益虫から害虫まで ガーデンで見かける大小さまざまな生き物たち

Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich
美しい花や美味しい野菜が楽しめるガーデン。そこには、植物だけでなく虫や動物たちも集まります。植物を食べる昆虫から、さらにその昆虫を食べる虫や動物まで、集まる生き物たちのドラマもガーデンでは日々上映中。今回、ドイツ出身のガーデナー、エルフリーデ・フジ=ツェルナーさんがご紹介するのは、そんな庭で遭遇した生き物たちのエピソードです。
目次
初秋のガーデンと生き物たち

日本では夏の盛りを過ぎ、秋が訪れる頃ですが、ドイツの夏を知る私にとっては、まだ夏のようにも感じられます。ドイツでは9月の初めになると、最高気温は時に25℃程度まで達するものの、夕方や夜にはもう10~12℃まで下がり、とても寒いのです。それに比べると、日本では過ごしやすい季節ですね。
私は今、新しくつくったウッドデッキに腰掛けながら、この記事を書いています。蚊取り線香のお陰で虫は気になりませんし、夕方近くになると湘南の海からの優しい風が通り、そして「ガーデン劇場」が開幕。たくさんの虫や動物たちが姿を見せてはいなくなっています。今回は、この夏に出会った、庭に暮らす生き物たちとの邂逅の思い出をご紹介しましょう。

鉢植えに潜んでいたものは

7月のある日、私の小さな庭にある大鉢のブルーベリーに水やりをしようと近づいてみると、なにやら、7cmほどの大きさの、茶色っぽい、葉っぱのような形のものが動いていました。もっと近寄ってみると、なんとそれは大きなクモ! クモがそれほど好きではない私は、思わず叫び声を上げてしまいました。
我に返って辺りを見回し、近所の人がびっくりしてガーデンチェアから転がり落ちていないかを確認。実際、私の家の周りにはアウトドア生活を楽しむ人が多く、芝刈りや剪定をしたり、週末にBBQを楽しんだりしている姿をよく見かけます。
ガーデナーの友 ヒキガエル

クモとの遭遇から少し経ったある日、大きくなりすぎた竹を抜こうとしていた時のこと。竹の根は固く絡み合っているので、少しずつ掘り上げないといけないため、とてもハードな作業。何日もかけて少しずつ進めましたが、そうでなければ手がマメだらけになってしまったでしょう。
さて、竹を掘り始めた時には、私はすでに我が家の庭に、のっそりと動くヒキガエルが棲んでいることは知っていました。こぶし大ほどもある雄と、さらに大きい雌のカップルです。普段はどこかに隠れていて、私がさて地面を掘り返そうと思ったら、突然出てきて死ぬほど驚く羽目になるのです。この日も結局、悲鳴を上げることになりました。幸い、まだ偶然にもけがをさせてしまったことはありません。ヒキガエルはアリから甲虫、ナメクジ、クモ、カタツムリまで何でも食べるので、ガーデナーの友とされています。なので、庭にいてくれることに感謝しなければいけませんね。
もっとも、なぜ基本的に湿地や濡れた場所を好むヒキガエルが、池も湿地もない、乾いた我が家のガーデンに棲みついているのかは分かりません。よくホースの近くの土を掘っているのは見かけるので、彼らにとってはそれで十分なのかもしれませんね!
トカゲとクモ

また別の日、ウッドデッキでくつろいでいると、庭のデコレーションストーンの上で、細長いトカゲが日光浴をしているのに気づきました。とてもカラフルなそのトカゲは、見ているうちに動き出し、機敏な動きで、あと一歩というところまで大きなアリを追い詰めていました。
その様子を見ながら、このトカゲはもしかしたら、先日クモの巣に引っかかっていたトカゲの子どもの父親かもしれないな、などと考えていました。じつは何日か前に、生まれて間もないような小さなトカゲが、ガーデンの入り口すぐのコーナーのクモの巣に、さかさまに引っかかってもがいていたのです。そこに突然クモが植物の陰から現れ、糸をかけようとしました。結局、つい手を出してしまい、トカゲを救出。クモには別の朝食を探してもらうことにしました。ちなみに、トカゲもクモも虫を食べるので、ガーデナーにとっては友となる存在です。

クモの巣は、家の中にできたり、顔の高さにかかったものに正面からぶつかってしまったりせず、見ているだけなら、本当に美しい造形です。巣を張らないクモもいて、ちょうどこの原稿を書いている間にも、小さなクモがパソコンの近くに飛び乗ってきて、クモが時にとても可愛らしいことも思い出させてくれました。毒のない、小さな種類のものなら可愛いですよ。また、コンポストの近くにも、黄色と黒のナガコガネグモが巣を張っているのですが、彼らの作る巣にはジグザグの模様があるのです! このクモの巣は地上20~70cmほどと、比較的地面に近い場所にあり、ハエや蚊、バッタなどを捕食しています。


