暦の上で夏至を迎える頃は、夏の盛りへ向けた庭仕事や手仕事が盛りだくさん。何かと気忙しくもあるけれど、気持ちよく夏を迎えるために欠かせない暮らしの日課として、前田満見さんは、この時期、季節の変わり目の庭作業や、採取した植物でのチンキづくり、七夕飾りなどにいそしみます。小さな庭のある暮らしを楽しむ前田満見さんに、夏支度のあれこれを教えていただきます。
目次
剪定と植え替えで庭を整えて
咲き終わった草花の剪定や植え替えは、この時季の大切な庭仕事。湿度による蒸れが原因で草花が不調を起こしやすくなるので、小まめに手を入れます。
例えば、多年草や宿根草は、花茎と傷んだ葉をカットし、ついでに周囲の雑草も抜いて株元をスッキリさせます。
バラやクレマチスは、花が終わったシュートを約1/3の長さに切り戻します。こうすると風通しがよくなり、黒点病やうどんこ病が軽減され、四季咲きのバラとクレマチは二番花も楽しめます。
また、ヤマアジサイも花首から2〜3節下をカット。よく見ると、すでに来年の花芽が小さな顔を覗かせています。以前は、退色したアジサイの風情を好んで、しばらくそのままにしていましたが、盛夏になると茶色になり見栄えが悪く…。酷暑の庭仕事をできるだけ避けるためにも、早めに剪定するようになりました。
とはいえ、ニュアンスカラーに染まったヤマアジサイは、見れば見るほど魅力的。すぐに処分してしまうのはあまりに忍びないので、ササッと束ねてブーケにします。これがまた楽しくて、時を重ねた何ともいえない色合いに、つい手を止めて見惚れてしまいます。
根気のいる草むしりや剪定作業。こんな息抜きも欠かせません。
こざっぱりした庭は、風通しもよくなって、草花が気持ちよさそう。そんな姿を見ると、こちらまで清々しい気分になり、作業の疲れも癒やされます。
そしてもう一つ、鉢植えの植え替えも大事な作業。ビオラとチューリップの寄せ植えをしていた空き鉢に、アサガオを新たに植え込みます。アサガオは、5月上旬に苗床に種まきしたものを、本葉が出たタイミングで鉢へ移植。同時に、手作りの竹格子とオベリスクも設えます。竹を使用するのは、ちょっとしたこだわりです。
アサガオは、古くから親しまれてきた日本の夏の風物詩。竹格子に絡んだアサガオのモチーフは、絵画や日用品にもよく見かけますね。確かに、滑らかでひんやりした竹の感触とアサガオの清々しさは、見た目に涼やか。季節の様相に暮らしが寄り添う日本人ならではの感性につくづく感心します。今は、便利でおしゃれな既製の格子やオベリスクもありますが、一から麻紐で竹を組み、種から育てた幼苗を植え付ける….。そんな手作業をこなしていると、古きよき日本人らしさを感じられて、ちょっと誇らしくなります。
大暑を迎える頃には、竹格子のアサガオは、ダイニングの窓辺を彩る緑のカーテンに。オベリスクのアサガオは、花の少ない庭に涼やかな彩りを添えてくれます。今年も、そんな光景を楽しみに、今はせっせと水やりにいそしみます。
木漏れ日のテラスで恒例の手仕事を
梅雨の晴れ間には、夏椿が枝葉を広げるテラスで、恒例の梅とらっきょうを仕込む準備をします。普段はガーデンテーブルでお茶や食事を楽しむ場所ですが、この時季は、梅とらっきょうを洗って乾かしたり、下処理をする、ちょっとしたキッチン代わり。翠緑の夏椿の木漏れ日の下、期間限定のキッチンはとても快適で、気持ちよく作業できます。
一つひとつ手に取る度に、思わず深呼吸したくなるような爽やかな梅の香りも、強烈ならっきょうの匂いも、どこかホッとする季節の香りです。
そして、去年からもう一つ手仕事が増えました。それは、ドクダミチンキ作り。偶然目にしたYouTubeの動画がきっかけでした。葉と花をアルコールに漬けるだけで、虫刺されやかゆみ止めになるのだとか。
