庭に空いたスペースがあったり、ガーデニングを始めたばかりで「何を植えようか」と植物選びに迷っている人におすすめの植物を、園芸のプロがピックアップ! 水切れさえさせなければ、枯れないで数年は花も咲く代表格の多年草を4種ご紹介します。ローメンテナンスガーデンを実践したい人や、自分で丈夫な植物を選びたい人にも役立つヒントもお見逃しなく。
目次
枯れにくい最強多年草の選出基準
苗に添えられたラベルの説明書きやネット記事でよく見かける「植えっぱなしOK!」というフレーズ。それを信じて育ててみたものの「半年で枯れたじゃん!」なんてことが起きて、ガーデニングを諦めたり、自分を責めたりしている人におすすめしたい植物をご紹介します。
今回セレクトした4種類すべては、これまで種子を播いて苗を作り、花を咲かせたあと、それらを親株にして、また増やして……といった栽培過程を一通り経験した私自身が選んだものです。「何もない場所に初めて何かを植えてみよう」と考えている人や、何度も枯らして、うまく植物が育たないという園芸初心者さんにも試していただきたい植物たちです。
【セレクト1】意外と知られていない⁉︎ バプティシア
一見、ルピナスのような花形と草丈のバプティシアは、数は多くはないもののいくつか園芸品種があり、春にマメ科特有の形をした濃い青花が咲くムラサキセンダイハギ(Baptisia australis)と呼ばれる種が有名です。ほとんどの種類は、ルピナスのように、上に向かって花茎が立ち上がります。原産地は北米で、ムラサキセンダイハギという和名から同じマメ科の多年草のセンダイハギ(Thermopsis)や落葉低木のハギ(Lespedeza)と混同されがちですが、これらとは遠い親戚的な関係で、同一の植物ではありません。
バプティシアは春の一季咲きで、地域にもよりますが、4月末〜5月上旬に咲き始めます。根が地中で肥大化し、そこから新しい茎がいくつも上がってくるので、年々株が増えて存在感が増していきます。センダイハギのように地下茎を張り巡らせて、あっちこっちから芽吹くことはないのも扱いやすい点です。草丈は品種により異なりますが、多くは最大1〜1.2m、株張りは多くが最大60〜80cmで、4時間以上日の当たる場所なら問題なく育ちます。
バプティシアの特徴は、種からの発芽率があまりよくないこと(休眠打破に高温処理などが必要なため)。これまでバイカラー (B.bicolor)、ペルフォリアタ(B.perfoliata)、ティンクトリア(B.tinctoria)、ペンデュラ(B.pendula) 、レウカンサ(B.leucantha) という数種のタネを播いた経験がありますが、どのタネも100粒ほど播いても、発芽はせいぜい2〜5粒と、思い出すだけで泣きたくなる曲者でした。
病気はうどんこ病に、害虫はミカンコナカイガラムシに要注意です。冬季は、茎や葉など地上に出ている部分をほぼ枯らして、株元に冬芽を少しだけ残して越冬します。
【セレクト2】ヒマワリに似たヒマワリモドキのヘリオプシス
馴染み深い見た目をしたヘリオプシスは、キク科の多年草で、原産地は北米です。「ヒマワリモドキ」という和名が付けられている理由は、ヘリオプシス(Heliopsis)という学名が「ヒマワリ(Helianthus)に似た花」という意味だから。ちょっとややこしいのが、一般に流通しているヘリオプシスは、ヘリオプシス・ヘリアントイデス(Heliopsis helianthoides)という種類がほとんどで、種小名である「ヘリアントイデス」=「ヒマワリに似た花」なので、ヘリオプシス・ヘリアントイデスを直訳すると「ヒマワリに似た花のヒマワリモドキ」になります。一体何者? と正体を勘繰りたくなる名称です(昆虫界にはニセクロホシテントウゴミムシダマシなど、名称だけ見ると理解困難な強者がいますが……)。
もともとの種自体がそれほど多くないためか、園芸品種も少なく、日本国内では5種類ほどが流通しています。
花期がとても長く、太平洋側の温暖な地域ならば5月下旬から霜が降りるまで咲き続けることがあります。真夏は花が咲きにくくなることがありますが、草丈の半分ほどの位置で切ると再び開花します。草丈は1mを超えるので、伸びすぎたら切り戻して、低い位置で開花させるのもよいと思います。株張りは最大で30cmほど。 日当たりは6時間以上あるのが望ましく、半日陰でも枯れはせず育ちますが、ヒョロヒョロでシャキッとしない見た目になります。ヘリオプシスの中には、黒葉の品種がいくつかありますが、日当たりが悪いと黒葉が緑葉になります。
種子の発芽率は、多年草の割にはよく、50%ほどは発芽します。
