鮮やかな真っ赤な色が特徴的な「ビーツ」。「食べる輸血」とも称される野菜です。「えっ、なにそれ? 赤いから輸血? わかんない!?」と、日本ではまだまだなじみがない野菜です。しかし、「食べる輸血」「奇跡の野菜」といわれるくらい栄養価が高いんです。さらに栽培しやすいということで、今、家庭菜園で大変注目されています。スーパーマーケットにも並んでいることの少ないビーツを自分の手で育ててみませんか。この記事を読んで、ビーツのすべて(栄養価とその効果、品種、栽培方法まで)をマスターしましょう。
目次
ビーツとは
ロシアの代表的料理の「ボルシチ」。食べたことはなくても、映画や小説に出てきてなんとなく知っている料理名ですね。そのボルシチを真っ赤に染める野菜がビーツです。ビーツは、ヒユ科フダンソウ属の根菜。カブ(蕪)のような形状をしていますが、アブラナ科であるカブとは別の種類。ほうれん草と同じ仲間なんです。ほうれん草の根も赤いですよね。砂糖の原料になるテンサイとも仲間で、ショ糖を含んでいるため、甘さはイチゴと同じくらい。
ビーツの原産地は、地中海沿岸から西アジア。ヨーロッパでは昔から健康によいことで知られ、中世には広く栽培されていました。日本にも18世紀に渡来しましたが、根菜類では大根やカブがメジャーだったため、これまでほとんど普及しませんでした。でも、育てるのは初心者でも簡単、プランターでもOKなんです。タネから育てて2〜3カ月で収穫できますよ。
ビーツの特徴的な赤色は、赤い色素「ベタシアニン」、黄色の色素「ベタキサンチン」によるもの。この色素「ベタシアニン」はポリフェノールの一種。強い抗酸化作用を持っています。人が活動することで発生する活性酸素を取り除き、老化を防ぐとともに、細胞がガン化するのを防いでくれます。ビーツは、「食べる輸血」「奇跡の野菜」と呼ばれるにふさわしい、アンチエイジングの旗手なのです!
ビーツの栄養素とその効果
栄養素は、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン、鉄などのミネラル成分。
ビタミンA、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、葉酸、パントテン酸などのビタミン群。食物繊維。植物色素ベタレイン。さらに近年注目されているNO(一酸化窒素)など。カロリーは100gあたり41kcal。
ビーツの栄養効果について、簡単にご紹介しましょう。
- むくみや高血圧の予防
カリウムは血圧の調節や、細胞の代謝に関わる栄養素です。不足すると食欲不振や倦怠感、むくみを招く原因になります。ビーツに多く含まれるカリウムが補ってくれます。
- 骨形成とリラックス効果
ビーツに含まれるマグネシウムやカルシウムは歯や骨を丈夫にし、骨粗しょう症の予防にも効果的。神経興奮を抑制するリラックス効果もあります。
- 血流改善と冷え性・動脈硬化の予防
ビーツに豊富に含まれる硝酸塩は、体内でNO(一酸化窒素)に変換されます。NOは血管の筋肉を緩め、これによって血管が広がり血圧の降下に役立つのです。
血流の改善は、冷え性や動脈硬化の予防につながり、さらに認知症予防への効果も期待されています。
これらの働きの解明は1998年ノーベル医学生理学賞を受賞した、3人の博士によってなされました。
- 抗酸化作用によるガンの予防
前にも述べたように、ビーツの赤い色素「ベタシアニン」はポリフェノールの一種で強力な抗酸化作用を持つことで知られています。ガンの予防に効果が期待できます。
- 腸内環境を整える
食物繊維は腸内細菌のエサになるので、腸内フローラの働きが活発になります。便秘を解消し、お肌の調子を整えます。
以上のように、ビーツの栄養効果は非常に優秀であることが分かります。
ビーツ栽培の基本ポイント
栽培時期
ビーツの生育温度は15〜21℃。涼しい栽培環境を好みます。暑さに弱いので、春、秋に種を播いて育てます。
次に、寒冷地、中間地、暖地における種まき時期、収穫時期の目安を示します。
- 寒冷地
種まき 4月半ば/8月
収穫 7月〜8月半ば/ 10月〜11月半ば
- 中間地
種まき 3月半ば〜5月/8月半ば〜10月半ば
収穫 6〜7月/ 11〜12月
- 暖地
種まき 3月半ば〜5月半ば/9月〜10月半ば
収穫 5月半ば〜7月半ば/ 11月半ば〜1月半ば
品種
代表的な4つの品種をご紹介します。
- デトロイトダークレッド
ビーツの中でも強健で育てやすい品種。茎も根も鮮やかな紫紅色になり、料理の彩りに美しい。肉質も柔らかく、緻密で甘みが強く、ビーツの栽培が初めての方に最適です。
- ゴルゴ
別名「渦巻きビーツ」とも呼ばれ、断面が赤と白の渦巻き模様。とてもおしゃれで可愛い。ビーツの中で最も甘く、「ビーツはちょっと‥‥」という方にもおすすめです。
- ソーレ
イタリア語で太陽を意味する‘ソーレ’。根も茎も葉まで濃赤紫で、インスタ映えすると人気上昇中。ゆでてサラダ料理が定番です。
- ルナ
‘ルナ’は他の品種とは異なり、根の表皮がオレンジ色、断面が黄色の渦巻き模様。茎も黄色です。ビーツ特有の香りが少ないため、薄くスライスしてサラダの彩りにするのがおすすめです。
ビーツを育ててみましょう
ビーツは日本ではまだ珍しい野菜なので、近くの園芸センターに苗やタネは置いてないかもしれません。そんな時は、ネットで注文しましょう。
