バラを育てたい! 初心者さん必見 野生種、オールドローズとモダンローズなどバラの種類を分かりやすく解説
バラを育ててみたい──。「だけど、何だか難しそう」と思っていませんか? 基本さえ知れば、バラは誰でも育てられます。広い庭がなくても、ベランダでも大丈夫。自分の好きなバラを見つけて、美しい花と甘い香りを楽しみましょう。ここではバラの野生種、オールドローズやモダンローズなど、バラの種類について解説します。
目次
バラにはどんな種類があるの?
バラには、数万種類もの品種があり、さまざまな観点からの分類があります。ここではバラの大まかな歴史をたどってみることにします。まず、バラには自然の中に自生している野生種(原種)といわれる種類があります。野生種は北半球の世界中に150〜200種ほどが存在しているといわれますが、日本の山野によく自生しているノイバラ(野バラ)もその一つです。そしてこれらの野生種が交雑したり、交配したりして生まれた園芸種があります。さらに、園芸種には、古くから愛されてきた「オールドローズ」と、19世紀の末以降につくり出された「モダンローズ(現代バラ)」という2つの大きなカテゴリーがあります。
それではバラのいろいろな種類を順に見ていきましょう。
野生種は野趣溢れる雰囲気や素朴さが魅力
英国では15世紀に王位をめぐってヨーク家とランカスター家が激しく対立。両家の軍勢が戦いを繰り返す内乱が30年にわたって続きました。この時、ヨーク家が紋章としていたのが白いバラ、ランカスター家は赤いバラ。そのため、英国史に名高いこの内乱は「バラ戦争」と呼ばれています。
半八重咲きの赤いバラ、ロサ・ガリカ・オフィキナーリスはバラの野生種(原種)の一つで、ランカスター家が紋章としていたバラ。優美な花の姿と甘い香りが魅力的で、今も人気のバラとなっています。バラにはこうした野生種が150〜200種類あり、特徴は花が年に一度、春にしか咲かない「一季咲き」であること、そしてそれぞれに微妙にテイストの異なる芳香があることです。
日本にもハマナス、ノイバラ、テリハノイバラ、サンショウバラなど約10種類の野生種があり、海岸、平地、山岳地帯などに自生しています。
ヨーロッパ原産の野生種では、無数の小さな花を咲かせて華麗な景観をつくり出すつるバラのキフツゲート、桃色の一重の花が可愛いロサ・カニーナ、また葉が銅色でカラーリーフとしても重宝されるロサ・グラウカなどが人気です。中国原産の野生種で、春、ほかのバラに先がけて咲くモッコウバラは、江戸時代に日本に伝えられました。
こうした野生種はいずれも苗が市販されているので、家庭でも栽培できます。
ただし、年々巨大化するキフツゲートやモッコウバラは、スペースが限られた日本の個人庭では植え方や植え場所を工夫する必要があります。一方、ロサ・ガリカ・オフィキナーリスやロサ・カニーナは鉢植えでも栽培できます。
バラの園芸種の発展に寄与したナポレオン皇后
バラは野生種をもとに品種改良が行われ、さまざまな園芸種がつくり出されました。
皇帝ナポレオンの妃だったジョゼフィーヌは、ナポレオンから離別された後、住まいとして与えられたマルメゾン城の庭園で約250種類のバラを栽培し、園芸家たちに品種改良を行わせていました。当時はまだ黄色いバラがなかったので、もしかしたらジョゼフィーヌは「黄色いバラをつくって!」と園芸家たちに指示していたのかもしれません。
また、彼女は画家ルドゥーテに美しく精密なバラの絵を描かせ、『バラ図譜』という書物を刊行しました。この書物は今日、18世紀にはどんなバラが愛好されていたのかを知ることのできる貴重な歴史的資料となっています。
ジョゼフィーヌが栽培していたのは、どれもが心地よい芳香のあるバラばかりでしたが、花は年に一度だけ、春にしか咲かない一季咲きでした。
しかし、やがてバラの世界に革命的な変化が訪れます。日本では幕末にあたる1867年、ジョゼフィーヌのバラへの愛を受け継いだフランスの園芸家ジャン=バプティスト・ギヨーが、それまでのバラにはなかった「四季咲き性」という特徴を持つバラをつくり出したのです。ギヨーはこの画期的なバラを‘ラ・フランス’と命名しました。
その後、バラを愛する園芸家たちによって数多くの四季咲き性の品種がつくり出され、「モダンローズ」(現代バラ)の歴史が展開されてゆくことになります。
‘ラ・フランス’以前のバラ、古代の人々やジョゼフィーヌが栽培していたようなバラは「オールドローズ」と呼ばれています。
それではオールドローズとモダンローズにはどんな違いがあるのでしょう?
