐々木ファームなど)から通販で取り寄せるとよいでしょう。

耐寒性が強い

ラベンダーはもともと野生の植物で、乾燥した冷涼な気候下でよく生育します。高温多湿には弱いものの耐寒性が非常に強く、原産地の一つである南仏プロヴァンス地方では、標高1,400mの高山地帯にも自生していたほど。あなたがこれから庭づくりをされる標高900mのクラインガルテンでも、おそらくよく育つはずです。

ラベンダーが咲く庭
ラベンダーが咲くイギリスの庭。Yolanta/Shutterstock.com

植えるときは?

ラベンダーは酸性の土壌を嫌いますので、苗を定植する2週間以上前に、植える場所をよく耕し、酸性を中和する苦土石灰を散布しておきます。完熟堆肥もいっしょに散布しておきましょう。

水はけが悪いと根腐れを起こしやすいので、畑をよく観察し、もし必要なら腐葉土や、もみがら燻炭などを混ぜ、なるべくふかふかの土にしておきます。

年々生長して、次第に大株になりますので、株間は30〜40cm前後あけるようにします。苗を植え終わったら、たっぷり水をやりましょう。その後はほとんど放任でよく、水は雨水に任せておくだけで十分です。

その後の管理は?

標高900mの高地だと、長い花穂が伸び、その花穂が青紫色に色づくのは7月初旬から中旬にかけてになるでしょう。美しい花と甘い香りをしばらく楽しんだら、早めに花穂を刈り取り、ドライフラワーにすることをオススメします。花を咲かせたままにしておくと、タネをつけようとして株が弱りますので、花穂は必ず刈り取りましょう。

秋には本格的な寒さが来る前に、なるべく丸く刈り込み、株の周りを少し耕して油粕、骨粉などの有機肥料と完熟堆肥を与えましょう。ラベンダーにとっては、これが元肥。春先、新芽が吹く前に施すのが追肥となります。

楽しみ方は?

ラベンダーはドライフラワーにすると、いつまでも香りが残り、花の色もあせません。室内に飾れば素敵なインテリアになりますし、空気を清浄にする働きもあります。

ドライの花粒を小さな布製の袋に入れて、「サシェ(匂い袋)」を作るのもオススメです。

ラベンダーのサシェ
Chamille White/Shutterstock.com

ラベンダーの甘い香りには沈静作用があり、緊張や不安、怒りなどを鎮め、安眠を促してくれます。かつてヨーロッパでは、お客さまが眠るベッドの枕の下にラベンダーのサシェを忍ばせておくのは、最高のもてなしの一つとされていました。

ラベンダーの香りには防虫効果もあります。衣装戸棚やタンスにラベンダーのサシェを入れておくと、ほのかな甘い香りが移るだけでなく、大事な衣類の虫食いの防止になります。

ナメクジもラベンダーの香りが嫌い。来てほしくない場所にはドライの花粒を散布しておきましょう。

おすすめ②
クリスマスローズ

クリスマスローズ
herle_catharinaz/Shutterstock.com

次にオススメしたいのは、春まだ浅い頃に花を咲かせてくれるクリスマスローズ。花色がきわめて豊富で、花の姿も一重や八重と多彩。何株か列植すると、庭に優美な雰囲気をつくり出してくれます。また、花が終わった後も葉は常緑のまま残りますので、庭の景観保持に役立ちます。

植えるときは?

植え時は3月から6月にかけて。花期は翌年の2〜4月頃となります。

肥沃で水はけのよい土壌を好みますので、苗を定植する2週間以上前に植える場所をよく耕し、苦土石灰、完熟堆肥、腐葉土などを土に混ぜ込んでおきましょう。

苗を植え終わったら、たっぷり水やりをしますが、その後は、よほど乾燥が激しいときでない限り、水やりの必要はありません。

その後の管理は?

枯れた葉や傷んだ葉は、適宜刈り取りましょう。

こぼれ種でよく増えますので、発芽した苗がまだ小さいうちに掘り上げ、お好きな場所に移植するとよいでしょう。

おすすめ③
フジバカマ

フジバカマ
High Mountain/Shutterstock.com

花の庭は、草丈の低いものと中ぐらいのもの、高いものを組み合わせ、高低差をつけると、美しさがいっそう引き立ちます。というわけで、草丈の低いクリスマスローズと中ぐらいのラベンダーの奥には、高さ50cmほどになるフジバカマを植えてはいかがでしょうか?

四季折々、花を咲き継がせる

フジバカマは秋の七草の一つ。9月から10〜11月にかけて淡い紫色の花を花茎の先端に咲かせます。従って、早春のクリスマスローズ、夏のラベンダー、秋のフジバカマと、四季を通して花が咲き継いでいくことになります。

植えるときは?

植え時は3月から6月にかけて。

苗を定植する前に植える場所をよく耕し、苦土石灰、完熟堆肥、腐葉土などを混ぜ込んでおきましょう。

その後の管理は?

