オリンピックやF1レースの勝利者を讃える冠に使われ、勝利と栄光のシンボルとしても親しまれているゲッケイジュ(月桂樹)。芳香のある葉は、乾燥させて料理の香りづけとしても使われます。耐暑性があり、乾燥にも強いことから、初心者でも育てやすい庭木です。ここではゲッケイジュ(月桂樹)の育て方の基本を紹介します。監修・宮内泰之(恵泉女学園大学准教授)
目次
ゲッケイジュ(月桂樹)を育てる前に知っておきたいこと
ゲッケイジュは比較的育てやすい庭木のひとつですが、栽培を始める前に、上手に育てるための基本情報を知っておくことが大切です。
ゲッケイジュ(月桂樹)の基本データ
学名:Laurus nobilis
科名:クスノキ科
属名:ゲッケイジュ属
原産地:地中海沿岸
和名:ゲッケイジュ(月桂樹)
英名:laurel
開花期:4〜5月
花色:淡黄色
植え付け時期:4月または9月
耐寒気温:−8℃
ゲッケイジュは樹高10mを超えることもある常緑性の低木〜高木です。雌雄異株で、4〜5月に淡黄色の小さな花をかたまって咲かせます。果実は、やや艶のある黒紫色で、楕円形です。絞るとオイルを取ることができます。葉は芳香があり、乾燥させたものはローリエ、ローレルと呼ばれています。煮込み料理によく使われ、臭みを消す効果があると言われています。
ゲッケイジュは、ギリシア神話のアポロンの聖樹とされています。また、古代ギリシアでは、勝利と栄光のシンボルとして、月桂樹の葉と枝で編んだ月桂冠を勝者に与えていました。そのことから、オリンピックやF1レースの勝者を讃える冠に使われることでもおなじみです。
ゲッケイジュ(月桂樹)にはどんな種類があるの?
ゲッケイジュにはいくつかの種類があり、それぞれに特徴が異なります。
‛オーレア’
美しい黄色の葉をもつ品種です。日当たりがよいほど発色がよくなります。
‛バリエガータ’
緑の葉に、不規則なクリーム色の斑が入ります。
‛アングスティフォリア’
細い葉をもつゲッケイジュです。ウィロー・リーフ・ベイ(柳葉ゲッケイジュ)の別名もあります。
ゲッケイジュ(月桂樹)を育てるために必要な準備と道具
ゲッケイジュは鉢植えでも地植えでも育てることができます。植えつけをはじめる前に、以下のものを用意するとよいでしょう。
準備するもの
・ゲッケイジュの苗木
・8号以上の大きな鉢 *鉢植えの場合
・鉢底石 *鉢植えの場合
・赤玉土
・腐葉土
・元肥
・剪定バサミ
鉢植えで育てる場合、小さな鉢だとすぐに植え替えが必要になってしまうため、苗木よりも一回りから二回り大きな鉢を選ぶようにしましょう。
ゲッケイジュは日当たりがよい場所を好みます。鉢の置き場所についても先に考えておき、日当たりの良い場所を確保するようにしましょう。
適した土作りがゲッケイジュ(月桂樹)を育てる第一歩
ゲッケイジュは、水はけがよく肥沃な土が適しています。ですが、乾燥にも強く、丈夫な木なので、特別土質は選びません。鉢植えでは赤玉土(中〜小粒)6に、腐葉土4の割合で配合した土を使うとよいでしょう。このとき、堆肥を1割混ぜてもかまいません。または、有機質が豊富な市販の培養土を使います。
ゲッケイジュ(月桂樹)の育て方にはポイントがあります
ゲッケイジュは日のよく当たる、水はけのよい場所を好みます。水はけがよければ、明るい日陰の場所でも育ちます。また、水はけのよい有機物の多い土を好みますが、耐暑性、乾燥に強く、丈夫なため、あまり土質は選びません。地中海沿岸が原産の植物ですが、耐寒性もややあります。寒地では、寒風が当たらない場所に植え、冬には防寒対策をするか、鉢植えで栽培して冬の間は屋内で管理しましょう。
ゲッケイジュ(月桂樹)の植え付けの時期と方法
植え付けは春、あるいは秋に行う
