花の少なくなる晩秋から年末にかけて、一斉に出回り、窓辺や庭に彩りを添えてくれる鉢花シクラメン&ガーデンシクラメン。赤や紅色の鮮やかな花色や、珍しいブルーの花や豪華なフリル咲き、ストライプ模様の花など、シクラメンは今も進化しています。続々登場して選ぶのも楽しいシクラメン 「ワンシーズン楽しんだら終わり」と思われがちなシクラメンですが、コツをつかめば翌年以降も花を咲かせることができますよ。
目次
シクラメンとはどういう花が咲く植物?
シクラメンは、サクラソウ科シクラメン属の多年生球根植物。原産地は、北アフリカから中近東、ヨーロッパの地中海沿岸にかけて。いずれも、夏に高温になっても湿度が低く、冬も比較的温暖な地域です。そんな環境のもと、野生のシクラメンは、低木の下や岩場などで群生しています。原種には、春に葉が出て開花する“春咲きタイプ”と、秋に花が咲いてから葉を出す“秋咲きタイプ”がありますが、現在出回っている園芸品種のほとんどが春咲きの「シクラメン・ペルシカム」から作出されたものです。
ヨーロッパでは、その球根を豚が食べることから「豚のパン(Sowbread)」と呼ばれていたため、明治時代に日本に入ってきたときには、「豚の饅頭」という和名に。その後、植物学者の牧野富太郎氏により、「カガリビバナ」という名前がつけられました。花びらが反り返って咲く様が見事に表現された美しい名前ですね。
日本では冬の鉢花の代表ともいえるシクラメン。華やかな姿でクリスマスや年末のギフトとしても人気です。その反面、「花が終わったらおしまい」のイメージを持つ人も多いようですが、シクラメンは球根を持つ宿根性植物。きちんと管理してあげれば、何年も楽しめますよ。
毎年新品種が登場して、突出した特徴があるものを除けば、一目では見分けがつかないほど多くの品種が出回っています。赤やピンク、白という従来からの花色に加えて、ブルー系やクリーム・黄色系など、今までなかったような色の品種も登場。さらに、覆輪や花弁がフリル状になるフリンジ咲き、花弁にウェーブがかかったロココ咲き(パピリオ咲き)、八重咲きなど個性的な花形も人気です。加えて、葉の美しさが注目されることも。ハート形(卵形や腎形のものも)が特徴的な葉は、緑色系と銀色系に大別できますが、光沢や斑の入り方など千差万別。花色とのコントラストにこだわってみてはいかがでしょう。
長く花を楽しめる!シクラメンを上手に咲かせる管理方法
シクラメンは上手に管理すれば5月頃まで長く花を楽しめるのも魅力です。長く咲かせるための3つのポイントをご紹介します。
① 気温に応じて置き場所を変える
シクラメンを購入したりプレゼントされた場合、どこに置いて育てますか? 日当たりの良い場所? それとも、室内の温かい場所? もしくは、玄関付近でしょうか。
シクラメンを5月まで咲かせるには、11月から5月までの約半年の期間があります。
この期間の温度変化を私たちの生活に当てはめてみると、服装は薄手の長袖からコートやダウンジャケットを羽織るようになり、連休が過ぎれば日中は半袖が快適というように約半年の間で気温が大きく変化します。でも、シクラメンは人間のように服を脱ぎ着できないので、人の手で最適な場所に移動してあげる必要があります。
シクラメンが一番快適に過ごせる温度は、10~15℃。
この温度を目安に置き場所を変えてあげるのがコツです。
② 次の花を咲かせやすくする「花がら摘み&葉組み」
シクラメンは次々と花が咲く植物ですが、咲き終わった花はそのままにしておくと種子をつけるために栄養を使ってしまいます。ですから、花がらをそのまま放置していると次の花が咲きにくくなってしまいます。
花びらが傷んできたり、花が茎から落ちてしまった花茎は早めに摘み取りましょう。
シクラメンの花がら摘みのコツは、花茎をつまんで花茎を捻るだけ。ハサミなどで茎の途中から切ってしまうと、切り口が腐って灰色カビ病の原因になる恐れがあるので、必ず手で捻って付け根からきれいに取り除きましょう。
また、シクラメンの花芽は「葉一枚につき一芽つく」と言われています。そのため、葉の数を増やすことはとても大事なことです、葉組みとはシクラメンの葉を組み替えることで、葉っぱの数を増やす大切な作業のことです。
シクラメンは球根植物で葉や花は球根の中心部分から出てきます。
シクラメンを葉組みせずにそのまま育てていると中心部分に葉が集まってしまい、球根の光を感じる部分が影になることで新しい葉や花芽をつけることができなくなってしまいます。