フジバカマは、植えた後はほとんど放任でよく、手間いらずの植物です。

地下茎で増え、年々群生するようになっていきますので、3〜6月の間に株分けをするとよいでしょう。

秋、花が終わったら、お礼肥えとして油粕、完熟堆肥などを施しておきます。

楽しみ方は?

フジバカマは花が咲いているときは香りませんが、花穂を刈り取ってドライフラワーにすると、素晴らしい芳香を放つようになります。

しかも、それはアロマオイルのような強い香りではなく、そこはかとなく漂う上品な香り。平安朝の姫君たちをふと連想してしまうような香りです。

花の勢いがまだ衰えないうちに花穂を刈り取り、ぜひドライフラワーを作りましょう。それを2階の階段の踊り場などに吊り下げておくと、通ったときにフワッと香ってくれますよ。

旅をする蝶が飛来するかも?

フジバカマは、北海道から沖縄まで長い旅をすることで知られているアサギマダラという蝶の食草としても有名です。長野県の菅平は、そのアサギマダラの渡りが見られる場所の一つ。同じように標高の高いあなたのクラインガルテンも、フジバカマを植えれば、もしかしたらアサギマダラの飛来地になるかもしれませんね。

おすすめ④
その他の宿根草・球根類

ゲラニウムとシャクヤク
薄紫色のゲラニウムを背景に、ピンクのシャクヤクが鮮やか。

ここまでご紹介してきた植物は、宿根草(しゅっこんそう)というグループの草花です。宿根草は、一度庭に植え付けると年を経るごとに株が大きく育ち、見事な姿に生育していくので、庭の成長を感じられるでしょう。宿根草としては、つる性のクレマチス、小花のゲラニウム、豪華なシャクヤク、花色豊富なオダマキ(春〜初夏)、甘い香りを放つハニーサックル、エキナセア(夏)、大株に育つシュウメイギク(秋)などもオススメです。

一方、一年草はワンシーズンで寿命を終えるので、宿根草に加えながら庭づくりをすると、毎年庭の雰囲気が少し変わり、新鮮な気持ちで楽しむことができます。

ハニーサックルのアーチ
ハニーサックルを誘引したアーチが連なる。
オダマキの花
ベル形の可愛い花で、たくさんの種類があるオダマキ。

球根もおすすめ

チューリップ
坊主山クラインガルテンでチューリップが咲くのはゴールデンウィーク頃。

また、秋にスノードロップ、ヒヤシンス、クロッカス、水仙、チューリップ、ムスカリなどの球根を植え込んでおくと、春にはカラフルでにぎやかな庭の眺めが楽しめるでしょう。チューリップは原種系のものを選ぶと、毎年花を咲かせてくれます。

冷涼地だからこそ育てられるものも

冷涼地の庭 宿根草

こんなふうに、高冷地でもたくさんの草花の選択肢があります。というより、昨今の異常な夏の暑さを考えると、あなたがこれから庭づくりをされる標高900mの地は、イングリッシュガーデン風の庭づくりに、むしろうってつけといえます。というのも、本場英国の庭では見事な大株に育っているのに、日本の蒸し暑い気候ではどう頑張っても咲かせられない素敵な植物がたくさんあるからです。上の写真のアルケミラモリス(黄色の花)やアストランティア(白い花)も、多くの人が憧れを持ち続ける、そんな花です。

植物を購入するときは「耐寒性」を意識して選ぶとよいでしょう。私は宿根草専門のナーセリー「おぎはら植物園」に苗を買いに行ったり、通販で取り寄せたりすることが多いです。クラインガルテンのある同じ長野県の上田市にあり、耐寒性の強い植物を多く扱っています。

大雪森のガーデン
北海道の「大雪 森のガーデン」。寒冷地での宿根草の使い方が参考になる。

そして、同じく冷涼地の観光ガーデンへお出かけになって、どんな花が元気に育っているのか見てみるのもオススメです。北海道には複数の観光ガーデンをつないだ「北海道ガーデン街道」がありますし、長野県軽井沢にも「軽井沢レイクガーデン」など、イングリッシュガーデン風の庭があります。

連休の花庭お出かけ情報! 日本全国、花の旅にオススメの観光ガーデン保存版【中部・近畿】

さて、オススメのハーブもたくさんあるので、次回『読者のお悩みに経験豊富なGarden Story執筆陣が回答! ②高地でのハーブ選び』でご紹介します。

Credit

文/岡崎英生(文筆家・園芸家)

早稲田大学文学部フランス文学科卒業。編集者から漫画の原作者、文筆家へ。1996年より長野県松本市内四賀地区にあるクラインガルテン(滞在型市民農園)に通い、この地域に古くから伝わる有機栽培法を学びながら畑づくりを楽しむ。ラベンダーにも造詣が深く、著書に『芳香の大地 ラベンダーと北海道』(ラベンダークラブ刊)、訳書に『ラベンダーとラバンジン』(クリスティアヌ・ムニエ著、フレグランスジャーナル社刊)など。

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