清涼感のある強い香りが特徴的なセージは、日本でも薬効のあるハーブとして知られるようになりました。セージは、市販の苗を購入したり、自分でタネをまくなどして、庭でもベランダでも育てて楽しむことができます。このセージを、よい状態で長く楽しむためには、土が重要になります。今回はセージの植え替えと土作りについて、掘り下げてみましょう。All Aboutガイドで、ガーデンライフアドバイザーの畠山潤子さんにお聞きしました。
目次
セージを育てる前に知っておきたいこと
セージの学名(※)は“Salvia officinalis” で、これはラテン語で「salvere(救う)」と「officinalis(薬用の)」が語源といわれています。
枝葉に清涼感のある強い香りをもつセージは、抗酸化作用や抗菌作用があります。古来より薬効のある「不老長寿のハーブ」として、親しまれてきた植物であることが学名からも伺えますね。
セージの基本データ
学名:Salvia officinalis
科名:シソ科
属名:サルビア(アキギリ)属
原産地:地中海沿岸地方など
和名:薬用サルビア(ヤクヨウサルビア)
英名:Common Sage
開花期:5~7月
花色:ピンク、白、青、紫など
発芽適温:20℃前後
生育適温:20℃前後
セージを種から育てるなら、春4~5月頃か、秋9~10月頃が適期です。春と秋のガーデニングシーズンにはポット苗もよく出回っていますので、園芸ビギナーの方なら苗から育て始めるとよいでしょう。伸びた枝は、肉や魚料理の風味づけに使ったり、お茶で楽しんだり、リースなどのクラフト材料にも使えます。
※「学名」学術上、生物などを分類してつける世界共通の名称。
セージにとっての、土の役割とは…
セージは土中に根を張り巡らせることで、自分自身の体を支えています。それと同時に、土中の根で呼吸を行ったり、水で溶け出した土中の栄養分を根から吸い上げたりしています。つまりセージの根は、人間でいうと体を支えるための足であり、呼吸をするための肺であり、栄養補給をするための口(胃)であるといえるでしょう。
土は、その大切な根を、夏の強い日差しや高温、乾燥、風といった急激な環境変化から守る役割を担っています。これは人間にたとえると、「住まい」にあたる役割を果たしているといえます。
元気に育てるための、セージの土作り
用土とは、園芸で使われる土のこと。さまざまな種類があります(※後述)。培養土とは、数種類の用土がブレンドされ、そのまま使用できる土のことです。
セージは、水はけ、水もちのよい土に植えます。また酸性が強い土や過湿を嫌うので、その点を考慮した土を使うのが望ましいでしょう。
セージを鉢に植え替えるときに使用する用土は、市販のハーブ用培養土、もしくは草花用培養土で問題ありません。しかし、製品によって水はけ水もちは多少異なります。また各々の水やりのクセ、温度や風通しなどの環境によって、土の乾き具合が変わることも覚えておいてください。
過湿に弱いセージは、使用した培養土の水はけが悪いと、枯れてしまうことがあります。水はけをよくするには、砂やパーライトを足してあげるとよいでしょう。
自分で単用土(※後述)をブレンドして作る場合には、赤玉土と腐葉土、パーライトを6:3:1の割合で混ぜます。
鉢植えの場合は、あらかじめ元肥として緩効性肥料を施しておきます。
地植えの場合には、あらかじめ植え場所に、堆肥や腐葉土をすき込んで耕しておきます。水はけが悪いときは、川砂も加えて水はけをよくしてください。高畝にしたり、レイズドベッド(縁囲いを設けて床面を高くした花壇)にしたりするのも、水はけをよくするのに役立ちます。
セージは、酸性土を嫌うので、中和のために苦土石灰を施したり、用土に籾殻くん炭や草木灰を混ぜたりするのも有効です。
なお、セージを鉢に植え替える際は、清潔で新しい培養土を使うようにしましょう。古い土は「団粒構造(※後述)」が崩れ、水はけが悪くなりがちです。また、古い土には病原菌や害虫の卵などが潜んでいる場合もあるので、注意しましょう。
よい土は、水はけ、水もちに優れています
