ユリは、秋植え球根であるスイセン、チューリップに続いて、初夏から夏の庭を彩ってくれる花です。その花は、しばしば書物のなかや芸術作品にも表され、古くから人々に愛されてきました。日本でも、全国各地にユリ園があり、愛好家の目を楽しませています。そんなユリを育てるとき、肥料は必要なのでしょうか。ユリの肥料について、与え方やタイミングなどを含めて掘り下げてみましょう。All Aboutガイドで、ガーデンライフアドバイザーの畠山潤子さんにお聞きしました。
目次
ユリを育てる前に知っておきたいこと
ユリは秋植えの球根植物で、北アメリカやヨーロッパ、アジアに約100種が自生し、日本にはそのうちの15種ほどがあります。ユリの歴史は古く、紀元前の遺跡にユリが描かれていたり、日本では古事記や日本書紀に登場したりしています。欧米では聖書や宗教画のなかにも、ユリが登場。キリスト教では「マドンナリリー」と呼ばれる白いユリが、聖母マリアの象徴として描かれています。
可憐なものからゴージャスなものまで、ユリにはさまざまな花色、花姿があります。さらに芳香をもつ品種があり、庭に、そして切り花にと人気のある植物です。
ユリの基本データ
学名:Lilium
科名:ユリ科
属名:ユリ属
原産地:北半球の温帯地域
和名:百合(ユリ)
英名:Lily
開花期: 5~8月(品種により異なる)
花色:赤、ピンク、黄、オレンジ、白、緑、複色
生育適温:5~25℃前後
切り花の出回り時期:オールシーズン
花もち:7~15日
ユリを育てるなら、秋、10~11月頃が球根植えつけの適期になります。また、春~初夏にポット苗の形で出回る品種もありますから、それらを植えつけて育てることができます。
ユリの生育には栄養が必要です
ユリをはじめ、植物が生きていくためには、光、水、そして栄養が必要です。
土耕栽培では、植物は水で溶け出した、土中のさまざまな栄養素を根から吸収しています。ひと口に「土」といっても、その質や含まれる栄養素は千差万別。これは市販の培養土でもいえることです。
土に植えられた植物は、その根が届く範囲から自分に必要な栄養素を吸収し続けます。しばらくその状態が続くと、土中の栄養素に偏りが出たり、栄養不足になったりして、生育に影響を及ぼすことがあります。特に鉢植えの場合は、根を張れるのは限られたスペースになりますから、この影響を受けやすくなります。
そのような栄養素を補うために、「肥料」を与える必要が出てくるです。
種類を知ることが、適した肥料選びの近道
肥料にはさまざまな種類があり、それぞれに特性があります。ユリへの肥料の与え方を説明する前に、肥料について、基本的なことを知っておきましょう。
ホームセンターや園芸店には、たくさんの肥料が売られています。「草花用」や「花と野菜の肥料」と書かれているもの、なかには「バラ用」とか「パンジー用」と植物を限定した肥料もありますね。このように書かれていると、施す植物によっては、どの肥料を買ったらよいか迷ってしまいます。しかし、肥料の種類と特性を知っておけば、自分が何を選ぶべきか判断することができますし、不必要にいくつもの肥料を買い込んでしまうことはありません。
肥料は、有機質肥料、無機質肥料(化学肥料)のふたつに大別されます。
有機質肥料
一般に油かす、魚かす、骨粉、鶏ふん、牛ふんなど動植物を原料とするものを、「有機質肥料」といいます。天然肥料と呼ばれることもあります。土壌中の微生物によって分解された肥料が、植物に吸収されるため、効果が出るまでには時間がかかります。
無機質肥料
化学的に合成されたものは、「無機質肥料」といいます。後述の肥料の三大要素のうち1種だけのものを単肥、2種以上含むものを化成肥料といいます。初心者でも扱いやすく、効果が早く現れるのが特徴です。
また、その効き方でも、緩効性肥料、遅効性肥料、速効性肥料と、3種類に分類されます。
緩効性肥料
肥料の効果が緩やかに持続するタイプの肥料が「緩効性肥料」です。
遅効性肥料
「遅効性肥料」は、肥料を与えたあと、ゆっくりと効果が出ます。有機質肥料の大部分が、この遅効性肥料です。前述のとおり、土中に混ぜた肥料が微生物により分解され、水に溶けた分だけが植物に吸収されていきます。
速効性肥料
肥料を与えると素早く吸収され、効き目が出るのが「速効性肥料」です。ただし、効果の持続性はありません。
肥料はその形状でも分類されます。土に置いたり混ぜ込んだりして使用するタイプの固形肥料と、規定倍率に水で希釈して使用するタイプの液体肥料(液肥)とがあります。
※液体肥料に似たもので、活力剤があります。活力剤は人間の場合に例えると、サプリメントや栄養ドリンクといった、栄養補助食品のような役割をする製品。活力剤を使う際は、植物にとっての主食である肥料と併用することが必要です。
植物に必要な、肥料の三大要素
植物が育つためには、さまざまな栄養素が必要です。なかでも特に重要な3種類を「肥料の三大要素(三要素とも)」といいます。市販されている肥料の袋に、大きく「10-8-7」などと数字が記載されているのを、見たことがあるかもしれません。この数字は、肥料の三大要素である「N-P-K」の配合比率を表しています。書かれた数字が「10-8-7」であれば、この肥料はチッ素、リン酸、カリが10:8:7という比率で、配合された肥料であることを表しているわけです。
N:窒素(nitrogenous) 一般に「チッ素」と呼ばれています。枝や葉を茂らせる働きがあり、「葉肥え」とも呼ばれます。
P:リン酸(phosphate) 一般に「リン」あるいは「リン酸」と呼ばれています。花や実のつきをよくする働きがあり、「実肥え」とも呼ばれます。
K:カリウム(kalium) 一般に「カリ」と呼ばれています。茎や根を丈夫にする働きがあり、「根肥え」とも呼ばれます
N-P-K以外に必要な要素は?