中心に集まった葉を外側へ組み直して上げることで球根に光が当たり、次の葉や花芽が出やすくなり、また常に葉の位置が変わることで葉と葉が重なって、重なった部分が黄色く変色したりするのを防いだり、株の中心の風通しをよくして灰色カビ病が出にくくなったりと、さまざまなよい効果があるので、こまめに葉組みをしてあげましょう。
③ 水やり
シクラメンの鉢物は、ほとんどが植木鉢が二重構造で底面に溜まった水を土中に吸い上げる形式の「底面給水鉢」に仕立ててあります。
水を鉢底に溜めておけば、シクラメンが自ら水を吸い上げるため、うっかり水をやり忘れてしまい水切れする心配がないのがメリットですが、その反面、水を溜めすぎると根腐れすることも。水やりに自信がない場合は、スティック状のガーデングッズ「サスティ」を土中に挿しておけば、水やりのタイミングが一目で分かります。
翌年も花を咲かせる夏越しの方法
2年目以降も楽しむためには、上手な夏越しがポイント。夏を越させるには、葉をつけたまま管理する「非休眠法」と、葉を枯らして球根だけにする「休眠法」の2つがあります。
シクラメンの原生地は雨季と乾季がはっきりと分かれている地域で、野生のシクラメンは雨季に生育が旺盛になり、乾季には生育せずに休眠する性質を持っています。原産地での開花期は「涼しい雨季」。そして、日本では冬が開花期になります。一方、「暑い乾季」は日本では「夏」にあたりますが、高温に加えて湿度も高くなるため、シクラメンにとってはより過酷な環境といえます。ここでは、日本の夏を上手に乗り切るコツをご紹介します。
1.非休眠法
冬に購入した株の場合、4月近くになると、花数は極端に少なくなってきます。そして、5月に入り気温が高くなると、葉だけになります。枯れた花や色の悪くなった葉を取り除きつつ、普通に水をやりながら、雨がかからない日当たりのよい屋外に出して株を充実させましょう(ただし、強い直射日光に当てると葉焼けをおこすので注意)。
気温が25℃を上回る日が続くと、新葉は出なくなり、古い葉は黄変し、枯れていきます。6月に入り、葉が10枚以上残っていれば、生育させながら夏を越させる「非休眠法」が可能です。「控えめに水やりを続ける」「病害虫や根腐れに気をつける」といった手間はかかりますが、成長を止めないので株が大きくなり、10~3月までと半年近くも花が楽しめるメリットがあります。
屋外の風通しのよい場所に鉢を移動させて、水やりと薄めの肥料を与えながら育てます。蒸し暑くなる季節は、根からの給水が悪くなるので、与えすぎは根腐れの原因に。底面給水型の鉢では受け皿の水が減らず、藻が発生したり水が腐ったりするので、数日に一度は新しい水に取り換えましょう。また、普通の植木鉢では、鉢土の表面が乾くまで待ち、水を与えるときには鉢穴から流れ出るまでたっぷりとやります。
8月下旬になると、葉柄の付け根に、新しいつぼみを持った花芽が出てくるので、9月中旬頃までに植え替えを行います。
2.休眠法
葉が急激に枯れてしまい、10枚以下になってしまった株でも、球根が傷んでいなければ休眠法で夏越しできます。まずは元気な球根かを見極めます。「指で押してみて柔らかい」「カビが生えて腐っている部分がある」「一部分の葉が次々枯れていく(萎凋病などの可能性あり)」「土は湿っているのに葉が萎れたまま(根腐れしている)」といった症状があれば、残念ながら夏は越せません。
休眠させるためには、6月に入ったら意図的に水やりを止め、鉢土を乾燥させます。葉をすべて枯らして、球根だけを残すのです。球根植物の性質を利用しての夏越し法なので、球根を腐らせるリスクは低いのですが、非休眠法に比べ開花期が1カ月程遅くなるため、花を楽しめる期間は短くなります。
一度水を切ったら、8月中旬を過ぎて新芽が動き出すまで一切水は与えません。完全に葉が枯れたら、北側の軒下など涼しい場所に置きましょう。断水中に水がかかると球根が腐ってしまうので、雨はもちろん、ほかの鉢植えへの水やり時にも注意しましょう。
8月下旬になり花芽がつきはじめたら、植え替えのタイミングです。球根が堅いことを確認したら、古い土を全て落とし、古い根の2/3程度を切り落として新しい培養土で植え付けます。
シクラメンのおすすめ品種12選
赤系のイメージが強いシクラメンですが、近年では、パステルカラーや青味がかった紫など、新鮮な表情を持つ品種が毎年のように発表されています。花の姿や葉の色もじつにさまざま。育てやすい品種から、ニューフェイスまで、おすすめをご紹介します。