ドクダミ特有の匂いは敬遠されがちですが、亡き祖母が手作りのドクダミ茶を飲んでいたせいか、昔からその匂いも白い可憐な花も親しみがあります。庭にもカラーリーフが美しい‘五色ドクダミ’を植えているほど。野生のドクダミより繁殖力は控えめですが、やはり間引きは必要です。そんなときは、切り花にして器に活けて楽しみます。ヤマアジサイやホタルブクロ、ナデシコなど和花とも相性よく、楚々とした風情に心が和みます。
とはいえ、いつの間にかあちこちに生える野生のドクダミは、花が咲くと可愛らしいのですが、放っておくとそこら中に蔓延(はびこ)って大変なことに。そんな野生のドクダミを利用して作ったのが、ドクダミチンキです。まず、葉と花をカットして流水で洗い、テラスで半日干しを。後は、消毒した空き瓶に葉と花を分け入れ、アルコールを注ぎます。作り方も至って簡単で、ハーバリウムのような見た目もなかなか素敵です。
1週間もすれば使用可能ですが、1カ月以上置くと琥珀色になって、より効果があるのだとか。わたしは待ちきれず2週間後にスプレー瓶に移し替えて使用してみましたが、効果も使い心地も良好! 特に、首や顔周りに安心して使えるところが気に入っています。
これまでせっせと抜いていた野生のドクダミに、こんな利用価値があったなんて嬉しい限り。まさに、和漢方で「十薬」といわれる所以ですね。
出来上がったチンキは、蚊取り線香と一緒に籠に入れてスタンバイ。どちらも夏の庭仕事に欠かせない必需品です。
庭に涼を呼ぶしつらえを
夏に向けて花も緑も色褪せる庭に、みずみずしさを与えてくれるのが水生植物。中でも、ホテイアオイやフロッグピットは、浅鉢に水を張って浮かべるだけの手軽さ。お手入れも簡単なので、毎年どちらかをしつらえます。気温が上昇する夏はこまめな水換えが必要なので、持ち運びしやすい浅鉢に。根腐れ防止と水の浄化作用のあるミリオン(珪酸塩白土)を入れておくと安心です。
ホテイアオイもフロッグピットも、ひと株であっという間にモリモリに。毎年、水場を求めてやってくる小さな野鳥たちのちょっとした人気スポットになっています。
ピチャピチャと水しぶきをあげて寛(くつろ)ぐ野鳥たち。そんな愛らしい姿を早く見たいものです。
そしてもう一つ、風鈴も欠かせないアイテムです。窓辺には錫の風鈴を、夏椿の枝にもガラスの風鈴を吊します。銀色の微光を放つ錫の風鈴は、モダンでインテリア性も抜群。熱気を冷ます透き通った音色が心地よく響きます。ガラスの風鈴は、一年中吊しているクリスタルガラスのサンキャッチャーと相まってより涼しげな雰囲気に。カラカラと風になびく様にどこか郷愁を感じます。
風鈴は、夏庭の心地よいBGM。梅雨が明けると、夕暮れに聞こえてくるヒグラシの鳴き声と共に、暑気を癒やしてくれることでしょう。
夏を迎えるささやかな行事
半夏生を迎える頃には、着々と七夕の準備を始めます。わが家にとって七夕は、子どもたちが幼い頃から親しみ、大切にしてきた夏の行事。子どもたちが独立して夫婦2人の生活になった今でも、短冊に日々の感謝と願い事をしたためています。
以前は、折り紙で吹き流しや提灯、輪飾りなどさまざまなお飾りを作っていましたが、ここ数年は、折り鶴や短冊だけのシンプルな七夕飾りに。それでも年に一度、折り紙に触れながら鶴を折っていると、子供たちと過ごした七夕や楽しかった思い出が沸々と蘇り、いつの間にか忘れかけていた感情や、家族への想いが溢れてきます。慌ただしい日々の中、大切な人を想い心をリセットするひとときもよいものです。
お店で買った1本の笹に、折り鶴の短冊を木綿の糸で結んだら、七夕飾りの完成。ガラスの器に挿して和室に飾ります。
色とりどりの折り鶴は、まるで花のよう。和室の窓から見えるヤマユリも、もうじき濃厚な香りを放って夏の訪れを告げることでしょう。
Credit
写真&文 / 前田満見
まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
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