セージをはじめとした植物の栽培には、水はけ(排水性)、水もち(保水性)、通気性、保肥性に優れた「よい土」が必要です。
「よい土」とは、園芸用語でいう「団粒構造をもつ土」のことです。団粒構造とは、砂や粘土など、さまざまな土の粒子(単粒)がくっつきあって、小さな固まり(団粒)を形成して重なっている状態を指します。団粒のなかには小さい隙間が、団粒と団粒の間には大きな隙間があります。それらの隙間が、それぞれ排水、通気、保水、保肥に役立ち、植物が根を張りやすい環境を作っているのです。このようなよい土は、フカフカとしていて、よい匂いがします。
ホームセンターや園芸店には、たくさんの土が販売されています。あらかじめメーカーでブレンドされ、袋詰めされた培養土のほかに、「赤玉土」とか「黒土」などの単用土も販売されているので、特に園芸ビギナーの方はどれを買ってよいのか迷うかもしれません。次の項で紹介する用土の特性を参考に、育てる環境や選んだ商品に合わせて、混ぜる用土を見極め、「よい土」に仕立ててください。
補足として、赤玉土7~6:腐葉土3~4のブレンドは、ベースとしてほとんどの植物に使えます。覚えておくとよいでしょう。
種類を知ることが、適した土作りへの近道
土の種類について知ることは、植物栽培に必要な「よい土」作りに役立ちます。ここでは、ひととおり、土の種類とその特徴を見てみましょう。
黒土
畑土などにみられる、黒い土。粒子が細かく、多用すると水はけが悪くなるため、コンテナなどの容器栽培には不向きとされています。
赤玉土
関東ローム層の赤土をふるって粒子を揃えたもので、水はけ、水もちがよいのが特徴。小粒・中粒・大粒と選別されて袋詰めになっています。ほかの用土とブレンドして使うときは、中~小粒のものを選びます。
鹿沼土
栃木県鹿沼地方で産出される粒状の軽い土。水はけ、水もちがよく、性質は赤玉土に似ています。酸性なのでツツジやサツキ、山野草などの栽培向き。
腐葉土
広葉樹の落ち葉を腐熟させたもので、水はけ、水もち、通気性に優れています。肥料分はそれほどありませんが、土中の微生物を増やして土を活性化する働きがあります。袋を開けたとき、カビや嫌な匂いのするものは使用を避け、しっかり完熟したものを使いましょう。
堆肥
藁、落葉、野菜くずなどを腐熟させたもので、土中の微生物を増やし、水はけや通気性をよくする働きがあります。腐葉土よりは、有機質の肥料分が含まれます。 腐葉土同様に、しっかり完熟したものを使います。
ピートモス
水ゴケ、シダなどが堆積し泥炭化したもので、軽くて水もち、通気性がよいのが特徴。 酸性が強いので、一般的な草花には「酸度調整済み」のもの、酸性の土を好む植物には「酸度未調整」と表記されたもの、と使い分けてください。
バーミキュライト
蛭石を高熱処理して膨張させた人工用土で、軽いのが特徴。水はけ、通気性、保肥力に優れています。
パーライト
真珠岩を高熱処理して膨張させた、白い粒状の軽い人工用土。 配合することで、水はけ、通気性がよくなります。
砂
水はけや通気性をよくするために用いられます。川砂が一般的ですが、 群馬県桐生地方で産出される「桐生砂」や、富士山周辺から産出される「富士砂」は、火山砂礫で、主に山野草の栽培などに使われます。
水ゴケ
湿原のコケ類を乾燥させたもの。軽くて通気性がよく、保水性に優れています。
籾殻くん炭
籾殻を燻して炭化させたもの。水もち、通気性に優れ、根腐れ防止の効果があります。アルカリ性なので、酸性土の中和にも使われます。
たとえば、いつも水やりしすぎて過湿で植物を枯らしてしまう場合は、ベースに砂やパーライトを加えることで、水はけをよくすることができます。用土の種類と特性を知っていれば、このように、自身で調整し、より「よい土」を作ることができます。
※市販の「○○用」などと銘打った培養土は、これら用土の特性を生かして、配合割合を各社で研究してブレンドしたものです。
セージの、植え替えの時期と頻度
鉢や箱など苗床に種まきをしたセージは、2週間程度で発芽します。随時間引きをして、本葉が3~4枚になった頃が、植え替え(定植)の適期です。
