ピクルスやカルパッチョのイメージが強いハーブ「ディル」。草っぽく爽やかな香りが特徴的で、簡単に料理を格上げしてくれます。今回はそんな爽やかなディルの香りを生かし、プチプチの食感が美味しいブルグルを使った、チョップドサラダをご紹介します。枝豆やコーンなど栄養満点な旬の野菜を使った、鮮やかで涼しげなごちそうサラダ。レシピを教えてくださるのは、神奈川県葉山で旬の野菜を育て、植物を身近に暮らしながらアンティークバイヤーとして活動中のルーシー恩田さんです。
目次
ディルの歴史は5,000年
現代ではハーブやスパイスといえば、料理のアクセントになる便利な調味料。しかし、その歴史は古く、かつては政治、宗教、魔術などにも使われ、暮らしに欠かせないものでした。聖書の中には度々ハーブやスパイスが登場し、それらが高価で重要なモノだったことがうかがえます。例えば新約聖書の中には、「災いなるかな汝ら、偽善なる律法学者、パリサイ人たちよ!汝らは、ミント、ディル、クミンの十分の一を納めておりながら、律法においてなお重要な公平と慈悲と忠実とを見逃している。(マタイによる福音書23:23)」
とあるように、税金の一部をお金の代わりにハーブやスパイスで払っていたとか。今回は、そんなプレシャスでスペシャルなハーブ「ディル」をご紹介します。
爽やかで、甘苦く重みのある不思議な香りで、何となーくオシャレなディル。ご存じ、ピクルスやサーモン料理の定番ハーブです。ポテトやチーズとの相性も抜群! すっきりとした香りのディルは、胃腸のはたらきを調整し、消化を助ける作用があるので、こってりとした料理に合わせるのもおすすめです。例えばタルタルソースに入ったディル。あのディルの爽快感のおかげで、チキン南蛮のような揚げ物&マヨネーズソースの組み合わせもペロッといけちゃうのです。
自然の胃腸薬ディル。日本へは江戸時代に生薬として伝わったようですが、エジプトでは5,000年以上も前から使われていたことが、医師の記録として残っています。古代ローマでは、ディルの精油から作った強壮剤が富の象徴とされたり、魔女が魔術に使ったり、またその魔術を封じるために使われたりと、もうハチャメチャ。「教会の種子(meeting house seeds)」とも呼ばれ、長い説教の間にディルの種をかんで空腹や退屈をしのいでいた、との記述も。
あ♡ あと、惚れ薬として使われていた例もあるみたいですよ。
ディルは「直まき」で育てるのがおすすめ
ディルの開花は5〜7月。私は4月中旬に種子を播き、6月中旬に25cm程の背丈に成長しました。ディルって子は太い根がまっすぐ下に伸びる、素直で堅実な「直根性」の植物。以外とナイーブな性格で、根が傷つくと枯れてしまいます。
ほかの植物のように、トレイで発芽させて鉢上げし、大きくなったら畑やガーデンに定植…という通常の手順を踏まずに「直まき」が私の経験からのおすすめです。
ディルは日当たりと水はけのよい土が好き。たっぷり水を与えた土の上に、種子をすじまきにして、薄く土をかけ、発芽まで乾かさないようにすれば、1週間程で発芽します。余計な芽は間引きして、株間は20cm程度あけましょう。そうすると1mくらいの大株になります。
ディルはセリ科の一年草ですが、畑などで栽培しているとこぼれ種で発芽するので、イメージ的には多年草みたいな雰囲気。あんなに小さな種から、こんなにいい香りの美味しい草に仕上がるなんて、よくよく考えてみたら不思議で夜も眠れなくなりそう。種が芽吹き、すくすく育ち、私たちのテーブルを彩り喜ばせてくれるなんて、まるで私の日常に宇宙が広がっていくよう。良いことも悪いことも、そんなこと関係なく、いつだって自然は私たちにサプライズを与えてくれます。
とはいえ、気軽に苗でもオッケー。ホームセンターなどでも手軽に買える苗の一つです。根を傷めないよう、土はほぐさずに丁寧に植え付けましょう。もしうまくいかなければ、ぜひ次回は直まきをお試しあれ。
ディルの花は、同じセリ科の「人参」「パクチー」「イタリアンパセリ」「レースフラワー」などに似た、繊細なパラソル状で、このお花もエディブル。サラダなどに使うとかわいいし、香りもおしゃれ。ディルは葉、花、茎、種、全てが食用可能なハーブなのです。
ディルの使い方はお好きにどうぞ!
