あべ・ようこ/岐阜県可児郡「かたくり工房」に所属。モデルガーデンのガーデンカフェ「ガズー(Garzzz)」を拠点とし、公共、企業、個人の庭を全国各地でデザイン、施工。ぎふ国際バラコンクール審査員として岐阜県「花フェスタ記念公園」でも活動。アメリカ園芸療法協会会員として米国のカンファレンスで学んだ知識や技術を生かし、病院のガーデンも施工しています。
阿部容子 -ガーデンデザイナー/造園家-

あべ・ようこ/岐阜県可児郡「かたくり工房」に所属。モデルガーデンのガーデンカフェ「ガズー(Garzzz)」を拠点とし、公共、企業、個人の庭を全国各地でデザイン、施工。ぎふ国際バラコンクール審査員として岐阜県「花フェスタ記念公園」でも活動。アメリカ園芸療法協会会員として米国のカンファレンスで学んだ知識や技術を生かし、病院のガーデンも施工しています。
阿部容子 -ガーデンデザイナー/造園家-の記事
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ガーデニング
草取りで心が折れそうな人へ。除草剤の効果的な使い方
草取りの原因になる雑草対策は早めが肝心 春、明るい黄緑色の若葉を開く木々や草花。空気の温みとともに、その色は日に日に濃くなり、桜の花が散る頃にはまるで衣替えをするかのように、庭は瑞々しい緑で覆われます。しかし、その瑞々しい緑の中には、歓迎されざる草たち、いわゆる「雑草」も混ざっています。最初は雑草も小さく、あまり目障りではないものの、放っておけばアッという間にボウボウと茂って、梅雨を迎える時期には鬱陶しいほどに。しかも、その繁殖力は驚異的。真夏は草取りをするそばから生え、ガーデニングのほとんどが草取りに占められ「もうウンザリ」というケースも少なくありません。こんな大変な思いをするなら、庭などやめて業者に依頼して一面コンクリートで固めてしまえ、なんて早まらないで! きちんと対策さえすれば、草取りに追われることなくガーデニングを楽しむことができます。 Photo/damiangretka/Shutterstock.com その対策の一つとして、庭づくりの初期に有効なのが除草剤。特に新築や完全な庭リフォームの場合には、最初に庭に持ち込まれる土は、山を崩した土や野ざらしの残土などで、もれなく雑草のタネがたっぷり入っています。そのまま何もせずにバラや園芸植物を植えて肥料をやろうものなら、雑草のほうが大いに茂って、楽しいはずのガーデニングが草取りに明け暮れることになってしまいます。ですから、好きな植物を植える前に、一度土壌をリセットする意味で除草剤を用いると効果的です。 草取りに役立つ除草剤は適期に適正なものを使おう 敷き詰めたレンガの隙間でも雑草はたくましく育つ。放っておくと伸びて庭が荒れた雰囲気になるので早めに対策を。Photo/Maria Meester/Shutterstock.com ただし、使う際には最低限の使用量で最大の効果を発揮するように、適期・適性を見極め、希釈率などを守って適量を用います。また、持病やペットへの配慮など、特定の事情がないかどうか、確認できた場合にのみ使います。 除草剤と一口にいってもいろいろな種類がありますが、まず大きく分けて雑草の発芽前と発芽後では適する製品が異なります。冬から初春にかけて使うなら、発芽前の土中の種子に対して働きかける「発芽抑制効果」のタイプのものを、春以降、雑草が既に生えてきてからなら「草と根を枯らす」タイプのものが適しています。 抜きにくい目地などには除草剤が便利。Photo/damiangretka/Shutterstock.com 除草効果の持続するものとしないものがある また、効果の持続期間も製品によって異なります。除草剤を使うと、その場所では永遠に植物が育たないように思っている方も少なくないようですが、除草剤は効果がずっと持続するものではありません。ホームセンターなどで入手できる除草剤の中で、最も効果の長いものでも約6カ月ほど。持続期間について特に記載のないものは約2〜3週間で効果が切れます。ですから、駐車場などのように、そもそも植栽計画がない場合には効果の長いもののほうが向いていますし、庭などでその後植栽をするつもりなら、効果が持続しないものを使います。そして、効果が切れた頃を見計らって好きな植物を植えれば、問題なくちゃんと育ちます。このように除草剤にはたくさんの種類がありますから、まず売り場で製品の説明をよく読みましょう。 生命力、繁殖力が強く、たくましい雑草たちですが、我が家の庭には歓迎したくない草類。左上から時計回りに、エノコログサ、チガヤ、セイタカアワダチソウ、スズメノカタビラ。 左上から時計回りに、スギナ、ドクダミ、シロザ、カタバミ。 草取りのコツは「タネを落とさない」こと 除草剤を使って雑草を一掃したとしても、その後も雑草のタネはどこからでも飛んできて、生えてくるものです。けれど、植えた植物のほうが先に大きく育っていれば、後からやってきた雑草はその陰に隠れてさほど大きく育つことができません。このように、育てたい植物が雑草よりも優先的に生育できる環境を整えてあげるという意味でも、最初に雑草を絶やしておくことが大切です。 その後、雑草を見つけたら、小さいうちに抜くことが肝心です。草取りのコツは、とにかく「タネを落とさない」ということ。タネができた状態で草取りをすると、タネがあちこちにこぼれ落ちて、再びアッという間に生えてきます。ですから、タネができる前の小さいうちに抜くことが大事。小さいうちは根張りも浅く、花壇用に土壌改良されたフカフカのよい土なら雑草も簡単に抜けるので、さほど苦労することもありません。 草取りの服装は、動きやすい格好で手袋を装着。道具は、小型の草取り鎌や立ったまま使えるフォークなら腰痛防止に。長時間のしゃがんだ姿勢がつらい場合は、座ったまま移動できる車輪付きの椅子があると楽で効率的です。雑草を若い芽のうちから取り去るには、根っこごと確実に抜くこと。熊手で表土をひっかいた程度では、土中に根っこが残ってしまい再び新芽が伸びてくるので気をつけましょう。 園芸植物が大きく育っている場所では、雑草の入り込む余地があまりない。 グラウンドカバーと呼ばれる匍匐性の植物で地面を覆っておくと、雑草が生えにくい。これも草取りをしない方法の一つ。写真のリシマキア‘オーレア’はゴールドの葉が美しく、丈夫。 ●『足元のカバーや雑草対策に欠かせない グラウンドカバーに最適な植物7選』 雑草とうまくつき合うのも大事 「雑草」といっても、それぞれに名前があり、意外と庭の彩りになってくれるものもあります。また、ドクダミやヨモギなど生活に利用できるものもありますし、抜いた雑草は堆肥としても役立ちます。庭づくりをするうえで、雑草と無縁ではいられませんので、上手につき合いながら庭づくりができれば理想的。そしてたいてい、庭づくりの年数を経ていけば、次第にそうなっていくものです。 ただし、最初から草取りに明け暮れて、心がくじけそうな人には、除草剤という選択肢もあります。草取り回避のためにせっかくの庭スペースをコンクリートで固めてしまう前に、除草剤を賢く使って楽しいガーデニングのスタートを切って欲しいと思います。 Photo/Simon Kadula/Shutterstock.com 抜き取った雑草は一箇所にまとめて置いておくと、分解されて堆肥として利用できるようになる。 日本では雑草といわれる植物も英国ではメドウ(野原)ガーデンの素材として使われる。全体に生やしておいて、後から道を刈り込むだけで、美しいメドウガーデンに。 ナチュラルでくだけた演出にも意外と効果的な雑草。 併せて読みたい
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ガーデン&ショップ
都市公園に全国初の「ガーデンセラピー」を体感できるユニバーサルガーデン
