いまい・ひではる/開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ガーデンローズカレンダー』も好評。
今井秀治 -バラ写真家-

いまい・ひではる/開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ガーデンローズカレンダー』も好評。
今井秀治 -バラ写真家-の記事
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宿根草とグラスの美しいハーモニーで話題のガーデン「服部牧場」を訪ねる
初夏の服部牧場を訪ねて 左から時計回りに、クナウティア、ルドベキア・ゴールドスターム(黄花)、アスチルベ、ヘメロカリス・クリムゾンパイレーツ(中央赤花)、銅葉のニューサイラン、クナウティア・マケドニカ(赤い小花)、スティパ・テヌイッシマ、ヤブカンゾウ(ニューサイラン手前のオレンジの花)、バーベナ・ボナリエンシス(淡紫の背の高い植物)。 ガーデンストーリーで服部牧場を紹介した最初の記事は、2020年1月に公開しました(前回記事はこちら)。ついこの間くらいに思っていたら、もう3年半の月日が経っていました。前回は、晩秋から初冬のグラスや宿根草の枯れ姿を中心に紹介していましたが、今回は今年2023年6月後半に訪ねた、さまざまな花が生き生きと咲き乱れる彩りがあり美しい服部牧場の紹介です。 左からヘメロカリス・ベラルゴシ(赤花)、アキレア(白)、ベルケア・パープレア(淡いピンクの花)、ダリア・サックルピコ(ヘメロカリス上のオレンジ)が左ボーダーの彩りに。小道奥で黄色く輝く葉は、ニセアカシアフリーシア、その左で丈高く茂るのはバーノニア。右手前では、バーベナ・ボナリエンシスが咲き、奥の銅葉のニューサイランの手前で、赤花のポンポン咲きダリア・サックルバーミリオンがアクセントに。 グラスがいい仕事をするガーデン 左下から時計回りに、スティパ・テヌイッシマ、フクシア・マジェラニカ(赤花でつり下がった形状)、銅葉のニューサイラン、アメリカテマリシモツケ‘サマーワイン’(銅葉の木)ホルディウム・ジュバタム(中央の生成り色のグラス)、ルドベキア・マキシマ(右上背の高い黄花)、フロックス‘レッドライディングフット’(赤ピンク花)、ヘメロカリス(桃色花)。 思い起こせば、3年前の僕は“グラスを多用したガーデン”こそが新しいガーデンの形だと信じ、夕陽に輝くグラスやシードヘッドの写真ばかり追い求めていました。グラスが多数植栽されているこのガーデンにも何回も足を運んだものです。 左下から時計回りに、バーベナ・ボナリエンシス、バーベナ‘バンプトン’(ボナリエンシスの株元のこんもり姿)、ダリア‘サックルブリリアントオレンジ’(ポンポンダリア)、ダリア‘サックルコーラル’(隣のポンポンダリアの赤)、スティパ・テヌイッシマ、アガスターシェ・ルゴサ・アルビフローラ(スティパの上に写る縦長の花穂)フロックス‘ブライトアイズ’(ピンク)、ミソハギ(ピンクのフロックスの後ろに写る縦の紫色の花穂)、クロコスミア‘ルシファー’(ミソハギの後ろ)、カライトソウ(中央ピンクの垂れ下がる花穂)、アメリカテマリシモツケ‘ディアボロ’(右上端の銅葉の木)、フロックス‘ブルーパラダイス’(右側中段の横に広がる紫の花)。手前で2本の花穂が上がるアカンサス・スピノサス‘レディムーア’がこのコーナーを印象付けている。 秋から冬にかけてこのガーデンを訪れた際は、グラスの美しいシーンをカメラに収めることで満足していましたが、やがて季節が変わり、春から夏になるとグラス類に変わって宿根草たちがこのガーデンの主役となっていました。 左/上からアリウム‘サマードラマー’、ダリア‘ミズノアール’、ユーパトリウム・アトロプルプレウム(右上)、ベロニカストラム‘ダイアナ’(白のとんがった花)、グラジオラス‘バックスター’、アスチルベ・プルプランツェ(右端のピンク花)、メリカ・キリアタ(手前下のグラス)。右/ベロニカストラム‘ダイアナ’、ユーパトリウム・アトロプルプレウム(左上)、奥の彩りは、ヘリオプシス‘サマーナイツ’(黄色)とダリア‘熱唱’(赤花)。 宿根草が生き生きと育つそのそばには、グラス類が存在しています。代わる代わる咲く宿根草の花々を引き立てる名脇役のグラスが組み合わされているからこそ美しいのだと、改めてこの庭に気付かせてもらったように思います。 カメラマンを唸らせる美しいガーデン 左下から時計回りに、アガスターシェ・ルゴサ・アルビフローラ(縦の花穂)、バーベナ・ハスタータ‘ピンクスパイヤー’、フロックス‘ブライトアイズ’(ピンク)、ダリア‘サックル・ルビー’(赤いポンポンダリア)、ミソハギ(サイロの屋根の下に写る縦の紫の花)、クロコスミア‘ルシファー’、カライトソウ(中央ピンクの垂れ下がる花穂)、ヘリオプシス‘サマーナイツ’(カライトソウの後方右に写る黄色)、アリウム‘サマードラマー’、ダリア‘ティトキポイント’(いろんなダリアが重なって写ってるが、一重のピンクで中央がオレンジっぽいダリア)、オレガノ‘ヘレンハウゼン’(カライトソウの手前右)、バーベナ‘バンプトン’(カライトソウ左下のふんわり姿)、カラミンサ(オレガノの手前)、ミューレンベルギア・カピラリス(手前右角に写るグラス)。 この多くの宿根草やグラス類をナチュラルに組み合わせて美しいシーンを作り、いくつも僕に見せてくれる“寝ても覚めてもガーデンと植物のことが気になってしまう”服部牧場のガーデナーである平栗智子さんは、僕のガーデンフォトの最良のパートナーだと感謝しています。 上左/ヘメロカリス‘ブラックアローヘッド’ 上中/下からダリア‘冬の星座’、ユーパトリウム‘アイボリータワー’、アリウム‘サマードラマー’、バーノニア 上右/エキナセア‘ミルクシェイク’ 下左/モナルダ・プンクタータ 下中/ベルケア・パープレア 下右/カライトソウとフロックス‘クレオパトラ’ ここでご覧いただいている写真は、伸び伸びと育った大型の植物をふんだんに使う“平栗智子流のガーデンデザイン”による、生命感溢れるシーンばかりの6月の服部牧場です。夕方の沈みかけた綺麗な光で思う存分撮影してきた大満足の写真満載です。 左下から奥の順に、エキナセア‘ピンクパッション’、トリトマ‘アイスクイーン’、スタキス、アスター‘アンレイズ’(緑色のこんもり姿)、パニカム‘ブルーダークネス’(アンレイズ左のグラス)、チダケサシ(アンレイズの後ろの淡いピンクの花穂)。右側、斑入りのフロックス‘ノーラレイ’とエキナセア、株元の丸葉は、ヒマラヤユキノシタ。 そして、各写真に添えられた解説は、平栗さんがこの写真を見ながら丁寧に品種名を書き出してくれたものです。この景色を作る鍵となる宿根草の具体的な品種名の数々は、ガーデンラバーズさんにとって最良のテキストになると思います。この記事で服部牧場の魅力の秘密が伝わることを期待しています。
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カメラマンが訪ねた感動の花の庭。「東京競馬場」のナチュラリスティックガーデン
