ラニーニャ現象の影響で菅平高原も久しぶりの大雪です。除雪作業に追われながらも、ひらひらとスコップの柄や手袋に舞い落ちる雪の結晶に目を奪われます。「雪は天からの手紙である」。世界で初めて人工の雪の結晶に成功した中谷宇吉郎氏の、あまりにも有名なこの言葉を実感します。3月の今もたっぷりの雪にまみれて楽しんでいます。
目次
季節の森 ~目覚める樹々〜
立春を過ぎる頃から太陽光線が強く森に差し込むようになり、樹々が白いキャンバスにストライプ状の影を落とします。そんな景色を確かめにスノーシューを履いて、いそいそと森へ分け入るのがこの季節のルーティーンです。
先端に付いた冬芽もわずかながら膨らみ始めている様子。過酷なほど気温が低い菅平高原でも、樹々は降りそそぐ陽光のおかげで生存できるのです。センサーを働かせ、少しずつ強まる太陽エネルギーに季節を感じとりながら次なる準備にとりかかるのでしょう。
この季節、冬芽のみならず埋もれて見えない雪原下でも、樹液を吸い上げる根も春の訪れをいち早くキャッチしてソワソワしているのかな・・・想像膨らむ早春の森散策。
森がもっと面白くなる ~雪を科学する~
雪は結晶として地上に落ちたときには、儚く溶けてその形を変えてしまいます。雪は氷からできている、という事実を認識できる瞬間ですね。氷は液体である水が冷えて固体に変化したものですが、雪は気体である水蒸気が固体に変化したものです。この現象を「昇華凝結」といいます。
雪は結晶として降ってきます。雪の結晶とは水の分子が規則正しく整列したものです。雪の場合は六方向への対称形で、平らで樹枝のような形状をしています。雪が別名「六花(りっか)」といわれる所以です。
ところが、天から落ちてくる雪はさまざまな形をしています。それはできかけの結晶に空気中の水蒸気、つまり水分子が付着して成長するからです。さらに上空の温度と湿度が形を決める要因となります。雪の結晶形の早見表としては「中谷ダイアグラム」がよく知られています。
学生時代、豪雪地の演習林で「雪氷学」を学びました。降雪量の多い森に存在する樹木にとって、雪は著しく成長の妨げとなります。空から舞い降りてくる雪の結晶はふわふわと軽く儚い存在ですが、結晶が溶けずに積雪となった場合、また違った力が生じるのです。
雪の重さはどれくらいでしょうか。新雪で1立方メートル当たりで約150kg以上、 根雪となって固まった場合は500kg以上にもなります。さらに、この重量に沈降力も加わります。
積雪沈降力は雪の重さと気温の上昇によって重力方向に働きます。雪の密度が大きくなることで下方に力が加わり、粘性のある「締まり雪」が枝の周囲に垂れ下がった状態になるため、雪をかぶった枝が折れたりする原因となります。軒先に垂れ下がってくる雪もこの沈降力によるものです。
一面を雪に覆われた銀の森は息をのむほどの美しさです。が、この冬の厳しさへの耐性を得たもののみが生存を許される過酷な環境でもあります。粘りがあり、しなやかで折れにくく、曲がってもふたたび立ち上がることができる選ばれた樹種。そんな自然の姿にふと人生を重ねて見つめてしまうことがあります…。
あなたに届いた「天からの手紙」からはどんなメッセージが読み取れますか。
※出典「雪の結晶」ケン・リブレクト、矢野真千子訳 河出書房新社
自然学校つれづれ ~やまぼうしの日常~
自分たちだけで独り占めしてはもったいない! と感じる菅平高原での体験やできごとをイベントに昇華させるよう心掛けています。コロナ禍突入の2020年に着想し、2021年春に企画化した「満月の森スノーシュー散策」イベントについての経緯をご紹介しましょう。
満月の夜、光に導かれるようにダボスの丘に登り「お月見」を楽しむことがよくありました。一昨年の冬、満月の夜にスノーシューで森を歩いたら素敵かも! と思いついたのです。が、しかし。調べてみると「積雪のある季節でイベントに適した土・日が満月の夜」は非常に少ないことが判明。
諦めきれずに迎えた2021年。運よく満月が2月の土曜日に重なり、イベント開催に漕ぎつけました。日没から月の出を待つまでの静まり返った闇の時間。
気温がぐんぐん低下しカラダの芯まで浸食してくる冷気。そして凛と張り詰めた空間に突如出現した月光と影。なんとも幻想的なひとときとなりました。
そんな体験の機会を再び!ということで今年は3月18日の満月に合わせて実施します。
https://www.facebook.com/events/303593311750589
今月の気になる樹:サンショウ
サンショウは用途が多く、古くから利用されてきた身近な樹木のひとつです。
落葉低木で変異が多く、樹高は3m程になり枝には対生するトゲが見られます。葉は互生、奇数羽状複葉(※1)で11~19個の小葉(※2)で構成され、小葉の長さは1~3.5cmの卵形をしています。雌雄異株で緑黄色の円錐状の花を多数付けます。
実を利用するためには野山に自生しているものから採取しますが、庭などに植栽して手軽に収穫したい場合は雌雄異株のため2本植える必要があります。
ご存じのようにサンショウの一番の特徴はその香りです。山椒の「椒」の字は訓読みで「はじかみ」「かぐわしい」と読み、樹名には字のごとく「山にあるかぐわしい木」という意味が込められています。
日本人ならこの香りで「鰻」を連想すると思うのですが、最近ではそうでもありません。自然観察の散策の途中で匂いを嗅いでもらうと「虫よけスプレー」を思い浮かべる学生が多いのです。市販の虫よけスプレーを噴霧してみると、確かに同じような香りがします。果たして防虫効果があるのでしょうか。
サンショウは生薬「山椒(さんしょう)」として古くから利用されており、完熟前の果肉は芳香辛味健胃薬として漢方処方され、家庭薬としても食欲不振や消化不良に効能があるといわれています。漢方では、鎮痛、鎮咳、駆虫薬として使われています。成分は精油としてシトネラールなど、辛味成分としてサンシオールⅠ、Ⅱなどです。
葉や実のみならず、すりこぎには山椒の幹が最適とされています。材に解毒作用があり、擦った際の木の粒子が、食材に混ざり、まだ冷蔵庫の無かった時代には食あたりを防ぐとされていたそうです。特徴的な樹皮の凸凹がしっかり握りやすく、使い勝手がよいのも理由のひとつかもしれません。
効用が多いサンショウは、一家に一本植栽されていると重宝する樹木です。ただし昆虫の「食草」であることを忘れないでください。気が付いたら丸裸という事態もあります。アゲハ蝶の幼虫が好んで食します。
今の季節は葉を落とし、トゲと冬芽でことさらユニークな姿をしています。
森で出会ったこの一枚、どんな風に見えますか?
冬芽が伸びて「木の芽」を味わえるのも間もなくです。
※1 奇数羽状複葉:葉の形の一つで複数に分かれているもの。葉軸の左右に小葉が並ぶものが羽状複葉で、そのうち軸の先端に小葉があるもの。
※2 小葉:複葉を構成している一つひとつの葉状のもののこと。
[サンショウ]
ミカン科サンショウ属/落葉低木
北海道・本州・四国・九州の丘陵帯から山地帯の林地に自生する
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