東京五輪に向けて整備されている夏花壇。日本の猛暑に対応して各花壇はどんな工夫をしているのでしょうか。東京港埠頭株式会社で公園事業を管理している早貸秀樹さんに紹介していただきました。
TOKYO WATERFRONT CITY(東京2020大会期間中の臨海副都心エリア)

臨海副都心エリアは東京都が策定した7番目の副都心で、新たな開発が進む442ヘクタールの「新しい街」です。東京2020大会で採用された「新しいスポーツ」の競技会場が集約され、大会関連施設と街を共存させる「新しい大会の形」として、訪れる人にとって魅力的なエリアの実現を目指しています。
その中でも、台場・青海・有明地区を含む臨海副都心エリア(大会時は「TOKYO WATERFRONT CITY」と呼称)では、聖火台を中心に1.5kmの範囲の中に7つの競技会場、パートナーショーケーシングエリア(※1)、メガストア(※2)などの大会関連施設が設置され、都市とスポーツが融合した東京2020大会を象徴する場所となります。
東京2020大会期間中の都立シンボルプロムナード公園は、センタープロムナードを「オリンピックプロムナード」と銘打ち、夢の大橋の有明側に設置予定の聖火台や、周辺のシティドレッシング(※3)などを中心に、大会の雰囲気を感じられる象徴的なエリアになる予定です。
また、公園内をトライアスロンのバイクコースが通過することをはじめ、近接する東京ビッグサイトでは、メインプレスセンターや国際報道センターが設置されるなど、世界各国のメディアが訪れる場所ともなります。
(※1)東京2020大会パートナーが出展するパビリオン等で盛り上げるエリア。青海アーバンスポーツパークに隣接した屋外エリアと、東京テレポート駅近くの展示場の2カ所に設置予定。
(※2)公式ライセンス商品を販売するオフィシャルショップ。2つのパートナーショーケーシングエリアにそれぞれ設置予定。
(※3)東京2020大会の統一的なデザインのフラッグ・バナー、植物等で街を効果的に装飾し、大会を世界に印象付ける取り組み。
大会にゆかりある花修景を計画 シンボルプロムナード公園

東京港埠頭株式会社では、大会期間中のセンタープロムナードの魅力を世界中に効果的に発信しようと取り組んでいます。例えば、公園管理者(指定管理者)が花き園芸および造園関連団体などと一緒に取り組んでいる「臨海副都心『花と緑』のおもてなしプロジェクト」では、「夢の広場」周辺や「石と光の広場」周辺で、組織委員会や東京都と連携し、大会に関連したデザインの花修景を実施しています。
臨海副都心「花と緑」のおもてなしプロジェクト

「臨海副都心『花と緑』のおもてなしプロジェクトでは、2014年7月から、東京2020大会に向けて種苗会社や花き園芸関連団体をはじめ、造園会社や周辺企業、学校、一般の都民の皆さまなどとともに、園芸や造園技術を集結した真夏を彩る魅力的なサマーガーデン(以下、「おもてなしガーデン」)を制作展示し、公園を訪れる方々に楽しんでいただいています」と早貸さん。
ここで培った、サマーガーデンに使用する植物やコンテナ、培養土など資材、ガーデン制作から維持管理に関するノウハウは「2020夏花利用マニュアル(2019年製作)」というマニュアル本にまとめ、各地の自治体の花き園芸やまちづくり部署のほか、植物園や造園関連会社、競技会場の工事関係団体へ配布されました。
「この経験が各地域やイベントで応用され、そこから個人利用につながってほしいです。地域や園芸業界の活性化に少しでも貢献できればと思っています」
このマニュアル本は、東京港埠頭のウェブサイトで配布されており、誰でもダウンロードできます(「お台場おもてなしセレクション」で検索)。
早貸さんは「これまでの取り組みが詳細に記載されておりますので、ぜひご活用ください」と話します。

