おうち時間が長い時期に、家に居ながら緑に親しみたいとガーデニングを始めた人が増えている昨今ですが、広い庭がないからとあきらめている人におすすめしたいのが、インドア園芸。コンパクトかつローメンテナンスで楽しめるほか、暑さ寒さに左右されないなど、さまざまなメリットがあるインドア園芸の魅力と、始め方をご紹介します。植物が身近にある暮らしを楽しんでみませんか?
目次
ますます広がるインドア園芸の世界を楽しもう!
「ボタニカル」という言葉がすっかり定着し、植物を身の回りに置く人も増えています。
また、数年前から瓶などのガラス容器の中で苔を育てることがポピュラーになるなど、室内で植物の栽培を楽しむ人も増えてきています。
省電力で長寿命ということで、これまでの電球や蛍光灯がLEDに置き換わってきていますが、最近のLEDは、より高性能で太陽の光に近い、自然な光を出すことができるものも増え、同時に低価格化も進んでいます。
人工の照明を使って室内で野菜を栽培する、植物工場についての研究が進むとともに、室内での植物栽培の知見も蓄積され、ますますインドア園芸を楽しむための機材、道具類や情報も増えてきています。
観葉植物を楽しむのと何が違うの?
室内で栽培する植物としてポピュラーなフィカスやポトスなども、インドア園芸で楽しめます。これらは「観葉植物」と呼ばれ、主に葉を観賞するためのものとして、一つひとつ鉢植えにして育てられてきました。
観葉植物は強い日の光を必要としない、耐陰性が高い植物です。
どちらかといえば、インテリアとして部屋に置くことが多いようですが、LEDの発達などにより、植物の栽培自体を楽しんだり、花を咲かせて楽しんだり、寄せ植えを作って楽しむというようなこともできるようになってきています。
広い意味での室内園芸というものの中に、観葉植物なども含まれると考えることができます。
インドア園芸のメリット①
日の光が入らない場所でも植物を楽しめる
それぞれの好む光の強弱はありますが、植物が育つためには光が必要です。ですので、多くは日向や窓際など、太陽の光が差す場所で植物を育てることになります。
しかし、近年のLEDは太陽光に近い光を出せるものが増え、しかも安価に買えるようになってきました。
こうした照明を使えば、これまで植物を育てるには適していないとされていた、窓がないような部屋でも植物の栽培を楽しむことができます。
家庭の室内空間で育てる場合、今までは、あまり強い光を必要としない種類を選ぶ必要がありましたが、レタスなどの葉物であればLEDの光で育てて収穫することも十分可能になりました。LEDを増灯すれば、本来は日向に植えて育てる植物でも、室内で楽しむことができます。
ちなみに上の画像は、窓がないトイレで植物を育てている様子です。一年を通じて植物が生い茂り、ランやベゴニアなどの花が咲きます。
インドア園芸のメリット②
天候に左右されずに楽しめる
インドア園芸は、一年を通して室内の安定した環境で楽しむことができます。
季節の移り変わりを実感できるのは楽しいものですが、夏の猛暑や厳寒期などは、なかなか庭仕事をするのに気が進まないもの。
年間を通じて人が過ごしやすい室温に保ち、安定した環境でよく育つものを選べば、暑さや寒さにストレスを感じずに園芸を楽しむことができるのです。
台風や大雨、普段はあまり雪が降らない地域での降雪など、予想外の災害や荒天があると、何かと手間がかかるもの。
台風や大雪の予報があれば庭の樹木の枝を固定したり、雪囲いをしたり、鉢植えを取り込んだりといった備えも必要になります。また、荒天が過ぎたら過ぎたで、傷んだところの手入れをしたり、鉢を元の場所に戻したりといった後始末も必要です。
インドア園芸は、天候の影響を受けにくいので、こうした作業による身体的負担が大幅に軽減されるのもメリットです。
インドア園芸のメリット③
コンパクトサイズでローメンテナンスで楽しめる
苔テラリウムは、ガラス容器の中に入れた苔と用土で、コンパクトに楽しめるのが人気の理由の一つです。
こうした育て方ができる植物は苔以外にもたくさんあり、花が咲くものもあります。
手のひらサイズのガラス容器やガラス瓶に植物を入れて省スペースで栽培ができますし、さまざまな種類を並べて観賞するのも楽しいもの。
また、ガラス容器に入れることで、内部の環境が安定します。頻繁な水やりも不要になり、ローメンテナンスで管理することができます。
ガラス容器の中で育てれば、大きさも抑えることができます。ですので、フィカスなどの観葉植物が大きくなりすぎて困る、というようなことにはなりにくいのもよいところといえます。
インドア園芸のメリット④
土を使わず、虫の発生を抑えて園芸を楽しめる
家の中に土を持ち込むことや、持ち込んだ鉢から虫が発生するのが気になって、室内に植物を置くのに抵抗があるという人も多いのでは?