今、最も関心のあるガーデンデザイン 2019年1月に横浜でPiet Oudolf氏の映画「Five Seasons」を鑑賞して以来、僕にとってナチュラリスティックガーデンが1番興味のあるガーデンの形になりました。映画を見る前にも、長野県須坂市の園芸店「ガーデン・ソイル」の田口勇さんにPiet Oudolfの本を見せてもらい、それまで全然知らなかった美しい世界があることを知りました。それからは、北海道で大森ガーデンや上野ファーム、十勝千年の森などでグラス類と宿根草のガーデンを撮りまくり、秋には山梨・清里のポール・スミザーさんが手がけた「萌木の村」で紅葉したグラスと宿根草のシードヘッドを夢中で撮ったりしていました。ただ、その時はまだはっきりした「ナチュラリスティック」と言う認識はなく、ただ今までの花中心の花壇から新しい形の花壇が生まれてきたんだろうとくらいにしか思っていませんでした 皆が関心を寄せる「ナチュラリスティック」 「Five Seasons」を観て以降、「ナチュラリスティック」という概念を意識しだすと、SNSのあちこちで自然思考、消毒をしないバラ、化学肥料を使わない庭の話などが目につくようになりました。Facebookでは平工詠子さんのグラスを多用した美しい庭の写真を見せていただき、知り合いのガーデナー、さつきさんのFacebookで服部牧場を見た時には、今最も撮影したいテーマはこれだ! と確信しました。 綺麗な光に浮かび上がる庭をベストなタイミングで撮りたい いつも言っていることですが、僕が撮影の時に一番に思うのは「綺麗な光で撮る」ことで、その意味でも「ナチュラリスティックガーデン」の撮影は、正に僕にぴったりのテーマ。朝日や夕日に浮かび上がるグラスや宿根草の花壇を撮影している時は、まさに至福の時間です そして2022年10月上旬に、以前僕に服部牧場を教えてくれたガーデナーのさつきさんのFacebookに登場していたのが、今回ご紹介の「東京競馬場」でした。この東京競馬場の庭の手入れに、服部牧場の平栗智子さんが行っていることは知っていましたが、頭の中で競馬場とグラスの庭がうまく結び付かなかったことから、さつきさんにそうコメントすると「今井さん、本当に綺麗ですからぜひ行ってください」と返信がありました。 その1週間後に秋の服部牧場へ撮影に行くと、今度は平栗さんが「東京競馬場今が一番綺麗だから、今井さんに撮ってほしいと思っていたんですよ」と。平栗さんが競馬場の手入れに行く日程まで教えてくれたので、2人のガーデナーさんがそこまですすめてくれるならばと、天気のよい日の午後に伺う約束をしました。 美しく捉えるにはどうするか、しばし悩む 撮影日となった2022年11月18日は、夕方までずっと晴れの予報。グラスの撮影には最適の天候でした。競馬場の入り口に迎えにきてくれた平栗さんが運転するモスグリーンのしゃれた車に先導してもらい、場内を走ってトンネルを抜け、内馬場(コースの内側)に到着。するとそこは広い芝生のエリアで、子供達のためのいろいろな遊具が並んでいました。その外側には、子供用のミニ新幹線のレールが敷いてあり、競走馬が走るコースとの間が、グラスと宿根草の花壇になっていました。 まだ少し日差しが強いので、花壇の周りを下見しながら「これは大変だ」というのが第一印象でした。なぜなら、写真を撮影する時に、プロカメラマンとアマチュアカメラマンとの一番の違いは、写真の中に無駄なものが映り込んでいるか、いないかということ。プロのカメラマンは、シャッターを切る前にファインダーの隅々まで見て余計なものが入っていない事を確認し、初めてシャッターを切るものです。 日が沈むまでたった15分の撮影に挑む ところが、目の前には緑の芝生にピンクに染まったミューレンベルギアと真っ赤なアマランサス。これだけなら言うことのない景観ですが、その後ろには馬場のコースを縁取る白い柵があり、手前にはコンクリートに舗装された帯の上を線路が通っています。これらの構造物を全部入れずに構図を決めるのは不可能だし、2人が口を揃えて言うように、グラス類は本当に綺麗です。 太陽がだんだん低くなってくるなか、「どこをどう撮ればいいのだろう」「気になる構造物が少しでも入らないアングルは?」と気持ちは焦るばかりで、一向に撮影が始められませんでした。あっちへ行ったり、線路に降りたりしながらアングルを探している時に気がついたのです。「線路をガーデンの園路に見立てればいい」のだと。夕日に輝くグラスの花壇と線路をファインダーの中に収めてみると、金色に輝くグラス類が圧倒的に綺麗で、線路すら気にならないと思いました。 「夕陽に輝くグラス類を綺麗に撮る」「線路などの構造物は、なるべくグラス類の邪魔にならないように入れる」と決めて、そこから日が暮れるまでの15分くらいの短時間で、長い花壇の周りを沈みそうな夕日の位置を確認しながら、あちらに行ったりこちらに来たり。夢中でシャッターを切って、気が付けば夕日は西側の高い木々の向こうに消えていました。
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咲き乱れる花々に癒やされる滋賀県「English Garden ローザンベリー多和田」
日本とは思えない美しい花々が咲く庭 僕が初めて「ローザンベリー多和田」の名前を聞いたのは、2015年の春のことでした。知り合いのガーデナーさんから「ローザンベリー多和田が綺麗らしいけれど、知ってる?」と聞かれたり、バラのシーズンになるとSNSでは関西の友人たちが入れ替わり立ち替わり毎日のように綺麗な庭の写真を投稿していました。 それらを見ていて、1枚の写真に引き込まれました。それは立派なレンガの柱と重厚なアイアンのゲートが写っている写真です。本当にイギリスで見たガーデンのようで、僕もこのゲートの前に立ってカメラを構えてみたいという思いが湧き上がってきました。そしてすぐにFacebookで既に友達になっていたこの庭のガーデナーである西居秀明さん、通称「ヒデさん」に連絡をして、「来年は一番きれいなときに必ず伺います」と約束をしました。 写真家としての一面もあるヒデさんとの出会い その日からちょうど1年が経った2016年6月3日。岐阜県可児市の「花フェスタ記念公園」での早朝のバラの撮影を終えたあと、滋賀県米原市の「ローザンベリー多和田」に向かいました。撮影は夕方からと決めていたので、高速道路は使わずにゆっくりと下道で、雲一つない爽やかな空気の中、美しい景色を眺めながら2時間弱のドライブを楽しみ、「ローザンベリー多和田」の駐車場に到着。 すぐにヒデさんに電話すると「お待ちしておりました。すぐに伺いますから少しお待ちください」とイメージ通りの明るい関西の訛り声が聞こえて、1分もしないうちに、ハンチングに革のベストをバシッときめたヒデさんが登場しました。 まだヒデさんを知る前でしたが、フォトコンテストの審査もさせていただいたことがあります。その中で、アマチュアの中に一人だけプロのカメラマンがいると思うほど際立っていた写真があったのを記憶しています。もちろん、優秀賞に選ばせていただきました。それがヒデさんでした。写真関係のお仕事をしていたというだけあって、とても印象的な写真でした。 さらにその数年後、雑誌『花ぐらし』の誌面づくりの時のことです。バラとクレマチスを取り上げる企画で京都のナーセリー「松尾園芸」に伺った際、「どこかバラとクレマチスをうまく使ったお庭があったら紹介してください」とお願いしたところ、滋賀県の米原にある庭をご紹介いただきました。バラもクレマチスも完璧で、さらに写真もうまい人がいますとのこと。 その方が投稿するブログを見せていただくと、僕から見ても完璧すぎるというのが第一印象でした。普段は自分と似たような年齢の女性と気楽な仕事ばかりをしていたものですから、こんな“完璧な男性”に会うのは気が引けたというのが正直なところでしょうか。こうしてヒデさんとの初対面の機会を逃してしまったのでした。あのとき思い切ってヒデさんと会っていれば、その後「バラとクレマチス」の企画で何回もご一緒に仕事をさせていただいていたかもしれないと思うと、ちょっと残念な気がします。 イギリスの田舎道を思わせる初感覚の庭 そのヒデさんに案内をお願いして園内に入ると、いきなり目の前に、会いたかった古いレンガの門柱が現れました。そしてゲートを潜るとナチュラルに野草を思わせる植物が集まる植栽エリアがあり、奥には古いレンガの大きなパーゴラにバラが満開! その奥の階段を降りると、カシワバアジサイの群落に遭遇したり、レンガの塀を過ぎると時代を経たように見える板塀に野バラが絡んでいたり……。 こんなにイギリスの田舎道を歩いているような気分にさせてくれるガーデンは初めてだなぁと思いながら、夕方の光になるのを待ちました。撮影後は、ガーデンのオーナーである大澤惠理子さんにもお会いして、正にイギリス風な美味しいお茶とお菓子をご馳走になりながらガーデンの話に花が咲きました。「きっとここには、何度もカメラを担いで伺うことになるだろうな~」という予感がするほど充実した時を過ごしました。 2016年以降は、毎年のように、春にはパンジー&ビオラフェアーやクリスマスローズの撮影を、バラの最盛期には撮影だけでなく写真講座もさせていただいたりしています。 ガーデンストーリーで紹介したいと撮影 今年2022年の撮影は5月28日。「ローザンベリー多和田」のガーデナーたちの愛情がこもった、素晴らしく綺麗なこのローズガーデンをガーデンストーリーに紹介したいと思い、去年からしっかりと撮影してきました。最高の写真を撮影するために、5月に入ってから何度も連絡をしてベストなタイミングを探りました。 そのお陰で、バラのコンディションも素晴らしく、天気も予報通り晴天に恵まれ、気分も上々! 足しげく通った“勝手知ったるローザンベリー”で、これ以上ない夕方の光に浮かび上がるガーデンを思う存分楽しんで撮影ができました。それぞれの写真に添えたコメントも併せて、ガーデン写真を堪能していただけたら嬉しいです。