益虫カマキリと害虫バッタ

カマキリもガーデンの益虫です。アブラムシやイモムシ、コオロギ、ガなどから甲虫やバッタまで食べますが、植物の葉や根は食べません。先日、赤ジソを植えてある辺りから物音がしたので見てみると、カマキリがコオロギを鎌に捕らえていました。私の存在に驚いたようで、カマキリはコオロギを離して逃げていきました。次の日に同じ場所を見てみると、残念ながら死んだコオロギが見つかりました。羽が破れてしまっていて、もう助かる見込みはなかったようです。
私はバッタよりカマキリのほうが好き。バッタはシソなど、さまざまな植物を食べるため、被害に遭うことも多いですし、突然大きくジャンプして飛び出してくるので、ガーデンを歩いているときに驚かされたことが何度もあります。
バッタの一種であるトビバッタが大量発生し、農地や庭を覆い尽くして根こそぎ食べてしまうというようなこともあります。このような大量発生は、周囲の環境に重大な影響を与えます。2022年5月にも、イタリアのサルディーニャ島で、過去30年間で最悪の規模で大量発生したことがニュースになりました。アフリカ諸国や中央アジアもしばしば被害を受けています。すべての作物がなくなり、動物の餌もなくなると、地域全体に飢饉が発生することさえあります。
動物たちが何百万もの群れになると、このような大きな変化が起きるのです。
庭の収穫と生き物たちのバランス

これらの虫の話を聞いた後では、家庭菜園では収穫するのが難しいかも、なんて思ってしまうかもしれませんね。しかし、害虫や病気の被害が出てしまった後でも、私の小さな庭と、大きめの庭を合わせると、十分以上の収穫を楽しめます。
例えば、冬から育て、6月に収穫したタマネギは、最近ようやく食べ終えたところ。9月に植えたジャガイモの収穫も楽しみです。まだ収納庫に残っている大量の初夏のジャガイモは、次の収穫期を迎える年末まで十分持つでしょう。
ナスもたくさん穫れる夏野菜です。たとえ出来が今一つだったとしても、大抵庭友達が収穫をお裾分けしてくれるので、不自由することはまずありません。また、今年の夏の個人的なヒットはゴーヤ。もともと、その姿が好きで緑のカーテンとしてはよく利用していましたが、食用としては馴染みが薄く、実は飾りのように思っていました。それが今では、ゴーヤチャンプルーやゴーヤジュースがお気に入りに。ちなみにゴーヤは、ドイツではほとんど知られていない野菜です。

私の夫のお気に入り、トウガラシも実りました。収穫した実は、ダイニングテーブルや、晴れた日には外に干し、冬の保存に向けて備えています。そういえば先日、長いガーデナー人生で初めて、黄色に完熟したパプリカを収穫しましたよ。いつも色鮮やかに熟すまで待ちきれず、早めに収穫してしまっていたのですが、今回は長く伸びた雑草に覆われていたおかげで、収穫を忘れてしまったのです。雑草を抜いている間に見つけ、とてもハッピーな気持ちになりました。雑草の茂る、野趣ある庭のコーナーに感謝、ですね。
私は雑草はそれほど気にしません。マルチングやコンポストの材料になるからです。もちろん、たくさん種子が付いたものはダメですし、使う前には種子の部分は取り除いておきますよ。土は非常に豊かで栄養豊富なので、多少雑草が伸びて地面を覆っても問題はなく、虫たちの棲み処や、いずれ鳥たちに食料として種子を提供することができます。そのため、あえてガーデンでは雑草の茂る場所を残してあります。寒く厳しい冬の間、動物たちがしのげる場所を提供することを考えるのは大切なことです。また、陽射しから地面を守り、乾燥した土が吹き飛んでしまうのを防止することにもつながります。

ほかにも収穫できた野菜はいろいろ。モロヘイヤは夏中収穫でき、伸びた葉を摘み取って、よく夕食の一品に利用しました。日本に来る前、私はモロヘイヤというものを知りませんでしたし、今でもドイツで知っている人はほとんどいないでしょう。ドイツの夏は短いので、さほど収穫できないせいかもしれません。醤油をかける食べ方も、ヨーロッパ的ではありませんね。それに比べ、日本のサラダミックスはドイツでも人気になりつつあります。わさび菜、ミズナ、コマツナの種子セットなどがよく販売されていますよ。それから、今年初めてのカボチャの収穫も嬉しかったですね。

せっかくガーデニングをするのなら、害虫の心配をするより、収穫の喜びを謳歌するのがおすすめ。失ったものばかりに目を向けず、得たものを味わうこと、そして自然と人のバランスをとるのが大切です。
私たちの小さな緑の庭で、自然にも人間にも嬉しい楽園づくりを楽しみましょう。

Credit

ストーリー・写真(*)/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
Photo/ Friedrich Strauss Gartenbildagentur/Stockfood
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