これまで長年、素敵な庭があると聞けばカメラを抱えて、北へ南へ出向いてきたカメラマンの今井秀治さん。カメラを向ける対象は、公共の庭から個人の庭、珍しい植物まで、全国各地でさまざまな感動の一瞬を捉えてきました。そんな今井カメラマンがお届けするガーデン訪問記。第28回は、愛知県犬山市で南フランスを思わせる自宅を実現した大澤靖男さん、成子さんご夫妻による、“まるで撮影のために設計されたような素敵な庭”をご紹介します。

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SNSで出合った一目惚れの庭

バラの庭
オレンジがかる明るいアンティークレンガや塀には、バラ色がよく調和する。

2019年4月末のある日、仕事を終えてから、いつものようにフェイスブックを眺めていると、滋賀県の上田政子さんによる「愛知県の素敵なお庭を廻ってきました」という投稿を見つけました。

どんなお庭なのか? 覗いてみると、とても雰囲気があって、日本とは思えない素敵な2軒の写真でした。ちょうど愛知の知り合いの庭の撮影もあるし、同じ頃に岐阜の「花フェスタ記念公園」で写真講座もある。この予定に合わせることができれば、伺えそうだなと思い、早速、上田さんに連絡を取って先方のご都合を聞いていただきました。

1軒はどうぞと快く了解をいただくことができました。しかし、残念ながらもう1軒は予定が合いませんでした。それを気の毒に思ったのか、上田さんからさらに「花フェスタ記念公園のそばに、今井さんにご紹介したいお庭がありますよ」という提案があり、予定を伺っていただきました。ですが、あいにくその日は関東に出かけるということで撮影は断念。5月というと、毎年庭を持つ皆さんは大抵忙しいので、撮影スケジュールは思った通りにいかないこともよくあること。またの機会を信じて、諦めることにしました。

撮影本番前の偶然の出来事

バラの窓辺
可愛い窓辺の左向こうには、隣の建物から伸びるバラが絡み、その左奥の納屋風の建物にもつるバラが。もうため息しか出ない。

それから5月になり、各地でバラも咲き始めて、庭の撮影も順調にスタートしました。まずは5月8日、ガーデンストーリーでも連載執筆中の千葉・流山の橋本景子さんのお庭の撮影に伺いました。橋本さんのお庭は夕方の撮影がベストなので、午後3時過ぎに到着。その日はオープンガーデンで、たくさんのお客様がいらしてました。皆さんが帰られた後くらいが撮影本番の時間になりますから、ぶらぶらしながらお客様の様子を見ていると、橋本さんが「愛知の大澤さんのお庭は素敵ですよ、ご紹介します」と大澤さんご夫妻を連れてきてくれたのです。

バラの扉
‘ピンクサマースノー(春がすみ)’がこんなに似合うシチュエーションは他にあるだろうか。

「愛知」「素敵なお庭」このキーワードを聞いて、すぐに先日、上田さんが「花フェスタ記念公園のそばのお庭」と紹介してくださったところ、撮影が実現しなかった方だとピンと来ました。まさか、橋本さんの庭でお会いすることができるなんて、素敵な偶然もあるものです。橋本さんも「今井さんに撮ってもらったら素敵よ〜」と大澤夫妻にアピールしてくれたので、「早朝の1時間だけでもお時間をいただけたら撮影ができるのですが」とすかさず頼んでみました。すると、「その日はお友達が来る約束ですが、早朝なら大丈夫ですよ。どうぞお越しください」と言っていただき、5月18日の朝5時からの撮影が決まりました。

当日は快晴無風の撮影日和

塀を伝うバラ
公道に面した塀を覆い尽くすように咲くつるバラ‘ピンクサマースノー(春がすみ)’が圧巻。手前のバラは‘コーネリア’。

約束の5月18日、早朝4時過ぎ。「花フェスタ記念公園」近くのホテルから大澤邸がある犬山市に向かって車を走らせました。空は快晴、無風。これ以上ない撮影日和です。ドライブも順調で、少し早すぎただろうかと思いながら車を進め、そろそろかな……と角を曲がりました。すると目の前に、南仏風の塀にピンクのつるバラが枝垂れ、足元にはジギタリスが咲くお宅が現れました。