三大要素に対し、必要量は少ないものの極端に不足すると生育に影響するものとして、ミネラル類があります。この要素は中量要素と微量要素に分類され、中量要素にはカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg・苦土)、イオウ(S)が、微量要素には亜鉛(Zn)、塩素(Cl)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ホウ素(B)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)があります。先の三大要素に、さらにこれらの中量要素、微量要素を加えた肥料がいろいろ市販されています。
こんなタイプの肥料が、ユリにおすすめ
ユリは、花を楽しむ球根植物ですから、N(チッ素)の値よりも、P(リン酸)やK(カリ)の値が大きい肥料を選びます。「球根用」と銘打った肥料も市販されています。
ユリに肥料を与えはじめる時期とタイミングは?
ユリに肥料を与えるのには、適した時期というのがあります。
鉢植え、地植えとも、まずは球根の植えつけのタイミングで「元肥(もとごえ・もとひ、基肥・きひ)」を与えます。元肥には、緩やかに長く効く「緩効性肥料」を使います。
地植えの場合は、事前に植え場所を耕し、堆肥や腐葉土などをすき込んでおきましょう。
その後は、芽が出た頃と、開花後に、お礼肥えとして緩効性肥料を与えます。
ユリへの肥料の与え方が知りたい
それでは、実際にユリを育てる過程での肥料の与え方を見てみましょう。
秋
ユリの球根は秋、10~11月頃が植えつけの適期です。
鉢植えでは、植えつけのときに、土に元肥を加えておきます。地植えにする場合は、事前に元肥を加えて土をよく耕しておきます。
春
芽が出たら、いちど追肥として緩効性肥料を与えます。さらに開花後に、お礼肥えとして緩効性肥料を与えます。
追肥の頻度については、絶対ではありません。肥料をやり忘れてしまうことよりも、むしろ肥料のやりすぎに注意しましょう。
ユリに肥料を与えるときの注意点は?
ユリに肥料を与えるときの最大の注意点は、その肥料がどのような種類であっても「必ず説明書をよく読んでから使用する」ということです。
肥料の袋に記載、もしくは添付されている説明書には、その肥料がどのような成分をどのような割合で配合し、どのような効き目があるかとともに、使用量の目安と使い方(土に混ぜる、水で希釈するなど)が書かれています。これを無視して肥料を与えても、その効果が得られないどころか却って悪影響が出てしまう場合があるので、注意しましょう。
肥料をあげすぎると「肥料やけ」が起きます
肥料を与えるときの注意点でも述べたように、肥料はただ闇雲に与えてもよい結果は得られません。
また説明書に書かれていた使用量よりも肥料を多くあげすぎると、土中の肥料成分の濃度が高くなって根の機能が阻害される「肥料やけ」を起こす可能性があります。
根が肥料やけを起こすと、その後の生育に影響し、場合によっては枯れてしまうことがあるので、肥料のあげすぎは禁物です。
このことからも、肥料の説明書にある使用量を守って与える必要があるのです。
Credit
監修/畠山潤子
ガーデンライフアドバイザー
花好きの母のもと、幼少より花と緑に親しむ。1997年より本格的にガーデニングをはじめ、その奥深さや素晴らしさを、多くの人に知ってもらいたいと、ガーデンライフアドバイザーとして活動を開始する。ウェブ、情報誌、各種会報誌、新聞などで記事執筆や監修を行うほか、地元・岩手県の「花と緑のガーデン都市づくり」事業に協力。公共用花飾りの制作や講習会講師などの活動も行っている。
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