庭が人へもたらす生理学的作用 2004年の浜名湖花博でつくられた「花の美術館 モネの庭」を再整備した浜名湖ガーデンパーク内の「印象派庭園 花美の庭」。(*) 画家のクロード・モネは草花を絵の具代わりに、キャンバスの上に絵を描くように庭づくりに没頭し、「生きた美術館」と評される美しい庭を残しました。しかし今、庭は芸術的価値を持った観賞の対象としてだけでなく、私たちの暮らしや心身に好影響をもたらす空間として、新たな価値が見出されつつあります。 緑の血圧正常化作用 緑を見てホッとしたり、美しい風景に癒やされるという感覚は、誰しも経験があるでしょう。これまで体験的なものとして知られてきたこうした感覚に、千葉大学大学院・園芸学研究科の岩崎寛准教授は、血圧の正常化など緑が心身にもたらす生理的作用を発見。緑を見ることで恒常性回路が崩れる要因であるストレス刺激が緩和され、自己治癒力を高める効能があることを解明しました。 緑のストレス減少作用 また、オランダのある市民農園では、読書とガーデニングを比較したストレス値の計測実験が実施され、ガーデニングが優位にストレスホルモンを軽減するという結果が得られました。さらに、東京都市大学総合研究所・環境学部の飯島健太郎教授が行った実験では、ガーデニングをしなくても単に緑との距離が近いほど、ストレスホルモンが減少することが分かっています。このように、これまで「癒やし」という言葉で表現されてきた庭の効果には、生理学的作用があることが科学的な研究によって裏付けされ始めています。 理学療法的効果をもたらすガーデンデザイン 一方、こうした生理的な作用に対し、理学的な療法効果を得られる空間としてガーデン設計を行っているのが造園家の阿部容子さんです。阿部さんはアメリカ園芸療法協会会員として、米国のカンファレンスで学んだ知識や技術を生かした庭設計を行っています。 整形外科の屋上ガーデン。車椅子の人が移動しやすい高さを上げた芝生の花壇。足裏刺激も得られる歩行訓練の場所として活用されている。 「理学的な療法効果とは、簡単に言えばリハビリ効果がその一つです」と阿部さんは話します。例えば過去に阿部さんが設計施工した整形外科の屋上ガーデンでは、加齢や事故、病気などさまざまな事情により身体機能が失われた方が、庭を歩くことでリハビリ効果が得られるよう道幅や距離、花壇の高さなどを専門医の意見を取り入れながら設計しました。そうした特別な事情がない場合でも、個人邸ではより使う人の心身の事情に寄り添って、背丈や腕幅、足の昇降高、視力など個人のフィジカルデータを反映した設計をすることで、その人がより快適に過ごせる庭づくりを行っています。「もちろん、美しいというのは大前提。それに加えて、その人にフィットする機能を庭に落とし込むのが私のガーデンデザインの信条です」(阿部容子さん)。 浜名湖ガーデンパークに誕生する「ガーデンセラピー」を体感できるガーデン こうした庭の生理学的、理学的な療法効果を体感できるのが、浜名湖ガーデンパークに誕生するユニバーサルガーデンです。このプロジェクトは2024年春、浜名湖花博20周年を記念した「浜名湖花博20周年記念事業実行委員会(県部会)」の事業の一環で、阿部容子さんがデザインを担当。ガーデンセラピーを取り入れたデザインが予定されています。 浜名湖花博20周年記念事業は、内閣が提唱する国家戦略とも呼応する「デジタル田園都市(ガーデンシティ)」をテーマとしており、高齢化社会における健康寿命の延長や多様性を理解するための世代間交流など、浜名湖周辺の環境を活かした、自然の癒やしと現代の利便性を体感できるライフスタイルの提案の場として展開されます。 阿部さんがセミナー内でセラピーガーデンの実例として示した米国シカゴボタニックガーデンの「イネイブリングガーデン」。車椅子のガーデナーが設計した。Photo/Cicago botanic garden 2023年4月24日、ガーデンセラピーという新たな庭の価値観を取り入れたユニバーサルガーデンの設計を担当する阿部容子さんのセミナーが開催されました。セミナーには市内外の造園業者や学生など約35名が参加。ユニバーサルガーデン及びガーデンセラピーの考え方や認知機能に好影響を及ぼす特定の植物を取り入れたガーデン設計アイデア、療法的効果に積極的にアプローチする庭での五感刺激の方策などについて、阿部さんの解説に参加者が熱心にメモを取る姿が見られました。 2023年4月24日に開催されたセミナーの様子。 市民の健康増進に寄与する新しい都市公園の提案 2024年春の浜名湖花博20周年記念事業へ向けて再整備されている浜名湖ガーデンパーク。(*) 浜名湖ガーデンパークという都市公園において、ガーデンセラピーを体感できるユニバーサルガーデンが展開される意義について阿部さんにお伺いしました。 「庭はこれから向かう超高齢化社会において、さまざまな療法効果を得られる住宅の必須機能として位置付けられていくでしょう。しかし、まだその情報発信は十分ではありませんし、体感できる場所はありません。ですから、今回のユニバーサルガーデンでは、さまざまな庭の療法的効果を体感できる場所であると同時に、市民の皆さんがこのガーデンからさまざまなアイデアを持ち帰って、ご自宅の庭で実践できるセラピーガーデンのモデルガーデン的役割を担う必要があると思っています。訪れて楽しい場所であると同時に、市民生活の向上のための情報発信基地という役目も、浜名湖花博20周年記念事業が掲げる新しい都市公園のあり方として重要なポイントだと考えています」。 造園家の阿部容子さん。 公園という不特定多数の人が利用する場所では、誰もが利用しやすいデザインとしてユニバーサルデザインを意識する必要がありますが、今回は「誰もが」という条件に答える一つのデザインに限定しない形を阿部さんは考えています。 「例えば、回遊路を全部、車椅子で通れるスロープにしておけばユニバーサルなのかといったら、そう単純なものではありません。車椅子ユーザーにもさまざまな体格の人がいますし、介助がある方もない方もおられ、お使いの車椅子の機能も異なります。場合によっては長いスロープより、車椅子で上がれる高さにした階段状の道の方が安心な方もいらっしゃいます。また、足腰の弱った方には、高さや手すりのデザインに配慮した階段の方がスロープを歩き続けるより楽なことがありますし、健康な方にとってはスタスタ上がれる階段の方が快適でしょう。 ですから、複数の選択肢を用意することによって、ガーデンを訪れた方がご自身のその時の事情に合わせて園路を選んでこの庭を楽しみ、また色々な方法で楽しむ他の人の姿を目にすることで、他者への相互理解も進み、多様性を自然と受け入れる社会に繋がっていくとも思います。そして、ここを訪れた皆さんが、さまざまなことを体験し、自宅の庭にそのアイデアを持ち帰ってご自身の生活に生かしたいと思った時、今回セミナーに参加してくださったプロの造園業者の方々がセラピーガーデンの設計知識を生かして活躍してくれたら理想的ですよね。そうなれば、県が掲げるデジタル田園都市構想が着実に実現化されていくのではないかと私自身とても楽しみにしています」。 コロナや社会情勢のめまぐるしい変化を受け、私たちの暮らし方や価値観も大きな変革期を迎えてさまざまな模索がされています。浜名湖花博20周年記念事業で推進されるプロジェクトは、新時代の暮らし方への一つの明確な回答として、2024年の春の開幕が大きな期待とともに待たれます。
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ガーデンデザイン
【プロが解説】芝生の庭のつくり方&絨毯のように美しくするコツ
