都会の一画で、母と二人で小さなバラ園づくりに励む、女優のサヘル・ローズさん。試行錯誤を繰り返しながら育てるバラたちは、年々美しい花を咲かせるようになり、地域の人たちの憩いの場に。さまざまな世代や国の人たちが交流するコミュニティーガーデンとして成長するサヘルさんのバラ園のお話です。

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失敗を繰り返しながらのバラ園づくり

サヘルさんのバラ園

このバラの庭は、もともとは石ころだらけで酸性が強く、植物を栽培するには向かない土地でした。そういうことも最初はよく分からなかったので、どうしてうまく育たないんだろうという疑問から、いろいろ調べたり人に聞いたりして、庭づくりはまずは土作りからなんだ! ということを学びました。石ころを取り除いて、中和剤を入れて土壌改良した結果、バラは育つようにはなったのですが、同じように世話をしているのに、どうも調子の悪い子がいるんですね。例えば‘ヨハネ・パウロ2世’という品種があるのですが、日当たりのよい場所に植えて肥料もやっているのに、なんだか株が元気がないんです。なんでかなって、毎日観察していたら、白くキレイな花が咲いた時、花弁に火傷のような痕ができてしまっているのを発見。それで、「あっ! 日差しが強すぎるんだ!」って気づいたんです。バラはどれも陽射しが大好きと思っていたけれど、品種によって個性があるんですね。このバラは少し柔らかい日差しを好むようで、移植したら調子がよくなりました。

こんなふうに、庭づくりはいつもトライ&エラー。植物は喋れない分、しっかり見てあげることがとても大切だなって思いますね。よく観察すると、サインをちゃんと出しているんですよね。そして、やり方を変えるとちゃんと応えてくれる。それが私にとっては植物と会話をしているようで、とても楽しいんです。

サヘル・ローズ

幸せの連鎖を生む小さなバラ園

サヘルさんのバラ園

この庭は今年で3年目を迎えますが、じつは地域でちょっと有名になり始めているんです。母がスーパーに行って買い物をしていたら、「あそこのバラの庭って、お宅の庭なんでしょう?」って声をかけられたそうなんです。「あそこに外国の方が手入れしているキレイなバラの庭があるから行ってごらんって聞いて、見に行ったのよ。とてもキレイね。楽しみにしているわ」って。そうやって皆さんが口コミで広げてくださって、見にきてくださる方が増えているんです。

サヘル・ローズ

母は日本に来てもう長いのですが、私ほど日本語が堪能ではないので、これまではあまり同じマンションの方ともお話ししなかったんです。喋る相手が私ばかりで、とても寂しかったと思います。それがこのバラの庭をきっかけに、母にたくさんお友だちができて、それが私はとても嬉しいの。母が庭の手入れに行くと、時々同じマンションのご高齢の方とか、お一人住まいの方が、庭のベンチに座ってランチしているんですって。そういう方から「あなたのバラの庭からとても元気をもらえるわ。ありがとう」と感謝されたって、嬉しそうに私に話してくれました。自分のためだけじゃなくて、この庭が地域の皆さんの喜びになっているということが、母にとっても大きな喜びで、私にとってもすごく嬉しいことです。そういう喜びや幸せの連鎖を、世代や国を越えて生み出せるところが、庭ってすごいなって思います。

ローズガーデン

忙しい時ほど、花と目線を合わせて

バラ

私も同じように地域の公園や花壇をいつも楽しみにしているんです。恵比寿駅の花壇、とてもキレイなのをご存じですか。季節のお花で「EBISU」の文字が象ってあるんですよ。私も花を育てているから分かるんですけど、きっと見る人が喜んでくれるんだろうなって思いながら、いろいろ工夫してつくっていると思うんですよ。先日、お手入れしている方がいらしたので、「エビスって書いてあるんですね、すごく素敵」って声をかけたら、「嬉しい! やっと気づいてくれた!」って、笑顔で返してくださって、声をかけてよかったと思いました。都会は今、皆さんとても忙しくなってしまっていますが、忙しい時ほど花と目線を合わせてみてほしいなって思います。自分の足元を見てみると、自分を見上げて咲いている花があって、花が励ましてくれているように感じたり、その花を育てている人の温かい気持ちにも癒やされたりするものです。上を向けないような辛い時も、時にはあるでしょ。そんな時は、花と目線を合わせてみると、全然違う世界が見えるはずですよ。

