熱帯花木を育てる楽しみ【写真家・松本路子のルーフバルコニー便り】

マンションのバルコニーもガーデニングを一年中楽しめる屋外空間です。都会のマンションの最上階、25㎡のバルコニーがある住まいに移って2019年で27年。自らバラで埋め尽くされる場所へと変えたのは、写真家の松本路子さん。「開花や果物の収穫の瞬間のときめき、苦も楽も彩りとなる折々の庭仕事」を綴る松本さんのガーデン・ストーリー。今回は、真夏から秋にかけて屋外と窓辺で元気に育つ6種の熱帯植物をご紹介します。
バルコニーの夏を彩る熱帯の植物たち

我が家には2カ所にバルコニーがある。北面の広い空間は60鉢のバラ苗で埋め尽くされ、東側にはおもに熱帯の植物の鉢が並んでいる。また、居間の窓辺には天井に届くまでに葉を繁らせたパキラの木や、ハイビスカスの鉢が鎮座している。熱帯地方原産の植物たちは、初夏から秋にかけて元気に開花を続ける。
松本路子さんのバルコニーの夏の収穫記事はこちら
ハイビスカス

窓辺に置いたハイビスカスの鉢はガラス越しにたっぷりと朝の陽光を浴び、真紅の鮮やかな花姿を見せる。その名前はエジプトの美の神「ヒビス」に由来するというが、まさに自然界の造形美そのものだ。
原産地はハワイ諸島、モーリシャス島で、ハワイの州花でもある。沖縄では家々の垣根などに植えられ「アカバナー」として親しまれている。一説にはハワイに移住した島人により、もたらされたものだという。

我が家にやってきたのは15年ほど前で、小さな鉢植え苗だった。5月から10月くらいまで開花が続き、花が終わった頃に剪定、1mほどの樹高を保っている。剪定した枝はなかなか捨てられず、挿し木にするので、その苗が増えるばかりだ。
ちなみにクレオパトラが美と若さを保つのに愛飲したといわれるハイビスカスティーは、この花からではなく、同じアオイ科フヨウ属のローゼルという花の実(タネを包むガク)から作られる。
ブーゲンビレア(ブーゲンビリア)

たびたび綴っているが、私の原風景は、幼い頃育った熱帯植物園の大温室の天井まで届いたブーゲンビレアの花姿だ。20代の頃、雑誌の海外レポートの仕事で初めて東南アジアを旅した時、ブーゲンビレアが路地のそこかしこに茂っているのを見て、感動した。つる性の植物なので、家の屋根を覆うほどに成長しているものもあった。
原産地は中南米で、その名はブラジルでこの木を見つけたフランスの探検家「ブーガンヴィル」に由来するという。ピンク、赤、紫、白などがあるが、そうした艶やかな部分は葉苞で、花は中心にある白い小さな筒状の部分だ。

近年は温暖化に加え,改良種も増えたので、国内の路地で見かけることも増えてきた。静岡県の伊豆地方でも、かなりの高さまで枝を伸ばし開花していた。我が家では鉢を居間の窓辺に置いていたが、鋭いトゲが気になりバルコニーに移している。何とか冬越しはするが、成長具合は今ひとつ。それでも花が咲くと、器に浮かべて楽しんでいる。
アボカド

アボカドのタネから観葉植物を育てることを知ったのは、70年代のニューヨーク。友人の家で涼やかな葉を繁らせている植物が、実を食した後のアボカドだと教えられた時の驚き。当時アボカドは、日本ではほとんど知られていない果実だったからなおさらだ。

以来、タネから芽を出させることに熱中した。その地を去る時、近所の小さな公園に苗のいくつかをひそかに移植した。自分が食べたアボカドの木がニューヨークの街で成長する様を想像するだけでもワクワクした。

バルコニーでもいくつかの苗を育てたが、ほとんどが友人宅に移り、今あるのは1mほどの木と、1年前に芽を出した小さな苗。タネはなかなか捨てられないが、育てるスペースが限られているので、思い切ることにしている。ちなみに、こうした実生苗から収穫を得ることはほとんど期待できないそうだ。
デュランタ

デュランタの苗は10年ほど前に誕生日のお祝いに友人から贈られたもの。鉢に30㎝の高さの苗が2本植えられていた。成長が旺盛で、いつの間にか1mを超えるほどになっていた。大木になると知り、1本は千葉の友人宅の庭に引き取ってもらい、残った木は剪定を重ね、東面のバルコニーに収まるサイズに保っている。

紫色に白い縁取りの花は、枝から降り注ぐように房状に咲き、楚々とした風情が好ましい。原産はブラジルで熱帯の木だが、関東以南では地植えしてもたくさんの花を付ける。
バナナ

伊豆熱川のバナナワニ園に立ち寄った後、しばらくバナナの葉が繁っている光景が残像のように脳裏にあった。そんな時、園芸会社から届いたカタログに、バナナの苗のセールのお知らせが。‘アイスクリームバナナ’と、いかにも美味しそうな名前だ。

マンションのバルコニーで鉢植えのバナナを育てることがいかに無謀なことかは分かっていた。が、衝動的に苗を注文してしまった。届いた苗は20㎝程で、葉が3枚の小さなもの。1カ月半経って、やっとバナナの葉らしきものが見られるようになった。これから少しずつ鉢増しをして育ててみようと思っている。花や果実は期待できないが、背丈ほどの木に葉が繁り、風にそよぐ様を想像して、ひとり悦に入っている。
ベニゴウカン

インドネシア・バリ島で見かけた赤い花を都内の花屋の店先で見つけ、購入したのが10年ほど前のこと。マメ科の常緑低木で、枝先に米粒のような小さなつぼみを付け、やがて鮮やかに開花する。深紅色の花のように見えるのは雄しべで、針状に多数伸び、扇形に広がっている。

ベニゴウカンは紅合歓と書き、別名はヒネム(緋合歓)。原産地はメキシコで、熱帯地方の植物だが、日本のネム(合歓)に似ているので、この和名が付けられた。花の形や、夜に閉じる葉などよく似ているが、大木になるネムの木と違い、樹高は1〜2mほどにとどまっている。
トロピカルな風情を味わう

熱帯花木の魅力は、独特の花姿、色彩の鮮やかさに特化している。基本的に丈夫な植物がほとんどなので、最低気温の問題をクリアすれば、比較的育てやすい。ハイビスカスやデュランタなどは、花期も初夏から秋まで続き、繰り返し花開く。鉢植えにして、冬の期間だけでも室内の窓辺に置くことができれば、容易に育てることが可能である。
Credit
写真&文/松本路子
写真家・エッセイスト。世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2018-20年現在は、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルムを監督・制作中。
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