「南半球の桜」と呼ばれ、世界三大花木の一つに挙げられるジャカランダは、青紫色の花と圧倒的な花数に魅了される人々も多い樹木で、日本でも栽培することができます。あまりの美しさに、南半球と北半球の自生株を見に行った経験がある植物研究家、伊藤章太郎さんが、ジャカランダとの出会いと日本で育つ株の様子、7年にわたる栽培経験をご紹介します。自生地の南半球では11〜12月に開花し、日本をはじめ北半球では5月下旬から6月上旬に開花するジャカランダ、苗は3月から買い時を迎えます。
目次
世界三大花木の一つ「ジャカランダ」
「アフリカの桜」や「南半球の桜」と呼ばれ、世界三大花木の一つに挙げられるジャカランダ。特徴的な青紫色の花が圧倒的な数で咲くその姿に魅了される人々が多く、僕自身もその魅惑的な植物に心奪われ、自らも育てたいと栽培をして7年になりました。南半球と北半球で開花する様子を見に行くほどの“ジャカランダ・フリーク”の僕が、その魅力を紐解きます。
※この記事内での「ジャカランダ」はジャカランダ・ミモシフォリア – Jacaranda mimosifolia を指します。
ジャカランダって何?
ジャカランダは、ノウゼンカズラ科の落葉高木です。原産地域はアルゼンチンやブラジルですが、ジャカランダが見られる有名な地域として南アフリカ共和国が挙げられることが多く、南部アフリカが原産と思われがちです。
以前、カリフォルニア出身の方とジャカランダについて話す機会がありましたが、「カリフォルニアでは当たり前に見られるから、ジャカランダはカリフォルニアが原産だと思ってた」と言うのです。植物にそれほど関心がない人にとって、原産地まで知らないのは当たり前だと思いましたが、そんな僕も、ジンバブエで見た経験から、南部アフリカが原産の植物と思い込んでいました。
ジャカランダの葉は、マメ科のように小さく細かく、均等に並んでいます。花が咲いていなければ、まるでネムノキ(マメ科)のように見えます。
ジャカランダの花期は、晩春から初夏
自生地の南半球では、花は11〜12月に、約1カ月間咲いています。北半球では、5月下旬から6月上旬に開花する場合が多いです。
ジャカランダには耐寒性がある?
ジャカランダは亜熱帯の植物のため、基本的には寒さに強くありません。低温に耐えられても、せいぜいマイナス3℃程度までです。発芽して1年未満の若い苗は、5℃でも枯死します。樹高が1mを超えるまで育っているか、株元付近がぐらつかずにしっかりとした「木」として硬く成熟するまでは、最低気温が10℃を下回る時期の管理には注意が必要です。霜除けや雪除けのほか、寒風を避けるなどの防寒を行わなくてはなりません。
ちなみに、日本国内で巨大なジャカランダの株が見られる地域の位置や気候を調べると、どこも冬に氷点下になる日がほとんどない場所ばかり。たとえ雪が降り積もっても、数時間で完全に溶けるような温暖な地域がほとんどです。
重複しますが、ジャカランダは「南半球のサクラ」なので、落葉樹です。冬季は落葉して越冬します。秋を過ぎた頃から葉色が変わり、葉や細い枝は落ちて越冬します。
ジャカランダは暑さに耐える?
