【ニホンサクラソウ(日本桜草)】清楚で美しくユニークな名前を持つ伝統植物の魅力

可憐で清楚な花姿に魅了される方が多い日本の伝統植物、ニホンサクラソウ。園芸店ではなかなか見ることができませんが、春になると全国各地で展示会が開催され、個性豊かな品種が集まる人気の高い植物です。このニホンサクラソウの魅力と、個性豊かな品種の数々を、神奈川県のベテランガーデナー、遠藤昭さんに紹介していただきました。
目次
可憐な日本の伝統植物
ニホンサクラソウとは
「さくらそうを知っていますか?」と問われたら、ガーデナーの多くはセイヨウサクラソウのプリムラ・マラコイデスや、プリムラ・ジュリアンを思い浮かべると思う。しかし、ここでのテーマは、日本桜草である。

これがサクラソウ科サクラソウ属のニホンサクラソウ。品種は‘墨染川’。

こちらがガーデニングでもおなじみのセイヨウサクラソウで、一般によく出回っているプリムラ・マラコイデス。
残念ながら、ニホンサクラソウを園芸店の店頭で見かけることは滅多にない。特に、多くの品種にお目にかかれる機会といえば、各地の植物園などで春に「サクラソウ展」を実施している時くらいかもしれない。恥ずかしながら、僕も植物園に勤務する以前は、ニホンサクラソウがこれ程までに魅力あふれる草花であることを知らなかった。その魅力に初めて触れた時は、ちょっとしたカルチャーショックだったのだ。日本の伝統園芸の素晴らしさ、奥深さを知らなかったのである。
ガーデニングブーム以降、西洋の草花が主に人気だが、4〜5月は、全国各地の植物園などで「サクラソウ展」が開催される。一度展示を覗いてみて、日本の伝統園芸文化の魅力を再認識するのをオススメしたい。ちなみに、ニホンサクラソウの花言葉は「青春のはじまりと悲しみ」「早熟と悲哀」「初恋」だという。
美しい姿と名前を持つニホンサクラソウの魅力

ニホンサクラソウの魅力は、他の日本の伝統的な植物であるハナショウブやツバキと同様に、まずはその品種のバリエーションの豊富さにある。と同時に、繊細で清楚な花姿の美しさ、そして品種名の面白さも大きな魅力である。それは江戸時代の園芸文化のレベルの高さと、日本人の感性の豊かさを物語っている。栽培の歴史がある植物の一つだ。

もともと日本の各地の河川敷や湿原に自生(野生化)していたニホンサクラソウは、江戸時代に園芸植物として、武士の間でも人気が高まり、競って品種改良がなされたという。現在、「日本サクラソウ会」の認定品種が300種余りあるが、他にも多くの品種が存在する。多様な伝統品種の数々の存在は、江戸時代に品種改良が盛んに行われていたことを現代にうかがわせる。また、それらの品種に与えられた名も個性豊かで面白い。
多様な品種が一堂に会するサクラソウ展

これからの季節、全国各地の植物園などで開催されるのが、ニホンサクラソウの品種を集めた展示「サクラソウ展」だ。「サクラソウ展」では、ポピュラーな品種から珍しいものまで、種類豊富なニホンサクラソウのさまざまな品種を一度に見ることができる絶好の機会だ。

これは、僕の勤務先である「川崎市緑化センター」の過去の「サクラソウ展」の様子だ。2019年は、4月9日(火)から5月6日(月・祝)まで展示が行われる(月曜定休、開園9:00~16:30 入場無料)。春になると、全国各地で開催されているので、ぜひ地元の展示会を調べて足を運んでみてほしい。きっと、心に響く名前や姿を持つ品種と出合えるはずだ。
美しいニホンサクラソウの品種
ニホンサクラソウにはたくさんの品種があるが、ここでは、その個性豊かな品種の中から、代表的な品種をいくつか紹介しようと思う。その前に、品種の説明文についてちょっと説明しておきたい。ニホンサクラソウの説明文には、「僅長柱花 短柱花 ひら咲き 広浅かがり弁……」というような独特の言葉が登場する。長柱花、短柱花とは、雌しべと雄しべとの位置関係などを表し、品種の同定をしていく際には決め手の一つとなるようだ。

