日本の夏に親しまれてきた植物、アサガオ。中でも、近年人気再来の変化朝顔は、思いがけない美しい花色や模様が現れて新鮮な驚きがあります。神奈川県横浜で小さな庭のある暮らしを送る前田満見さんも、一目惚れした変化朝顔「江戸風情」をタネから育てて、鉢植えとハンギングで涼しげな開花を楽しんでいます。前田さんの変化朝顔の育て方や仕立て方、楽しみ方をご紹介します。
目次
青紫の絞り模様の変化朝顔「江戸風情」
古来より、夏を彩る植物として日本人の暮らしに根付き親しまれてきた朝顔。
江戸時代には、突然変異の朝顔を交配した変化朝顔が一大ブームとなったようですが、ここ数年、そんなブームが再来しているようです。
実は昨年2018年の夏、わたしも園芸のウェブサイトで偶然目にした、山形県酒田市の「ホンマ農園」さんの変化朝顔「江戸風情」に一目惚れしました。注文した苗を鉢植えで育ててみたところ、夏中、絶え間なく花を咲かせてくれました。その強健さと青紫の涼やかな絞り模様にすっかり魅了され、来夏はタネから育ててみようと秋に採種しました。
タネ播きから発芽まで
待ちに待ったタネ播きは、日中の気温が20℃前後に安定した5月下旬。まず、下準備として釘で2カ所ほどタネに傷をつけました。ネットで調べたところ、発芽率が高まるとのこと。とはいえ、3mmほどの硬いタネに傷をつけるのは意外と難しく、釘が滑って手に刺さることが何度もありました。
その後、トレーに並べ浸水させて待つこと一晩。なんと翌朝には、あんなに硬かったタネから小さな根が。傷つけないように急いで苗床に移植しました。
双葉から本葉までの様子
苗床に移して3日後、早くも双葉(ふたば)が顔を出し始め、日に日に苗床が元気な双葉で一杯になりました。嬉しいことに、発芽率はほぼ100%! タネを花友さんにもお裾分けしていたのですが、彼女が播いたタネは約30%の発芽率だったとか。浸水はさせたけれど、タネに傷をつけなかったようです。もしかしたら、このひと手間が発芽率の良し悪しを左右したのかもしれませんね。だとしたら、手に刺さった痛みも報われます。
双葉が出揃ってから5日後には本葉が出てきました。一般的な朝顔の葉は、くびれがあり、葉先が3つに分かれて尖っている並葉(常葉)ですが、「江戸風情」は丸葉。ハートに似た、とても可愛らしい形をしています。
本葉が3〜4枚になると、細いつるも伸びてきたので、鉢に移植しました。
竹製のオベリスク仕立てをテラスの窓辺に
タネを播いた苗が、予想以上に育ってくれたので、鉢植えの仕立て方をいくつか試してみることに。
その一つが、竹製のオベリスク仕立てです。
オベリスクはどちらかというと洋風なイメージですが、竹を支柱にすると、どこか和の雰囲気に。朝顔とも相性がよく、より夏らしい風情が楽しめます。三角形の支柱のてっぺんに、小さな素焼きの鉢も被せました。尖った先端で目や身体を怪我しないためですが、ガーデンアクセサリーのように見た目も可愛いので、庭のアクセントになります。
鉢に移植すると、直ぐに反時計回りにつるが絡まり、一日に20cm以上伸びることも。丸葉も一回り大きくなって、3〜4日で既にてっぺんに到達しました。慌てて伸びたつるを支柱の下部へ誘引しましたが、やはり上へ上へと伸びてしまうので、やむを得ず先端をカットしました。今回使用した支柱の長さは150cmでしたが、もっと長い支柱を用いてもよさそうです。
それから約1週間後、小さなつぼみが顔を出しました。ここまでくればひと安心。花が咲くのを今か今かと待っていたのですが、7月の記録的な日照不足で成長が足踏み状態に…。さらに、つぼみの一部が黄色に変色し、「もしかしたら、つぼみのまま咲かずに枯れてしまうかも」…そんな不安が胸をよぎりました。植物の成長に日光は不可欠だと、改めて痛感しました。
ようやくポツリポツリと花が咲き始めたのは、例年より1週間遅れた梅雨明け間近。梅雨空を晴らすかのような清々しい初花を見つけた時は、ほっとしました。まるで、一人歩きを始めた幼いわが子を見守るような気分。こんなにハラハラしながら開花を待ったのは初めてです。