ジャカランダは南米の亜熱帯を原産地としている花木です。亜熱帯の環境下に分布しているため、高温や多湿に対して注意する点はありません。日本国内では、亜熱帯の地域である沖縄県なら年中屋外での栽培が可能です。土質もこだわる必要はありません。
地植えをしている場合は水切れの心配はほとんどありませんが、鉢植えの場合は、生育期間内の水切れには注意が必要です。鉢の根の回り具合にもよりますが、特に真夏は1日数回の水やりが必要になります。いったん水切れを起こしても、すぐに枯死するわけではありませんが、葉が落ちたり、枝の先端部が壊死するなどのダメージがあります。
鉢植えで育てる場合、水やりの頻度が多くて管理が大変なら、枝の数を減らしたり、樹高を半分ほどの高さになるように切るとよいでしょう。より大きな鉢に植え替えるのも一つの方法です。
ジャカランダは、かなり大きくなる⁈
ジャカランダは、園芸分類でいうと「高木」に区分される落葉樹で、自生地では最大で20mにもなる樹木です。日本国内では、20mに達することはありませんが、それなりの高さや株張りになります。生育速度は、私個人の印象では、落葉樹の割には早いと感じています。生育速度が早いため、一度植えたら移植するのは大変な作業になるので、事前にしっかりと場所を吟味してから植えるのをおすすめします。
ジャカランダの苗木は、少量ではありますが、樹高1m未満で開花する接ぎ木苗が毎年流通しています。一般的に手に入る接ぎ木苗は、7号程度(直径約21cm)の鉢で管理しても花が見られるので、広大な敷地がなくても栽培は叶います。
日本国内で見られるジャカランダの名所
日本国内でも地植えで育っている場所は数カ所あり、宮崎県日南市にある「ジャカランダの森」は有名です。本州では「なばなの里(三重県桑名市)」「戸田川緑地公園(愛知県名古屋市)」「はままつフラワーパーク」「浜名湖ガーデンパーク(静岡県浜松市)」などにも植栽されています。静岡県熱海市や、東京なら代官山や目黒でも見られます。ネットで、「ジャカランダ + 地名」で検索すると、沖縄県や長崎県で開花しました! という目撃情報が簡単に見つかります。
ただ、ジャカランダを育てるのには「耐寒性」の限界がネックになります。ご紹介した既存の栽培地域は、本州の関東以南、太平洋側の一部地域、また、海に近い温暖な地域が多いです。
ジャカランダとの出会い
僕がジャカランダを初めて見たのは、2002年にアフリカ大陸を陸路で縦断している最中に訪れたジンバブエの首都ハラレです。このころは、大学を1年間休学し、約半年アルバイトで資金を作り、アイルランドに10週間、みっちり語学研修のため滞在。その後、エジプトから南アフリカ共和国の喜望峰を目指して、世界各地をのらりくらりしていました。
当時は、「珍しい植物を見るために旅行していた」のではなく、銭湯でトルコ人と話したことがきっかけで「トルコに行こう!」と思い立ったのが始まり。当時のバックパックの旅には、植物の要素は1%もありませんでした。
アフリカ大陸縦断中に訪れた国は16カ国ですが、その道中で見た植物で記憶にあるのはジャカランダとバオバブしかなく、共にジンバブエで見たものです。ジンバブエのバオバブは、「バオバブ街道」で有名なマダガスカルのバオバブとは違う種です。当時は植物にまったく関心がなかったため、もったいないことに、そのバオバブの木に触れても「ばかデカい樹だな」程度にしか思いませんでした。
ジャカランダとの出会いに話を戻しましょう。ジンバブエ共和国の首都ハラレで泊まった安宿が「Jacaranda(ジャカランダ)」という名前で、現地の言葉で何か意味があるのだろうか?と、同室の宿泊者に質問してみたところ、
「なんだお前、気がつかなかったのか? 宿の前の通りで青い花をたくさん見ただろう。あれがジャカランダだ」
と教えられました。なんだ、花の名前だったのか。現地の言語の特別な意味ではなくて残念だなぁと思いつつ、というか、青い花? そんなのあったか? ……これがジャカランダとの出会いでした。
青い花に気がつかなかったのは、暗くなる前に宿を見つけて安全を確保したいと一心不乱に宿を探し歩いていたから。翌朝、明るい時刻になってから外に出てみると、言われた通りに青い花が咲いている樹木がありました。ジャカランダが、まるで桜並木のように街路樹として植えられていて、まさに青い街道!