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カメラマンが訪ねた感動の花の庭。滋賀県のコミュニティーガーデン「Rose Branch」
2018年にオープンした「ローズブランチ」 5月18日早朝のこと。今回ご紹介する「Rose Branch(ローズブランチ)」のガーデナー、上田政子さん、愛称「まーちゃん」の車に先導してもらい彦根の町を抜けて街道を右折すると、すぐに朝陽に輝くガーデン、「ローズブランチ」が目に飛び込んできました。 この庭は、隣接する会社「ベースワン」のバラ園で、2017年に「ベースワン」の社長に「この土地にバラ園をつくってほしい」と頼まれたのがきっかけでした。最初、まーちゃんは、大した経験もない自分にできるのか悩んだそうですが、これは人生の転機だと思って決断、まずはベースワンに就職して、この庭のガーデナーになったのです。 はじめのうちは、水はけの悪い粘土質の土との戦いに疲れ果て、自分には無理と諦めかけたこともあったようですが、「最初が肝心」と社長さんに相談。事情を聞いた社長が必要なものをすべて用意してくれて、さらに、バラに詳しい友人たちの助けもあって、翌2018年に「ローズブランチ」はオープンしました。 小屋を背景に咲くバラと宿根草 それから4年。まーちゃんのバラ愛と頑張りで、バラがモリモリ咲くようになったのです。始めはバラ以外には興味のなかったまーちゃんですが、今ではすっかり宿根草好きに。最近は「バラも植物の一つ」と考えが変わって、フェンスや小屋にはあふれるようにつるバラが、そして、庭の随所に宿根草が咲く素敵なガーデンになっています。 この庭は、西側と隣地のベースワンとの境の北側に高いフェンスが設けられていて、そこにはモダンローズやイングリッシュローズ、いろいろなつるバラが誘引されています。しかし、残念ながら訪問した時期の彦根では、まだ2割くらいしか咲いていませんでした。 東側には、野菜栽培用のビニールハウス、南側は隣に民家があります。これらを隠すためにモルタル製の小屋が立ち並んで、さながら小さな町並みのような景観を作っています。モルタル製の小屋には、いかにもまーちゃんの好みそうなオールドローズや小輪のつるバラが可愛らしく誘引されていましたが、こちらもまだほとんどがつぼみでした。 自由なアイデアあふれる植栽術 目を中央に向けると、ちょっと大きめのアイランドの白花と、シルバーやグリーンの葉のテクスチャーでデザインされた花壇の宿根草が朝日を浴びてキラキラ輝いているではないですか! 何年か前の3月、クリスマスローズを見に来た時に、無国籍な雰囲気の自由なアイデアあふれる植栽がなされたこの庭を見て、「いつかしっかり撮影してみたい」と思ったことが、今まさに実現することになったのです。 東側のハウスの上から斜めに差し込んでくる朝陽を浴びて、白いサポナリアの花や隣のバラモンジ、そして麦の穂などが、まるで「きれいでしょう」「早く撮りなさい」と言っているようで、僕も「きれいだね~」と呟きながらアングルを探して歩いてはシャッターを切りました。また数歩進んではシャッターを切って…30分もしないうちに陽が高くなったので、このエリアの撮影を終了。まだ日陰になっているセリンセやクレマチスを撮って、この日は次の撮影地である神戸に向かいました。 19日は早朝から神戸のお庭の撮影を終えて、再び車を東に向け、一路滋賀県へ。夕方の「ローザンベリー多和田」と、さらに間に合えば「ローズブランチ」のあの宿根草をもう一度、夕方の反対方向から差す光で撮影してみたいと思い「よい天気でありますように」と願いながら車を走らせました。 途中「ローザンベリー多和田」に連絡してみると「まだバラは3割程度で、ベストは来週くらいです」とのこと。一応自分の目で庭の状況を確認させてもらおうと思い、16時過ぎに「ローザンベリー多和田」に入り、撮影できるバラは押さえさせてもらって、再び「ローズブランチ」へ向かいました。 「行きます」と連絡していなかったので、突然来た僕を見て、まーちゃんはびっくりしてましたが、夕陽の中の宿根草のアイランドは、やっぱりきれい! 太陽の沈み具合を見ながら18時過ぎまで撮影して、次回のバラの撮影を約束して帰路につきました。 シーズン3度目の訪問は絶好の撮影日和 宿根草がいい感じで撮れたので、後はバラが咲くいいタイミングに行って撮影すれば完璧だなと考えながら、5月27日に3度目となる「ローズブランチ」に向かいました。16時過ぎに到着。すると予想通り、フェンスのバラも小屋に絡むつるバラも素晴らしく可愛く咲いていました。またまた、まるで植物たちが「待ってましたよ」「さあ早く撮ってください」と言っているようで、まーちゃんに向かって「最高~」と思わず叫びながら撮影開始です。 小屋に絡む“まーちゃん好み”のバラは、じつは僕も大好きなバラばかり。そのうえ、バラたちがタイミングもぴったりに可愛く咲いているのだから、もう嬉しくて楽しくて。本当にまーちゃんのセンスに感謝しながら、日暮れまで「ローズブランチ」の中を歩き回っていました。 まーちゃんに今後の目標を聞いてみたら、「バラとコラボして可愛い植物や、バラの後に咲き出す植物、真夏に元気な植物、秋に枯れ姿の素敵な植物……どれも好きな植物たちを集めて、ローズブランチを一年中楽しめるお庭にしたい」と夢を描きながら、日々奮闘中だそうです。 やっぱり植物が三度の飯より好きで、暑い日も寒い日も、雨の日も植物を見ていたいというくらいのガーデナーさんが僕は好きだなぁ、と改めて思う撮影となりました。
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カメラマンが訪ねた感動の花の庭。宮崎「こどものくに」バラ園
育種家ビオラの聖地、宮崎へ初訪問 僕が初めて宮崎を訪れたのは2019年2月のこと。ずっと行きたいと願っていた、宮崎育種家ビオラの聖地「アナーセン」で行われる「パンジー&ビオラ展」を取材するためでした。案内を買って出てくれた橋本景子さんは別便で一足先に宮崎入りし、待ち合わせに指定された場所が「こどものくに」のバラ園でした。橋本さんはバラ園で冬の手入れ作業中でしたので、しばらく青島神社辺りを観光してみることに。もともと神社仏閣には特に興味もなく、観光名所とは縁のない僕でしたが、このちょっとエキゾチックな青島神社に思いがけず魅了されてしまい、時間を忘れて撮影に没頭。「こどものくに」の駐車場に着いたのは、もう夕方近くになっていました。 駐車場から電話をすると、橋本さんは手が離せないとのことで、迎えに来てくれたのは、ガーデナーの源香さんでした。丁寧な挨拶から始まり、バラ園まで案内してくださる道すがら、ずっと1939 年に開園した「こどものくに」の歴史や、創始者の岩切章太郎さんの話を聞かせてくれました。 源さんの説明を聞きながら、バショウなどが育つ熱帯を思わせる林を抜けると、バラ園に到着。バラ園は僕が想像していたよりも小さく、何本かの園路で仕切られたスペースに木立ち性のバラが並ぶオーソドックスなスタイルで、植えられている品種は、少し古いタイプのハイブリッドティー(HT)が多い印象。この段階では、2年後に本気で撮影に伺うことになるとは想像もしていませんでした。 