世界のガーデンの歴史や、さまざまなガーデンスタイルを、世界各地の庭を巡った造園家の二宮孝嗣さんが案内する、ガーデンの発祥を探る旅第25回。今回は、現代の南半球オーストラリアのフラワーショウと、一般家庭のガーデニングやその他の庭風景について解説していただきます。
目次
南半球最大のフラワーショーを開催
今回で最終回となる連載「世界のガーデンを探る」のテーマは、オーストラリアのガーデンショーと庭です。
南半球オーストラリアで開催されるフラワーショーは、大陸南東部のビクトリア州の首都、メルボルンで毎年開催されています。会場は、ユネスコ世界遺産でもある王立展示館とカールトン庭園(Royal Exhibition Building and Carlton Gardens)です。メルボルンの中心地からゆるい坂を登ってすぐの場所にあり、とても立地条件がよく、フラワーショーの開催中は多くの人が訪れます。「メルボルン国際フラワー&ガーデンショー(ROYAL EXHIBITION BUILDING& CARLTON GARDENS)」の開催は毎年3月。2019年の開催は第24回を数えています。
前回書いたニュージーランドのエラズリーフラワーショーの開催がなくなってしまった現在、メルボルンフラワーショーは南半球では最大規模のフラワーショーとなっています。それがなんと来年2020年は25周年の記念大会(2020年3月25〜29日開催予定)ということで、歴代の「BEST IN SHOW」受賞ガーデンデザイナーの中から7名が招待選手として招かれます。私は、2008年に「セイセイ亭」でBEST IN SHOWとゴールドメダルをいただいたことから、海外から唯一の招待選手として現在声がかかっています。このフラワーショーは毎年いろいろなイベントの関係もあり、現地では秋にあたる3月に行われています。秋という季節柄、どうしても使える植物に制限がかかってしまいますが、テニスやゴルフ、F1オーストラリアグランプリなどのイベントが目白押しの季節であるという事情もあるそうです。
メルボルン国際フラワー&ガーデンショー
このフラワーショーは公園の敷地内に「SHOW GARDEN部門」とその他の「小庭園部門」の庭がつくられます。フラワーアレンジなどは、王立展示館の建物の中で行われます。ちなみに南半球では、正午に太陽が北側を通過するので、北半球の日本に育った私は、すぐに方向がわからなくなってしまうのです。余談ですが、書店では南が地図の上方になっている世界地図も売っています。
それまで何度か審査員として参加していたのですが、2008年には「セイセイ亭」をつくり、私自身もコンテストへ参加。メルボルンで本格的な庭をつくったのはこの年が初めてとなりました。
海外で庭をつくるのに一番大変なのは、自分の庭に使ういろいろな材料を見つけることができるかどうかです。主催者としては和風庭園を期待していますので、我々にとって違和感の少ない材料を見つけに行かなくてはいけません。ですから、最初は現地の施工業者と一緒にガーデンセンターや資材屋に出向き、そこでいろいろな材料を探します。中でも一番難しいのが、庭石を見つけることです。多くの場合は、近くの石切り場に行って、そこに捨ててあるような石を利用します。
白っぽい御影石が見つかればベストなのですが、多くの場合は火成岩なので、国によっては白っぽい石が全く見つからない場合もあります。オランダで庭をつくった時は、御影石が見つからなかったので、南ドイツの砕石場まで石灰岩系の石を買いに行きました。イギリスの場合は、ウェールズに鉄錆のついたよい石が見つかりましたが、ニュージーランドでは火山国にもかかわらず、気に入った材料を見つけることができませんでした。
海外でのショーガーデンをつくる時の苦労
ショーガーデンをつくる際、植物確保の前に、庭の骨格となる石材調達の目処をつけ、続けて砂利を探します。メルボルンの資材屋へ行った時の様子をご紹介しましょう。
いろいろな色と大きさが違うウッドチップ、何種類もバリエーションがあって驚きました。
メルボルンでは、上写真の資材屋で思いがけず「苔むした御影の平板」を売っていましたので、その場で即決し、使うことにしました。
白っぽい石材を見つける次に大変なのが、「さび砂利」を見つけることです。海外では日本のような御影のさび砂利を見つけることは不可能でしたので、メルボルンでは白い砂利と黒い砂利を混ぜてさび砂利の雰囲気を再現しました。
ショーガーデンづくりの現場
会場となるカールトン庭園では、芝生を傷めてはいけないので養生シートを敷いてから、その上に植栽土を入れました。写真のように、こんな可愛いトラックで土を運んできてくれました。陽気なドライバーだったのでこちらも嬉しくなったのを思い出します。