こうして、ジャカランダと初対面した時期はまだ満開ではなく咲き始めで、ジンバブエを出た後、ナミビアや南アフリカ共和国でもジャカランダを見ることができました。特に南アフリカ共和国のプレトリアという都市では、花が地面に落ち、地面が真っ青になっている「ジャカランダ好きにはおなじみの光景」を見ることもできました。ただ、重ねてになりますが、当時の僕は植物にまったく関心がなく、「咲き終わったジャカランダの花が地面に落ちていた」という程度の記憶しかありません。
現地と開花の仕方が違う
本来はサクラと同じように、枯れ枝にまず最初に花が咲き、開花期が終わりに差し掛かる頃から葉が生え始めるという生育をします。ですが、北半球では葉が展開したと同時に開花するという、原産地では見られない生育です。花と葉が同時に現れる、本来の性質とは異なる生育サイクルの要因は、まだ解明されていないようです(参考:日本植物生理学会)。
ジャカランダの花は本当は何色なのか
ジャカランダの花が形容されるとき、英語の俗称で「ブルージャカランダ」と呼ばれていますが、実際はバイオレットや青紫色に近い花色です。
「図鑑やインターネット画像のみでしか見たことない、あの青紫花を実物で見てみたい!」と強く魅了される人が多いジャカランダ。植物にまったく興味がなくても花色が強烈に記憶に残ることから、それも納得です。
南半球の植物が北半球で開花するからなのか、葉が展開しながら花が咲くという原産地とは違った状態で開花するからなのか、開花時期の光量の差なのか……。花色が異なる理由は分かりませんが、日本国内で開花したジャカランダは、どうもジンバブエで見たものよりも花色が薄く感じました。
ジャカランダの花を見に戸田川緑地公園を訪れたときに、ジャカランダを見たいからとプレトリアまでツアーで行ったというパワフルなご婦人とお会いしました。その際、花色について質問したところ、そのご婦人も、プレトリアで見たものよりも花色が薄い気がするとおっしゃっていました。
僕もこのご婦人も、思い出補正やバイアスがかかっているかもしれませんが。
ジャカランダの本当の花色は何色なのか……。それを確認する方法は、自身で育てて開花させたり、国内で花見をしたり、オーストラリアやニュージーランド、マレーシア、はたまた足を伸ばしてアルゼンチンやブラジルへ行ってみるしかありません。世界各地で咲くジャカランダの花色を見比べる旅。そんな妄想も楽しいものです(誰か連れてってー)。
Credit
写真&文 / 伊藤章太郎 - 園芸研究家 -
いとう・しょうたろう/花き市場で生産者から仕入れるバイヤーや、種まきや挿し木で生産を行う生産者としても活動。好きな植物はエキウムなどムラサキ科全般、エリンジウム、キキョウ、ジンチョウゲ、バンクシア。スペイン語を習得して南米に行きたいと夢見るバックパッカーという一面も。2010年よりNHK『趣味の園芸』で講師としても活躍。1児の父。
- リンク
記事をシェアする
新着記事
-
ガーデン&ショップ
「第3回 東京パークガーデンアワード 砧公園」 ガーデナー5名の“庭づくり”をレポート!
第3回目となる「東京パークガーデンアワード」が、東京・世田谷区にある都立砧公園でキックオフ! 作庭期間は、2024年12月中旬に5日間設けられ、書類審査で選ばれた5名の入賞者がそれぞれ独自の手法で、植物選びや…
-
宿根草・多年草
花束のような華やかさ! 「ラナンキュラス・ラックス」で贅沢な春を楽しもう【苗予約開始】PR
春の訪れを告げる植物の中でも、近年ガーデンに欠かせない花としてファンが急増中の「ラナンキュラス・ラックス」。咲き進むにつれさまざまな表情を見せてくれて、一度育てると誰しもが虜になる魅力的な花ですが、…
-
ガーデン&ショップ
都立公園を新たな花の魅力で彩る「第3回 東京パークガーデンアワード」都立砧公園で始動
新しい発想を生かした花壇デザインを競うコンテストとして注目されている「東京パークガーデンアワード」。第3回コンテストが、都立砧公園(東京都世田谷区)を舞台に、いよいよスタートしました。2024年12月には、…