英国の園芸愛好家を虜にした“生ける宝石”オーリキュラとは? 系統別の特徴から、失敗しない夏越しのコツまで徹底解説
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丸みのある小さな花に現れる、複雑で繊細な花模様。16世紀頃のイギリスで改良が進み、「オーリキュラ・シアター」という専用の棚まで作られるほど愛された「オーリキュラ」は、1輪1輪が個性豊かな芸術作品のような美しさを持つ多年草です。しかし、高山植物の血を引くため「育てるのが難しい」というイメージを持たれがち。この記事では、オーリキュラの魅力や系統の解説、日本の厳しい夏を乗り切るための管理方法まで詳しくご紹介します。あなたも、その魅惑的な花を自宅で咲かせてみませんか?
目次
オーリキュラの基本情報

植物名:オーリキュラ
学名:Primula x pubescens
英名:Auricula、bear’s ears、mountain cowslip
和名:アツバサクラソウ(厚葉桜草)
その他の名前:オーリキュラ、プベスケンス
科名:サクラソウ科
属名:サクラソウ属(プリムラ属)
原産地:ヨーロッパアルプス
形態:多年草
オーリキュラはサクラソウ科サクラソウ属(プリムラ属)の園芸植物群です。もととなった原種のプリムラ・オーリキュラの原産地はヨーロッパのアルプスの高山で、暑さに弱い一方で寒さには強い性質を持っています。そのため、山野草として栽培し、暖地では庭に植えるよりは鉢栽培にして、季節や気候に応じて適した場所に移動しながら管理するのがよいでしょう。常緑性の多年草で、冬は茎葉を保ちつつ生育が止まり、翌春には新たに芽吹いて開花することを繰り返すライフサイクルをたどります。
オーリキュラの花。BlackBoxGuild/Shutterstock.com
オーリキュラの花や葉の特徴

園芸分類:草花
開花時期:3月下旬〜5月上旬
草丈:10〜20cm
耐寒性:強い
耐暑性:弱い
花色:黄、赤、オレンジ、茶色、褐色、グリーン、グレーなど
オーリキュラの開花期は3月下旬〜5月上旬で、花色は黄、赤、オレンジ、茶色、褐色、グリーン、グレーなどです。草丈は10〜20cmほど。株全体や花に白い粉を帯びる種類も多くあります。春になると肉厚な丸みのある楕円形の葉が開き始め、開花後に葉を大きく広げ、株が充実します。
オーリキュラの歴史

オーリキュラは特定の特徴を持つ園芸品種群のことで、園芸の世界ではAuriculaとしてまとめられています。しかし、プリムラ・オーリキュラは、本来アルプスに自生する高山植物のことを指します。ここでは、オーリキュラの歴史を簡単に見てみましょう。

原種であるPrimula auricula(プリムラ・オーリキュラ)とP. hirsuta(プリムラ・ヒルスタ)が自然交雑して生まれたのがP. pubescens(プリムラ・プベスケンス)で、これを種まきして育てると変異株が出やすい特性があります。このことが園芸愛好家の目に留まって人気を博したことから、16世紀頃のイギリスで育種が進みました。どれだけ新しい品種が生まれようともプリムラ・プベスケンスであることに変わりはないのですが、一定の決まりごとにかなった交配種だけがオーリキュラに分類され、原種とは区別したオーリキュラ群が誕生しました。言い方を変えれば、愛好家の審美眼にかなった交配種だけがオーリキュラと名乗れる特別枠、というところです。16世紀に始まったオーリキュラ群の愛好は現在にも受け継がれ、多くのコレクターがいます。

上の写真はイギリスの庭に見られる、オーリキュラを観賞するオーリキュラ・シアター。「劇場」という名のとおり、花をより引き立たせる背景となるよう暗く塗られたものが多く、鏡やカーテンがつくことも。強い日差しや過湿を避け、風雨にあたって花の重要な要素である白粉が流れ落ちたりしないように保護する目的もあります。

オーリキュラ「Auricula」と認められる主な約束ごと

前項で一定の条件にかなった交配種だけがオーリキュラと認められると説明しましたが、その条件には以下のようなものがあります。
- 花が円形に近く、花弁が平らでウェーブがかからない
- 花弁に入る切れ込みが少ない
- 中心円に歪みがない
- 雌しべが小さく、雄しべの下に隠れる
- その他、細かな決まりごと
これらに当てはまる個体のみが、オーリキュラと認定されます。
オーリキュラが日本に来たのは?