ただ、僕がいろいろなバラ園に行っている経験があるからか、熱心に質問してくれる源さんとバラ談議をしながら園内を歩いているうちに、「ここを宮崎の皆さんに喜んでもらえるバラ園にしてみせる」という源さんの熱い想いが伝わってきました。帰る頃にはすっかり打ち解けて「僕の好きなチャイナローズなら宮崎の気候にも合うと思うので、苗を送りますよ」なんて約束までしていました。 ラナンキュラス・ラックスが作る美しい風景との出合い 2度目に「こどものくに」を訪れたのは、翌々月の4月。2月にパンジー&ビオラ展に伺った際、「アナーセン」の川口のりこさんが写真教室を企画してくれて、二十数名の生徒さんと宮崎のいろいろなガーデンをバスで巡った時になります。ガーデン巡りの最後の目的地が「こどものくに」で、着いたのはもう午後5時を過ぎていました。この時期、バラ園はまだ花は咲いていないのですが、橋を渡った隣の海側エリアではラナンキュラス ・ラックスの花壇が見頃に。ちょうど沈みかける夕陽をバックに、逆光の中でラックスが美しく輝いているではないですか。ラックスは、花弁に光沢のある宿根草ということを知ってはいましたが、これほど見事な光景を見るのは初めてで、興奮してシャッターを切ったことを覚えています。 この見事なラックスは、作り手である隣町の綾町にある綾園芸の草野さんが2014年に100株寄贈したものだそうで、その後、源さんが大切に育て、守ってきた宝物の一つです。このエリアは、春はラナンキュラス・ラックス、秋はミューレンベルギアが美しいグラスガーデンの2交代制になっていて、このミューレンベルギアが、源さんのもう一つの宝物になります。 3度目の宮崎で庭撮影のタイミングを逃す その年の11月には、最新のパンジー&ビオラの買い付けに全国からやってきた花屋さんたちに混ぜていただいて、3度目の宮崎入りをしました。今回は皆さんと同様に、僕もパンジー&ビオラの新花が目的でしたが、バラ園には帰りの飛行場に向かう途中にちょっとだけ立ち寄ることができました。滞在最終日のわずかな時間しかない中、訪れたバラ園は、ちょうど満開の秋バラとたくさんの宿根草が混ざり合い、美しい風景を作っていましたし、橋の向こうのエリアでもミューレンベルギアがじつに見事。しかし、残念ながらフライトの時間が迫っていたため、撮影は翌年にと心に誓って、後ろ髪を引かれながら、急いで飛行場に向かいました。 翌2020年も11月にパンジー&ビオラの新花の撮影を計画していたのですが、この年は天候不順でパンジー&ビオラの開花が遅れていると連絡が入り、他の仕事との兼ね合いもあって、宮崎行きは12月に入ってからになりました。12月10日に宮崎入りしてすぐ「こどものくに」に向かったのですが、11月の末、来場者の方々にバラを切って持って帰ってもらうという「チョキチョキカッティング」というイベントがあったため、バラ園では宿根草だけが美しく風に揺れていました。 11月の最終週までに来ていれば、この宿根草の間に満開のバラが咲いていたのかと想像すると、がっかり。座り込んでしまいたいほど悲しい気分に。来年こそは、源さんのフェイスブックもチェックしながら、バラ園の撮影を最優先でスケジュールを立てなければ! と心に決めたのでした。 2021年は撮影の万全なタイミングを図る 2021年も11月に入り、源さんのフェイスブックを見ていると、10日過ぎから南国特有の夕方の赤っぽい光に浮かび上がる満開のバラ園や、逆光に輝くミューレンベルギ アなどワクワクする写真が、次から次へとアップされ出しました。ちょうどパンジー&ビオラもどんどん咲き出しているようだし、これはいよいよ宮崎行きのベストタイミングが近づいてきたと確信。10日間の宮崎の天気予報をチェックして、晴天が続く13〜15日の3日間の予定で宮崎に出発しました。 13日午後3時半にバラ園に到着。満開のバラと、そのバラを覆い隠すほど大きく育った宿根草に出迎えられて、満足しながらカメラをセット。太陽の位置を確認しながらファインダーを覗いてみると、赤やオレンジのバラの周りに、紫の千日紅や赤いケイトウが咲き誇り、その後ろには大きなグラスが風に揺れています。これは、まさに源ワールド! 深呼吸をして数枚のシャッターを切り、右を見ると大きなカンナが伸びやかに育っています。左にレンズを向ければ、そこも全然違う風景が広がっていて……。そのまま撮影をスタートしました。 バラと宿根草の美しいコンビネーションを撮ったり、ちょっと懐かしい昔のハイブリッドティーの名花を撮ったり、忙しく撮影をしているうちに時間があっという間に過ぎていて、気がつけば、西の山の向こうに陽が沈んでしまいました。橋の向こうのミューゲンベルギアをまだ撮っていないことに気づいて、三脚をかついで走り、グラスガーデンに行ってみると、ダイナミックなグラスの中に赤いカンナが混ざり育っていて、ここもバラ園とは違う、もう一つの源ワールドに。 残念ながら陽は既に沈んでいて、グラス類を撮る時に絶対に必要な逆光ではありませんでした。宮崎滞在はあと2日。このグラスガーデンにはもう一度来ることにして、ガーデン全体の写真を撮るアングルを探してみると、西側にカメラを構えてレンズを東に向けるのがよさそう……。ということは、撮影は朝の光で、東の海から昇ってきた逆光の太陽の光で撮るのがベストと分かりました。 14日早朝は別のガーデンに行く予定にしていたので、このグラスガーデンは15日早朝にと決めて、初日の撮影は終了しました。 早朝から約2時間が撮影の勝負 15日午前6時45分。日の出前の時間はさすがに宮崎でも寒く、三脚にカメラをセットして、陽が昇るのを足踏みしながら待っていると、ガーデンの後方にある木々の下方がだんだんオレンジに染まり始めました。いよいよ撮影開始です。少しずつ露出を変えながら数枚のシャッターを切ったら、また足踏みをしながら5分待ってシャッターを切り、また5分待ってシャッターを…と、7時過ぎまでシャッターを切って、太陽が木々の上にまで昇り、光が強くなったタイミングで場所を移動。逆光に白く輝くグラスの穂を撮ったり、光に透けるカンナの葉を撮ったりしてグラスガーデンの撮影は終了です。 急いでバラ園に移動して、朝の光で見るバラ園は、一昨日の夕方とは全然違う表情を見せています。ここでも昇る太陽と競争しながら、8時過ぎまで撮影し、こうして何年越しかの「こどものくに」の撮影を終了しました。 この年の滞在中は、源さんも忙しくてすれ違いばかり。ゆっくり話を聞くことができなかったのですが、この原稿を書くにあたり、メール取材の中で、こんなに宿根草がバラ園にある理由を尋ねてみました。 2017年までバラ園を担当していた方が高齢となり、退職後を引き継ぐ人がいなかったことから、まだ当時はバラにはそれほど興味のなかった源さんが引き継ぐことになったそうです。「『こどものくに』が好きな人と花好きの人が集まれば、何とかなる」という思いで「ときどき花くらぶ」というグループを作り、仲間たちとバラ園の管理を始めました。初めの頃は草取りばかりで大変だったので、作業が少しでも楽しくなるようにと、好きな草花を持ち寄って植えているうちに今の姿になったとのこと。今後は、バラが好きな人は「バラ組」、椿が好きな人は「椿組」、グラスの好きな人は「グラス組」というように、いくつかのグループを作って、学校のクラブ活動のように楽しく学べる場所にしていきたい、と源さん。 バラ園の宿根草も、グラスガーデンのミューレンベルギアも、ダイナミックに景色を作る源さん。人生の目標もダイナミックで素敵な源香さんが、今後どんなガーデンをつくってくれるのか、今から楽しみです。
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ガーデン
宿根草が風に優しくそよぐ愛知・牧さんの庭
