2011年3月11日14時46分、三陸沖を震源にマグニチュード9.0の地震が発生。津波がすべてを一瞬にして呑み込みました。被害が大きかった宮城県石巻市雄勝町に、花を植え、育て続けている団体があります。花と緑の復興支援で徐々に大きくなった、「雄勝ローズファクトリーガーデン」。その10年の歩みを伺いました。
目次
「寒々しい景色にせめて花を…」その想いから始動
「この辺りは電柱の上まで津波がきました」と話すのは、石巻市雄勝町でローズファクトリーガーデンを管理している徳水利枝さん。雄勝町は現在も川の護岸工事が進められており、他の被災地に比べて民家が非常に少なく、津波の爪痕が色濃く残る土地です。そこで目を引くのが、雄勝ローズファクトリーガーデンです。
徳水さんは、雄勝にあった生家と母を津波で失いました。遺体の捜索などが終わり、雄勝に入れるようになったのは6月。なんとか瓦礫の撤去を終えると、何もない寒々しい景色だけが残っていました。
「とても寂しく、厳しいものを感じました。だから、せめて花を植えたいと思ったんです」。園芸は素人だった徳水さん。ボランティアの協力を得て活動していた時に「花と緑の力で3.11プロジェクト みやぎ委員会」(以下「3.11プロジェクト」)を知り、連絡を取りました。2012年1月のことです。
3.11プロジェクトの代表を務める鎌田秀夫さんは、仙台市の造園会社の社長。震災直後から仙台市を拠点に各地に花と緑の支援を行っていました。鎌田さんが雄勝に来たのは2月。当時を振り返り「他の地域と比べ、雄勝は特に復興が遅れている印象でした。人の気配がしなかったんです」と話します。
さっそく雄勝に花を咲かせるべく、3月に「雄勝花物語」が始動。最初に制作したのは、メドウガーデンでした。造園業を営む鎌田さんは、その技術とノウハウを生かし、花壇の設計から資材の手配、ボランティアの総括などを手伝いました。花を植えたのはボランティアと、雄勝の住人の皆さん。夏には花が咲き、寂しい土地の一画が華やかに彩られました。
ガーデンづくりが交流の場に
「雄勝花物語」の活動が周知されるようになると、ガーデニング雑誌「BISES」のガーデンチャリティーから助成を受けました。そこでバラを植えたいという徳水さんの希望を聞いた鎌田さんが、「ローズファクトリーガーデンプロジェクト」を提案します。これまでのような花壇ではなく、観光庭園のような大規模なガーデンをつくる構想でした。
「被災地だからこの程度でいいと思ってはいけない。地域の人が自分で町を復興することで、町も人も元気になると思うんです。だから雄勝の人に興味を持ってもらって、一緒にガーデンをつくりたいと思いました」と鎌田さん。
雄勝町民が暮らす仮設住宅にチラシを配ると、100人もの人々が手伝いに駆け付けました。なかにはボランティアに来て初めて再会した知人同士もいたといいます。全国や海外からもボランティアが集まり、いつしかガーデンは地域の人とボランティアの交流の拠点になっていきました。地域住人からは「ボランティアが来ると10歳若返る」という声もあり、ガーデンづくりは人の心の支援の場にもなりました。
そして2013年10月、ローズファクトリーガーデンの開園式が行われました。3.11プロジェクトの指導でボランティアが一つひとつ敷いたレンガの広場、丁寧に塗られた柵、すべてが手づくりのガーデンの誕生です。
2014年には他の地域でガレキ撤去を終えたボランティアも加わり、ハーブガーデンを造成。2016年にはガーデンでコンサートなどのイベントを企画し、バラの時期には一日に約200人が訪れる人気スポットになりました。
「まちづくり」の一端を担うガーデン
2016年、道路工事のためにガーデンの移転の話を持ちかけられます。生家のあった土地で多くの人とつくってきたガーデンを移転させるという提案を承諾するのは、徳水さんにとって断腸の思いでした。
そこで、千葉大学の秋田典子先生や3.11プロジェクトが協力し、行政に「雄勝中心部土地利用構想」を提出します。これは雄勝町の「まちづくり計画」の中に、ローズファクトリーガーデンを組み込んだ構想でした。この一部が採用され、ローズファクトリーガーデンを中心にした「雄勝ガーデンパーク構想」が2017年に策定。移転に踏み切りました。
移転作業に区切りをつけて、新しいローズファクトリーガーデンが開園したのは2018年3月。未完成の状態ではありましたが、ボランティアや地域の人とともに現在まで整備と改装を続けています。
必要とされる花と緑の力
「たくさんの人が関わったので、十人十色の意味を持つ場所だと思う」と徳水さん。雄勝ローズファクトリーガーデンは、支援の受け入れの場だけでなく、防災教育や企業の社員研修(教育旅行)、イベント、体験教室、カフェなどさまざまな目的で使用されています。現在は企業と一緒に、雑貨や化粧品の商品開発にも取り組んでいます。
もともとボランティア向けに「なぜここでガーデンをつくり、この活動がどう復興につながるのか」を説明していたのが防災教育になっていましたが、現在は専門家の講演という形ではなく、地域のお母さんたちが活躍しています。何気ない交流の中に出てくる震災の話のほうが身近に感じられ、防災意識の向上につながりやすいようです。
「最初はこんなに大きなガーデンになるとは思っていなかったけれど、鎌田さんの支えがあって『町に何かを残したい』という思いで活動してきました。被災地をケアしたい地元の人と、応援したい人の思いでできた貴重な場所です。10年間の支援のおかげでここまでこれたことに、感謝しています」と徳水さん。
そばで支えてきた鎌田さんは、「いずれは支援から自立し、地域の職場にしたい。形にするには、まだ支援が必要だと思います」と先を見据えています。
彩りのために始まった花と緑の活動は、コミュニケーションの場や、人を元気づけるきっかけになり、着実に地域の活力になっています。
Credit
執筆/株式会社グリーン情報
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協力/花と緑の力で3.11 プロジェクト、みやぎ委員会、雄勝ローズファクトリーガーデン
http://311shien.net/
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