オーリキュラが日本にもたらされたのは、江戸時代頃です。イギリスでは限られた個体しか選抜されないことが伝わったのか高貴のシンボルとしてもてはやされ、多くの庭園で育てられたほか、茶会などの催しで展示されることもあったそうです。現在、日本の園芸店やホームセンターではあまり販売されていませんが、インターネットでの通信販売ではさまざまな品種が取り扱われています。
オーリキュラの名前の由来や花言葉

オーリキュラという名前は、原種であるプリムラ・オーリキュラ(Primula auricula)に由来します。属名のPrimulaはラテン語で「最初の」を意味するprimusに由来し、早春、ほかの花に先駆けて咲くことから。またauriculaはラテン語で「小さな耳」「耳たぶ」を意味し、肉厚で丸みのある葉を小さなクマの耳に見立てたとされ、英名でも「bear’s ears」と呼ばれることがあります。
プリムラ・オーリキュラの花言葉は「信頼」「永続的な愛」です。
オーリキュラ(プリムラ・オーリキュラ)の系統や用語

この章では、オーリキュラの5系統についてご紹介します。
ショウ系

オーリキュラの代表的な系統で、花の中心に白い粉が吹き、円環があるのが特徴です。さらに花弁の色で「セルフ」「エッジ」「ファンシー」など大きく3タイプに分類されます。ほかの系統よりも栽培難易度は高めです。
「ショウセルフ」は花弁が単色で、中心円に白い粉がはっきり現れるのが特徴。ビビッドな花色が多く、イエローショウセルフ、レッドショウセルフ、ブルーショウセルフ、ダークショウセルフ、その他に分類されています。
「エッジ」は18世紀に登場した貴重種で、黒系の花弁に縁取りが入るのが特徴。縁取りのタイプには、白い粉がないグリーンエッジ、白い粉があるグレーエッジやホワイトエッジがあります。
「ファンシー」はショウとエッジの中間タイプで、花弁は黄色か赤で、グリーンの縁取りが入ります。
アルパイン系

比較的強健で育てやすく、愛好家に人気の高い系統で、葉や花、中心円に白い粉が吹かないのが見分けるポイント。「ライトセンタード」と「ゴールドセンタード」の2タイプがあります。
「ライトセンタード」の花色は青紫やピンクで、花弁の下から先端にかけてグラデーションになり、中心円は白〜クリーム色です。「ゴールドセンタード」は花色が赤、黄色、オレンジ、茶などで、花弁の下から先端にかけてグラデーションが入り、中心円は黄色です。
ストライプ系

花弁に絞りやストライプが入り、花弁の中心に白い粉がつきます。個体によって絞りやストライプの入り方が多様なのも魅力です。
ダブル系

八重咲きの系統です。花色が多数揃い、多数重ねる花弁にウェーブが入る「スタンダードダブル」と、花弁の枚数がやや少なめの「クラシカルダブル」があります。
ボーダー系

オーリキュラの条件を満たさない品種で、花の個性が多様。原種に近いタイプが多く、比較的育てやすいのが特徴です。
オーリキュラの栽培12カ月カレンダー
開花時期:3月下旬〜5月上旬
植え付け・植え替え:4月下旬〜5月中旬、10月
肥料:3月下旬〜6月、10~11月
種まき:5月下旬〜7月上旬、1月下旬〜3月下旬
オーリキュラの栽培環境

日当たり・置き場所
【日当たり/屋外】開花期は明るい環境を好みますが、暑さが苦手で強い直射日光により傷むことがあります。開花後は30%ほど遮光するネットを張っておくと、葉の生育がよくなります。また、暑さと強い日差しを苦手とするので梅雨明け後からは50〜70%ほど遮光するネットを張って少しでも涼しい環境にするとよいでしょう。10月頃、涼しくなってきたら30%ほど遮光するネットに切り替えます。ただし、あまりに日当たりが悪いとヒョロヒョロと茎葉が間のびして軟弱な株になったり、花つきが悪くなったりするので注意してください。
【日当たり/屋内】屋外での栽培が基本です。
【置き場所】多湿を嫌うためできるだけ水はけのよい環境で育て、梅雨時や秋の長雨時などは、雨の当たらない軒下などで管理するとよいでしょう。また、植え替えたばかりの株なども、凍結を避けるため冬は軒下などに移動すると安心です。
耐寒性・耐暑性
暑さに弱いため、夏は涼しい日陰などで管理します。寒さには強いので戸外で越年できますが、常に冷たい風にさらされ、凍結を繰り返すと葉が傷むことがあるので、弱った株や植え替えたばかりの株は軒下などに移動しておくとよいでしょう。
オーリキュラ(プリムラ・オーリキュラ)の育て方のポイント
オーリキュラは、長雨や暑さ、真夏の直射日光を嫌います。そのため基本的には鉢栽培にして、季節に応じて適した場所に移動しながら管理するとよいでしよう。
用土