オリンピックプロムナードと2020花壇

これまでのオリンピックは、オリンピック・ムーブメントを体験し、レガシーを継承する目的で、メイン会場やその周辺をオリンピックパークとして整備(昭和39年の前回大会での駒沢オリンピック公園など)していました。
「今回は新たな公園の整備はせずに、既存の公園を活用した『オリンピックプロムナード』を展開することになっています」
石と光の広場では、マスコットモニュメントを中心としたデザイン花壇「マスコットガーデン」を制作展示。夢の広場周辺では従来のおもてなしガーデンの充実を図るほか、「ARTBAY TOKYO(※4)」の一環で令和2年8月に芝生広場に整備された「ARTBAY HOUSE」と連動した「アートガーデン」の2つを2020花壇として制作展示しています。
「いずれのガーデンも大会ルックの紅、もしくは藍を主体としたデザインです。『TOKYO2020』の花文字を取り込むほか、管理や転換期の植え換えの際には、状況に応じて子どもたちにもお手伝いいただく予定です」と早貸さんは話します。
(※4)今までになかった新しい体験を創出し、訪れるたびに、ちょっとした驚きや発見や幸せな気持ちになれるような、日々成長していく「まち」を目指した取り組み。
濡れない、涼しいミストシステムで暑さ対策

臨海副都心「花と緑」のおもてなしプロジェクトでは、このエリアで2016年から3年間、真夏の過酷な環境対策にも取り組んできました。企業や大学などと協働で、既存の樹木などの木陰とミスト装置の相乗効果を活用したクールスポットを提供する、暑熱対策の実証実験を行いました。結果、緑陰効果で、炎天下と比べて7.1度、さらにミストを散水すると相乗効果で11.1度の低減が見られました。また、東京都港湾局も2018年に実証実験を行い、これらに基づいて選定した6種類の暑さ対策施設を整備しています。
採用されたミストシステムは、濡れない霧の冷房装置(涼霧システム)です。霧吹きの霧よりもはるかに細かく、人や物が濡れない霧「セミドライフォグ」(平均粒子径10~30μM)を大量に噴霧。気化熱を利用し、路面や人体を濡らすことなく、周辺の温度を3~5℃引き下げます。涼霧システムの特徴は均質で微細なセミドライフォグを発生する涼霧ノズルにあります。涼霧ノズルは耐摩耗性に非常に優れた高純度アルミナセラミックを噴口に持つ画期的なスプレーノズルで、構造物の一部として半恒久的に設置される屋外冷房装置です。

未来の万博、博覧会にもつながるオリンピック2020花壇

コロナ禍において、東京をはじめ一部地域では無観客での開催が決定しました。そんな中でも、「これまでのサマーガーデンの制作や維持管理におけるボランティア活動のほか、春に楽しんでいただいている300品種16万球のチューリップの植栽活動など、これまで培ってきた参加型の『まちの景観づくり』のノウハウを活用し、東京2020大会期間中の花と緑による装飾を実現しました」と早貸さん。直接来園できなくても、テレビ中継やさまざまなソーシャルメディアを通して、世界中の人に街を見てもらったり、バーチャルの散策体験をしたりして楽しんでほしいと考えています。
2025年には日本国際博覧会(大阪・関西万博)、2027年には横浜で国際園芸博覧会が開催される予定です。「開催の目的はもちろん、会場の運営形態も東京2020大会とは異なり、会場や周辺地の装飾なども開催の数年前から準備が進められるはずです。私たちが取り組んでいる花と緑を使った真夏の街の景観づくりの成果は、後のビッグイベントの一助になると信じています」と、未来を見据えます。
「大会後も、臨海副都心『花と緑』のおもてなしプロジェクトを継続し、サマーガーデンを新たな文化として全国に定着させたいです。引いては花と緑がもっとたくさんの方に親しまれることを、心より願っています」。
東京の夏を涼やかに彩る花壇は、いままさに咲き誇っています。
協力

早貸秀樹(はやかし ひでき)
東京港埠頭株式会社公園事業部公園事業課維持管理担当課長。
造園技能士、公園運営管理士。
Credit

執筆/株式会社グリーン情報
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