芝生のメリット 緑の絨毯のように、青々とした芝生が広がる庭に憧れる人は少なくありません。「芝生の庭つき一戸建て」は、ヨーロッパでかつて芝生の庭が富の象徴とされた歴史を経て、第二次大戦後にアメリカで大人気となり、日本にもその価値観が持ち込まれました。 「確かに手入れの行き届いた芝生はとても美しいですが、見た目の美しさ以上に芝生にはたくさんのメリットがありますし、広いエリアに敷き詰めるだけではない使い方があるんです」と阿部さん。芝生を庭に取り入れるメリットと、さまざまなシチュエーションでの芝生の取り入れ方をお伺いしました。 【芝生のメリット1】リラックスして過ごせる屋外空間 芝生は植物の中でも踏圧性に優れており、人がその上を歩いたり、集ったりすることができます。ですから寝転んだり、遊んだり、ピクニックをしたり、芝生はリラックスして過ごせる空間を屋外に提供してくれます。 芝生の庭にガーデンテーブルを設置した施工例。テーブルの下は日陰になり芝が育たないので、あらかじめ砂利敷きに。 【芝生のメリット2】雑草を抑えて庭の機能性を高める 上の写真は広々とした芝生の奥に植栽帯を設けた庭です。庭を作ろうとするときに、花いっぱいの庭にしたいと思われる人は少なくありませんが、全てのエリアに花を植えるとメンテナンスに追われて苦労することになります。花の咲く植物を植えるエリアは、敷地面積に対し20〜30%あれば緑の量感は十分。残りの70〜80%は庭の機能を果たすエリアになりますが、土がむき出しになっていると雑草が生え放題になり、また雨のたびにドロドロになります。芝生が密に地面を覆っていれば、雑草が生える隙を与えませんし、雨の後も芝地が水分を吸収してドロが跳ねずに快適に歩けます。 【芝生のメリット3】地温を下げる効果 芝生は地温を下げる効果もあります。上の写真は7月の同じ日に砂利敷きのエリアと芝生のエリアで計った温度です。砂利敷きのエリアは50.2℃、芝生は33.2℃と、17℃もの差があります。これは植物には蒸散作用があり、葉っぱから水蒸気を出し温度を下げる効果があるためです。家の周りが全面コンクリートや砂利で覆われている場合と、芝地が広がっている場合とでは冷房効率にも影響を及ぼします。また、ペットを飼っている場合、地面の温度が50℃以上あると肉球を火傷してしまいますが、芝生なら安心して遊ばせることができます。 【芝生のメリット4】植栽を美しく見せ暑さから守る 芝生は広いエリアに敷く使い方だけではありません。植栽帯とタイルなどのペイビングの間に芝生を入れると、植栽の色合いを美しく引き立たせてくれる緑のキャンバスとして活躍し、なおかつ夏場の高温から草花を守ってくれます。芝生はハサミで簡単に切ることができるので、上の写真のような細いライン状に使うことも可能です。 張る前の芝生は園芸バサミで根っこごと切り分けられる。 【芝生のメリット5】足裏刺激と緑の効果で健康維持に VALUA VITALY/Shutterstock.com 足裏への刺激が健康維持につながることは足裏マッサージなどで周知の事実です。裸足になって芝生の上を歩くことで刺激が得られ、脳の活性化が促進され老化防止や生育を促す効果が分かっています。また、千葉大学大学院園芸学研究科の岩崎寛准教授の研究では、芝生を前に5分座って休憩した際、ストレス値が下がり、血圧が正常化されるという研究結果が得られています。 芝生の種類 芝は大きく暖地型と寒地型に分かれます。 【暖地型の特徴】 種類は高麗芝(コウライシバ)や野芝(ノシバ)などがある。11〜3月の冬は休眠して地上部の葉は枯れて茶色くなり、春に再び芽吹く。高温多湿に適し、病害虫に強い。 【寒地型の特徴】 種類は多くが西洋芝。常緑性があり、冬でも緑を保つ。夏の暑さに弱く、特に関東以南では管理が難しい。 「私の施工先では主にTM9という高麗芝の園芸品種を採用しています。従来品種に比べて草丈が短く、緻密で青々としており、足で踏んだ感触もよい芝です。また、芝刈りの頻度が圧倒的に少なくて済むのも魅力です」(阿部さん)。 芝生の正しい敷き方 ① まず、芝生を植えるエリアを決めたら整地します。雑草が生えている場所であれば、短期的な効果の除草剤を用いて除草したのち、土壌改良を施して培養土を入れ、平らにならしてよく踏み固めます。このとき、水のはける方向へ1%ほど地面に傾斜をつけると雨がたくさん降った時も安心です。これを水勾配といいますが、1%の水勾配は1mで1cm下がる斜度です。見た目にはほとんど傾斜しているようには見えませんし、歩いてもほとんど感じられないくらいの斜度です。 ② 芝生を張っていきます。写真のように縦の切れ目のラインが上下で重ならないように配置すると、作業中にずれずにきれいに並べられます。また、切れ目のラインが揃ってしまうと溝ができやすくなり、芝が割れる原因にもなります。 ③ その後、上から砂をかけ隙間を埋めます。芝生を踏んで上から圧力をかけ、芝生の根と地表をしっかり密着させます。 ④ 最後にたっぷり水やりをして完成です。この時、根の生育を促進する活力剤を使うとより芝生が根付きやすくなります。早く根付かせ密に茂らせることで、雑草が生える隙も与えません。できれば1カ月ほどは活力剤の使用を継続するとしっかりと根付き、その後の生育もよくなります。 きれいな芝生を保つには肥料が必須 「芝生はカーペットのように広がっていて、変化もあまりないので植物であるということを忘れられがちですが、もちろん他の植物と同じように手入れが必要です。定期的な芝刈りや散水、施肥は必須。手をかければかけた分だけ、きれいな状態を保ってくれますよ」(阿部さん)。 芝生管理におすすめの活力剤&肥料 芝生をきれいに保つために活躍してくれるのが、この3アイテム。活力剤のメネデールと液体肥料の芝肥料、芝肥料ecoです。それぞれの使い分けを解説します。 ■植物活力素メネデール(茶色の容器) 植物の生長に欠かせない鉄を、根から吸収されやすいイオンの形で含む活力剤。芝張り直後の水やり時に与えると、新しい根の発生を促し、芝生を早くしっかりと根付かせてくれます。その後、週に1度程度のペースで3~4回与えるとより効果的。また、芝生が弱った時や夏場の管理にも役立ちます。「肥料」は弱った植物に使うとさらに弱らせてしまうリスクがありますが、「メネデール」は肥料分を含まない活力剤で、そういったシーンでも安心して使用でき芝生の回復をサポートします。100倍に希釈したメネデールを、週に1度程度、1㎡あたり2~3ℓ散布します。夏場の管理においては毎日のように水やりが必要ですが、メネデールを使用する頻度を通常時より高める(週に2~3回にする)と、暑さなどにより弱るリスクを低減できます。 ■芝肥料 チッソ、リン酸、カリの三要素に、植物の生長に欠かせない鉄や微量要素をバランスよく配合している液体肥料です。速効性があることや肥料焼けが起こらないことが特長です。また、ペットや小さい子どもがいるなど、粒状肥料を使いづらいシーンでも活躍します。1,000倍に希釈した芝肥料を週に1度程度、1㎡あたり2~3ℓ散布します。 下草類専用に配合した液体肥料で、リシマキアやクラピアなどのグラウンドカバー類や苔などにも安心して使うことができます。 ■芝肥料eco 一般的な液体肥料のデメリットを解消したアイテムです。緩効性の肥料分を主成分とし、長期間の肥料効果が期待できることが最大の特長。一般的な液体肥料は散布頻度が高く、散布量も多いので作業が大変でした。芝肥料ecoは施肥が月に1回、散布量は一般液肥の1/6で済み、散布する水量も削減できるので、作業時間と作業量を削減できる逸品です。 芝生への施肥は今がやりどき 芝生が生育を始める4月は、施肥のタイミングです(但し、今年張った場合は、張り付け2週間後から施肥してください)。施肥をすることで芝生がより早く密に茂り、雑草が生えてくるのも防ぐことができます。スカスカしていると雑草のタネが飛んできて、芝生の中に雑草が生えてしまうので、生育初期からしっかり茂らせることが大事です。 高麗芝などの日本芝の場合は4〜8月の間に、西洋芝の場合は3〜6月と9〜12月に定期的に施肥をすることで、カーペットのような美しい芝生を保つことができます。また、芝生の種類によりますが定期的な芝刈りも芝生を美しく保つために必須です。草丈が2〜3cmを保つようにするのが理想的。芝刈り後も施肥を行うと分枝が促され、緻密な芝生をつくることができます。 芝生を上手に使えるようになると、庭デザインの幅も広がります。円形や有機的なラインを描いて地面を緑で彩ったり、植栽の囲いとして使ったり、さまざまな使い方ができます。たくさんのメリットがある芝生を取り入れて、庭作りを楽しみましょう! メネデール社のホームページ https://www.menedael.co.jpメネデール社のInstagram公式アカウント
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ガーデン&ショップ
庭の骨格を作りローメンテナンスでいつもきれいが叶う低木(シュラブ)