長かった梅雨が明けると、テラスの窓辺は、朝日を纏った青紫の絞り模様の花で賑やかに。花径6〜7cmの涼やかな花は品がよく、絞り模様も一つとして同じものがありません。時には青紫と白の単色の花が混じって咲くことも。そして、お昼前には青紫から赤紫へ移ろい、徐々に萎んでいきます。こんな豊かな表情を楽しめるのも、たった半日。まさに、一期一会です。花が萎むと何となく淋しくなりますが、リズミカルに並んだ丸葉のカーテンが届けてくれる心地よい光と緑陰が、心を癒やしてくれます。
ハンギング仕立てを夏椿の枝先に
そして、もう一つはハンギング仕立てです。
この仕立て方を試してみようと思ったきっかけは、今年初めて、園芸店でハンギング用に改良された新品種の朝顔を目にしたから。残念ながら花は咲いていませんでしたが、葉が枝垂れる様が新鮮であまりに素敵だったので、「江戸風情」で真似してみたいと思いました。
早速、直径20×高さ15cmの小鉢に苗を一株植え、夏椿の枝に吊るして様子を見ることにしました。案の定、つるが上へと伸び始めたので、半ば強引に下のほうへ誘引しながら葉が茂るのを待ちました。途中、上へ伸びるつるの先端をカットすると、脇枝が伸びて鉢全体にやや小ぶりの丸葉がこんもりと。なんとなくハンギングらしくなってきました。
植え付けから約20日後に、無事に開花。夏椿の枝先で軽やかに揺れる涼やかな花は、水鉢に浮かんだホテイアオイやフロッグピットと共に、庭に一服の涼を運んでくれます。
「江戸風情&クレマチス」の嬉しい共演
また、鉢植えのクレマチスの足元に、試しに一株ずつ植えつけた「江戸風情」が、クレマチスの二番花と同時期に開花するという嬉しい出来事もありました。クレマチスは、壺咲きの‘天使の首飾り’と‘紫苑の君’。どちらも返り咲き性のよい品種なので、初夏に咲いた一番花を切り戻ししていたのです。
よほどこの場所が気に入ったのか、クレマチス用のネットに絡みながら軒まで伸びました。そんな「江戸風情」に寄り添う小指ほどのクレマチスの何と微笑ましいこと。花のサイズも色合いもバッチリです。今年初共演の「江戸風情&壺咲きクレマチス」。なかなかのベストカップルです。
タネ播きならではのサプライズ
じつは、不思議なことに、タネ播きした「江戸風情」の中に、並葉(常葉)の形をしたものが何株か出てきました。「こんなことってあるの?」と疑問に思いながらも、なんだか面白いことが起こりそうな予感がしたので、丸葉の「江戸風情」と一緒に鉢植えすることにしました。
しばらくすると、丸葉と並葉がオベリスク仕立ての鉢で仲よく絡み合い、つぼみも上がってきました。「一体、並葉の朝顔はどんな色でどんな形をしているのだろう?」と、毎朝、窓を開けて見るのが楽しみで仕方ありませんでした。そして、待ちに待った開花! 並葉の朝顔は、濃青紫に白い筋入りの大輪花でした。どことなく「江戸風情」の青紫の単色花に雰囲気が似ているような…。もしかして先祖返りでしょうか? ともあれ、こんなサプライズもタネ播きしたからこそ味わえます。
そういえば、「江戸風情」は、赤い「るこう草」が突然変異して誕生した朝顔だそうです。このサプライズも、そんな性質が影響しているのかもしれませんね。
さらに、「江戸風情」の誕生秘話には、感動的な続きがあります。その「るこう草」は、花好きだった「ホンマ農園」さんの奥様が、長年大切に育てていらしたそうです。10年前、最愛の奥様が病気でお亡くなりになり、一周忌でご親戚一同が集まった時、庭に見たことのない朝顔が咲いていたのだとか。その朝顔が「江戸風情」。以来、ご主人は「突然変異を起こしたのは妻かもしれない」と思い、大切に育てていらっしゃいます。
そんなご夫婦の慈愛に満ちた秘話を知ってから、「もしかしたら、この朝顔は、奥様がご主人を慰めるために残された形見だったのかもしれない」と思うようになりました。
毎朝、静かに花開く「江戸風情」。
一輪一輪にその思いを重ねて見ると、この花に出合えた喜びと愛おしさで胸が一杯になります。
小さなこの庭で、これからも絶やさず大切に育みたいと思います。
Credit
写真&文 / 前田満見
まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
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