優美で香り豊かなオールドローズ
オールドローズは優雅な気品を感じさせる花が多く、甘い香りがあるのも魅力的。
しかし、ほとんどが春5〜6月の間の一時期にしか花が見られない一季咲きです。そのため、一年を通して咲く四季咲き性のモダンローズが登場すると、その爆発的な人気に押され、一時は忘れられた存在になりかけていました。
けれども、近年はモダンローズにはないエレガントな美しさと素晴らしい芳香が見直され、愛好者が急増。今ではモダンローズをしのぐほどの人気となっています。
(バラの開花周期についてはこちら)
ちなみに、オールドローズにも秋に返り咲く性質を持っている品種がありますし、チャイナローズ(中国バラ)の系統の品種は四季咲き性です。
例えば、オールドローズの人気品種‘ラ・レーヌ・ヴィクトリア’(ヴィクトリア女王)や‘コント・ドゥ・シャンボール’(シャンボール伯爵)は返り咲き。チャイナローズ系の‘粉粧楼(フンショウロウ)’や‘ソフィーズ・パーペチュアル’は四季咲き性です。
これ以降にご紹介するモダンローズの四季咲き性という特徴は、チャイナローズとの交配によってつくり出されました。
四季を通して花が楽しめるモダンローズ
ギヨーが最初のモダンローズ‘ラ・フランス’を発表した後も、数多くの四季咲き性のバラが次々につくり出され、モダンローズの世界はきわめて豊かになっていきました。花屋さんで販売されている切り花のバラは、「ハイブリッド・ティー」という系統のモダンローズがほとんどです。
現在もフランス、ドイツ、英国、アメリカ、日本などの園芸家たちが新種のバラをつくり出す仕事に取り組んでおり、毎年、新しいバラが発表されています。‘ラ・フランス’が誕生してから、およそ250年。モダンローズの世界はますます豊かにその裾野を広げつつあるのです。
しかし、モダンローズは新種をつくり出す時に四季咲き性という特徴や花の大きさなどに力が注がれたため、まったく香りのないバラも増えました。
そんな流れに一石を投じたのが、英国の園芸家デビッド・オースチンでした。
豊かな香りと四季咲き性を兼ね備えたイングリッシュローズ
デビッド・オースチンはオールドローズの芳香とモダンローズの四季咲き性という特徴を併せ持つバラをつくりたいと考え、21歳の時からオールドとモダンの交配を開始。やがてその試みに成功し、1969年、自らつくり出したバラの一群を「イングリッシュローズ」と命名しました。
ほとんどが四季咲きで、しかも甘い香りがあることから、今はこのイングリッシュローズにも人気が集まっています。
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調香師が香りを表現するフランス、デルバールのバラ
近年、人気のバラのナーセリーとしては、フランスのデルバール社も注目を浴びています。デルバール社は自社のバラの最大の特徴を香りとし、品種ごとに調香師による「バラの香りのピラミッド」を作成。最初にかいだ香りの第一印象から時間経過をたどって残り香まで、バラの香りをまるで香水のように細やかに表現しています。
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花径2cmほどの小さなかわいい花、ミニバラ
ミニバラはチャイナローズの性質を受け継ぐミニチュアサイズのバラで、四季咲き性のものが多く、春から秋まで繰り返し咲き続けます。
花色は豊富ですが、香りのいい品種はあまり多くありません。バラの専門店で通年販売されています。
バラの見頃の季節はいつ頃?