低木(シュラブ)の魅力 私が庭づくりをするとき、絶対に欠かせないのが低木(シュラブ)です。花好きさんが植栽計画を考えるときには、どうしても花ばかりを選びがちですが、花だけで庭を構成しようとすると、とてもたくさんの株数が必要になります。花がたくさんあれば、花がら摘みや切り戻しといったお手入れもそれだけ必要になり、メンテナンスも手がかかるもの。 シュラブはスーパーローメンテナンス そこでおすすめしたいのがシュラブです。シュラブは草花類と比較し緑の量感がたっぷりあり、花々をより美しく見せる緑のキャンバスとしても活躍してくれます。シュラブには常緑性と落葉性がありますが、落葉性であっても枝だけの期間は2〜3カ月。草花類と比較し圧倒的に見頃が長く、「いつも庭を緑で瑞々しく」という願いを叶えるにはシュラブが必須です。基本的に手入れは年に1回程度の剪定のみ。ものによっては生育がとてもゆっくりなので、数年に一回の剪定で済む場合もあります。コンパクトなので剪定もしやすく、手入れも楽。シュラブはスーパーローメンテナンスな植物なのです。 シュラブには美しいカラーリーフがいっぱい! シュラブには緑の葉だけでなく、赤紫色や斑入り、ライムイエローなどさまざまなカラーリーフがあり、花を咲かせるものも多数あります。シュラブだけで構成しても上の写真のように美しい花壇ができるほど。ほぼ一年中、この風景がデフォルトとして庭にあり、次々に花を植え替える必要はありません。これだけでも十分見応えのある風景ですが、例えばこのシュラブの手前に季節の草花を少量入れても、季節ごとの変化が楽しめる花壇になります。 美しいシュラブを生み出す「小関園芸」 というわけで、庭づくりではとても頼りにしているシュラブですが、シュラブの中でもとても美しいカラーリーフを作り出す人が、私が拠点とする岐阜県にいます。40年以上の歴史がある「小関園芸」の小関正司さんです。「小関園芸」はアメリカンブルーの新品種 ‘ブルーコーラル’や‘サマースノー’など、たくさんのオリジナル品種を生み出してきた植物の生産農家です。2代目を継ぐ正司さんは、もともとはパソコンのプログラマーをしていましたが、家業を継ぐべくアメリカで植物生産の研修を経て、20年以上前に就農。すぐにシュラブの葉の美しさに魅せられ、自身でも育種を手掛けるようになりました。 ほふく性で色変わりするヒペリカム‘ゴールドフォーム’ 最初に育種に着手したのがヒペリカム‘ゴールドフォーム’。一般的なヒペリカムは樹高0.2〜1m程度の低木で、夏から秋にかけて黄色の花が咲き、その後には可愛らしい赤い実ができ、フラワーアレンジメントでもよく使われます。 一方、小関園芸オリジナルのヒペリカム ‘ゴールドフォーム’は、ほふく性で這うように広がり、さらに葉の色変わりが楽しめるというユニークな特徴を持った品種。春先のライムグリーンからイエロー、オレンジ、チョコレートと、晩秋まで葉色が変化するのです。半日陰でより美しさを発揮し、耐寒耐暑性にも優れ、庭作りではとても重宝します。 繊細な斑入り葉のヒサカキ‘ミスティーホワイト’ 「砂子斑(すなごふ)」と呼ばれ、まるで霧を吹いたかのような繊細な斑入り葉が美しいヒサカキ‘ミスティーホワイト’も小関園芸のオリジナル品種です。ヒサカキといえば、日本では古くから神棚に飾る習慣があり、日本の気候にとても適しています。白をベースに緑の極小砂子斑のミスティーホワイトは、とてもおしゃれな雰囲気。ヒサカキの「和」のイメージを覆し、モダンな住宅にもよく似合います。 コントラストが美しいヒサカキ‘残雪’ 斑入り葉のヒサカキ‘残雪’。実はこの‘残雪’の生産中に小関さんが枝変わりを発見し、数年かけて固定させたのが‘ミスティーホワイト’です。白と緑のコントラストが美しく、やはりおしゃれな雰囲気。ヒサカキは常緑なので、一年中庭に緑を提供してくれます。こうした斑入り葉の品種は日陰に強く、葉色が明るいため、暗くなりがちな日陰エリアで重宝します。 「小関園芸」が生産する美しいシュラブ類 「小関園芸」ではヒサカキなど日本の自生種から斑入り葉などを育種し、さまざまなカラーリーフのシュラブを生産・育種しています。自生種が元になっているので、とても丈夫で育てやすく、私は庭づくりでとても頼りにしているのですが、その生産の仕方はとても丁寧で、すべてのポットの水やりを手で行っています。生産農家では頭上からスプリンクラーで一斉に水まきをするところが多いので、3寸ポットの小さなものから一つひとつ手で水やりをしていると聞いて、とても驚きました。その理由を小関さんは次のように話します。 「シュラブは草花類と違って育つのがとても遅く、生育初期段階で最低3カ月はかかります。一年草のパンジーだったら、種をまいて開花している期間ですよね。でもシュラブはようやくそれらしい形になってくるのに1年以上かかることもあります。生育初期は葉があまりないため蒸散もしません。つまり水が乾きにくいんですが、少しの大きさの違いで、水を欲する量がひとつずつ違います。ですから、ひとつずつの生育に合わせて、それぞれ異なる適量に水を調節する必要があるんですよ」(小関さん) 特に「小関園芸」が多く生産している斑入り葉は、生育が遅い特性があります。斑が白く抜けている部分は葉緑素が少なく、育ちにくいのです。まるで盆栽のように気を使いながら水やりを1ポットずつ丁寧にやるのには、そうした理由もありますが、もう一つ大きな理由があります。それがオリジナル品種の育種です。 1/30万の可能性で生まれる新品種 「新品種の育種は、突然変異や枝変わりを見つけるところからスタートするのですが、その発生率は、例えば斑入りのものだったら1万ポットに1個ほど。最初から他と違う個性がはっきりと出ているわけではなく、なんか違うぞという可能性を感じるところからスタートするものもあるので、そういうのを見逃さないという目的もあって、手灌水にこだわっています。出荷前にも全てのポットをもう一度自分の目で全てチェックして、可能性があるものを拾うのが育種のスタート地点なんです」 しかし、他と異なる個性のものを見つけたとしても、全てが新品種として世に出るわけではありません。突然変異は生育特性上弱く、育種の過程でダメになってしまうものがほとんど。新品種としてデビューできるのは、1/30万ほどしかありません。私たちの手元に届く新品種は、膨大な手間と時間をかけて生まれた奇跡の植物なのです。 「生産効率は悪いですよね。うちは一つひとつに目が届きやすいように、ポットを置くスペースもゆったり確保しているのでなおさら。僕はITの世界から植物生産の世界に来たので、最初はなんて労力がかかって効率が悪いんだと思っていたんですけど、でも面白いんですよね。昨日までこの世になかった美しい植物をこの手で生み出す喜びは、全ての原動力です。まず単純に美しいなぁという感動があるし、何年もかけて性質を固定させ、新品種として初めて市場に持って行く時のワクワク感。『何、これ?!』って興味津々で聞かれた瞬間、心の中でガッツポーズですよ(笑)」 ガーデンですぐに使えるプロ仕様のシュラブを近日限定販売! 前述の通り、シュラブは生育がゆっくりで、斑入り葉などは特に生産に時間がかかるため、流通量は限られています。近年はカラーリーフが寄せ植えなどでも重宝され、小さなポットのものも流通していますが、3号ポットは庭植えで大きくなるまでに時間がかかり過ぎます。造園家としては、庭植えですぐに効果を発揮して欲しいもの。そこで、造園設計の私たち「かたくり工房」特別発注で、「小関園芸」にシュラブの大苗生産を依頼。プロが庭づくりに使う大苗をガーデンストーリーショップで、一般の方にも近日販売できることになりました。生産に時間がかかるため、限定数で近日販売いたします。販売開始はガーデンストーリーのインスタグラムでご案内します。 1.ヒサカキ‘ミスティホワイト’ 2.ヒサカキ‘残雪’ 3.チリメンカズラ(白斑) 4.黄金ユキヤナギ(ユキヤナギ‘オーレア’) 5.西洋イボタ(プリペット)‘カスタードリップル’ 6.チリメンカズラ‘オーレア’ シュラブは庭の骨格、背景、彩りとして活躍し、なおかつスーパーローメンテナンスな素材です。「いつもきれいな庭」を叶えるために、庭に取り入れてみませんか?