1.カール
細い花弁がクルッとカールした、これまでにないユニークな花形のシクラメン。草丈15cmほどのミニサイズですが、個性的な花姿で存在感抜群です。「麻野間園芸」のオリジナル品種で、突然変異で現れた1株を何年も地道に種子を取り交配を続け、品種の固定に成功しました。ガーデンシクラメンほど寒さに強くはありませんが、軽い霜程度なら問題ありません。雨を避けられる軒下や室内の明るく涼しい場所が適しています。
2.ジックス
白いガクと艶やかな赤い花弁のコントラストが個性的で、バイカラーになるつぼみもおしゃれ。寒さにも比較的強いので室内でも屋外でも楽しめ、ガーデンシクラメンとして地植えも可能です。連続開花性に優れ、たくさんの花が咲き、花もちもよいため、観賞期間が長いのも魅力。鉢植えにして、上から眺めるのもおすすめ。
3.フェアリーピコダブル
八重咲きのシクラメンで、バイカラーの丸い花が愛らしく、葉っぱの模様も美しい品種。「はら園芸」の育種で、花粉が出ないため花の寿命がとても長く、非常に丈夫。花は小中輪ですが、生育旺盛で夏にも冬にも強いので、鉢増ししながら育てると年々花数が増え、見事な大株になります。
4.天使の羽
花弁がウェーブしながらうつむいて咲く姿がとても美しく、花もちが抜群。原種と園芸品種を掛け合わせて世界で初めて種間交雑に成功した品種で、30年の年月を経て生み出された奇跡のシクラメンです。耐寒性が強く屋外でも育ちますが、霜や雪には当てないほうが生育がよいようです。
5.ビクトリア
先端がフリルのように縮れ、白と赤のコントラストが可憐な品種。覆輪種の代表的な品種として根強い人気があります。品種改良が進み、フリンジ咲きや八重咲きなど多くの品種が誕生。たくさん蕾がつき、長い期間楽しめるので、初心者にもおすすめです。
6.ヴェスタ
「ビクトリア」を改良して誕生した晩生品種で、白花の中心と縁に赤が入る典型的な覆輪花。高温に強いので、夏越しさせやすい品種です。
7.ピアス
白の花弁に先端から淡くピンクのグラデーションがかかる色合いが特徴。色の変化を楽しめることで、一大センセーションを巻き起こした品種です。花びらの先がうねる〝ウェーブ咲き〟や花弁に切れ込みの入る〝ギザシリーズ〟など種類も豊富に。高温になるとピンクが入りにくくなるので、やや涼しい場所に置いてあげましょう。
8.プラチナリーフ
茨城県の長谷川園芸が作出した品種「プラチナリーフ」は、光沢のある銀色の葉が特徴。光を当てるとピカピカと輝く葉は、カラーリーフとして寄せ植えにも重宝しそう。開花時期が12月からと長いので、クリスマスの装飾にも適しています。花型も良く、色はピンクとパープル、赤、ライトピンク、白、バイオレットの6色。
9.パピヨン
丸みを帯びた花弁が飛んでいる蝶を思わせる花姿。濃い桃色の縁に、刷毛で入れたような白い斑が特徴的。
10.黄色系品種
珍しい黄色系のシクラメンも登場しています。黄色みがかかったアイボリーの花の「ネオゴールデンボーイ」と、中心部分に口紅をさしたような「ネオゴールデンガール」などがあります。
11.ブルーシクラメン
パープルや暗紫といった青味が強い花色のシクラメンも続々登場しています。サントリーが出した「セレナーディアシリーズ」は〝ライラックフリル〟など趣の異なる3色を展開。ほか、〝江戸ノ青〟〝胡蝶〟といった美しい紫色の品種が人気です。ブルーの品種紹介はこちら。
12.コウム
コウム(Cyclamen coum (Eastern Sowbread))は、一般的な園芸店などでも入手しやすい原種のシクラメン。花色は白から濃いピンク、紫までと幅広く、丸みを帯びた葉が特徴です。耐寒性があるので、屋外での越冬が可能。夏場は地上部が枯れて休眠します。
育てやすい品種からシクラメン栽培を始めよう
色鮮やかな花が少なくなる季節に、次から次へと花を咲かせるシクラメン。白、赤、ピンク、ブルー系に黄色系と花色だけでなく、フリンジ咲きや八重咲きなど、花姿や見た目の印象もバラエティーに富んでいます。一鉢あるだけで、冬の部屋も明るくしてくれることでしょう。まずは、育てやすい品種からチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
Credit
文 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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