ゲッケイジュの苗木の植え付け・植替えは4月、または9月が適しています。余分な枝葉を落としてから植えたほうがよいといわれる場合がありますが、枝葉を落とすと発根に必要な養分の生産力が低下します。また、しっかりと根付いていないのに新たな枝葉を出そうとして、かえって衰弱してしまうので、植え付け前の剪定はやめましょう。余分な枝葉があった場合は植え付け後に枯れるので、その際に除去します。植え付け後は、たっぷりと水やりをします。
鉢への植え付けの方法
①苗木の準備
苗木は鉢から抜いて根鉢をくずさないようにします。
②用土の準備
鉢に鉢底ネットを敷いた上で、鉢底石を3cmほどの厚さに入れ、赤玉土6、腐葉土4の割合で配合した土を用意します。
③植え付け
用意した用土を使って植え付けます。この時、元肥も入れます。
④用土を調整
最終的に用土の表面が鉢の縁より3cmほど下がるように用土を調整し、苗木の株元が用土の表面とそろうように植え付けます。用土の高さを鉢の縁より下げるのは、ウォータースペースをつくるためです。ウォータースペースとは、水やりの際、この部分に水がたまるようにするための場所です。
⑤水やり
植え付け後、根と土が密着するようにたっぷりと水やりをします。
庭への植え付けの方法
①穴を掘る
ゲッケイジュの苗木を用意したら、植え付け場所に根鉢の大きさの倍の深さ・直径の穴を掘ります。(できれば、可能な限り深い穴を掘り、さらに底をスコップなどで耕しておきます)。
②土の準備
あらかじめ腐葉土や堆肥などを混合した元肥を掘り起こした庭土によく混ぜ、半分ほど穴に埋め戻します。
③植え付け
苗木の根鉢を軽くほぐし植え穴に入れて、残りの土を使って植え付けます。このとき、苗木の株元が地面の高さになるように調整をしてください。
④水やり
植え付け後は根と土が密着するようにたっぷりと水やりをします。棒などでつついて根と土の隙間がないように、なじませるとよいでしょう。
ゲッケイジュ(月桂樹)に植え替えは必要なの?
植え替えは春に
庭植えをしたゲッケイジュは、基本的に植え替えはしません。根が傷つきやすく、水や養分を吸い上げる力が衰えてしまうので、植え替えが苦手なのです。
鉢植えの場合は、鉢の中が根でいっぱいになったら、一回り大きな鉢に植え替えるようにします。根を傷つけないように十分注意してください。鉢植えの植え替えは、4〜5月が適期です。
植え替えの方法
鉢全体に根が回ったり、水はけが悪くなったりしたら植え替えをしましょう。一回り大きな鉢に植え替えます。
①鉢から苗を取り出す
ゲッケイジュの鉢から苗をそっと取り出します。
②根鉢の土をかるく落とす
根の周りについた土を軽くもみほぐしながら少し落とします。
③黒い根を切り取る
黒く変色した根があれば、剪定バサミで切り取ります。
④植え替え
一回り大きな鉢に鉢底ネットを敷き、鉢底石を3cmほどの厚さに入れ、赤玉土6、腐葉土4の割合で配合した土を使って植え替えます。この時、元肥も入れます。
⑤用土を調整
最終的に用土の表面が鉢の縁より3cmほど下がるように用土を調整し、苗木の株元が用土の表面とそろうように植え付けます。
⑥水やり
植え付け後、根と土が密着するようにたっぷりと水やりをします。
元気に育てるための日々のお手入れ
肥料の与え方
鉢植え、庭植えともに肥料は寒さがゆるむ時期に施します。鉢植えの場合は、3月に緩効性の固形肥料を株元に与えます。庭植えの場合は、1~2月に寒肥として有機質肥料を中心に株元の周辺に埋めるとよいでしょう。寒肥とは、寒い時期に与える肥料のことです。寒い時期には植物はほとんど成長しませんが、肥料は土の中で植物が吸収されやすいように変わり、春に効き目を表します。
水やりの方法とタイミング
鉢植えの場合
鉢植えの場合、土の量が限られているため保持する水の量も限られます。表面の土が乾いてきた頃には鉢の中の土も乾き始めていることが考えられるので、土の表面が乾いてきたらたっぷりと水やりをするようにしましょう。
庭植えの場合
庭植えの場合は、水やりはそれほど神経質になる必要はありません。植え付け直後から根付くまで、水をやればよいでしょう。その後は、水やりの必要はありません。