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ガーデンデザイン
【プロが解説】初めての庭づくり 地面に絵を描いてみよう
無駄な草取りはすぐやめましょう しばしば、新築の家の庭の草取りを一生懸命しているパパさんを見かけますが、草取りはすぐやめましょう。パパさんの休日はもっと楽しく、有意義なものでなければなりません。それに、残念なことにその草は取っても取っても、すぐに生えてきますよ。というのも、新築の家の造成地には、山から運ばれてきた土が入っています。山から運ばれてきた土には、ありとあらゆる草の種子が仕込まれており、いわば雑草の苗床状態。取ったところで徒労に終わりますので、もっと有意義な庭づくりの始め方をお教えします。 除草剤を使っていったん土をリセット まずは除草剤を使って、土をいったんリセットしましょう。「除草剤」と聞くと、使うのがなんだかコワイ、環境への影響が心配、と思われる方もいるかもしれませんが、ご安心を。「農林水産省の農薬登録を取得している除草剤」は、農薬として登録するまでに人や生物、環境の安全を確保するためのさまざまな審査をクリアしています。商品ラベルに「農林水産省登録〇〇〇〇〇号」という番号が入っている商品を選び、使用方法を守れば安全です。 適した除草剤を選んで使いましょう 除草剤は用途によってさまざまな種類があります。大きく、以下のようなタイプがあります。 ■土に薬をまくタイプ/薬の成分が根から吸収されて草を枯らす。効果が6カ月から1年近くなど長いものが多い。駐車場など、長期的に植物を育てる予定のない場所に向く。 ■雑草に直接かけるタイプ/葉や茎から成分が吸収されて草を枯らす。薬の成分は土に落ちると効果がなくなるため、かかっていない雑草には効かない。効果は2週間など短い場合が多い。 庭の予定地には後者のタイプが向いています。除草剤をかけて雑草を枯らしたら、防草シートをとりあえず庭全体に敷いておきます。この防草シートは、庭計画にともなって後から部分的に取り除きますが、後々にも必要になります。防草シートを敷けばとりあえず、これで草取りの労役からは解放されます。さあ、楽しい庭計画をじっくり練りましょう。 防草シートの上に庭の絵を描こう 防草シートは雑草を防ぐためのものですが、キャンバスとしても役立ちます。防草シートの上に、ペンやチョークを使って庭のレイアウトを描いてみましょう。まずはざっくりとしたエリア分けでOK。デッキや花壇、芝生のエリア、ガーデンテーブルを置く場所など、庭をどんな風に使いたいか、室内からはどう見えるかなどを考慮しながら、家族であれこれ考えてみましょう。 日当たりの確認をしましょう エリア分けを考える上でヒントになるのは、日当たりです。植物が健全に生育するには、基本的に日光が必要ですから、樹木や花壇、芝生のエリアは日が当たる場所にレイアウトしましょう。「日が当たる」と一口にいっても、当たり具合で適した植物が異なります。植物の生育に関連して日当たり具合を以下の4つに分けました。庭のどこがどれに当てはまるか、チェックしてみましょう。 日当たり良好/朝日が当たり、午後過ぎまで日が当たって、西日(3時以降の日)は建物などで日が遮られる。 日当たり強光/午前中から日暮れまでずっと日が当たる。 半日陰/午前中のみ、または午後からのみ日が当たる。 日陰/一日中日が当たらない。 最も植物の選択肢が多いのは、①の「日当たり良好」エリア。②も植物がよく育つエリアですが、夏の暑さと乾燥に注意が必要。強い光によって「葉焼け」するような植物は避けます。③は日陰にも強い植物を選びます。④は植栽する場所ではなく、収納スペースなどに活用するとよいでしょう。 植栽は庭の敷地の20〜30% これから庭づくりをしようというとき、緑いっぱい、花いっぱいの庭にしたい、と思っている人は少なくないでしょう。もちろん、できますとも。でも、庭いっぱいに植栽をしてはいけません。植栽帯は庭の敷地の20〜30%がちょうどよいくらいです。「えっ!少なっ!」と思ったあなた。植物は立体物ですから面積ではなく体積で考えましょう。例えば、樹木は枝葉を伸ばして空間を豊かな緑で彩ってくれます。この緑の見え方のことを「緑視率(りょくしりつ)」といいますが、植栽帯は20〜30%でも緑視率は十分です。 70〜80%は庭の機能面 では、植栽していない他の70〜80%はどうするのかというと、そこは人のための場所です。デッキやガーデンテーブルを置く場所、人が歩く動線や水場、作業場、収納場所など、庭の機能面を充実させるスペースとして考えましょう。 芝生を全面に張った場合でも、人がよく行き来する動線部分は芝生がはげてくることがあります。また、テーブルを置いたらその下は影になり、芝生は早々に枯れてきます。芝生がなくなったところは、土が剥き出しになり雨が降るとドロドロになります。足元がドロドロのテーブルでお茶を飲むのは不快極まりありません。ですから、人の動線や居場所は最初から決めておいて、タイル敷きや砂利敷きにしておくことをおすすめします。そうすれば、枯れゆく芝生に悲しむ必要もありませんし、何度も芝生を張り替える労力も必要ありません。 まずは樹木から選びましょう 植物には大きく分けて樹木類と草類があります。まずは庭の骨格を作る樹木から考えましょう。小さな庭でも樹木はあったほうがよいです。先ほど述べたように、樹木は圧倒的な緑視率に貢献しますし、庭が整った印象になり、草花の彩りも美しく見えます。ただし、木の大きさに注意。家の近くに高木を植栽して、樹木の根っこが家の基礎の下に入りこんで家が傾いてしまったという事例もあります。樹木を選ぶ時は次のことを必ずチェックしましょう。 ●生育後の大きさ/大きくなる木は根っこも地上部と同じサイズ感で大きくなると考える必要があります。また、樹木もある程度生育したら、定期的な剪定などの手入れが必要です。 ●常緑か落葉か/常緑樹の場合、その下は木陰になります。落葉樹の場合、夏は木陰に、秋冬は日向になります。また、落ち葉の掃除の必要があります。 樹木を買うなら冬がチャンス 樹木の苗が豊富に流通するのは冬です。冬は落葉樹など多くの樹木が休眠期や生育緩慢になる時期で、この頃は植木屋さんの畑から傷めず苗木を掘り上げて出荷することができるからです。植栽にも適した時期ですので、冬のうちに樹木だけでも決めておくことをおすすめします。 住宅街の庭におすすめのコンパクトな樹木 住宅街の庭ではあまり大きくなりすぎる樹木を植えると、庭全体が日陰になってしまって他の植物が育たなくなったり、近所への落ち葉の心配などもあります。シンボルツリーとしてよく選ばれる木には樹高が10m以上になるシマトネリコやハナミズキなどがありますが、生育すると自分で剪定するのは難しくなるのでプロに依頼する必要があります。住宅街の庭なら、樹高3〜4mでも十分です。家の天井高の平均が2.2〜2.4mですので、それよりも大きい木ですが、樹木では低木に分類されます。低木は庭では垣根などとして扱われることが多いですが、自然樹形で育てるととても美しい枝ぶりでシンボルツリーに適したものもたくさんあります。おすすめの樹木を以下に紹介します。 ニシキギ 低木に分類される樹木で、樹高は大きくなっても3m。住宅街の庭にちょうどよい高さで止まってくれます。紅葉の美しさを錦に例えられて名前がついたほど、秋は見事に紅葉します。枝を奔放に伸ばし、自然樹形だと上の写真のようにゆったり枝を伸ばしますが、剪定しやすい高さなので、枝振りを庭の広さに合わせて自分でコントロールできます。 エルダー エルダーフラワーとして知られる西洋ニワトコも低木〜中低木類に分類され、樹高は約3〜6m。初夏に咲く白い花は、さまざまな薬効のあるハーブとしても知られ、シロップ漬けにしてコーディアルとして飲まれます。園芸品種に黒葉でピンクの花を咲かせる‘ブラック・レース’があります。花後にはエルダーベリーと呼ばれる黒い艶やかな実が実り、この実もジャムなどにして食されます。 オオベニウツギ 自然樹形だと3mほどに育ち、春はピンクの花をたわわに咲かせて見事です。耐暑性・耐陰性に優れ、病害虫にも強く非常に丈夫です。シンボルツリーとして扱われることの少ない樹木ですが、下枝を整理するように樹形を仕立てていくと、とても美しく印象的です。 冬の間にシンボルツリーを決め、植栽しておくところまでやっておくことをおすすめします。次回は、樹木以外の植物の選び方をご紹介します。