庭を会場にした写真講座を開催 僕がはじめて牧さんにお会いしたのは2012年12月、名古屋在住の友人の紹介で牧さんのお宅で写真講座をさせていただいた時になります。 その当時は、写真講座をよくやっていましたが、ほとんどの開催が東京中心。たまに大阪で開催したこともありましたが、名古屋周辺での写真講座は初めてでした。 名古屋周辺はコッツウォルドストーンやテラコッタなどガーデン資材を輸入してお庭をつくっている職人さんもたくさんいらっしゃるし、岐阜の「花フェスタ記念公園」も近隣にあるので、ガーデニング熱の高い地域だということは聞いていました。 写真講座の当日もガーデニング関係の仕事をされている方や、フェイスブックのお友達など多くの方が来てくださり、賑やかな写真講座となりました。開催日は12月でしたから、翌年のオープンガーデンに改めてお邪魔することを牧さんに約束し、その日は帰りました。 庭の最盛期に初訪問 翌年のオープンガーデンに伺って、バラ咲く牧さんの素晴らしい庭を拝見して以降、この地域周辺に来た際には必ずお邪魔させていただくようになりました。 そして、2016年の5月末、花フェスタ記念公園でいつものようにバラの撮影をしていて、日も暮れてきたから、そろそろホテルに帰ろうかと思っていた時のこと。偶然、産経メディックス『New Roses』編集長の玉置一裕さんと「花ごころ」の村田高広さんにお会いして、夕食に誘っていただきました。 可見市のイタリアンレストランでの食事中の話題は、もちろんバラです。最新のバラの話に盛り上がっているなかで、玉置さんに「今度『New Roses』でお庭の実例紹介のページはいかがですか?」と聞いてみたところ、それは面白いと気に入っていただき、翌年の春に撮影をして秋号で掲載という約束をいただきました。 撮影したいのは、ニューローズの咲く庭 『New Roses』での仕事は、これが初めてになりますから、気合を入れて取材に伺うお庭を考えてみるものの……。僕の得意なバラはオールドローズですから、オールドローズが咲く美しい庭ならすぐに頭に浮かぶのですが、玉置さんからの条件はただ一つ「ニューローズの咲くお庭でお願いします」だったのです。 『New Roses』を開きながら「これらのバラが咲いているお庭は?」と考えてみてもすぐには思いつきません。自分で考えても分からないなら誰かに聞くしかありません。ニューローズというと「バラの家」の木村卓功さんの「ロサオリエンティス」、「河本バラ園」、花ごころのフレンチローズの「デルバール」が咲くような庭を探せばいいかなと思い至って、早速フェイスブックで繋がっている友達に連絡をとってみることにしました。 予想通り「ロサオリエンティス」が咲く庭は千葉にあり、河本純子さんのバラが咲いているというのは以前Garden Storyにも登場していただいた内田美佐江さんの庭、そして「デルバール」のバラが咲くであろう庭は、名古屋で2軒がすぐ浮上し、そのうちの1軒が牧さんのお庭でした。 バラの最盛期に合わせて訪問 名古屋周辺のバラの撮影は、例年ですと5月20日前後です。この年も、2週間前から牧さんにバラの開花状況を確認しながら、2017年5月24日の午後3時にお庭に到着。天候は晴れ。以前は納屋だったという外壁が黒く塗られた可愛い小屋を一面に覆い咲く「小松バラ園」作出の‘芽衣’と「デルバール」の‘ビアンヴニュ’、そして、大小のピンクのバラが目に飛び込んできました。 小屋の手前にはグラスが風になびき、宿根草がさまざまに咲いていますから、僕はただこの絵になる小屋の真正面に立って、夕方の優しい光になるのを待てばよいだけでした。5時過ぎ、斜めからの優しい光が差し込んできてピンクのバラが輝き出したので、三脚にカメラをセットして撮影を開始。ゆっくり光の変化を確認しながら30分後には撮影を終了しました。その後、敷地の奥にある、以前は家族の畑だったというエリアをナチュラルな宿根草の庭に変える計画話をうかがって、その庭が完成したらまた撮影させてくださいねと約束して帰りました。 新エリアのナチュラルガーデンの成長 2019年5月17日には、約束の出来立てのナチュラルガーデンを撮影してGARDEN STORYにいち早く載せようと思ったものの、牧さんのお庭が何と同年に開催されたGARDEN STORYのバラのフォトコンテストで編集長賞を受賞したことから掲載時期の調整に続けてコロナ渦が重なったため、今年2021年の5月8日に改めて撮影に伺うことができました。 2019年の庭はまだ初々しい宿根草の庭でしたが、今年は、よりナチュラルな植栽に変わって、おしゃれ度も増した素敵なお庭になっていました。撮影時期が延期されましたが、改めて撮影に行くことができよかったと、つくづく思いました。 牧さんの庭のご紹介動画もぜひご覧ください。
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ガーデン&ショップ
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。千葉県八千代市のレストラン「貝殻亭」
38年ガーデナーによって守られてきたバラ 今回ご紹介する庭は、毎年4月の後半になると、ナニワイバラが屋根一面を真っ白に覆い尽くすことで有名な、千葉県八千代市勝田台のレストラン「貝殻亭」です。この「貝殻亭リゾート」を運営する株式会社ジー・ピー・アイの代表取締役社長の岩﨑肇氏は、地元の佐倉バラ会の理事長。つまり、このレストランとバラは、深い絆で結ばれているのです。 有名な屋根のナニワイバラのほか、ケーキショップの壁にかかるモッコウバラ、2階のカフェの入り口に繋がる橋にはサクライバラと、「佐倉ミステリーローズ」ガーデン内には、ノバラや原種系のバラがいろいろ植えられています。 今月のストーリーの主役、屋根一面を覆うナニワイバラは、1984年に先代のオーナーが植えたもので、それ以来38年間、その時々のガーデナーさんたちによって大切に育てられてきました。 バラ仲間と会食や写真講座などで幾度も通う 僕がこのナニワイバラで有名なレストランを初めて知ったのは、多分25年くらい前のことだと思います。当時はすでに雑誌などでバラの撮影を始めていた頃。家内が、どなたからか、バラで有名なレストラン「貝殻亭」のことを聞いてきてくれて、「今度行ってみようか」なんて話をしたんだと思います。その時すぐに伺ったかどうかは覚えていませんが、その後、プライベートやオールドローズ関係の友人との食事会などで、数回伺ったことがあります。 また、一番思い出に残っているのは、2012年に2階のカフェスペースで「ガーデンサロントーク写真講座」をさせていただいたことです。当日はたくさんの知り合いやお客様に来ていただいて、スライドを使っての講座でした。その後はオシャレなランチを食べながらの質問タイムなど、楽しい時間を過ごしたことを覚えています。 その後も何回か雑誌やバラ図鑑用の写真の撮影などで伺って、ナニワイバラやサクライバラなどを撮らせていただいています。 最近では、3年前に河合伸志さんの著書『美しく育てやすいバラ銘花図鑑』の仕事で、夕方まで屋根一面に咲くナニワイバラの撮影をさせていただきました。 2021年の開花最盛期に早朝撮影 今回の撮影は、4月23日の早朝に行いました。千葉市内の自宅から勝田台の「貝殻亭」までは約10km、午前4時半に家を出て5時前には到着しました。静まり返った駐車場に車を止めて、外に出て空を見上げると、青い空には雲一つなく、東側はもう明るくなり始めています。まずは、ナニワイバラの咲く屋根の正面に行ってみると、南東の方角を向いた屋根にはまだ朝陽が当たっておらず、ボンヤリとした光に包まれています。撮影を始めるまでにはまだ少し時間がありそうなので、もう一度駐車場側に戻って、別の撮影場所の確認をしました。 ケーキショップの壁際のモッコウバラ、ガーデンに向かう階段を上って2階カフェに向かう橋の佐倉ミステリーローズ、そしてサクライバラの咲き具合をチェックして、再びナニワイバラが咲く側に戻りました。屋根のそばまで近寄ってみると、どの花もちょうど咲き出したところのようです。屋根全体のどこを見渡しても、咲き終わった花は一つもありません。今日は最高のコンディションの花を最高の朝の光で撮影できるぞと、思わず気合いが入りました。 日射しが強くなる前にアングルを決めて、光がよくなるのを待つことに。三脚を担いで右に行ってはファインダーを覗き、もう少し左かなぁとまた歩き……などしていると、画面の右側(東側)の屋根の先端に朝陽が差し、輝き始めました。こうなると、もう時間の問題。朝はあっという間に太陽が昇り、強い光が上から差し込んできます。花は反射板を使ったように真っ白になって質感も何もなくなってしまうし、花の影は真っ黒になって、とても撮影ができる状態ではなってしまいます。 朝日に輝くバラの美しい瞬間を撮る シャッターを押すタイミングは、太陽が屋根を越えた瞬間に現れる魔法の光に包まれたほんの5~10分の間です。右は夜間用のライトのポールがギリギリ入らないようにアングルに注意して、左はナニワイバラの枝の先端までと決めました。あとは、朝の光が東側から屋根を越えてナニワイバラに沿って優しく差し込んでくるのを待つだけです。 まだ少し肌寒い中で待つこと5分くらいだったか……。朝日が屋根を越えた瞬間、あたり一面がふぁーっと明るくなって、ファインダーの中に見えるナニワイバラも輝き出しました。魔法の時間の優しい光に包まれた、カメラマンにとってとても幸せな時間の始まりです。あとは2、3分おきにシャッターを切って、光が強くなりすぎたところで撮影は終了。 ナニワイバラを撮り終えたら、急いで駐車場側に移動して、モッコウバラを。サクライバラは終わりかけていたので、佐倉ミステリーローズを撮って、7時過ぎに撮影はすべて終了しました。 取材協力/貝殻亭