ゲッケイジュ(月桂樹)の剪定時期や方法
ゲッケイジュはとても生育旺盛な植物です。芽吹く力や枝の伸びる勢いが強いので、年に2、3回剪定を行います。剪定の最適期は、3月から4月上旬です。不要枝と樹冠から出た枝を間引いて、木全体のバランスを見ながら風通しと日当たりを改善し、コンパクトにしましょう。多少短く切り戻しても生育には問題ありません。
また、円柱形やスタンダード仕立て(1本の幹だけを垂直に高く伸ばし、その頂部だけに枝や葉を茂らせる仕立て方)などの仕立ても楽しむことができます。
剪定の方法
①高さを抑える
幹が高く伸びていたら、樹形を維持するために樹冠内部の枝分かれしているところ(枝の付け根)まで主幹を切ります。
②不要な枝を間引く
枝葉が茂りが混み合ってくると、日あたりや風通しが悪くなり、木が弱ったり、病害虫の発生が増える原因になります。そこで、太く長い枝や混み合った枝、交差する枝などをつけ根から切り取りって間引きます。枝数を減らして樹冠内部の日あたりや風通しを図るようにしましょう。
③新芽を切る
6月ごろの新芽が出た後に新芽を切っておくと、成長を止めることができます。これにより、樹高が高くなりすぎるのを防げます。
知りたい! ゲッケイジュ(月桂樹)の増やし方
ゲッケイジュは、挿し木と種まきで増やすことができます。
挿し木の時期と方法
挿し木は、7〜8月に、その年に伸びた枝を採取し、挿し穂にします。
準備するもの
・増やしたいゲッケイジュの枝
・ハサミ
・よく切れるナイフ
・発根促進剤
・赤玉土やバーミキュライト、挿し木専用の土を入れた鉢
・割りばし
・ピンセット
・ジョウロ
・ビニール袋
土は赤玉土やバーミキュライト、または挿し木専用の市販の用土などを使うとよいでしょう。
穂木の採取するポイント
①時間帯
朝、夕、雨天時などに行います。
②株の選び方
日当たりの良い場所で健全に育てられ、若くて花着きの良い株を選びます。
③枝の選び方
日当たりが良く、病虫害がなく、節間が間延びしておらず、葉が小さめで形がそろった部分の充実した(少し硬くなった)長さ15~20cmの新梢をハサミで切ります。
④採取後の処理
穂木の切り口を直ちに水に浸します。
挿し穂の調整と挿し木の方法
①葉を整理する
上葉を4〜5枚残すようにして、下部の葉を取り除く。
②切り口を斜めに切り戻す
吸水しやすいように切り口をナイフで斜めに切り、60分ほど水につけます。
③発根促進剤をつける
発根促進剤を切り口に薄くつけ、余分な粉は軽くたたいて落とします。
④挿し床の準備
赤玉土や挿し木用土を鉢などに入れて挿し床とし、たっぷりと水やりをします。
⑤挿し木する
割りばしで挿し穴をあけてから、挿し穂の1/3~1/2を挿し、まわりの土をピンセットで押さえて安定させます。
挿し木後の季節ごとの管理方法
①挿し木後から夏の間の管理
直射日光を避けて、湿度が高く保てる場所に置きます。挿し床ごとビニール袋で覆ってもよいでしょう。
②秋の管理
ビニール袋で覆っていた場合は取り除き、朝夕の弱い光や外気に当てます。
③冬の管理
玄関や軒先などのなるべく暖房のない暖かい場所に置いて、乾かさないように管理します。
種まきの時期と方法
あまり一般的ではありませんが、種をまいてゲッケイジュを増やすこともできます。その場合は、雌株であれば種まきが可能です。10月に種を採取してとりまき(採取した種子をすぐにまくこと)します。発芽にはおよそ半年程度かかります。
①種をまく
清潔なまき床(ポリポットやピート板など)に種まき用の用土を入れます。指で種の2〜5倍の深さの穴をあけ、1粒ずつ種をまきます。ゲッケイジュの種は大きめ(1cm程度)なので、葉が開いたときのことを考えて、ある程度間隔をあけてまくか、1粒ごとにポットを用意するとよいでしょう。
②水やりをする