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雑草対策
庭づくりは暑さ対策にも効果絶大! 10℃も差が出る緑の実力
庭が雑草だらけになるワケ 「雑草が生えていることに罪悪感やストレスを感じる方は多いんです」と話すのは造園家の阿部容子さん。「でも、そもそも庭に雑草が生えてしまうのは当然。というのも、住宅地の造成には、雑草のタネが大量に含まれている山土や野ざらしの土を使用しているので、何もしなければ、あらゆる雑草が生えてきます。そして、『雑草』とひとくくりにして邪険にしていますが、植物学的に見たら、特殊な生態を獲得したユニーク植物たちで、まともに草取りしていてもかなう相手ではないんですよ」。 雑草は生態学的には「撹乱依存型」と呼ばれ、踏まれたり、抜かれたり、環境がかき乱される状態にめっぽう強い性質があります。アスファルトの隙間から雑草が生えているのを見たことはありませんか? これはどんな植物にもできる技ではなく、雑草といわれる植物たちだけがもつ特殊な能力なのです。例えば、野菜やバラなどは、適期に肥料をやったり剪定をしないと花や実をつけなかったり、逆に肥料を与えすぎても「肥料焼け」という症状を起こし、健全に生育できないことがあります。しかし、雑草は悪条件下でも種子を残し、好条件下ならより種子を多く生産するという性質があります。つまり、どんな環境下でもベストを尽くして必ず花を咲かせ、種子を残すというわけです。さらに、最初は草丈の低い一年性の雑草が発芽し、次に草丈の高い多年性の雑草が発芽してくる、というように、発芽のタイミングが異なる種類がたくさん土の中に仕込まれた状態にあるため、取っても取っても生えてくる、という草取りループから抜け出せないのです。 庭をコンクリートで覆うと灼熱地獄に 雑草で覆われた庭は雑然とした雰囲気ですし、ヤブ蚊も発生してしまいます。雑草だらけの庭をどうにかしたいと思っている方は非常に多く、その手段の一つとして、コンクリートで表面を覆ってしまうケースもあります。しかし、その前に、別の案を探ってみることを強くおすすめします。 というのも、コンクリートで覆われた庭は、夏の暮らしの快適度を著しく低下させるからです。コンクリートで覆われた地面は、真夏の日射で表面温度が60℃近くまで上がることも珍しくありません。これは、もし犬を飼っている場合、愛犬が肉球に簡単に火傷を負ってしまう温度です。もちろん靴を履いている人間にも過酷です。日射を受けた地面からは赤外放射という熱が発せられ、頭上からの日射に、足元からの赤外放射が加わり、外気温が30℃でも体感温度は40℃にも上がってしまうのです。近年は35℃を超える猛暑日といわれる日が続くことも珍しくありませんが、地面からの赤外放射がある場合、気温プラス10℃が体感温度だとすると、猛暑日の体感温度は45℃以上。もはや熱湯風呂です。 さらに、コンクリートで覆われた面積が広ければ広いほど、この赤外放射の熱量は増します。環境省が発表している「まちなかの暑さ対策ガイドライン」によると、真夏の正午(気温約33℃)に、幅の広い道路で歩行者が受ける受熱量を計算したところ、6畳の部屋で1,000Wの電気ストーブを10台使用した場合と同程度の熱量になったという報告があります。まさに灼熱地獄。こんな環境に長く身を置いたら、冗談ではなく死にそうです。 自動車が走る道路はアスファルトで覆う必要がありますが、自宅の敷地内にこんな過酷な環境を自ら作り出すのは、まったく名案とはいえません。もちろん、室内ではエアコンを利用するでしょうが、前述したように、外は電気ストーブを並べて家をガンガン温めているような状態なのですから、冷房効率はとても悪く、CO2排出量も無駄に上がってしまいます。草取りから解放されるというメリットを得る代わりに、灼熱地獄に毎夏、耐えなければならないなんて、あまりにも代償が大きく、無謀なチャレンジ。 しかし、もちろん選択肢は、この2つだけではありません。 緑で覆われた地面は10℃も低い! おすすめの選択肢は、小さくても庭をつくることです。地面には雑草の代わりにグラウンドカバープランツと呼ばれる地被植物を植えます。地被植物は草丈が低く、地面を這うように育つため、緑の絨毯のように茂って、雑草が生えにくくなります。芝生もその一つですが、他にも花が咲くものや香りのよいものなど、いろいろな種類があるので、以下の記事を参考にしてみてください。 ●グラウンドカバーに最適な植物10選【足元のカバーや雑草対策に活用!】 地面をグラウンドカバープランツで覆った部分は、日向のアスファルトより10℃以上低いことが確認されています。そのメカニズムは、植物の蒸散作用にあります。植物は葉っぱの裏から水蒸気を出して水分量の調節をしており、気温が高ければ高いほど多くの水蒸気を放出します。この蒸散作用のおかげで、グラウンドカバープランツで覆った地面は日射を受けても表面温度が上がりにくく、夕刻以降は気温よりも低くなります。同様の理由で、家の周りに植物の垣根を巡らせたり、フェンスにつる植物を這わせたりすることも効果的です。ただし、蒸散作用は植物の生命活動の一環ですから、人工芝やフェイクグリーンなどでは、その効果を得ることはできません。 緑の木陰は同じ気温でも体感温度が7℃も低い! また、樹木が作る木陰は、頭上からの日射と赤外放射を軽減し、同じ気温でも体感温度が7℃程度低くなるという結果が出ています。個人邸の庭では、あまり高くなりすぎないニシキギやマンサクなどの中低木を植えたり、藤棚などのようなパーゴラを設置するのも手です。また、ゴーヤなどで作るグリーンカーテンにも夏の強い日差しをカットし、蒸散作用によって気温を下げる効果があります。植物は日光を浴びて光合成し、新鮮な酸素をたっぷり排出してくれるので、緑の庭から入ってくる空気も美味しく感じられることでしょう。 ●庭木にオススメの樹木と選び方、助成金も賢く利用しよう! 庭をつくり始める前に除草処理をしておこう さて、植物を植える前に、大事な作業が除草処理です。前述したように、庭の土にはあらかじめ雑草の種子がたっぷり含まれているため、そのまま庭づくりをスタートすると、雑草が生えてきます。草取りの労力を減らすために、阿部さんは造園の前準備として、除草剤を使って一度地面をリセットしてから土壌改良を行い、植栽をしています。「除草剤にはさまざまなタイプがあります。発芽前の種子に効くものや、すでに生えている草に効くもの、また持続期間も2〜3週間で切れるものから半年以上続くものまであるので、適したものを選んで使います」。 ●草取りで心が折れそうな人へ。除草剤の効果的な使い方 植物を植えるエリアと人の通り道、居場所を明確に 除草したあと、地面の表面温度が下がるからといって、一面に植物を植えてもよい結果にはなりません。植物の手入れをしたり、家との出入りをしたり、庭の中には人が通る動線があります。いつも踏まれているところは、芝生も傷み、張り替え作業が必要になります。ですから、人の動きを予測し、歩く場所にはあらかじめレンガやタイルで小道をつくっておきます。 しばしば、屋外空間が車庫スペースとして大幅に取られる場合がありますが、その場合にはグラウンドカバープランツで地面を覆い、車のタイヤが通る部分だけをタイル敷きにするという方法で緑化面積をつくることができます。 また、阿部さんは庭に人の居場所をつくると、より暮らしが楽しくなると話します。「デッキを設けたり、ガーデンファニチャーを置く場所をあらかじめ決めて庭をデザインするといいですよ。室内から眺めるだけでなく、庭を生活空間の一つとすることで、Stay Homeの難局も苦にならずに過ごせると思います。