一般的にディルは「魚と相性のよいハーブ」といわれ、カルパッチョなどに添えられています。爽やかな香りで、チーズやバターなどの乳製品と合わせるのもおすすめ。オリーブオイルやビネガーに漬け込むと、ディルの香りが移り料理の幅も広がります
私の個人的イチオシは、ハーブご飯。バジルやイタリアンパセリなどの夏のハーブと共にディルをみじん切りにして、好みの漬物やナッツも切り刻み、酢飯に混ぜ混ぜ。
酢飯とハーブの組み合わせは、さっぱりとして食べやすく、夏バテで食欲がイマイチなんてときにもペロッと食べられちゃうかもしれません。ハーブが採れすぎたときや、少量のハーブが冷蔵庫に残っている! なんてときにも。
ニンニクや塩、細かい千切りにしたハーブをバターに混ぜ込んだ「ハーブバター」にもディルがおすすめ。オムレツをこのバターで作ると、もぅサイコー♡ まるで高級ホテルのブレックファーストに。
ディルとよく間違えられるのが「フェンネル (ウイキョウ)」です。この子たちは双子のようにそっくり。一見区別が付かないかもしれませんが、香りは全く別物。フェンネルは独特な強く甘い香りで、ディルのほうは草っぽい香りです。ディルとフェンネルを近くに植えると、交雑してしまうのでご注意を!
チョップドサラダは簡単で美味しく、ヘルシー
「チョップドサラダ」とは、具材を小さく切ったサラダ。英語で「手早く刻む」「ぶち切る」と言う意味の「chop」。トントントントーン!とまな板に包丁の音を響かせて作る軽快なサラダです。サイコロ状に刻んだ野菜は食べやすく、歯ごたえもナイス。
華やかなので、ピクニックやお呼ばれにも大活躍。翌日に食べると味が馴染んで、2度美味しい! そのため我が家では、いつも多めに作ります。トルティーヤに挟んでラップサンドにしたり、オムレツの添え物にも。チョップドサラダは簡単に作れる、とっておきの美味しいサラダなのです。さぁ!みんなでLet’sチョップチョップ。
今回は、プチッとした食感が美味しい「ブルグル」も使います。ブルグルはパスタと同じ原料のデュラム小麦を、全粒のまま湯通しして挽き割りにしたもの。ミネラルが多く含まれ、食物繊維も豊富。しかも血糖値が急上昇しにくい「低GI食品」なので、食いしん坊にも推奨したいヘルシーフードです。
ディルで作るサマースタイル「チョップドサラダ」
人参や大根、ヤングコーンや枝豆など、春夏に旬を迎えるカラフルでかわいい野菜たちと、爽やかなディルが香るサラダを作ります。ブルグルや豆を加えた、しっかりお食事系サラダ。作り方はとってもシンプルですが、食べ応えがあり、見た目も鮮やか。甘酸っぱいドレッシングにクミンが香る、夏にピッタリ! 元気いっぱい系のサラダです。
■ 材料 (約4人分)
■ サラダ材料
- 人参 1/3本
- 大根 4cm程度
(※今回は紫大根を使用。キュウリなど歯ごたえのある野菜で代用可能) - 剥き枝豆 1/2カップ
- ヤングコーン 数本
- オリーブ 10個
- ディル 数本
- ブルグル 60g
- ミックスビーンズ(缶詰) 小さめのもの1缶
- ドライトマト 大さじ2
- 飾り用のナッツやハーブなど 適量
■ ドレッシング材料
- オリーブオイル 90ml
- 白ワインビネガー 30ml
- 砂糖 大さじ2
- クミンパウダー 小さじ1/2程度
- ケッパー 20粒程度
- 塩 少々
■ 作り方
① 鍋にお湯を沸かして、ブルグルを10分ほど茹でて水を切る。
② ヤングコーンは茹で、他の材料は粗いみじん切りにする。
③ ケッパーとディルを細かく刻み、他のドレッシング材料と一緒にボウルや瓶に入れ、よく混ぜる。
④ 全てを混ぜ合わせて、冷蔵庫でよく冷やす。
⑤ 仕上げのハーブやナッツを添えて完成!
平たいお皿に野菜の色ごとに並べ、ドレッシングをかけてサーブするのも綺麗。使う野菜はお好みで大丈夫です。色味と歯ごたえを考えてチョイスするとよいでしょう!
お皿のバリエーションと、盛り付け方も実力のうち。ちょっとの工夫で、いつもの料理がさらに美味しく! 楽しく! 美しく! 大変身。想像力とは経験から生まれるもの。きっとこのチョップドサラダが、あなたのクリエイティビティを刺激するはず♡
Credit
写真&文 / ルーシー恩田
ルーシー・おんだ/アンティークバイヤー/IFA認定アロマセラピスト/ITEC認定リフレクソロジスト。20代に訪れたタイ・チャン島でのファスティング(断食)経験から、心・体・生活環境などを全体的にとらえることにより、本来の自然治癒力を高め病気に負けない体づくりを学び啓発される。会社員としてデザインの仕事をしながら英国IFAアロマセラピストの資格を取得。退職後は更なる経験と知識の向上のためイギリスへ渡り、英国ITEC認定リフレクソロジストの資格を取得。現在は家業のイギリスアンティークの買付と販売をしながら、アロマセラピスト的な視点で自家栽培の野菜とハーブを使ったお料理教室やワークショップを開催している。
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