鉢植えから発生しやすい小さな虫は、多くの場合はキノコバエです。
キノコバエは腐葉土などの有機質の腐植をエサにしていますので、腐葉土を入れない用土を使ったり、そもそも土自体を使わないことで発生を抑えることができます。
土を使わない場合は、着生植物の栽培などに使う水苔や、化学繊維を使った植物着生用の布素材などを使います。
上の画像は、布状の着生材をワイヤーに巻きつけて植物を着生させ、それをボトルに入れたものです。このようなハーバリウムのようなスタイルで、生きている植物を土を使わずに育てることも可能です。
過ごしやすい室内で、椅子に座ったまま作業も観賞もできる
戸外でのガーデニングも楽しいものですが、雨が降ったり風が吹いたりと思うに任せない要素がありますし、日焼けが気になるという方もいるでしょう。
インドア園芸の場合は、そうした変化がありませんから、安定した環境で、いつでも楽しむことができます。
庭仕事は地面に植えた植物を扱うので、作業する際にどうしても立ったりしゃがんだりという動作が必要になりますが、膝や腰に故障があってそうした動作が辛いという人もいらっしゃることでしょう。
家庭で行うインドア園芸の場合は、大体の作業は机の上で済みますし、作業が終わった作品を移動させるのも簡単です。また、机や棚の上、あるいは手のひらの上に載せて植物を眺められるので、観賞の際にも立ったり座ったりの動作が必要ありません。
扱う植物も小さいので、たくさんの剪定枝を処理したり、重い用土を運んだりする必要もありません。
インドア園芸に向くのは耐陰性がある植物
日光が入らない場所で楽しむインドア園芸に向くのは、少ない光でも育つ耐陰性のある植物です。
例えば、樹木の枝や葉で覆われた森林の地面には、光があまり差しません。林床にはそうした環境に適応した植物が生えており、これらはまさにインドア園芸向きの植物といえます。
なかでも小型の種類が扱いやすくておすすめです。
室内と屋外の環境では、風の有無も大きく違います。
室内では、エアコンや扇風機の風が当たる場所を除けば、あまり空気の動きがありません。森林の林床は強い風が常に吹き抜けるような場所ではないので、そこに生える植物は、風があまりない室内での栽培に向いています。
植物を水槽やフタ付きのガラス容器に入れると水切れを起こしにくく、頻繁な水やりをしなくても済む、ローメンテナンスな園芸を楽しむことができます。
気密性の高い住宅で、通年室温が18〜25℃程度に保たれていれば、熱帯性の植物も育てることができます。
こうした条件に合う植物としては、シダや苔などがあります。また、ベゴニアやセントポーリアなどは花も楽しめます。
強い光を必要とする植物は、あまりインドア園芸には向きません。
また、サクラのソメイヨシノのように、開花するためには低温に当たる必要があるものも、室内での栽培には向きません。
光はLEDで補う
日光が差し込まない場所で植物を育てるための光源としては、LEDを使うのがおすすめです。
最近は家庭用のLED電球であっても光の性質が日光に近いものがあり、植物栽培に向く照明が安価に手に入るようになっています。
照明器具には「Ra80」「Ra95」などのような数値が書いてあるものがあります。
これは太陽の光を100とした場合に、どのくらい太陽光と同じ波長を出すことができるかを表したものです。Raが80以上のものであれば、植物を育てるのに向きます。
家庭用のLED電球のほか、アクアリウム用のLED照明も使うことができます。
アクアリウム用の照明にはLEDチップがむき出しのものがありますが、こうしたものは、あまり植物に近づけて使うと葉焼けをしてしまうことがあります。
アクアリウム用LEDを使うときは、植物から距離をとって設置するか、発光面が曇り加工されているものを選ぶようにしましょう。
照度計で明るさを確認
適切に照明を設置したつもりでも、明るすぎたり暗すぎたりすることがあります。
明るすぎると葉が焼けたり、新芽が傷んだりすることがありますし、光が足りないと徒長したり、健全に生育しないことがあります。