実際、そのように思われる方が多いようで、造園の依頼は増えていますね。緑は温度を下げるというだけでなく、さまざまな季節の楽しみをもたらし、植物の手入れをすることでリラックス効果が得られることも科学的に分かっています」。 阿部容子さんが実践する庭づくりのメソッドが詰まった新刊書『宿根草で手間いらず 一年中美しい小さな庭づくり』 雑草対策の他にもキッチンガーデンや果樹、ハーブなど、さまざまなアイデアで庭のある楽しい暮らしを提案してくれる阿部さん。これまで数々の庭づくりの経験をしてきた阿部容子さんが監修した庭づくりの書籍『宿根草で手間いらず 一年中美しい小さな庭づくり』(西東社刊)が、2022年4月25日に発売されました。 庭は暮らしにもっとも身近でありながら、日常の緊張感からも身も心も解きほぐしてくれる癒やしの空間になります。ですが、どんな小さな庭でも少なからず手入れが必要になります。庭主がメンテナンスによってストレスにならないようにと阿部さんがこれまで実践してきた庭づくりのノウハウが詰まった一冊。ガーデニングに悩む方や、これから本格的に庭をつくろうとしている方への力になる書籍です。 <主な内容>手間をかけずに四季を彩る!居心地のよい小さな庭のつくりかた! ●植え替え不要の宿根草を生かした庭! ●まねしたくなる、美しい実例がたくさん! ●植物の選び方、配置、組み合わせ方が理論で理解できる! ●小さな庭で活躍する植物図鑑つき! 『宿根草で手間いらず 一年中美しい小さな庭づくり』 監修/阿部容子 発行/西東社 A4変形版 カラー144ページ 定価1,500円+税 造園家・阿部容子さんを講師に迎えるオンライン配信「ストレスフリーの庭づくり」 2022年5月14日(日)15時より、ガーデンストーリークラブ会員さまと一般の方に向けて、造園家・阿部容子さんを講師に迎えるオンラインサロンをおこないました。2022年4月25日に発売された阿部さん監修の新刊書籍『宿根草で手間いらず 一年中美しい小さな庭づくり』をテキストに、庭づくりの手順やストレスフリーな庭づくりのために抑えておきたいポイント、気を付けたいNG集などを解説。サロンは、阿部さんが手掛けた庭から生中継!アーカイブで全編閲覧ご希望の方は、クラブ会員サイトよりお申し込みください。 ●ガーデンストーリークラブについてのご案内はこちらのページをご覧ください。 YouTubeライブ配信URLはこちら→https://youtu.be/COXyLBTAPYY
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樹木
庭木にオススメの樹木と選び方、助成金も賢く利用しよう!
庭の中での樹木の役目 樹木も草花と同様にさまざまな種類があり、樹高や樹姿、落葉、常緑といった特徴を踏まえて庭に適したものを選びます。樹木を選ぶときは、庭のどこに何の目的で植えるかを明確にしておく必要があります。 生け垣に向く樹木の特徴 植える目的が分かりやすいのは、生け垣。生け垣は、主にフェンスなどと同様に、敷地の境界線を示し、公道からの視線を遮るという明確な目的で植えられます。ですから、向こう側が見通せないよう枝葉の密度が高く、下部から葉が茂り、病害虫に強いものが適しています。また、公道に面している生け垣は、美観はもちろんのこと、枝葉が伸びすぎて通行の邪魔にならないように、常に形を保っておく必要があります。このため、年に3回程度は刈り込みますが、刈り込んでもすぐに新芽が発生する性質も生け垣にする樹木の条件です。これらの特徴を備えているのが、生け垣によく用いられるレッドロビン、オウゴンマサキ、トキワマンサク、アラカシ、シルバープリペットなどです。 生け垣に助成金が出る自治体も 生け垣はフェンスと同様の目的と書きましたが、そのほかにも防音効果や火災の際の延焼防止、空気の浄化、さらに街の景観の一部としてなど、公共的な役目も果たします。そこで、自治体によっては新たな生け垣の造成に助成金制度を設けている地域があります。一軒あたり、総額500,000円という決して少なくない額を示している地域もあるので、生け垣を作ろうと思っている場合は、一度お住まいの自治体の制度を調べてみるとよいでしょう。 シンボルツリーとは シンボルツリーとは、その家の象徴となる樹木のことです。家の外観に調和させるため、低木ではなく、ある程度高さのある樹木が植えられます。花が楽しめるハナミズキやヤマボウシ、ヒメシャラに加え、近年は常緑でおしゃれな雰囲気のオリーブやシマトネリコなども人気です。ただし、これらの樹木はいずれも「高木」といわれる樹種で、10年もすると見上げるような姿になるので、植え場所をよく検討し、高くなりすぎる場合は剪定で樹高を抑えて育てる必要があります。ちなみにシンボルツリーの植樹にも助成金が出る自治体があります。 小さな庭に向く樹木 紅葉が見事なニシキギ 日本の狭小な住宅事情を考えると、前述の樹木より樹高の低い樹木のほうが扱いやすく、親しみやすいかもしれません。小さな庭にオススメなのが、ニシキギです。ニシキギは低木といわれる部類に入り、樹高は大きくなっても2〜3mで自然に止まります。このくらいの樹高で止まってくれれば、自分で剪定もしやすいでしょう。それになんといっても葉の美しさが格別です。ニシキギという名の通り、最大の魅力は錦のごとく見事な紅葉です。晩秋には実がはじけてオレンジ色のタネがぶら下がり、その姿はなんとも可愛らしいものです。冬は落葉します。春から夏にかけては明るく柔らかい黄緑色の葉が茂り、「翼(よく)」と呼ばれる特徴的な姿をした枝は生け花の花材としても重宝されています。剪定によく耐え、新芽を素早く吹くため生け垣にもしばしば用いられますが、自然樹形で育てても写真のような品のよい姿にまとまります。季節ごとにさまざまな表情で楽しませてくれるオススメの樹木です。 鮮やかな花と葉が美しい赤葉紅花トキワマンサク もう一つおすすめなのが、赤葉紅花トキワマンサクです。常緑の葉は鮮やかな赤色になり、春になるとフューシャピンクの花が木の全体を覆うように咲き、華やかこの上ない姿になります。よく垣根にも利用される樹種ですが、単独で自然樹形に仕立ててもシンボルツリーや庭木として活躍してくれます。3m以上伸びる中木に分類されますが、主幹を好みの高さで切って樹高をコントロールすることが可能です。下のほうにも枝葉が茂るので、見上げることなく目線で美しい葉が楽しめます。手入れも比較的楽で、芽吹きがよいので、あまり時期や切る場所を気にせず剪定ができます。枝の伸びがよいので、花が咲き終わるのを待って5月くらいに切り戻すとよいでしょう。また、枝が混み合う場合には枝元から剪定して枝数を間引き、風通しをよくしておきましょう。 花も実も紅葉も楽しめるジューンベリー ジューンベリーも庭木にオススメの樹木です。春には白い小さな花が咲き、初夏には赤いベリーがたくさん実ります。果実は甘酸っぱく生食もできますし、ジャムにして保存も可能です。秋の紅葉も見事です。高木に育ちますが、生育がゆっくりなので毎年、落葉期に剪定することで樹高のコントロールが容易です。剪定も難しいルールは一切ないので、伸びすぎた枝や混み合った箇所の枝を切るようにしましょう。また、果樹の多くが害虫被害を受けやすいのに対し、ジューンベリーはほとんど心配がありません。ただし、この赤い果実は鳥たちも好物。いろいろな野鳥がやってきますが、庭でバードウォッチングができると思って、彼らをあまり敵視しないほうが楽しいガーデンライフを送ることができるでしょう。 株立ちと単幹(一本立ち) 株立ち・単幹(一本立ち)の雰囲気の違い 樹木には株立ちと単幹(一本立ち)という樹姿があります。株立ちとは、根元から複数の幹が生えている状態の木で、上の写真では左側のカツラのような樹姿です。複数の幹に栄養が分散されるため、幹が細く繊細で優しい雰囲気になります。1株で雑木林っぽい雰囲気を出せるのも特徴です。 一方、単幹(たんかん)とは、幹が1本の樹姿です。上の写真では右側のクローブが単幹です。1本の幹に栄養が集約されるため、太くしっかりとした幹になり、堂々とした雰囲気が出ます。 