ブルーウィローのお皿で食べる、プラントベースな「ハーブちらし寿司」【ルーシーのおいしい暮らし】
イギリス好きならご存じの、柳や鳥が描かれたオリエンタルな「ブルーウィロー」柄。不思議な魅力たっぷりで、どことなく日本人にも馴染みがあるこの柄は、和食や中華とも相性抜群。日々の生活に取り入れやすいアンティークです。今回はこの「ブルーウィロー」のストーリーを交えて、ハーブやドライトマトで作る和洋折衷な「ハーブちらし寿司」を神奈川県葉山で植物を身近に暮らしながらアンティークバイヤーとして活動中のルーシー恩田さんが教えてくれます。
目次
青の食器と東洋へのあこがれ
17世紀に東インド会社によって中国や日本の美しいお皿が、ヨーロッパへ輸出され始めました。当時はとても高価な貴重品。見たことのない不思議な雰囲気で、上流階級の人々を魅了しました。
中でも、白地に藍青色で文様が描かれた「染付(そめつけ)」は、ヨーロッパの人々の心を鷲掴み! 染付のルーツは中国で、中国では「青花(せいか)」と呼ばれています。日本で染付という名に変わったのは、当時の日本では顔料を輸入することができず、青花ほどの美しさを再現できなかったため、単に「染付」という手法の名前をつけたとか。厳密に言うと材料や手法は違っていると思いますが、中国の美しい藍青色の焼き物「青花」は、日本で「染付」となり、イギリスでは「ブルー&ホワイト」となったわけです。少しずつ形を変え、それぞれの文化となりました。
文化や技術を盗用するのではなく、古に倣(なら)う。つまり「リスペクト」を持ちながら、ちょっと知恵を拝借しちゃう。人間って他人が持っている「良いモノ」を、無意識に妬んでしまうことがありますよね。人間関係や世界情勢がうまくいかなくなるのも、それが一因。そんな暇があるのだったら、相手を尊敬し見習って自分もその「やり方」を取り入れてみたらいいじゃない。いつかそれは自分のものとなるはずですから。今回ご紹介する「ハーブちらし寿司」も、そんなコンセプト。色んな国の美味しいものを取り入れた、摩訶不思議な和洋折衷ちらし寿司です。
おっと失礼! 話がそれてしまいましたね。素晴らしい東洋の食器を自国でも作りたいと、ヨーロッパ各国では中国磁器や伊万里焼の研究と試行錯誤が繰り返されました。ちょうどイギリスでは産業革命ど真ん中の頃です。経済が躍進し裕福な中産階級が増え、磁器の需要が飛躍的に増大したのも後押しとなり、ブルー&ホワイトのお皿は大量に生産されました。
日本人の視点から見ると「?」な、面白い違和感を感じるものも沢山。例えば、この女性2人が花を活ける様子が描かれたお皿。裏面を見てみると会社名と共に、なんとお皿のシリーズ名が「BU
私自身も青いお皿が好きなので、買い付けの3割、いや4割⁈ はブルー&ホワイトかもしれません。中でも一番惹かれるのが、今回のお話の主役「ブルーウィロー」と呼ばれる柄です。
西洋化した楼閣山水図ブルーウィロー
「ブルーウィロー」や「ウィローパターン」と呼ばれる絵柄は18世紀末に陶器の製造をしていたイギリス人「トーマス ターナー」が作り上げたものといわれています。ブルーウィローとは、直訳すると「青い柳」、特徴的な東洋風の建物、橋、小舟、家の周りのフェンス、桃の木、風に揺れる柳、そして空を飛ぶ2羽の鳩が象徴的に描かれています。
そして、この絵柄には物語があります。どうやらメーカーが販売促進のために作り上げたらしいのですが、どこかで聞いたことがあるような、誰の心にも沁みるストーリー(物語にはいろんなバージョンがありますが、大体同じようなニュアンス)。このストーリーを知れば、さらにブルーウィローに愛着が湧くかもしれません。この柄が時代を超えて今でも愛されているのは、このストーリーのおかげでもあるでしょう。営業戦略、大成功なのであります。
<以下、ブルーウィローのお話>
むかーし、昔の中国のお話(の設定)。娘の名は「コンセー」、裕福な家の育ちでした。恋人の「チャン」はコンセーの父の使用人。2人は身分の差を超えて、フォーリンラブしてしまいました(恋に階級社会は通用しないもの♡しょうがない) 。でも堅物な父親はそれを好ましく思わず、チャンを解雇して娘のコンセーを身分の高い公爵と婚約させちゃった。さらには、家から一歩も出ることができないようにしてしまいました(現代では、モラルハラスメント!)。
「籠の中の鳥」になってしまった彼女を忘れられず、恋焦がれ、何とかコンセーの家に忍び込んだチャンでしたが、使用人たちに見つかってしまいます。追手を必死にかわし、恋する2人は船で遠くの島への逃避行に成功。しかし、幸せな時は長く続きませんでした(ありがちな展開!) 。この賢い青年、チャンが有名な作家になったばっかりにコンセーの父に見つかり、殺されてしまいます。悲しみのあまり、コンセーは自害。気の毒に思った神様が、この2人を純愛や平和の象徴である「鳩」の姿にして、コンセーとチャンは永遠に結ばれました。これがブルーウィロー柄の中に飛んでいる2羽の鳩なのです。
ロミオとジュリエットを彷彿とさせる悲恋物語、さすがシェークスピアの国で生まれた「ブルーウィロー」だと納得です。
当時はウェッジウッドやミントン、スポード社など、他にも沢山のメーカーが、ブルーウィロー柄のお皿を販売していました。年代や会社によって、鳥や人物が描かれていなかったり、青の色味がそれぞれ違っていたりと、同じモチーフでありながら個性豊かです。
私の手元にある一番古いブルーウィローのお皿は、後のMASON’S社となるMiles Masonのもの。お皿裏面のバックスタンプから読み解くと、1800-1813年に作られたようです。これには2羽の鳩がいません。こういう違いを見比べるのも、ブルーウィローのお楽しみです。
大皿もいいでしょ? これは130年くらい前のもの。パスタや煮物など、何をのせても絵になる心強い味方! 今回はこの大皿を使い、プラントベースな「ハーブちらし寿司」を作ります。
プラントベースとは?