周りの土をかぶせ、たっぷりと水やりをしましょう。
③管理
適温で管理します。乾燥しないように注意してください。
④植え替え
種まきから半年程度で芽が出ます。まき床から、発育の良いものを選び、鉢や庭に植え替えましょう。
ゲッケイジュ(月桂樹)を育てるときに気をつけたい病気と害虫
風通しが悪いと病気や害虫の被害に
ゲッケイジュは風通しが悪いと、病気や害虫が発生しやすくなってしまう植物です。まずは環境を整えて病気や害虫の発生を予防し、それでも病気や害虫の被害が見られたら早めに対処するようにしましょう。
薬剤に頼らない病害虫対策
適切な作業や管理によって株を丈夫に育てれば、病気や害虫に対しての抵抗力も低下せず、被害を減らすことが可能です。また、雑草を刈るなど株元をきれいにしておくこと、適切な剪定によって樹冠内の日あたりや風通しをよくしておくことなど、病害虫の発生、繁殖の原因を取り除いておくことが木が健全に育つために大切なのです。
病虫害の予防には根を健全にする
樹木は樹勢が衰えると病虫害に対する抵抗力が落ちてしまいます。樹勢を衰えさせる最も大きな原因は地下部、つまり根の生育障害にあります。
鉢植えで多い障害
鉢植えで最も多い障害は、根が鉢の中に回った根詰まりです。鉢植えの生育が悪くなった場合、根詰まりとなっている可能性が高いので、適期を見計らって一回り大きな鉢に植え替えましょう。
地植えでの注意点(植え付け前)
根をよく伸ばすために、植え付け前にも注意が必要です。植え付け時には、植穴をなるべく広く深く掘って根が伸びる範囲を確保し、さらに底をスコップなどで耕して排水性を改善しておきましょう。植え付けの際に植穴が小さいと小さな鉢に植えることと同じ状態になり、すぐに根詰まりになってしまいます。
地植えでの注意点(植え付け後)
地植えでは、毎年冬に寒肥を兼ねて樹冠の外縁部の地面を環状に耕し、堆肥や腐葉土をすき込みましょう。根の先端と樹冠の外縁は同じくらい広がっているため、根の先端の土がよい土となります。
強剪定、不適期の剪定は根と葉のバランスを崩す
強く切り戻す剪定や適期でない時期に剪定してしまうと、根の水分供給と葉からの蒸散(水分の放出)のバランスが崩れてしまいます。このような状態になると、根が生育障害をおこし、樹勢を衰えさせ、病虫害の発生につながります。
ゲッケイジュで注意したい病害虫
すす病
葉や枝の表面に黒いすすのようなカビが付着してしまう病気です。葉がカビで覆われるほど発生すると、光合成が阻害され、生育に悪影響を及ぼします。被害を受けた場合は、透かし剪定などをして日当たりと風通しをよくするようにしましょう。また、すす病菌は、アブラムシやカイガラムシの排泄物を栄養にして増殖するため、害虫を見つけ次第、駆除します。
カイガラムシ類
カメノコロウムシやルビーロウムシなどの、カイガラムシ類が発生することがあります。カイガラムシ類は、枝や葉につき、美観を損ねます。また、分泌液や排泄物により、すす病を誘発します。
風通しが悪いと発生するので、剪定などで風通しをよくすることが重要です。薬剤散布はロウ物質で覆われた成虫には効かないため、割り箸でそぎ落とすなど、極力物理的な駆除方法を行うべきでしょう。
ミノガ類
イモムシのような幼虫が、枝の蓑の中にいることがあります。これがミノガ類です。葉を食べ、発生が多いと、食害も多くなります。見つけ次第補殺して、取り除くようにします。
Credit

監修/宮内泰之
1969年生まれ。恵泉女学園大学人間社会学部社会園芸学科准教授。専門は造園学。とくに庭園等の植栽デザイン、緑化樹の維持管理、植生や植物相調査を専門とする。最近は休耕田の再生活動に取り組み、公開講座では自然観察の講師を担当。著書に『里山さんぽ植物図鑑』(成美堂出版)がある。
構成と文・さいとうりょうこ
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