窓辺のバラ‘サマースノー’と‘バフビューティ’
可愛い窓を覆い尽くすのは‘サマースノー’と‘バフビューティ’。

大澤さんのお宅に間違いないと確信し、車を止めようとすると、門の向こうからご主人が笑顔で出迎えてくれたのです。まだ5時前だというのに、すっかり掃除も済ませてくださっていて、花びらは一枚も落ちていません。挨拶もそこそこに小走りに庭へ向かい、黄色いバラの絡む南仏風のレンガ作りの門をくぐると、目の前にはヨーロッパの田舎の村を思わせる、バラの絡む可愛い建物がいくつも建っていました。建物沿いには、さまざまな草花が咲いていて、これは凄い! と唸りながら、記憶するように頭の中で1枚シャッターを切って先へ進むと、今度は素敵なアイアンのゲートが! ここでも1枚エアーシャッターを切って後ろを振り向くと、今度は最初に見た小屋をバックに可愛い風景が広がっています。

ガーデンの小道
この小径の向こうには、どんな風景が待っているのだろうと、想像するだけでワクワクする。

まるで撮影されるために存在しているかのような素晴らしいお庭で、ガーデンスタジオのようだと感心していると、地平線から朝日が少し昇ってきました。母屋の屋根の辺りに光が差し込んできて、庭はまさに魔法の光に包まれ始めました。「よし!」と気合いを入れてファインダーを覗けば、石造りの建物に黄色いオールドローズが咲き競い、田舎風の小屋の入り口にはアンティークなほうきが立てかけてあったりして、次から次へと絵になる光景が現れます。

魔法の光が差すわずかな時間

バラの庭
庭撮影は、「素敵な庭の中で、素敵なエリアに行ったら振り返ってみる」が鉄則。

「どうか太陽さん、今日はゆっくり昇ってきてください」と念じながら、横を見たり後ろを振り向いたり。太陽の位置を確認しながら、最初に撮ったエリアに戻ってもう一度撮ったりしながら、1時間ほど無心で走り回って撮影を終えました。建物が可愛いうえ、バラのコンディションも素晴らしく、大満足の撮影となりました。邪魔にならないようにと気遣って室内に入ってくださっていた大澤さんは、窓の外で走り回る僕を見て笑っていたかもしれませんね。

バラの咲く家
壁の質感や白い扉にアイアンの組み合わせもおしゃれ。さらに、‘バフビューティ’が咲いているなんて、なんて完璧なシチュエーションなのでしょう。

撮影後、ご主人の趣味だという、クラシックなジープや、『大脱走』でスティーブ・マックイーンが草原で走り回っていたようなバイク(ご主人は違うバイクだとおっしゃっていました)が止まっているガレージで朝食をご馳走になりながら、お庭について話を伺いました。まず「庭中の建物がなんでこんなに素敵なのか?」とお聞きすると、左官業を営むご主人が、17年前に家を建て替えた時に、奥様も好きな南仏風の建物にしようと決めたといいます。

ヨーロッパ風の中庭
ヨーロッパの田舎の家の中庭としか思えない景色が待っていた。

洋書でデザインなどを勉強しながら、一人で建てたお宅だそうで、一軒ずつそれぞれがこだわりいっぱいの建物になっていることも納得のエピソードでした。建物にピッタリのバラ選びは奥様が担当で、これも納得。素敵なお庭の撮影ができて幸せな朝だったな〜と余韻に浸りながら、大澤さんご夫妻に感謝して、8時過ぎには写真講座を行う予定の「花フェスタ記念公園」に向かいました。

Credit


写真&文/今井秀治
バラ写真家。開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ローズカレンダー』も好評。

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