地面は、搬入したての土のため柔らかく、大きな石が落ち着かずに苦労しました。
オーストラリアをはじめ、海外では石の扱い方が違うのですべて私がやらなくてはいけません。ただ、欧米人は恐ろしく力持ちなので、重機が去った後でもある程度の石は動かすことができました。
待合の壁材には、思った砂が見つからなかったので、モルタルにインスタントコーヒーを一瓶混ぜて、砂壁っぽい色合いにしました。そのため、審査の日まで待合にはいい香りが漂っていました。
こうした苦労を経ながらも、皆さんの協力のおかげで満足のいく庭が完成しました。
いただいたベストガーデンのトロフィーには、毎年受賞者の名前が刻み込まれます。これは持ち回りなので1年経つと主催者側に返還して、代わりに小さなトロフィーを翌年いただきました。
2008年に受賞した「セイセイ亭」の庭は、メルボルンの中心地に林立する高層ビル群を借景として、現地の植物を混ぜながらモミジなどを植栽しました。
私が海外で庭をつくる際、できるだけ現地の素材を使うことを心がけています。多くの場合、現地に入る時は、日本から黒いシュロ縄だけを持参しています。それ以外の材料はすべて現地調達です。道具はハサミとノコギリ、特に竹引きノコギリだけは必ず持っていきます。日本とは勝手が違い、いろいろ困難なことやハプニングもありますが、それを現地の材料で工夫しながら庭を完成させていくのはとても楽しいことです。2020年のメルボルン国際フラワー&ガーデンショーでは、どんな庭を披露できるか。今からワクワクしています。
オーストラリアの個人邸のガーデン
メルボルンは面積の4分の1を公園が占め、ガーデンシティーと呼ばれています。オーストラリアの中でも四季がある街で、オープンガーデンもガーデニングもとても盛んな場所です。住宅は、古き良き時代であるビクトリア調の飾りがついた落ち着いた雰囲気のクラシカルな個人宅も多く、写真のように独特なベージュ色のフェンスには赤い色の花がよく似合っていました。
こちらのお宅はレンガ色の古い石材が外観を包み、落ち着いた雰囲気です。庭に植わっている白と赤い花はバラのスタンダード仕立てで、その後ろのピンクの花はブーゲンビレア。手前の公道に植わる街路樹は、日本産の八重桜‘関山’です。
こちらもブーゲンビレアにオレンジ色のバラ、それに紫のツルハナナス(ヤマホロシ)が組み合わされていました。日本から見ると斬新な植物合わせですが、ほとんど霜が降りない地域であるメルボルンでは普通に見られる組み合わせです。これにさらにアブチロンやハイビスカスまでが混ざり咲く様子を見かけることもあるので、理解しがたい? のですが、これがメルボルンならではの植栽なのでしょう。
郊外のワイナリーなどの植栽
ブドウ畑のそばにバラがコンパニオンプランツとして植えてありました。これは、ダニやアブラムシが発見しやすいバラがあることで見つけやすくなるという効果を狙っています。
原産地らしくユーカリやトベラの仲間が多く植えられています。さまざまなベンケイソウやグレーのオーナメンタルグラス。それにギョリュウバイやグレビレア、メラルーカ、ブラシの木など乾燥に強そうな現地産の樹木が使われています。
きれいに手入れされたボーダー花壇では、赤や白のバラをアクセントカラーに、手前にはオレンジ花の大根草の仲間。それにセージやサルビアが混植されていました。奥の樹木はユーカリです。
フォーマルガーデンもとてもきれいに手入れされていました。白い花は南アフリカ原産のアガパンサスです。メルボルンでは、アガパンサスはとても元気で、街中でも庭でも一番多く見かける植物の一つです。刈り込みに使われている樹種は、手前はジュニパー、奥のスタンダード仕立てはピットスポルムの一種です。
忙しない日本と違って、
Credit
写真&文 / 二宮孝嗣 - 造園芸家 -
にのみや・こうじ/長野県飯田市「セイセイナーセリー」代表。静岡大学農学部園芸科を卒業後、千葉大学園芸学部大学院を修了。ドイツ、イギリス、オランダ、ベルギー、バクダットなど世界各地で研修したのち、宿根草・山野草・盆栽を栽培するかたわら、世界各地で庭園をデザインする。1995年BALI(英国造園協会)年間ベストデザイン賞日本人初受賞、1996年にイギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初のゴールドメダルを受賞その他ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール各地のフラワーショウなど受賞歴多数。近著に『美しい花言葉・花図鑑-彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)。
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