市販のポット苗を買ったときに底穴から根がはみ出しているようなものは、鉢内が根で一杯になっている可能性があります。そのままでは根詰まりを起こします(すでに根詰まり状態のときも)。鉢植えでも地植えでも、できるだけ早く定植をしましょう。また仮にそのような状態でなくても、育苗用の苗ポットは薄く、中の土が外気の影響を受けやすい素材なので、早めに植え替えてあげましょう。
土のほか、植え替え時に準備したいもの
用土について理解を深めたら、実際の植え替えを紹介しましょう。セージの苗を鉢に植え替えるときは、以下のものを用意します。
準備するもの(鉢植え、地植え共通)
・適した土(前述のとおり)
・植え替えするセージの苗
・土入れ、またはスコップ
・ジョウロ
*鉢植えの場合は、下記のものも用意
・4~5号(※)くらいの鉢
・鉢底ネット
・鉢底石(なくても可、砕いた発泡スチロールで代用も可能)
セージの植え替え用の鉢は、素焼きのものが望ましいです。プラスチックやポリカーボネート製の鉢は軽くて安価なのが魅力ですが、過湿を嫌うセージには鉢自体に吸水性、通気性がある素焼き鉢がよいでしょう。
市販の苗は3~3.5号ポットのものが多いので、植え替え用にはひと回り大きい4~5号の鉢を準備します。初めから大きい鉢に植え替えると、苗に対して土の量が多くなるため、根腐れする恐れがあります。大苗のセージを購入した場合は、苗の鉢よりひと回り大きい鉢に植え替えします。
鉢底石は、根鉢に対して鉢の高さにあまり余裕がない場合は、鉢底ネットの上に培養土だけでも構いません。もちろん、培養土は水はけのよいものを使用します。鉢底石の代わりに、砕いた発泡スチロール(清潔なもの)を使うこともできます。
また、セージは日向を好みますので、植え場所や鉢の置き場所も考慮しておきましょう。
※「号」鉢のサイズは「号」で表されます。1号は、直径約3㎝にあたります。
セージの植え替え方法が知りたい
必要なものを準備したら、次は実際の植え替えに。手順は以下のとおりです。
鉢植えの場合の手順
①植え替え用の鉢に、鉢底ネットと鉢底石を敷き、あらかじめ培養土を入れておきます。
②元のポットから根鉢(根と土がひとまとまりになったもの)を崩さないように注意して、苗を抜き取ります。根が回っている場合は、活着しやすいように、根の先端をやさしくほぐしてあげましょう。
③苗の根鉢の大きさに合わせて、①の培養土に穴を掘ります。②のセージの苗を配置し、苗の根鉢と鉢の培養土に隙間ができないように土を寄せます。
地植えの場合の手順
① 鉢植えの手順の②同様、元のポットから根鉢を崩さないように注意して、苗を抜き取ります。根が回っている場合は、活着しやすいように、根の先端をやさしくほぐしてあげましょう。
②苗の根鉢の大きさに合わせて、花壇に穴を掘ります。①のセージの苗を配置し、苗の根鉢と土に隙間ができないように土を寄せます。
どちらも植え替え後は、たっぷりと(鉢植えの場合は鉢底から水が流れ出てくるくらい)水やりをすることが大切です。
植え替えをするときの注意点はこちらです
セージを植え替える際に、根を乱暴に扱って傷つけてしまうと、その後の生育が芳しくありません。根を傷つけないよう、やさしく扱いましょう。
また、苗の周囲に土を寄せる際は、ギュウギュウと力を入れて押しつけると、土中の空気が抜けてしまいます、苗が安定する程度に、やさしく押さえるようにします。
Credit
監修/畠山潤子
ガーデンライフアドバイザー
花好きの母のもと、幼少より花と緑に親しむ。1997年より本格的にガーデニングをはじめ、その奥深さや素晴らしさを、多くの人に知ってもらいたいと、ガーデンライフアドバイザーとして活動を開始する。ウェブ、情報誌、各種会報誌、新聞などで記事執筆や監修を行うほか、地元・岩手県の「花と緑のガーデン都市づくり」事業に協力。公共用花飾りの制作や講習会講師などの活動も行っている。
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