丈夫で長生き、ローメンテナンスなことから大人気の宿根草。ですが、植えるときのルールを知らないと、ローメンテナンスどころか手入れに苦労し、本来の美しさも見ることができません。そのルールとは、種類ごとに異なる株間のあけ方。一見、複雑そうですが、基本的なルールさえ覚えておけばカンタン! 造園家の阿部容子さんが、どの植物にも当てはまるシンプル化した株間の黄金ルールを教えてくれます。
目次
宿根草は丈夫で長生き、ローメンテナンスな植物

宿根草は、冬は地上部が枯れますが根は生きていて、毎年春になるとまた芽を出し花を咲かせます。植えっぱなしでも育つものが多く、本来は手間が少ない植物です。しかし、適切な株間をとっていないことで風通しが妨げられ、病気になったり枯れたりして労力がかかっているケースもよくあります。特に、初心者の場合は園芸店に並んでいる小さなポット苗が、将来的に庭でどのくらいの大きさになるのか、想像しないまま植えてしまうことが多くあります。

なぜ株間が重要なのか?

まず、宿根草はポット苗の何倍も大きくなるということを覚えておきましょう。植物が大きくなると庭や花壇が密集し、「風通し」が悪くなります。植物の生育には日光と水が不可欠であることは誰しもご存じでしょうが、それらと同じくらい重要なのが「風通し」です。風は目で見えないので忘れられがちですが、植物を健全に育てるには必要不可欠な要素です。そして、病害虫の原因のほとんどは「風通し」が悪いことに起因します。
病気と風通しの関係

風通しが悪いと、なぜ病気になりやすいのか。それは、植物の病気の大多数はカビ(糸状菌)によるものだからです。「灰色かび病」、「うどんこ病」、「黒ほし病」、「立枯れ病」、「菌核病」、「白絹病」といった植物がよくかかるこれらの病気は、すべてカビが原因です。症状の見た目は必ずしもカビっぽいとは限りません。斑点やこぶ、萎縮といった症状もありますが、原因はじつはカビ。これらは風通しが悪いために発生するケースがとても多いです。
ローメンテナンスの落とし穴

カビはそのままでは広がってしまうので、その手当てとして消毒を行ったり、弱った植物の植え替えをしたりする必要が出てきます。病気にかかると、本来ローメンテナンスで済むはずの宿根草も、こうしてハイメンテナンスになってしまいます。
そうならないために大事なのが「風通し」。家庭のなかでも、カビが発生しやすいお風呂場は、換気扇をつけたり、窓を開けたりして、風通しをよくしてカビを防いでいますよね。ガーデンでも同じです。植物が健やかに育つ美しいガーデンをつくるには、「風通し」のよい環境を用意するのが成功の鍵です。
風通しを確保する黄金ルールとは

「風通し」を確保するのに基本的なことの一つが、植栽時に適切な「株間(かぶま)」をあけることです。植物を複数植えるときには、必ず苗と苗の間に「株間」をあけて植えます。適切に株間をあけないと風通しが悪くなり、途端に病気にかかりやすくなります。
では「適切な株間」とはどのくらいでしょうか。それは植物ごとに異なります。感覚的にいうと、「隣り合う植物同士の葉先が触れる程度」。ただし、これは最終的な生育サイズ上でのことです。ポット苗を植える際には、最終的な生育サイズを考慮して苗同士を離す必要があります。どのくらい離すべきか、適切な株間について具体的に解説していきましょう。

黄金ルール「株幅ハーフ&ハーフ」の具体例(ジギタリス×ペンステモン)
植物はそれぞれ、高さや幅が異なります。株間を考える時に必要な情報は「株幅」です。図鑑はもちろん、苗のラベルに書いてあったり、園芸店のサイトなどを調べると出てきますので、最終的にその植物がどのくらいの株幅になるのか、まずはチェックしましょう。そして、隣り合う植物のそれぞれの株サイズの1/2を足した距離が適切な株幅になります。「株幅ハーフ&ハーフ」ルールと覚えておくといいでしょう。

例えば、ジギタリス・パープレアとペンステモン‘ポカホンタス’を隣接して植える場合をみてみましょう。ジギタリス・パープレアの最終株幅は40cm、ペンステモン‘ポカホンタス’ の最終株幅は90cmです。それぞれを1/2にすると20cmと45cmで、これを足すと65cm。これが2つの間の適切な株幅ということになります。

植えるときは、どちらもだいたい直径10cm前後のポット苗なので、株幅を65cmあけて植えると、かなり距離があいて寂しい印象になりますが、植栽から約2年後には隙間を感じないほど生育し、ちょうど葉先が触れる程度の距離感になります。宿根草が本来の大きさになり、庭の見応えが出るまでには植栽から2年かかると考えておきましょう。
バラと宿根草の場合の応用
このルールは宿根草同士でなくとも当てはまります。例えば、バラなどの樹木(低木)のそばに宿根草を植える際も同じです。上記の写真ではバラ‘リサリサ’は株幅120cm前後で、その隣に株幅60cmのネペタ‘ピンクキャンディ’を植える際には、60+30で90cmの株間を開けて植栽しています。
【阿部先生のワンポイントアドバイス】
植物の生育後の大きさは環境や育て方によって異なり、ラベルの情報とは必ずしも合致しないことは、よくあることです。例えば、一般的に株幅30〜50cmといわれているオダマキも、私の庭では70cmの大株に育っています。そんなときは慌てずに、株分けをしてサイズダウンさせたり、移植したりしてレイアウトの変更をしましょう。
クレマチス×バラの理想距離は? つる植物の株間ルール