目で見ているだけでは本当の明るさは分かりません。照度計があると正確な数値が分かり、適切な環境づくりに役立ちます。
照度計では明るさがルクス(lx)で表示されます。暗いところを好む苔やシダは、1,000ルクス程度あれば育てることができます。耐陰性のある植物の多くは、3,000ルクス程度あれば栽培可能です。
このような照度計は、ホームセンターやネット通販で数千円で購入することができます。さまざまな機種が販売されていますが、数千円の安いもので十分です。
タイマーやスマートコンセントで、LED点灯時間をコントロール
LEDは24時間点灯しておく必要はありません。
植物の多くは8〜12時間程度光が当たれば健全に生育するので、朝点灯して夜に消せば大丈夫です。
手動でオン・オフしてもよいのですが、点灯や消灯をし忘れたり、旅行時などで長期間不在にした場合など、LEDが消えたままで植物が徒長してしまうということもあります。自動で明かりをコントロールするほうが確実で楽でしょう。
電源コンセントと照明のプラグの間に挟むタイマーを使うと、毎日同じ時間に点灯・消灯を行うことができます。また、スマートフォンからオン・オフの設定ができるスマートコンセントも登場し、こちらも便利です。いずれも、ホームセンターや家電量販店、ネット通販などで買うことができます。
水槽、ガラス容器でローメンテナンスな環境づくり
年間を通じて安定した湿度を保つためには、水槽やガラス容器に入れて植物を育てるのがおすすめです。
人が過ごしやすいように温度を調整しても、冬に暖房器具を使うと極端に乾燥したりと、季節によって室内の湿度は案外変化します。湿度を保つためには加湿器を使ったり、霧吹きをしたりするのも有効ですが、水を足したりこまめに霧吹きをしたりと手間がかかります。
水槽やガラス容器に入れることで、こうした手間を省くことができます。
水槽やガラス容器は、植物が入るものであれば、どんなものでも構いません。蓋は必須ではありませんが、植物が好む湿度に合わせて蓋を外したり、少し隙間をあけて調整するとよいでしょう。
蓋をしてあれば内部の湿り気は長く保たれ、頻繁な水やりは必要なくなります。開けていればその分乾きやすくなりますので、高い湿度を好むものは、蓋付きの容器で育てるようにしましょう。
水槽は観賞魚飼育用のものでも構いません。透明なアクリルや塩化ビニールの板を適当なサイズに切って蓋にすることもできます。
部屋の中で楽しむので、あまり大掛かりにしてしまうと生活空間が圧迫されてしまいます。観葉植物も、フィカスやシェフレラ、エバーフレッシュのような樹木だと、思った以上に大きくなって場所を取ってしまうことがあります。
手のひらに乗るようなサイズの植物で、あまり強い光を必要としないものはたくさんあり、こうした植物がインドア園芸に向いています。
また、前面が扉や引き戸になった、パルダリウム向きの水槽もあります。
Credit
パルダリウムに向く植物アドバイス/陶武利
アクアリウムやパルダリウムで使える植物や資材、熱帯魚などの生産を行う会社「ピクタ」代表。
長年にわたり、光が少ない環境や水が多い環境、水槽内などの密閉環境で育つ植物について独自に研究、検証を行っていて、植物生理全般にも詳しく、理論的な裏づけのある提案に定評がある。
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写真&文/土屋 悟(つちや さとる)
フリーライター。
インドアグリーンの最新事情に強い、園芸・ガーデニング関連のライターとして活動中。自宅でも、水槽、透明ケースなどを使って試行錯誤しながらランなどの植物を栽培。ときおり実家の庭の手入れも行い、家の中、外での園芸ノウハウを蓄積。
https://twitter.com/tutti0514
https://www.instagram.com/satorutsuchiya_/
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