バラ園が最も華やかなのは5〜6月。一季咲きのオールドローズと四季咲きのモダンローズがいっせいに花開き、素晴らしい眺めをつくり出してくれます。けれども、秋、10〜11月頃のバラ園にも驚くほどたくさんの花が咲いています。返り咲きや四季咲きのバラが、春よりはちょっと小ぶりだけれど、それでも充分に見応えのある花を咲かせてくれているからです。
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例えば、ドイツで作出されたモダンローズの名花 ‘アイスバーグ’(ドイツ語名‘シュネーヴィトヘン’=白雪姫)は、春の花が咲き終わった後、夏はちょっとお休みしますが、暑さがおさまると再びつぼみをつけ始め、10〜11月まで何度も繰り返し花を咲かせ続けます。
そんなけなげなバラたちがたくさん咲いている秋のバラ園は、春より人が少なく、空気もさわやか。澄み切った青空の下、しっとりと落ち着いた雰囲気のなかでバラを楽しむことができます。
というわけで、バラの見頃は基本的には春(5〜6月)と秋(10〜11月)の年2回です。
けれども、バラ園のスタッフはしばしば、こう言います。「暑いので、あまり人は来ませんけど、バラは夏だって咲いていますよ」。
というのは、春の花の後、7月初め頃からつぼみをつけ、2番花を咲かせてくれる種類があるからです。その時期を含めれば、バラの見頃は年に3回あることになります。
「バラを育ててみたいな」と思ったら、まずはあちこちのバラ園にいろんな季節に出かけてみましょう。そして自分の好きな種類と品種を見つけましょう。
バラの香りの楽しみ方は?
香りのあるバラが最も強く香るのは、明け方から早朝にかけてです。
印象派の画家モネは、黄色い一重のつるバラ‘マーメイド’を2階の寝室の窓の下に這いのぼるように植えて、毎朝、その香りを楽しんでいました。また、英国の作家ヴァージニア・ウルフも、スパイシーな甘い香りのあるオールドローズ‘プレイリー・ナンバー・ツー’を寝室の窓辺に誘引し、その香りとともに目覚めるのを何よりの楽しみにしていました。
バラ園のなかには、開花時期には早朝にオープンして入園者を迎え入れ、たっぷりと香りを楽しませてくれるところもあります。数は多くありませんが、長崎の「ハウステンボス」、長野県軽井沢の「レイクガーデン」、新潟県見附市の「みつけイングリッシュガーデン」のように宿泊施設が付属しているバラ園も。
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そんなバラ園に出かけた時は、ぜひ早起きして朝食前に園内を散策するようにしましよう。
微かでほのかな甘い香り、フルーティな香り、スパイシーな香り、官能を刺激する濃厚な香り──さまざまなバラの香りがあなたを迎え、うっとりとさせてくれるはずです。
バラ園に行って、花だけを見て香りをかがずに帰るのは、せっかくの楽しみを半分捨ててしまうようなもの。オールドローズはもちろん、モダンローズのなかにも素晴らしい香りを持つバラがたくさんあります。バラを見たら、必ず香りをかいでみるという習慣をつけましょう。
甘い香りには、悲しみや苦しみを忘れさせ、心を癒してくれるという効果もありますよ。
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Credit
文 / 岡崎英生 - 文筆家/園芸家 -
おかざき・ひでお/早稲田大学文学部フランス文学科卒業。編集者から漫画の原作者、文筆家へ。1996年より長野県松本市内四賀地区にあるクラインガルテン(滞在型市民農園)に通い、この地域に古くから伝わる有機栽培法を学びながら畑づくりを楽しむ。ラベンダーにも造詣が深く、著書に『芳香の大地 ラベンダーと北海道』(ラベンダークラブ刊)、訳書に『ラベンダーとラバンジン』(クリスティアーヌ・ムニエ著、フレグランスジャーナル社刊)など。
写真(表記以外) / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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