市販の山野草用培養土を利用すると手軽です。自身で配合する場合は、鹿沼土5、山砂3、軽石2ほどの割合でブレンドするとよいでしょう。
水やり

日頃の水やりを忘れずに管理します。ただし、いつも湿った状態にしていると根腐れの原因になるので、与えすぎに注意。土の表面がしっかり乾いたら、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えましょう。水やりの際は、株が蒸れるのを防ぐために茎葉全体にかけるのではなく、株元の土を狙って与えてください。茎葉がしおれそうにだらんと下がっていたら、水を欲しがっているサイン。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイントです。
夏場は特に、水切れと蒸れに注意が必要。また、気温の高い日中に水やりすると、太陽の熱によってお湯のように熱くなってしまうことがあり、株が著しく弱ってしまいます。真夏の水やりは、気温の低い朝か夕方に行いましょう。一方で、真冬は十分に気温が上がった日中に水やりをすませておくことがポイントです。
肥料

植え付け時に元肥として緩効性肥料を施しておきましょう。
越年後は、3月下旬〜6月に液肥を10日〜2週間を目安に与えます。真夏は肥料を切っておき、10〜11月にリン酸分が多めの液肥を2週間に1度を目安に与えましょう。
植え付け・植え替え

オーリキュラの植え付け適期は4〜5月か10月頃です。
5〜6号鉢を準備します。水はけのよい環境を好むので、プラスチック製や釉薬が厚く塗られた陶器鉢よりは、素焼き駄温鉢など通気性のよい素材を選ぶとよいでしょう。
用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてから山野草用の培養土を半分くらいまで入れましょう。オーリキュラの苗をポットから取り出して鉢の中に仮置きし、高さを決めます。根鉢を軽くほぐし、少しずつ土を入れて、植え付けましょう。水やりの際にすぐ水があふれ出すことのないように、土の量は鉢縁から2〜3cmほど下の高さまでを目安にし、ウォータースペースを取っておいてください。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。最後に、鉢底から水が流れ出すまで、十分に水を与えましょう。
鉢植えで楽しんでいる場合、成長とともに根詰まりして株の勢いが衰えてくるので、1〜2年に1度は植え替えることが大切です。植え替え前に水やりを控えて土が乾いた状態で行うと、作業がしやすくなります。鉢から株を取り出して根鉢をくずして小さくし、新しい培養土を使って植え直しましょう。
注意する病害虫

【病気】
オーリキュラに発生しやすい病気は、軟腐病やウイルス病などです。
軟腐病は細菌性の病気で、高温時に発生しやすくなります。特に梅雨明けから真夏が要注意。
芽や根、地際付近が腐って悪臭を放つので、発症したのを見つけたら、周囲に蔓延しないようにただちに抜き取り、周囲の土ごと処分してください。予防としては、連作(同じ科に属する植物を同じ場所に植え続けること)を避け、水はけや風通しをよくして、常にジメジメとした環境にしないこと。また、害虫に食害されて傷ついた部分から病原菌が侵入しやすくなるので、害虫からしっかり守ることもポイントになります。
ウイルス病はウイルス性の病気で、アブラムシやアザミウマ、コナジラミなどの虫が媒介します。したがって、発症しやすい時期はアブラムシなどの活動が活発な春から秋にかけて。主に花や葉にモザイク模様が現れ、症状が進むとウイルスの種類によっては葉などが縮れてきたり、湾曲して変形したりし、株の生育が著しく悪くなります。治療効果のある薬剤はないので、発症したら抜き取って土ごと処分し、周囲に蔓延するのを防ぎましょう。アブラムシ対策をしておくことが、発生を抑制することにつながります。
【害虫】
オーリキュラに発生しやすい害虫は、ナメクジやヨトウムシなどです。
ナメクジは花やつぼみ、新芽、新葉などを食害します。体長は40〜50㎜で、頭にツノが2つあり、茶色でぬらぬらとした粘液に覆われているのが特徴。昼間は鉢底や落ち葉の下などに潜んで姿を現しませんが、夜に活動します。植物に粘液の痕がついていたら、ナメクジの疑いがあるので夜にパトロールして捕殺してください。難しい場合は、ナメクジ用の駆除剤を利用して防除してもよいでしょう。多湿を好むので風通しをよくし、落ち葉などは整理して清潔に保っておきます。
ヨトウムシは蛾の幼虫で、漢字で「夜盗虫」と書き、主に夜に姿を現して茎葉を食害します。大きくなった幼虫は食欲が旺盛で、一晩に株を丸裸にしてしまうほどです。葉から食害し始めるので、異変を察したら幼虫がまだ若いうちに駆除しましょう。発生しやすい時期は4〜6月、9〜10月です。食害の痕が認められたら夜にパトロールして補殺するか、適用する薬剤を散布して防除します。
日常のお手入れ