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ガーデン&ショップ
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。「京成バラ園」の早春花見散策
冬から春に撮影モードも切り替えの時 今年は例年より少し早い3月中旬、各地でサクラの開花の声が聞こえ出しました。この知らせが届くと、僕の仕事もようやく冬モードから春モードに切り替わります。冬の間は生産者さんを訪ねて、ハウスの中でビオラやクリスマスローズの花の写真を撮らせてもらうことが多いのですが、当然ハウスという限られたスペースで、さまざまな制約もある中での撮影になります。それはそれで嫌いではないのですが、季節が変わって早春の庭に出て屋外の撮影になると、新緑の優しい緑に包まれた庭にいるだけで気持ちがいいものです。 撮影を始めると、足元には草花や小球根が咲いていたり、上を見上げれば花木が無数の花を咲かせていたりします。それらの花たちを自由に自分のスタイルで撮影ができるこの季節が来ると、毎日のように翌日の天気予報を確認し、どこに行って何を撮るか、予定を立てるのですが、想像するだけで嬉しくてワクワクしながら過ごしています。 通い慣れたバラ園の早春の風景とは 例年、春の庭の撮影は、まず2月後半、群馬県太田市の「アンディ&ウィリアムスボタニックガーデン」のスノードロップから始めていました。しかし、皆さんもご存じのように、残念ながらガーデンは昨年11月に閉園してしまいました。そのため、今年の撮影は叶わなかったのですが、Facebookを見ていると友人が投稿していた春の草花や花木が綺麗に咲いている京成バラ園の写真に目がとまりました。このバラ園は、5月のバラの時期は毎週のように通っていることもあり、奥にある池のエリアにいろいろな花木があるのも知っていたし、それらの木々が花をつけている景色も想像できたので、今年は早春の京成バラ園をカメラに収めてみることにしました 記憶を辿って早春の花たちに会いに行く 3月19日午後2時。その日は快晴でとても暖かく、園内には数人のお客さんもいて、芝生のエリアでは子ども連れの家族が遊んだりしていました。そんなのどかな雰囲気の中、カメラを担いでバラ園の入り口から向かって右奥にある‘フランソワ・ジュランビル’の大きなアーチをくぐり、池のほうに歩いていくと、右手に満開のヒュウガミズキ、後ろにはマンサクも咲いています。さらに園路を進むと、右側の原種のバラのエリアでは、バラの周りにクリスマスローズが植栽されていたり、左側のアジサイのエリアには、小球根やさまざまな草花がプラスされたりしていました。 狙い以上のシチュエーションをカメラに収める その日は黄花のスイセンがちょうど見頃を迎えていて、池の周りのサクラもいい咲き具合。どちらを向いても早春の草花がとても綺麗でした。そのまま歩を進めた先にある斜面のさらに奥が、今日のお目当てだったクリスマスローズの群落のエリアです。もう随分前に植えられた株なので、どれも皆、大株に育っていて、なかなかの迫力です。背景には濃いピンクのモクレンも満開。その足元には黄色いスイセンまで咲いて、まさに狙い以上のシチュエーションでした。 撮影に適した光になるまで花風景を探す 到着した時間はまだ少し日射しが強かったので、別カットが撮れそうな場所を探しながら、もう少し池の周りを歩くことにしました。クリスマスローズの群落+モクレンの撮影は、光が柔らかくなるまで待つことにして、ひとまず坂を下りました。バラ園のほうに戻ってみると、そこではユキヤナギの大株が花を無数に咲かせ、後ろには柳の新緑、さらにその奥にはサクラが咲いていて、これも100点満点のカットが撮れそうで大満足。 光が柔らかくなるまで、まだ時間がありそうなので、オールドローズのエリアで新芽をチェックしたり、京成バラ園のヘッドガーデナーである村上敏さんが作っている花壇に行ったりしながら、午後3時半頃からクリスマスローズの撮影を開始しました。最高に綺麗な太陽の光の中でカメラを構え、白い花をセンターにして後ろのピンクのモクレンの入れ方を考えながら何枚かシャッターを切ったら、急いでユキヤナギの場所へ。 ここも柔らかい逆光になっていて、ユキヤナギの白×柳の明るい新緑×桜のピンクのコンビネーションがため息が出るほど綺麗でした。ゆっくりファインダーの中でアングルを確認してシャッターを切った後、他の場所の桜や早春の花木の撮影をして5時少し前に撮影を終了。心ゆくまで納得の撮影ができた、幸せな一日でした。
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ガーデン
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。冬枯れに美を見る宮崎県「綾ナチュラルガーデン錦原」
ピート・アウドルフ氏に影響を受けて 今月ご紹介するのは、宮崎県綾町にある「綾ナチュラルガーデン錦原」、冬枯れの庭です。3年前の春に、長野県須坂市の園芸店「GARDEN SOIL(ガーデンソイル)」の田口勇さんからピート・アウドルフさんの写真集を見せてもらい、その時、枯れた庭の美しさに目覚めて撮影を始めました。その後、ピート・アウドルフさんの映画『Five Seasons ガーデン・オブ・ピート・アウドルフ』を鑑賞したこともあり、近年、僕の一番興味のあるテーマが「冬枯れの庭」になったのです。 2017年11月、紅葉の「GARDEN SOIL(ガーデンソイル)」の撮影を皮切りに、北海道の「大森ガーデン」、神奈川県愛甲市の「服部牧場」、群馬県太田市の「アンディ&ウイリアムスボタニックガーデン」、横浜の新港中央広場に清里の萌木の村……、と機会があるごとに撮影を続けてきました。そして12月、僕の冬の撮影のもう一つのテーマ「宮崎育種ビオラ」の撮影も兼ねて訪れた宮崎滞在の2日目の朝、日の出とともに撮影したのが、今回ご紹介する「綾ナチュラルガーデン錦原」の写真です。 朝日が昇る前にガーデンに到着 当日は日の出が7時だったため、宮崎市内のホテルを6時過ぎに出発。まだ薄暗い道を車で走りつつ景色を眺めながら、7時少し前に馬事公苑の交差点に到着しました。ガーデナーの平工詠子さんのSNSの投稿で、あまり広くはない道沿いのガーデンだということは分かっていたし、薄暗い光の中でも黄色いマムや赤いコリウスがはっきり見えたので、ここで間違いないと確信し、邪魔にならない場所へ車を止めて庭に入っていきました。 ちょうど正面の空が明るくなってきました。その方角が東で逆光、右手が南側で庭の奥は田園風景。そのさらに奥には山並みが見え、左手が北側で馬事公苑があり、共にサイドからの光になります。僕は常々、ガーデンの撮影の時の基本のライティングは、サイドからの光にしています。この庭の場合は、馬事公苑側に立って南の方向にレンズを向けるか、南の山に背を向けて馬事公苑の方向にレンズを向けて撮るのがサイド光になります。