クレマチスやつるバラなど、フェンスなどの構造物に、つるを止めつけながら仕立てる植物の場合も、上記の「隣り合う植物の株サイズの1/2を足す」ルールが当てはまりますが、クレマチスの場合、株幅の情報が書いてあることはほとんどありません。

クレマチスも株元を見ると、地際から何本もつるが伸びて、おおよそ株元は30〜40cmあります。ですから、クレマチス同士の場合は、だいたい30〜40cmの株幅をとって植えるといいでしょう。クレマチスとバラを隣接して植える場合は、株幅は少なくとも50cmはあった方が剪定や誘引、施肥などの手入れがしやすいです。
【阿部先生のワンポイントアドバイス】
クレマチスは「直根性(ちょっこんせい)」といい、ゴボウのようにまっすぐ深く伸びる根を持ち、根をいじられるのを嫌います。特に春先に出回る新苗は、直根から伸びるヒゲ根が切れやすいので、周囲に一年草を植えないようにしましょう。一年草はシーズンごとに植え替えが必要になり、抜き取る際にクレマチスの根を傷めるリスクがあります。
グラウンドカバーの株間

リシマキア・ヌンムラリア‘オーレア’やタイム、アジュガなど、地面を這って生育するグラウンドカバープランツの株間は、概ね30〜40cm間隔で植えると、ワンシーズンできれいにつながります。植える際は三角形を意識して植えると、きれいなグリーンカーペットが出来上がります。
【阿部先生のワンポイントアドバイス】
グラウンドカバープランツの場合は、地下茎で伸びないものを選ぶことをおすすめします。グラウンドカバープランツには、地下に根を張り巡らせて広がっていく地下茎植物と、地表にランナーを這わせて広がるタイプがあり、両者はコントロールのしやすさがまったく異なります。例えば、アジュガは地表を這うランナーで広がるので、もう増やしたくないと思ったところでランナーを切って、適度に間引いて広がり方をコントロールできます。一方、ミントなど地下茎で広がるものは地下に根が残っている限りは増え続け、コントロールが難しいです。
宿根草の苗選びと植え付け方法

宿根草の苗は、「新苗」と「旧苗」が混在しています。新苗はタネを播いて初めて芽吹いた小さな苗で、旧苗は2年以上育っているものですが、冬には一旦地上部がなくなるので、見た目では分かりにくい場合もあります。
新苗・旧苗の違いと注意点
ポットを触ってみて、ふにゃふにゃしていれば、まだ根が未熟な新苗の可能性が高いです。2年以上育っている旧苗の場合は、根が張ってポットはパンパンになっています。
新苗の場合、植え付けのダメージを受けやすいので注意しましょう。ポット苗を養生させられる半日陰の場所があれば、春はそのままポット苗で水切れに注意して養生し、秋の彼岸を待ってから地植えにしたほうが、枯らすリスクがグッと低くなります。
【植え方完全ガイド】初心者でも安心の宿根草の植え付け手順
宿根草は主に3〜5月、または9〜10月に植えつけます。植物によって好む場所が異なるので、「日向」「半日陰」「日陰」の適切な環境を選びます。湿地性の植物以外は、水はけのよい環境を整えるのが条件です。雨のあと、しばらく水が引かないような場所は水はけが悪いので避けるか、土壌改良をしてから植え付けましょう。

① 植える場所の土を30cmほど掘り返して、土壌をふかふかにしておきます。
② 腐葉土や堆肥を混ぜて、通気性と水はけをよくします。
③ ポットから植物を抜き取り、根をほぐします。このとき、活力剤(液肥とは異なります)入りの水の中で根をほぐすと、植え付け時の根のダメージを最小限にとどめられます。
④ 植え穴を掘って水と元肥を入れ、植物をポットと同じ高さで植えます。
⑤ 土を戻して手の平で軽く抑え、水やりをしたら完成。
【阿部先生のワンポイントアドバイス】
植えた年は水切れに注意して、必ず水やりをするようにしましょう。地植えの場合、水やりが必要なのは基本的に植え付け初年度だけで、2年目以降は自然の降雨で育ちます。
植えたあとの風通しを保つ宿根草の管理

透かし剪定
大きく育ってきた宿根草は、株の密度を減らすよう、花後に「透かし剪定」をしながら管理すると風通しを保つことができます。常緑の宿根草以外は、晩秋は葉が枯れてきたら地上部を少し残してカットします。
株分け
年数を経て大株になった宿根草は、株の中央部から新芽が芽吹かなくなり、ドーナッツ状になってきてしまいます。その場合は秋に株を掘り上げ、株を切り分ける「株分け」すると、再びきれいに咲くようになります。
Credit
アドバイス / 阿部容子 - ガーデンデザイナー/造園家 -

あべ・ようこ/岐阜県可児郡「かたくり工房」に所属。モデルガーデンのガーデンカフェ「ガズー(Garzzz)」を拠点とし、公共、企業、個人の庭を全国各地でデザイン、施工。ぎふ国際バラコンクール審査員として岐阜県「花フェスタ記念公園」でも活動。アメリカ園芸療法協会会員として米国のカンファレンスで学んだ知識や技術を生かし、病院のガーデンも施工しています。
まとめ・写真 / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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