国際化の中で必要とされる緑のオアシス

サヘル・ローズ

だから、若い方や子どもたちにも、植物との暮らしを楽しんでほしいなって思うんです。子どもたちが庭に遊びに来た時は、時々咲いているお花を切って持たせてあげるんです。都会だと、あまりそういう経験をする機会は少ないでしょうから、花にまつわる素敵な思い出を持ってくれたらいいなと思って。普通だったら今、都会で他人同士がそうやって関わることはあまりないと思うんです。他人との接触に際して「コワイ」という感覚を持ってしまう世の中で、特に小さな子どもに対してや、外国人との関わり方などではそれが顕著です。けれども、日本はこれからどんどん外国の方と接する機会が増えていくはずです。

サヘル・ローズ

私と母のバラの庭は、場所柄さまざまな国の方がよく通るんです。そういう方々が「キレイね」って言って立ち寄ってくださって、いろいろな肌色の人と子どもたちとが、この小さなバラ園で言葉は通じなくても交流してくれて、一緒に写真を撮っている姿なんかを見ると、本当にこの庭をつくってよかったなって思います。そういうのを見たり、母の例を見ていると、庭って人と人との橋渡しをする力を持っているんだなって思います。これから日本も加速度的に国際化を迫られる中で、お互いに文化の違いを理解しなくちゃいけないし、言葉の問題など、いろいろな不安や課題もありますが、庭や公園って、意外にもその一つの解決になるんじゃないかって思っています。言葉は通じなくても、「きれいだね」とか「リラックスするね」という感覚を共有できる場所の存在は、とても大事だと思います。

ローズガーデン

花を育てる喜びをプレゼント

サヘル・ローズ

私、季節になるとヒヤシンスの球根を毎年、人にプレゼントするんです。花を育てる楽しさを共有してもらいたくて。あえて植物を育てたことのない人ばかりにプレゼントしています。植物を育てたことがないので、球根だけあげてもきっと土に植えるまでのハードルが高いので、鉢植えにした状態で渡して、「お水だけこういう間隔であげてね」って言って。ヒヤシンスって必ず咲いてくれるし、まだお花があまり咲かない早春に、窓辺などでいち早く咲いてくれるでしょう。そして花が咲くと本当に香水のようにいい香りがするじゃないですか。みんなとっても喜んでくれるんです。育っていく過程や花を育てる喜びを知ってほしくて、あえてそんな花のプレゼントをしています。そんなふうに私なりのやり方で、植物好きをひっそり着々と増やしているんです(笑)。

Credit

サヘル・ローズ
1985年イラン生まれ。7歳までイランの孤児院で過ごし、8歳で養母とともに来日。高校生の時から芸能活動を始め、舞台『恭しき娼婦』では主演を務め、映画『西北西』や主演映画『冷たい床』はさまざまな国際映画祭で正式出品され、イタリア・ミラノ国際映画祭にて最優秀主演女優賞を受賞。映画や舞台、女優としても活動の幅を広げている。また、第9回若者力大賞を受賞。芸能活動以外にも、国際人権NGOの「すべての子どもに家庭を」の活動で親善大使を務めている。世界中を旅しながら難民キャンプや孤児・ストリートチルドレンなど子どもたちに寄り添っている。
YouTube『さっチャンネル』
https://www.youtube.com/channel/UCE3h8QRgs4GS_ClgReaAMVA

写真/albert_sun3

取材・まとめ/3 and garden

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