また、時々はレンズを東に向けて、逆光でドラマチックな撮影をすることもあります。 光の確認の後は、庭の真ん中に立ち、ぐるっと見回してよいアングルを探します。幸い撮影の邪魔になる電信柱や畑の網などの気になるものは何もなく、どの方向を向いてもとても綺麗でした。そうこうしているうちに、そろそろ日の出の時間が迫ってきたので、急いで車に戻り、カメラをセットしていると、東の空から一筋の光が差し込んできて、庭が一気に輝き出しました。 ちょっと肌寒い、静かな日の出の瞬間。神々しいとさえいえる光に包まれた「綾ナチュラルガーデン錦原」の撮影開始です。レンズを南や北に向けてサイドの光で庭の全体を撮ったり、太陽が低い位置まで上がってきたところでレンズを東に向けて、ちょっとドラマチックな逆光の撮影をしたり。庭の中を走り回って、時計が8時を回る頃に撮影は終了しました。 美しい冬枯れの庭の撮影を終えて 12月12日の夜。自宅のある千葉に帰って、すぐに写真をPCに取り込んで写真チェックをしてみると、狙い通りの美しい冬枯れの庭が写っていました。が、撮影は終始僕一人でしたし、終わった後はすぐに宮崎市に戻ってビオラの撮影だったため、「綾ナチュラルガーデン錦原」の関係者の方とはお会いしていませんでした。 よい撮影ができたので『Garden Story』に掲載したいと思っていましたが、あいにく連絡先も分からず、宮崎の「こどものくに」のガーデナー、源香さんに聞いてみようと思っていたら、偶然にも僕のSNSに「綾ナチュラルガーデン錦原」の写真がアップされていました。すぐにそこから「みんなでつくる綾町花壇プロジェクト」にメール送信。自己紹介とGarden Story掲載の許可をお願いすると、ものの10分もしないうちにガーデナーの谷口みゆきさんから返信が。そのすぐ後、役場の田牧さんからも連絡をいただきました。返信を待っている間に僕のSNSにアップしていた写真を見て、お二人ともとても喜んでくださったようで、掲載の許可もいただきました。 綾町に根付いている花を育てる習慣 この原稿を書くにあたって、谷口さんと田牧さんのお二人から町の話を伺ったのですが、綾町は50年ほど前から「花いっぱい運動」を展開し、町のあちこちに花壇があったそうです。じつは、どうして宮崎の綾町にこんなに今風なコンセプトのガーデンがあるのだろうと不思議に思っていたのですが、綾町には「花を育てる、庭を楽しむ」という習慣が昔からあったのですね。 町と住民のボランティアさんが一緒になって庭をつくり、花を楽しむ。そのために平工詠子さんのような専門家を招いて勉強もする・・・美しい自然の中で、こういった環境がしっかりできあがっている綾町。宮崎県に、また一つ好きな場所ができてしまいました。次回は、庭の周囲にある桜が咲く頃に撮影に伺いたいと思います。
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ガーデン&ショップ
「中之条ガーデンズ」の魅力、苦労話、メンテまでバラの専門家・河合伸志さんにインタビュー!
河合伸志さんにズバリ質問! 感動分岐点を超える「中之条ガーデンズ」の魅力 群馬県中之条町にある「中之条ガーデンズ」には、冷涼な気候を生かした、バラや植物の生き生きとした色彩に目を奪われる美しいバラ園があります。このバラ園の植栽デザイン・管理指導は、「横浜イングリッシュガーデン」のスーパーバイザーも務めるバラの専門家、河合伸志さん。そんな河合さんに、バラ好きさんなら一度は訪れたい、「中之条ガーデンズ」の魅力を伺います。 Q. 全国の美しいガーデンの中でも、「中之条ガーデンズ」ならではの魅力は? 「中之条ガーデンズ」の魅力は、なんといっても一つのバラ園の中で、違った景色を散策しながらいくつも楽しめることですね。各地にあるバラ園の多くは、入り口で全体を見通せることがしばしばです。これはこれでスケールを体感できてよいのですが、全てが一度に見えてしまうため、奥まで行く楽しみが半減します。ですが、この「中之条ガーデンズ」は、あえて小さな庭に分け、入り口からは全てが見渡せないようにしたことで、園路を進む楽しみがあります。これは中之条ガーデンズ全体のランドスケープを担当した吉谷博光さんと私の考えによるものです。 また、バラと合わせるアーチなどの構造物は、すべて吉谷博光さんデザインのオリジナルで準備しました。「美味しい料理は美しい器に美しく盛り付ける」というのが私の考えですが、「中之条ガーデンズ」では、最高の器を準備できたと思っています。ぜひ、バラと構造物とのハーモニーも楽しんでいただきたいです。 Q.「中之条ガーデンズ」のコンセプトを教えてください! じつは、このガーデンには明確なコンセプトがありません。「中之条ガーデンズ」の「ガーデンズ」とは、いくつかの庭が集まっているという意味合いで、ガーデンズ全体のプロデュースは、「あしかがフラワーパーク」の大藤の移植でも知られる樹木医の塚本こなみさんが行っています。私がどのようなコンセプトでバラ園をつくればよいかと塚本さんに尋ねたところ、「感動分岐点を超えるものにしてください」と言われました。ですので、強いて答えるならば、「感動分岐点を超えるバラ園」でしょうか。 Q.「中之条ガーデンズ」で見逃さないでほしい見どころスポット&個人的なお気に入りスポットはどこでしょうか? 「中之条ガーデンズ」の一番の見どころは、やはり満開に咲くバラのガーランドでしょう。開花のピークは、一年にほんの数日間ですが、この最高に美しい瞬間を見ていただきたいです。特に奥の八角形のガーランドのエリアは、サークル・ベンチに座ると、まさに四方をバラに囲まれ、より芳しいバラの香りが漂います。「中之条ガーデンズ」を訪れたら、ぜひこのベンチに腰掛けて、瞼を閉じて思いっきり香りを吸い込んでみてください。至福のひとときが味わえることと思います。 ガーランドのあるエリアでは、ガーランドの柱の縦ラインを生かすため、あえて樹木はファスティギアータ(箒性)のものを選んでいます。バラの美しさはもちろんですが、背景の樹木にも目を向けていただけると、よりこのガーデンを楽しめますよ。 河合伸志さんが語る 「中之条ガーデンズ」の制作&管理秘話 「中之条ガーデンズ」に、河合さんが主なバラや樹木などを植え付けたのは、2018年7月のこと。それから、2020年6月現在の美しい姿になるまで、約2年弱。この間、ガーデンをより美しく管理・維持するために、ガーデナーや町の職員さんたちは日夜さまざまな作業を続けてきました。また、「中之条ガーデンズ」のある群馬県中之条町は標高が高く、冷涼な気候が特徴で、平地のガーデンとは異なる品種選びや管理が必要です。そんなガーデン制作や管理の裏側のエピソードを、少しだけご紹介します。 Q. 河合さんがスーパーバイザーを務める「横浜イングリッシュガーデン」と比べて、異なる点はありますか? 大きく異なるのは、バラの品種選びの基準です。「中之条ガーデンズ」ではバラの品種を決めるに当たり、それぞれのエリアの景観イメージにマッチすることを第一に優先して選びました。次に基本的に四季咲き性の品種で、しかも可能な限り秋の開花数が多いことを考慮しました。従ってオールド・ローズは一部を除き植栽していません。一方の「横浜イングリッシュガーデン」では、バラはコレクションの意味合いも持たせているため、性質が弱いものや、秋には咲かない品種、花数が多くない種類なども含み、歴史上意味のある品種や、コレクションとして価値があるものであれば植栽しています。それぞれのガーデンのコンセプトに合わせたバラを楽しんでいただきたいと思います。 また、当たり前ですが気候の差を考慮し、寒さに弱い植物は中之条では使用していません。逆に多少耐暑性に欠けているものでも、このガーデンでは見ることができます。 Q. 美しい景観を守るための、病害虫対策はどのようにしていますか? この景観を薬剤散布なしでつくり出すことは難しいため、多いシーズンでは1週間に1回のペースで薬剤を散布しています。地域的に、春と秋はベト病の問題がありますし、バラは景観のイメージに合うことを重視して選んでいますので、黒星病やうどんこ病に弱い品種も植栽されています。この春もベト病が発生してしまい、一時的に危機的な状況に陥りました。