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サヘル・ローズさんが語る青い花と、バラの香りに溢れるイラン

サヘル・ローズさんが語る青い花と、バラの香りに溢れるイラン

誰にでも心を寄せる花がひとつ、2つはあるのではないでしょうか。イラン出身の女優、サヘル・ローズさんの場合は、幼い頃から特別な思いを寄せてきた花があります。サヘルさんの人生を変えた運命の青い花と、祖国のバラと。2つの花にまつわるストーリーをご紹介します。あなたの特別な花は、なんですか。

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私の大好きな名の知れぬ青い花

私が小さいときから好きだった花は、春に咲く小さな青い花です。イランにいたときも、日本に来てからもよく見かけるその花は、残念なことにずっと名前が分からないままです。ワスレナグサでもなく、キュウリグサでもなく、ムスカリでもなく。その小さな青い花は、たぶん「雑草」といわれている花なのだと思います。私は「雑草」という呼び方があまり好きではないのですが、その小さな青い花を見つけるたびに嬉しくなって、学校からの帰り道にも、その花が咲いている場所へよく寄り道をしました。もし、どなたか思い当たる方がいらしたら、ぜひ、教えていただきたいと思いますが、わたしがどうしてこの青い花に魅かれるのか、どこかで懐かしさ感じるのが『青』という色。少しだけ私の生い立ちをお話しさせてくださいね。

私が生まれた時代、イランは戦争中で、私は4歳の頃に孤児院に入りました。そこで7歳まで生活をするなかで、孤児院の中庭の芝生に寝転がるのが幼い私の息抜きで、大地の香りをかぐと安堵したものです。孤児院で生活をしていたのが『青組』という部屋。すべて、真っ青の部屋。花の絵が描かれている壁。青い小さなこの花を見るたびに反応してしまうのは、きっと幼いころの記憶。というわけで、この青い花は、私の一部で、私の記憶の中に焼きついている大事な記憶の花なんです。7歳のとき、さまざまな奇跡が重なり、私を引き取り、実の子どものように育ててくれているのがフローラ・ジャスミン。私の母は、その名の通り、花が大好きな人なんです。

イランはバラの香水の産地

母が大好きな花が、バラ。もちろん、ローズという名を授けてもらった私にとっても、大切な花です。みなさんはイランがバラの香水の産地だということを、ご存じですか? カーシャーンは「バラの都」と呼ばれ、5月の花の頃には世界中からバラの香りを求めて、観光客のほか、香水のバイヤーたちも集まります。この香りのバラは、イランではゴレモハンマディと呼ばれるダマスクローズです。5月上旬から6月中旬、夜明けから朝にかけて、最も芳香成分を含んだ状態でバラが摘み取られ、ローズオイルとローズウォーターを抽出するために、すぐに蒸留にかけられます。この季節、町はバラの香りに包まれます。

香りが濃厚なダマスクローズ。
イランでのバラの蒸留はとても古い歴史があります。ローズオイルは高価ですが、ローズウォーターは日常的によく使われます。
ローズウォーターを抽出する伝統的な蒸留装置。

お菓子に紅茶に、ローズウォーター

イランでは、このローズウォーターを宗教的な儀式や暮らしのなかで、日常的に用いる習慣があります。例えば、食卓には常にローズウォーターが置いてあり、食事のときやデザートをいただくとき、また紅茶を飲むときなどにもローズウォーターを入れます。イランの伝統的なお菓子に「ギャズ」というピスタチオを使ったお菓子がありますが、これはローズウォーターを入れて作りますし、ライスプディングの「ショレザルド」をいただくときにもローズウォーターは欠かせません。食卓だけでなく、しょっちゅうこのローズウォーターを使うので、イランの家の室内はとてもよい香りです。

イランの伝統菓子でローズウォーターを使って作る「ギャズ」。
紅茶にはダマスクローズのつぼみを入れていただきます。
マーケットでもダマスクローズのつぼみが売られています。

バラと詩の都、シーラーズ

バラの都と呼ばれるシーラーズのナスィール・モル・モスク。

また、イランでは文様としてもバラがあちこちに描かれています。なかでもシーラーズというイランの古都は、やはりバラの都と呼ばれており(イランにはバラの都がとても多いのです!)、ナスィール・モル・モスクは色鮮やかなステンドグラスとともに、床のバラのタイルが壮麗さを極めます。シーラーズは詩人の町としても知られ、イラン最大の詩人と呼ばれる13世紀のサアディーは『薔薇園』という詩と散文でつづったイラン文学史上最も美しい古典を世に残しました。その金言の数々は、バラの香気を放つと称されます。バラは古くからイランの人々を魅了し、神聖な花でありながら、最も身近で親愛を寄せる特別な存在なのです。

修復中のローズ柄タイル。
モスクの美しいバラのタイル。
母が買ってくれたバラ柄のワンピースを着て。

私の母も、なにしろバラが大好き。部屋のなかはバラ柄にあふれていますし、もちろん、バラも育てています。最初は数株だったのが、今では100種以上! 毎年「国際バラとガーデニングショウ」にも欠かさず通っているほどです。

次回は、そんな母と私のガーデニングライフについてお話ししたいと思います。

●サヘル・ローズさんが語るガーデニングへの思いについてはこちらのシリーズもご覧ください。

Photo/2) S.Amber、 Timchenko Natalia、piksel_foto/ 4) Max Bukovski/ 5) Fattan Dehghani/ 6) Emily Marie Wilson/ 7) Velveteye/ 8) MarlonBundo/ 9) Marcin Szymczak/ 10) Anna Fevraleva/ 11)Artography/ 12)Anna Fevraleva/Shutterstock.com
1&13) albert_sun3/ 3)3 and garden

取材・まとめ/3 and garden

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