① 土作り
野菜栽培に一番大事なのが土作りです。植え付け2週間前にはよく耕し、苦土石灰をまいておきます。苦土石灰は土の酸性を中和します。ビーツは酸性を嫌うので必ずまきましょう。
1週間前には、牛フン堆肥、有機化成肥料をまいて耕します。
それぞれの量は1㎡あたり、牛フン堆肥200g、苦土石灰80g、有機化成肥料80gが目安です。
さらに黒マルチを張れば万全。雑草の抑制、保湿、地温上昇に効果的です。
ベランダなどの限られたスペースでビーツ栽培を思い立った方は、まずプランターを用意しましょう。幅30cm、高さ30cmほどのプランターで十分です。酸度が調整された野菜用の土が園芸センターで販売されていますので、それを用意してください。
② 種まき
タネは播く前に、一晩水につけておきます。ビーツの外皮は硬いので、発芽しやすくするためです。
種まきは、点まきをおすすめします。間引きの回数を減らすことができて省エネになります。
幅30cm、高さ20cmくらいの畝を作り、中央にタネのまき穴を作ります。ペットボトルの蓋で、15cm間隔にまき穴を作るといいでしょう。黒マルチを張っている場合は、スジ状にカットして切れ込みを入れ、まき穴を作ります。
まき穴に3〜4粒ずつタネを播きます。
最後に、土を1cmほど薄くかぶせて軽く押し、タネを土に圧着させます。そして、タネが流れないように静かにたっぷり水を与えます。
③ 間引き
約2週間ほどで発芽します。この間、土を乾かさないように水をやってください。
発芽したら2回、間引き(生育の悪いものを取り除く作業)をします。
1回目は、本葉4〜5枚の時に、まき穴から発芽した元気な2本を残して、ほかは抜き取ります。
最後に15cm間隔に1本の苗を残します。その時、追肥として化成肥料を与えます。
間引きは、日当たりや風通しがよくなり、株の生育が促進されるメリットがあります。よく太ったビーツを収穫するために欠かせない作業です。
④ 病害虫
ビーツは比較的病害虫に強いですが、ほうれん草と同じ仲間なので、ほうれん草に発生しやすいヨトウムシがつくことがあります。こまめに観察して、見つけ次第取り除いてください。
防虫ネットでトンネルにしておけば安心ですね。
⑤ 収穫
種まきから2〜3カ月余り。スクスク育って草丈が30cm以上になり、土から出た根の直径が5cm以上になったら、いよいよ収穫! 1株おきに収穫すると、最後は12cmほどまで育った立派なビーツを手にすることができます。
さあ、いろいろな料理で楽しみましょう。
ビーツを使ったおすすめ簡単料理
簡単で、おいしく、見た目もおしゃれ。友人たちとのランチに出せば、盛り上がること間違いなしの料理を紹介します。
① ホイル焼き
アルミホイルに包んでオーブンで30〜40分焼くだけ。大きなビーツの場合は1時間ほどじっくり焼いてください。ホクホク甘い味と真っ赤な色が気分を盛り上げてくれます。
② 生でサラダに
断面が渦巻き模様の‘ゴルゴ’や‘ルナ’は、サラダを可愛く彩ってくれます。なるべく薄く切り、5分ほど水に晒してアクをとってから使いましょう。独特の土くささが気になる方は、レモン汁をタップリ入れたソースをかけるといいですよ。
③ ボルシチ
ビーツ料理の定番、「ボルシチ」。マイナス30℃にもなるロシアの冬を乗り切るために欠かせない料理です。
まず、ビーツを丸ごと茹でます。皮をむくと色と栄養が流れ出てしまうので注意しましょう。
鍋に水を入れて沸騰させ、洗ったビーツを入れたら弱火にして10分以上茹でます。中まで柔らかくなったらOKです。
4人分の材料
・牛スネ肉300g ・ニンジン1本 ・タマネギ1個 ・ビーツ(大)1個 ・トマト缶1/2 ・コンソメ2個 ・ベイリーフ1枚 ・サワークリーム大さじ4
<作り方>
- ニンジン、タマネギを適当な大きさに切り、牛スネ肉とともに炒めます。
- 牛スネ肉を圧力鍋に入れ、トマト缶、ベイリーフ、かぶるくらいの水を加えて15~20分ほど加圧します。
(スネ肉を短時間で柔らかくするため、圧力鍋を使用。もちろん時間をかけて、コトコト煮てもOK) - ニンジン、タマネギ、適当に切ったビーツ、コンソメを入れて、さらに3分加圧します。
- 火を止め、圧力が抜けたら皿に盛り付けます。サワークリームをのせたら完成。
付記 ビーツの赤い色素は衣服に付くと落ちにくいので、調理の際に注意しましょう。切る時、まな板の上にクッキングシートを敷くと安心です。
ビーツ栽培に挑戦してみよう!
種まきから収穫まで2〜3カ月余り。小さな芽が出た時の喜び。間引きなどの世話をしつつ、ぐんぐん育っていく過程を楽しみましょう。真っ赤な茎と濃い緑の葉との対比も鮮やかです。
そして、収穫。いま手の中にあるのは「食べる輸血」といわれる血のように赤いドラマチックなビーツ。
さて、今晩はどんなビーツ料理を作りましょうか?
明日は、免疫力いっぱい! 元気モリモリで目覚めることでしょう。
ビーツ栽培の「A〜Z」をマスターした皆さん! ビーツ栽培に挑戦してみませんか。
Credit
文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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