病気はうどんこ病に、害虫はアブラムシとオンブバッタに要注意です。冬季は茎や葉など地上に出ている部分をほぼ枯らして越冬します。冬芽なども残さずに越冬するため、完全に枯死したように見えますが、最高気温が20℃を超える時期になると株元から新しい茎が伸び出てきます。
【セレクト3】見落としていませんか? 宿根フロックス(フロックス・パニクラータ)
2017年7月号の『趣味の園芸』で紹介した多年草です。フロックスは一年草の和名で、キキョウナデシコと呼ばれるドラモンディ(P.drummondii)、ほふく性のストロニフェラ(P.stolonifera)やディバリカタ (P.divaricata)、シバザクラという和名で有名なスブラタ(P.subulata) などが国内で流通しています。しかし、育てやすさはダントツで宿根フロックスやオイランソウ、クサキョウチクトウとも呼ばれるフロックス・パニクラータ(P.paniculata)です(この記事では、以下宿根フロックスで統一します)。
宿根フロックスは、オランダやイギリスなどで育種されたものが多く、真っ赤や紫系の花色、絞り咲きなどの園芸品種もあります。もともと欧州に自生していた植物と思われがちですが、宿根フロックスを含めフロックスの多くは、北米が原産地です。また、シバザクラも「サクラ」という名称と知名度で、無意識に日本原産と思われがちですが、同じく北米原産です。
日本で花名所も多く親しまれているシバザクラは、湿度が70%を超える時期が続いたり、風通しのよくない場所や保水力のある土に植えると株の中心が茶色くなりやすく、夏越しができないことがあります。一方、宿根フロックスは、シバザクラが育ちにくい環境でも難なく育ちます。真夏の直射日光が長時間当たる場所でも、1日4時間ほどしか日光が当たらない場所でも育って、花もしっかり咲きます。
宿根フロックスの花期は長く、地域によっては晩春から霜が降りるまで咲き続けます。花付きが悪くなった場合、10月頃に草丈半分ほどの位置で切ると、1カ月ほどで再び開花します。草丈は品種や種類によりますが、最大で1mほどになります。株張りは最大で60〜80cmになるものが多いです。
発芽率はまあまあ悪いので、種子から育てようかなと考えている人は心してください。一年草のフロックス・ドラモンディと同じくらい発芽すると思って播くと、その手間と時間が台無しになります。
病気はうどんこ病に、害虫はアブラムシに要注意。宿根フロックス=うどんこ病という印象を持っている人がいるほど、うどんこ病が出ます。冬季は、茎や葉など地上に出ている部分をほぼ枯らして越冬します。冬芽なども残さず越冬するため、完全に枯死したような見た目になりますが、最高気温が20℃を超える時期になると株元から新しい茎が現れます。
余談ですが、宿根フロックスを豪雪地域で生産している専門家は、雪が降る時期は温室のビニールシートを取り外し、3号ポット苗の宿根フロックスを積もった雪に埋もれさせたりして数カ月ほど暖かくなるまで放置しているそうです。
【セレクト4】切り花でも楽しめるお得なヘレニウム
ヘレニウムは北米原産のキク科植物で、一年草と多年草があります。和名でダンゴギクと呼ばれるヘレニウム・オウタムナレ(Helenium autumnale)が一般的で、ヘレニウムの中でも一番知名度があります。オウタムナレの園芸種には、‘モーハイムビューティー’や‘ヘレナレッドシェイズ’があります。別種の園芸種ですが、花びらがほとんどなく、まるで飴菓子のようなユーモラスな花姿の‘オータムロリポップ’(H.puberurlum ‘Autumn Lollipop’)もよく見かけます。
花期は長く、太平洋側の温暖な地域ならば5月下旬から霜が降りるまで咲き続けることがあります。真夏に花が咲き辛くなることがありますが、草丈の半分ほどの位置で切ると再び開花します。 草丈は品種や種類にもよりますが、1mほど。株張りも品種や種類で異なりますが、50cmほどを目安に。日当たりは6時間以上が理想です。半日陰でも枯れはせず育ちますが、ヒョロヒョロでシャキッとしない見た目になります。
発芽率は多年草の割にはよいです。園芸種を含むオウタムナレ各種、フープシィ(H.hoopsii)、ビゲロビー(H.bigelovii )の3種類を播いたことがありますが、どれも50%以上は発芽しました。
注意することは、植えて数年経過するとバプティシアのように肥大化した根から新しい茎がいくつも出てくるので、それなりに大きく育って横に広がり、場所を拡大します。種子が落ちて、そこらじゅうから発芽したり、地下茎であっちこっちから芽が出て困るということはありません。