世の中に知らない世界は多いけれど、お仕事で「サクラソウ展」に展示する品種に疑問があり、同定作業をする時には、見た目の姿とともに、花を解体して品種の確認をすることがある。とても根気のいる作業だが、これがなかなか面白い。
サクラソウの一つの魅力が、名前の面白さである。下に紹介する品種も、ぜひ写真と名前をじっくり見比べて、そのネーミングの妙を楽しんでもらいたい。
‘赤蜻蛉’と‘白蜻蛉’
それでは、名づけが分かりやすい品種から紹介していこう。まずは‘赤蜻蛉’と‘白蜻蛉’。



古典的な品種で、切れ込みの入った花弁がトンボみたいですね。平咲き・受け咲き。
‘宇宙’

江戸時代の後期に作出された品種。広い桜弁。このような咲き方を抱え咲きという。花弁の裏側は、極薄い紫ピンク。
‘北斗星’

上の写真が‘北斗星’です。この花弁を粗かがり弁といい、平咲き。雪の結晶みたいなので北斗星と名づけられたのだろうか?
‘許の色’

「許しの色」だそうな。基部の細い広桜弁。浅抱え咲き。明治時代の作出。
‘松の雪’


松の雪、この命名の描写が凄いですね。まさしくこの広い花弁に掛かるわずかな緑を表している。浅盃咲き。
‘美女の舞’

美しい花弁です。本当に美女のよう。
‘銀覆輪’

つかみ咲きという咲き方で、花弁の裏側は紅い桜弁。花弁の裏側は紅糸覆輪、表は白色。
‘紫光梅’

梅弁先、受け咲きという咲き方。花弁は紫で珍しい。
‘明烏’

この「明烏」という言葉だが、明け方のカラスの意味は、お分かりだろうか? 男女の情愛の夢を引き裂く……カラスの一声⁈ 夜明けのコーヒーも不味くなりますな。
‘窈寵’

‘窈寵’という品種名、皆さんは読めますか?
じつは、ニホンサクラソウを愛でるには、知性と教養が必要とされるのだ。作出者の名前で単純に命名されていることが多いイギリス生まれのバラとは大違いである。ちなみに、この品種名の「窈寵(ヨウチョウ)」とは、「美しくしとやかで、上品で奥ゆかしい」という意味を表す言葉。確かに、ニホンサクラソウの展示を見に来られるお客さまには、他の植物の展示会に比べて「美しくしとやかで、上品で奥ゆかしい」方が多く見受けられるように思うのは、気のせいだろうか?
八重咲きのニホンサクラソウ
最近は、八重の品種も作出されていて、「えっ⁉ これもニホンサクラソウ?」と驚くばかり。

‘以心伝心’という品種。濃いピンクに八重の花。

‘甘えん坊’。花のイメージが浮かぶだろうか?

そして‘狸囃子’。
まあ、これらの八重咲き品種は、ニホンサクラソウの独特の可憐さ、奥ゆかしさなどは、あまり感じられないかもしれない。日本の園芸植物の伝統も、やがて、進化し変化していくのだろうか?
ここでは紹介しきれなかった品種写真を、下に掲載しておきたい。


幅広い品種があり、それぞれに個性豊かで可憐な花姿と、創造性にあふれた名を持つニホンサクラソウ。ぜひ一度、「サクラソウ展」などに足を運んで、和の植物の魅力をじっくりと味わってほしい。
併せて読みたい
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Credit
写真&文/遠藤 昭
「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー。
30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。川崎市緑化センター緑化相談員を8年務める。コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施し、園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。趣味はバイオリン・ビオラ・ピアノ。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)。
ブログ「Alex’s Garden Party」http://blog.livedoor.jp/alexgarden/
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