【花がら摘み】
オーリキュラは次々に花が咲くので、終わった花は摘み取りましょう。傷んだ花がらをまめに摘んで株まわりを清潔に保つことで、病害虫発生の抑制につながります。また、いつまでも終わった花を残しておくと、種をつけようとして株が消耗し、老化が早まって花数が少なくなってしまうので注意。花がらをまめに摘み取ると、次世代を残そうとして次から次に花がつき、長く咲き続けてくれます。種子を採取したい場合は、開花が終わりそうな頃に花がら摘みをやめて、種子をつけさせましょう。
【枯れ葉の除去】
枯れ葉をそのままにしておくと病害虫を招く原因となるので、見つけたらこまめに取り除き、株まわりを清潔に保ちましょう。
夏越し

オーリキュラは高温多湿や強い直射日光を苦手とし、夏越しが管理のポイントとなります。夏はできるだけ涼しく風通しがよい、明るい日陰で育てましょう。遮光ネットを用いて、開花後は30%ほど遮光して育て、梅雨明け後からは50〜70%ほど遮光して涼しく管理します。涼しくなってきた10月頃から再び30%ほど遮光するネットに切り替えるとよいでしょう。
増やし方
オーリキュラは、株分けと種まきで増やすことができます。
【株分け】
オーリキュラの株分け適期は4〜5月か10月頃です。大株に育っていたら、株を掘り上げて数芽ずつ付けて根を切り分け、再び植え直しましょう。それらの株が再び大きく成長し、同じ姿の株が増えていくというわけです。あまり強引に引きちぎったり、小分けにしたりすると、株が弱ることがあるので注意してください。
【種まき】
オーリキュラの種まきはあまり一般的ではありませんが、品種によっては開花後にできた種子を採取して種まきで増やせます。ただし、必ずしも親と同じ花が咲くとは限りません。
種子を採取したい場合、開花期の終わりが見えてきたら花がら摘みをせずに、そのままにしておきます。実がついて茶色く変色したら完熟したタイミングなので採取し、中から種子を取り出しましょう。採種した直後(5月下旬〜7月上旬)か、密閉できる袋に入れて冷暗所で保存しておいて1月下旬〜3月下旬に種まきします。まず、種まき用のセルトレイを準備してください。トレイに市販の草花用培養土を入れて十分に湿らせ、1穴当たり数粒ずつ播きます。オーリキュラは発芽に光を必要とする好光性種子のため、土をかぶせる必要はありません。種が細かいので、浅く水を張った容器にセルトレイを置いて鉢底から給水します。発芽までは涼しい場所に置き、乾燥しないように適度な水管理をしてください。
双葉が出揃ったら、弱々しい苗を間引いて1本立ちにしましょう。残す苗の根を傷めないように、株元を押さえて抜き取ってください。本葉が4〜5枚出始めたら、セルトレイから鉢上げするタイミングです。3号の黒ポットに草花用の培養土を入れ、セルトレイから苗を抜き取って根鉢を崩さずにそのまま植え付けます。日当たり、風通しのよい場所で育苗し、根がまわるほどに十分育ったら、5〜6号鉢に定植します。
英国の伝統を感じさせる造形美が魅力! オーリキュラを育ててみよう

独特の造形美を感じさせるオーリキュラは、イギリスの美意識そのものといえるほど優美な花姿が魅力です。もともとは高山植物なので夏越しが管理のポイントとなりますが、手間を惜しまずに育てた株が開花した際の喜びはひとしお。ぜひ栽培にチャレンジしてみてください。
Credit
文 / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。「ガーデンストーリー」書籍第1弾12刷り重版好評『植物と暮らす12カ月の楽しみ方』、書籍第2弾4刷り重版『おしゃれな庭の舞台裏 365日 花あふれる庭のガーデニング』(2冊ともに発行/KADOKAWA)発売中!
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