害虫はオンブバッタに要注意。冬季は茎や葉など地上に出ている部分をほぼ枯らして越冬します。冬芽なども残さず越冬するため、完全に枯死したような見た目になりますが、最高気温が20℃を超える時期になると株元から新しい茎が現れます。
絶対枯らさないための最低限の条件とは
今回セレクトした4種は、枯れにくい強い性質です。まったく日光が当たらない真っ暗な場所や、常に湿っていて沼のような土壌、もしくは、一度植えたら水をいっさいやらない、などという極端な環境やケースを除き、“植物を育てる上で最低限の常識内の手入れ”をすれば枯れる心配のない植物です。病害虫など外的要素を除き、意図的に枯らそうとしない限りは、そう簡単には枯れません。
高温多湿と耐寒性に優れているのもポイント
今回セレクトした理由の一つは、「性質の強さ」です。性質が強いというのは一番に、気候の変化に耐えるということです。ご存じのとおり日本の国土は縦に長く、大きく分けると亜寒帯性気候、温帯性気候、亜熱帯性気候の3種類に分けられます。
そのため、例えばある人が「寒さに強い」と言っても、1月と2月は最高気温でも氷点下の日が多い北海道と、ダウンコートを着る機会がほとんどない沖縄では、「寒さ」の印象に差があります。
逆に「暑さに強い」と言っても、7月や8月の京都や愛知県西部のように湿度80%前後で気温35℃をたびたび超え、雨の多い環境に住んでいる人の「暑さに強い」と、年間の降雨量が日本で一番少なく標高が高い長野県に住んでいる人の「暑さに強い」にも大きな差があります。
ちなみに、私が住む愛知県の7月の降雨量は、長野県の約4倍あり、長野県で一番人口の多い長野市の平均標高は362mと、環境に大きな違いがあります。
3つのエリアのうち、亜熱帯性気候は抜きにして(亜熱帯性気候の沖縄県に住む読者の方、ごめんなさい)、亜寒帯性気候と温帯性気候の地域とで一年中屋外で育つもののうち、夏場は、気温30℃以上かつ湿度70%前後の高温多湿が3カ月も続く地域で、毎冬に積雪が数週間溶けずに残ったままであったり、土の中が何日も凍るような環境の違いがあってもビクともしない、という理由で4種の植物を選びました。
※参考 http://grading.jpn.org/SRB02402.html
枯れにくい最強多年草4選まとめ
今回ご紹介した植物は、じつは原産地はすべて北米、そしてキク科です。ほかにも北米が原産地でキク科の植物というと、特定外来生物として有名なオオハンゴウソウ(Rudbeckia laciniata)、オオキンケイギク(Coleopsis lanceolata)、要注意外来生物のセイダカアワダチソウ(Solidago altissima)などがあります。
キク科というのは、すべての植物の中で品種や種類が一番多いので、たまたま偶然にもキク科ばかりが揃ったわけで、すべての北米原産の植物が強い性質で育てやすい、というわけではありません。ご存じのとおりに北米と呼ばれるアメリカとカナダは縦にも横にも広く、気候も亜熱帯性から寒帯性まであり、背の高い植物が生えていないステップ気候から高山気候、熱帯モンスーン気候と変化に富んでいます。
もちろん植物の種類も多く、青色の花が鮮やかなファセリア各種やサルビアの数種は北米原産ですが、カリフォルニア州などの乾燥している一帯に分布しているため、植える土や水やりに気をつける必要があります(水分が多いとすぐ枯れます)。またクレマチス・ソシアリスやコアチクリスなどアメリカ東海岸部の州に分布しながらも高温多湿に比較的に強く育てやすいものもあります。これらも競合する他の植物が少ない環境で自生しているせいか、密植したりいろいろなモノが育ってきて混み混みな状況になると消えることがあります。事前にそれぞれの植物の諸情報は知っておくとよいでしょう。
とはいえ、個人的な感触としては、欧州や中央アジア原産の植物に比べると、北米原産の植物は栽培にそれほど神経を使わなくてもよいモノが多いかなと思います。
Credit
写真&文 / 伊藤章太郎 - 園芸研究家 -
いとう・しょうたろう/花き市場で生産者から仕入れるバイヤーや、種まきや挿し木で生産を行う生産者としても活動。好きな植物はエキウムなどムラサキ科全般、エリンジウム、キキョウ、ジンチョウゲ、バンクシア。スペイン語を習得して南米に行きたいと夢見るバックパッカーという一面も。2010年よりNHK『趣味の園芸』で講師としても活躍。1児の父。
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