幸い、病葉の摘み取りと薬剤散布によって、かろうじて首の皮一枚で何とか持ち直しましたが…。 Q. ガーデンの制作・管理にあたって、想定外だったことや困ったことはありましたか? 標高の高い山間部にある「中之条ガーデンズ」は、そもそも平地よりも生育期間が短く、さらには冬の寒さが厳しいため、バラは品種によってはおおむね8月までに生育した枝しか越冬できないことが分かってきました。9月以降の枝は未熟(十分に光合成できていない)なうちに冬を迎えるので、厳しい寒さに耐えられないのです。そのため、平地ではつるバラとして扱える品種でも木立ち性として扱えることもある反面、つるバラとしては伸長力不足の場合もあります。また、山沿いの地域のため夜露が発生しやすく、平地ではめったに発生しないベト病に悩まされています。 また、寒さが厳しいため、常緑広葉樹は種類を選ばないと越冬できないようです。トキワマンサクやセイヨウヒイラギ‘サニー・フォスター’はギリギリ越冬できていますが、ヒメユズリハは寒さで枯死してしまいました。ツバキやヒラドツツジなども、防寒をしても多少の傷みが発生します。今後周囲の樹木がもう少し大きく生育し、完全に樹下に入ればそこまで傷まないのかもしれませんが…。一方、ヤマボウシ‘ヴィーナス’などは、平地では見ることができない本来の特性が存分に発揮され、人目を惹き付ける巨大な花を咲かせています。これは「中之条ガーデンズ」の気候ならではですね。横浜での姿しか見ていなかった「横浜イングリッシュガーデン」のガーデナーなどは、その姿を見て平地での限界を嘆いていました。 下草類では、ヘデラは場所と品種を選ばないと越冬できません。また耐寒性がある宿根草でも、秋植えでは枯死してしまうことがあり、品種によっては早春植えにする必要があります。半面、夏がやや涼しく短いため、平地では夏越しできない植物も生き残っているようです。中にはリグラリアや黒葉のクローバーのように平地で管理するよりも大きく育ちすぎ、株数を減らさなくてはならないほど旺盛に生育するものもあります。 河合伸志さんからアドバイス! 自宅のガーデニングに生かせるアイデア&テクニック集 美しいガーデンを堪能したら、自宅の庭にも生かせるガーデンづくりのコツを知りたくなるのがガーデナーの性。「中之条ガーデンズ」をお手本に、美しいガーデンをつくるためのポイントやテクニック、おすすめの植物の組み合わせについて、河合さんにアドバイスをいただきました。さっそくチェックして、自宅のガーデンで実践してみましょう! Q.「中之条ガーデンズ」に使われているテクニックの中で、個人の庭で実践できることを教えてください! 「中之条ガーデンズ」では、バラの組み合わせで、枝変わりの品種を上手に用いているシーンがあります。枝変わりの品種のうち、色違いのパターンは、花色以外の特性が同じなので、株姿や咲く時期などがピタッと揃い、理想的な景色になります。異品種でこの演出をしようとすると、なかなか相性のよい品種を見付けることが難しいのです。例えば自分の庭でアーチにバラを植える場合、同様に枝変わりの品種を合わせるテクニックを用いると、開花や咲き姿が揃った見事なアーチを作ることができます。 色違いの花が咲く枝変わりの品種の具体例には、‘ピエール・ドゥ・ロンサール’と‘ル・ポール・ロマンティーク’、‘サマー・スノー’と‘春霞’、‘珠玉’と‘玉鬘’、‘レオナルド・ダ・ヴィンチ’と‘アントニオ・ガウディ’などがあります。ぜひ参考にしてみてください。 Q. ガーデニングを始める人へ「イメージ通りの庭をつくるための、はじめの準備」のアドバイスは? 最初に、庭のイメージに合う植物がどのような性質(開花期や生育の早さ、好む環境など)のもので、どのように姿を変化させながら生育していくかを、ある程度知っておくことが重要です。簡単なようにも思えますが、決してそうではなく、地域によって大きく変わりますし、たとえ同じ庭の中であっても、微細な差で育つ場所もあれば、そうでない場合もあります。ネットや書籍、地域のガーデンの見学などをしながら調べましょう。もっとも、こうして厳選した植物で計画を立てても、それだけでパーフェクトなものはできません。後は状況に応じて手直しをして、よりイメージに近づけていきます。 近年のガーデニングでは即興の寄せ植えやハンギングなどが人気です。これらはイメージに合った植物をその場で選び、すぐに完成しますが、庭はそんなに短期間でできるものではなく、少なくとも1年以上かけてつくり上げていくものです。単純に見た目で選び、枯れたらまた植え替えればよいという発想からまず脱却することが、イメージした庭をつくるための近道かもしれません。 Q. 魅せるガーデンづくりで押さえるべきポイントは? ガーデンの設計図は、通常上からの方向で作成されていますが、実際の庭での人の視線は横向き。そこで、まずは現場をしっかりと自分の目で把握し、空間全体を摑むことが大切です。どこにポイントとなるものを置くべきか、そのポイントはどの程度の大きさのものがよいか、どこに園路を設けるべきかなどを考えていきます。ポイントを樹木など植物とした場合、成長に伴って変わっていくその将来像を見据える必要もあります。このようにして、ガーデンデザインの骨格を最初に決めます。 次に、具体的な植物を配置する際には、色彩計画をしっかり立てておくことがポイントです。特にバラのように派手な花は、あれこれ色を混ぜると目がチカチカするような印象になり、今一つまとまりがなくなります。一番簡単なのは、同系色でまとめる方法。慣れてくれば反対色を上手に使用したり、トリカラーなどの組み合わせにチャレンジするのも一案です。また、色と同時にポイントとなってくるのが形状です。隣同士に同じ形状のものがひたすら並ぶと、凹凸のない公園のサツキの植え込みのようになってしまいます。なるべく異なる形のものをバランスよく並べて、変化のある景観を目指しましょう。なお、植物の配置の際は、図面では気付きにくい植栽地の背景や、樹陰の裸地など、見落としがないかの確認もしましょう。 Q. バラと合わせるおすすめの組み合わせを教えてください。 ガーデニング初心者向けのおすすめは、定番ですが、オルラヤやシノグロッサム、ネペタ(キャット・ミント)‘シックス・ヒル・ジャイアント’、サルビア・ネモローサ‘カラドンナ’、ヤグルマギク、ジギタリス・プルプレアなど。このうちシノグロッサムは平地では秋植えするのが理想的ですが、中之条など寒冷地では早春植えにしたほうが無難なようです。 Q. 植物を元気に生育させる秘訣はありますか? 植物の健全な生育の秘訣は、常に植物と向き合うこと。そして向き合いながら、植物に今どのような作業が必要かを感じ、適宜実施していくことです。そして、このことこそが庭づくりの醍醐味だと思います。手入れによって、誰よりもいち早く季節の到来に気付いたり、自分の行った作業でみるみるよくなっていったり。ガーデン作業はすぐに結果が出るものばかりではありませんが、植物が見せてくれる変化は、管理者に大きな喜びを与えてくれます。庭は設計・施工も大切だと思いますが、もしかしたらそれ以上に管理が重要かもしれないと、私は考えています。 「中之条ガーデンズ」に行ってみよう! 平地での開花が終わってから咲き始める中之条のバラは、涼しい気候のもとで咲くため、平地よりもずっと色鮮やか。中には同じ品種とは思えないほどの変化を見せるものもあります。また開花の早晩の差が平地よりも少なく、一気に花を咲かせるため、ピークがやや短い反面、満開時はとても華やかです。 バラの開花時の「中之条ガーデンズ」は、バラ園はもちろんのこと、スパイラル・ガーデンやパレット・ガーデンも楽しめますので、訪れた際にはぜひ、ゆっくりと時間を取って園内を散策してみてください。 また、中之条町には泉質が高く名湯とされる四万温泉や沢渡温泉などの観光スポットもあります。時間に余裕のある方は、1泊してたっぷりと楽しむのもおすすめです。同じ群馬県内の草津や伊香保の他、長野県側の軽井沢や上田方面にも抜けられますので、週末の小旅行に訪れてみてはいかがでしょうか? ●7つの景色が楽しめる新ローズガーデン誕生!「中之条ガーデンズ」に行ってみよう!