私はお料理の仕事をしていますが、魚介類はほぼ食べられないし、お肉もそんなに得意ではありません。よく、ベジタリアンかヴィーガンなの? と聞かれることもありますが、そーいう訳ではございません。ただただ、生臭いものが苦手なのです。
そんな私にピッタリなのは「プラントベース」という言葉。プラントベースとは英語で植物を意味する「plant」と由来を意味する「based」を組み合わせた言葉。まあ、つまりは「野菜や植物由来のものを積極的に食べる人」みたいなニュアンスでいいと思います。ベジタリアンやヴィーガンは「宗教や思想」の上での選択ですが、恥ずかしながら私の場合は、単なる好き嫌い。お肉を食べない訳でもないし、逆に健康によいとはいえない、ソーセージとかベーコン、チキンナゲットは大好き。だから、ベジタリアンという言葉は「しっくり」こないのです。
もしお家で野菜やハーブを栽培しているなら、ぜひ料理に取り入れてほしいのが、トウ立ちして花が咲いちゃった子たち。これもお野菜の楽しみの一つです。
もちろん、どれもエディブル(食べられるという意味)です。これを料理に使うと、繊細で華やか。急におしゃれになっちゃう秘密アイテム。特にニンジンの花は、レースフラワーみたいで素敵。他にもセージやルッコラの花など、今年はいろいろと試しに食べてみてはいかがでしょうか?
ルーシーの「ハーブちらし寿司」レシピ
肉や魚を使わずに、ハーブや漬物、ナッツなどで作るちらし寿司は、これからハーブが育つ夏に向けておすすめの一品。甘みや酸味、ハーブの複雑な香りが入り交じる、新感覚なお野菜ベースの「ハーブちらし寿司」です。
味の決め手は、香り担当の「ハーブ」、酸味&甘み、歯ごたえ担当の「漬物」、そして香ばしさ担当の「ナッツ」、彼らが素晴らしいハーモニーを作り出し、本当によい仕事をしてくれます。作り方は、とっても簡単。とにかく刻む&混ぜる作業のみ。集中して刻む作業は、心の休息にもおすすめです。無心に刻めば、もしかしたらあなたも「仏陀」への第一歩? を踏み出せるかもしれませんよ。へへへ。
材料
- お米 3合
- 粉末すし酢 大さじ4くらい (表示通りの分量より少し多めに)
- ドライトマト 大さじ3
- a) たくあん スライス12枚程
- a) ザーサイ 大さじ3
- a) ケッパー 大さじ1
- a) 紫蘇やエゴマ (今回はエゴマを使用) 数枚
- a) ディル 数本
- a) ルッコラ 1束
- a) パクチー 1握り
- a) 茗荷 2本
- ごま油 大さじ1
- 白ごま 大さじ1
- アーモンドなどのナッツ 大さじ3
- 飾り用のハーブやハーブの花 適量
作り方
- 少し固めに炊いたお米に、すし酢を混ぜ、その後ドライトマトを混ぜ込む。
- a)の材料を細かく刻み、①にサクっと混ぜ、ごま油を回しかけて、さらに混ぜる。
- アーモンドを荒く刻み、胡麻と飾りのハーブと一緒に散らす。
※特にアーモンドは食べる直前にトッピングすると歯ごたえが最高!
さあ! いただきまーす。
かなり複雑な味なので、保守的な舌をお持ちの方はビックリしてしまうかも。
あとこれ、お稲荷さんにするのもおすすめです。皮はスーパーで売っているレディーメイドの物で十分! ピクニックやお弁当、持ち寄りパーティーに喜ばれる一品です。
大昔、東洋に憧れてイギリスで作られたブルーウィローのお皿が、ひょんなことから2021年に日本へたどり着き、不思議な「ちらし寿司」に使われるなんて、当時は誰も想像できなかったはず。せっかくなので、もしブルーウィローのお皿をお持ちであれば、それを使ってみてください。そしてコンセーとチャンには、永遠に鳩のままでいないで、そろそろ成仏してもらいましょう。こうして「ブルーウィロー」柄は、全世界で愛されていますからね。ぜひ! 「ハーブちらし寿司」、お試しください。
Credit
写真&文 / ルーシー恩田
ルーシー・おんだ/アンティークバイヤー/IFA認定アロマセラピスト/ITEC認定リフレクソロジスト。20代に訪れたタイ・チャン島でのファスティング(断食)経験から、心・体・生活環境などを全体的にとらえることにより、本来の自然治癒力を高め病気に負けない体づくりを学び啓発される。会社員としてデザインの仕事をしながら英国IFAアロマセラピストの資格を取得。退職後は更なる経験と知識の向上のためイギリスへ渡り、英国ITEC認定リフレクソロジストの資格を取得。現在は家業のイギリスアンティークの買付と販売をしながら、アロマセラピスト的な視点で自家栽培の野菜とハーブを使ったお料理教室やワークショップを開催している。
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