株立ち・単幹(一本立ち)のそれぞれの役割 こうしたビジュアルや雰囲気の違いだけでなく、株立ちと単幹では、同じ樹種でも育ち方に違いが出てきます。複数の幹に栄養が分散される株立ちは、上に伸びるスピードが比較的遅く、樹高も単幹より低くなります。ですから、住宅街の庭などで、あまり大きくしたくないけれど、どうしても高木の樹種を植えたい場合などは、株立ちを選ぶことで解決できることもあります。 また、株立ちは横に広がって育つため、隣家からの視線を遮る目隠しの効果もあります。さらに、株立ちの樹木は屋上ガーデンやベランダガーデンなど、根が張れるスペースが限られている場所にも向いています。単幹は台風などの場合に強い風にあおられ根こそぎ倒れてしまうことがありますが、株立ちは幹の間から風を逃がすことができるので、倒れにくいからです。 一方、単幹はスッキリとした樹姿を生かしてフォーマルな雰囲気をつくることができます。上の写真ではシラカバを小道の両脇に左右対称に植え、ゲートのようにしました。落葉樹なので冬には葉が落ちますが、白い幹肌が際立って美しい風景をつくってくれます。 また、単幹は使い方次第で庭を実際よりも広く見せることができます。伝統的な庭園の構成には、樹木の足元に「根締め」といって、低木のツツジなどを植えるセオリーがありますが、小さな庭ではそれとは逆に、意識して何も植えずに空白をつくります。この空白のことをエアポケットといいます。あえて何もない余白の空間をつくることで印象を操作し、庭にゆったりとした雰囲気を生み出すことができるのです。ですから株元に植栽をするなら、グラウンドカバー程度にとどめておくといいでしょう。 このように樹種や樹姿の選び方、使い方によって印象操作が可能になり、より魅力的な庭をつくることができます。樹木は一度植えたら変更や移動が難しい植物です。キレイだから、好きだからということはもちろん大事ですが、それに加えて、その場所でのその木の役割を考えてみることも、樹木選びのポイントです。
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宿根草・多年草
庭に一度植えたらどんどん増殖!? はびこって困る要注意植物5つ
一番困る植物は「地下茎で増える」植物 写真は、街中ではびこっているのをよく見かけるヒメツルソバです。野生化してどんどん広がる生育旺盛な植物ですが、増えすぎれば抜き取ってなくすこともできます。でも、これからご紹介する5つの植物は、抜いても抜いてもどこからか生えてくる“地下茎(ちかけい)”で広がる困った植物です。地下茎で増えるとは、地面の中で根を横に広げながら伸びていくという意味。その根はどこまで伸びているか目で確認ができないため、思いがけないところから芽を出します。また、地面を掘り起こして根をすべて除去できたと思っていても、5㎜でも地中に根が残っていたら再び芽を出すという生命力を持っています。 これから登場する5つの植物は、花や緑を楽しみたいガーデンには、極力植えないほうがよいと覚えておきましょう。 はびこる植物1つめは、竹・笹 寒さに強く、春にはタケノコの味覚の楽しみをもたらしてくれる竹。日本でも古くから親しまれてきた植物ですが、新たに住宅街のガーデンに植えるのはやめましょう。竹や笹など竹の仲間は成長力が強く、1日で1m以上伸びるともいわれています。竹林の近くにある民家の敷地に竹が侵入して、困ったという事例が多くあります。 はびこる植物2つめは、ミント類 葉を揉むと爽やかな香りが立ち上り、ハッカとしても馴染みがある代表的なハーブの一つ、ミント。切った茎をコップの水に挿しておくだけでも根が出るほど丈夫で、こぼれダネや地下茎で繁茂します。ミントの仲間はとても多く、ペパーミントやスペアミント、モロッコミント、アップルミント、グレープフルーツミント……と書き出すときりがありません。バリエーションが豊かなので、いろんな品種をコレクションしようと、何種か一緒に花壇に植えると、地下茎同士で交雑してしまい、品種の区別もつかなくなってしまいます。もしミントを育てるなら、品種ごとに鉢植えにしましょう。そして、鉢は地面から離すことが肝心。地下茎が鉢底穴から伸びて、気がついたら地面に這って伸びていたということもあります。 「レモンバーム」と名前がついていても、ミントの仲間です。苗を買う時、何の仲間か見ても分からない時は、札をよく見て選びましょう。お店の人に教えてもらうのも一案です。 はびこる植物3つめは、グレコマ 別名、カキドオシ(垣通し)と呼ばれ、名の通り垣根を通り越してお隣さんの敷地にまで伸びていく、生育旺盛な植物。葉が白く縁取られた、カラーリーフ(グレコマ・ヘデラケア/西洋垣通し)としてもよく目にする植物です。茎を伸ばし、小さめの葉がアクセントになることから、寄せ植えの脇役としても人気です。「鉢植えなら広がって困ることはないでしょう」と思ったら大間違い。成長スピードが速いので、鉢の縁から伸び出た茎が地面に到着。そして、根を下ろして地面を這って広がってしまうのです。グレコマを鉢植えにしたら、地面に届かない場所かテラスなどに飾りましょう。 はびこる植物4つめは、ラミウム グレコマと同様に小ぶりの葉をつけ、20〜40㎝ほど茎を立ち上げながら地下茎でどんどん増えるラミウム。道端でも見かける日本の自生種、ホトケノザやオドリコソウの仲間です。環境に適した場所だと、どこまでも伸びていく生育旺盛な性質。ハンギングバスケットや寄せ植えのカラーリーフとしてよく使われています。また、庭植えのグラウンドカバーとしての役目を果たしますが、思いがけない場所に生えてしまうので注意が必要です。 ラミウムには、葉に入る白い斑模様にいくつかバリエーションがあります。5〜6月には黄色や紫などの花が咲きます。姿は可愛らしく、ガーデンにも似合いますが、広がることを知ったうえで取り入れるとよいでしょう。 はびこる植物5つめは、ドクダミ 道端や空き地などでも群生し、独特な香りを放つドクダミ。お茶などでも馴染みがあり、抗菌作用があるといわれています。半日陰の湿った場所が好みですが、生育に適した環境だとどんどん広がっていきます。家の影になって、他の植物が育ちにくいデッドスペースに育っている分には特に気にならない、というならば恐れなくても大丈夫です。 ドクダミと認識していなかったのに、いつのまにか鮮やかなカラーリーフがドクダミに占領されていたら驚きますよね。ハート型の斑入り葉の周囲が赤く染まり、一見カラーリーフとして目を引く写真の植物は「ゴシキドクダミ」。別名、カメレオン、フイリドクダミ、トリカラーなどとも呼ばれるドクダミの園芸品種です。これもドクダミと同様に地下茎で増えるのですが、日照りが続いて水が切れたりすると原種にかえり、いつのまにか鮮やかな斑がない緑葉のドクダミへと変わってしまうという事例があります。お気に入りの植物を育てる場所としてガーデンを楽しんでいるところに、植えた覚えのないドクダミが取っても取っても生えてくる。思いがけない地下茎のワナにはまらないためにも、ゴシキドクダミは地植えにするのは避けましょう。 はびこる植物を庭に取り入れたい場合 これらのように、旺盛に茂る植物は場合によっては大変なことになりますが、その性質を知ったうえで、上手に取り入れる手段もあります。それはルートコントロール。「ルート」とは根っこのことです。地中に根っこが伸びられる範囲を制限する仕掛けをする方法です。そのように根の生育をコントロールしておけば、必要以上にはびこって、草取りに追われることもありません。詳しくは以下の記事で紹介していますので、参考にしてみてくださいね。 Photo / 1) A.Sontaya/ 2) Teresa Design Room/ 3) footageclips/ 4) agatchen / 5) Skyprayer2005 / 6)mizy7-1) InfoFlowersPlants/7-2) Ole Schoener/ 8)feathercollector / 9) guentermanaus / Shutterstock.com