梅雨時から夏にかけて、青や白の涼しげな花を咲かせるアガパンサス。交配などにより、300種以上の園芸品種が育成されています。植えっぱなしでも育つほど性質が強いため、公園の花壇や路上の植え込みなど、街中でも見かける機会が多いでしょう。アガパンサスは、他の植物と同様に自家栽培で増やすことができます。今回は、増やすための方法や時期、タイミング、注意点をわかりやすく紹介しましょう。NHK『趣味の園芸』などの講師としてもご活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。

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アガパンサスを育てる前に知っておきたいこと

アガパンサスは、冬でも葉が枯れない多年草タイプの品種と、冬になると地上部が枯れる宿根草タイプの品種があります。また、1m以上育つ大型種から、鉢植え栽培しやすい30~40cm程度の小型種まであり、“どのように育てたいか”で選ぶのがよいでしょう。

まずは、アガパンサスについて基本的な情報を紹介します。

アガパンサスの基本データ
学名:Agapanthus africanus
科名:ユリ科
属名:アガパンサス属
原産地:南アフリカ
和名:紫君子蘭(ムラサキクンシラン)
英名:Lily-of-the-Nile、African lily、Agapanthus
開花期:5月下旬~8月上旬
花色:白、紫、青、複色
発芽適温:20~25℃
生育適温:15~30℃
切り花の出回り時期:4~7月
花もち:7~10日

アガパンサスは種、苗、根茎の3パターンから、育て始めることができます。ただし、種はほとんど市販されてなく、育てても開花までに4~5年かかり、親の株と同じような花が咲くとは限りません。そのため、苗か根茎から育てるのが一般的です。苗および根茎の植えつけは4月中旬~6月上旬がベストですが、9月中旬~10月中旬も可能。市販の苗と根茎も、ちょうどそのころに出回ります。

前述したとおり、アガパンサスはガーデニング初心者がトライしやすい植物。栽培がより楽しめるよう、育て方のコツを次の項以降で見てみましょう。

植物を増やすには、いくつかの方法があります

アガパンサスの増やし方を説明する前に、まずは植物全体に共通する、増やす方法について知っておきましょう。

一般的な植物の増やし方は、「種子繁殖」と「栄養繁殖」の2種類に大きく分けられます。「種子繁殖」とは、その名のとおり種による繁殖方法です。一方の「栄養繁殖」には、以下のような方法があります。

挿し木(挿し芽)
葉や茎、根など植物体の一部を切り取って、用土や水に挿して発根させ、新たな個体を得る手法。

取り木
親となる植物の一部に傷をつけて、茎などの途中から発根させたあと、親株から切り離して新たな個体を得る方法。挿し木でうまくいかない植物でも増やすことができ、観葉植物や樹木などで多く用いられます。

接ぎ木
植物体の一部を、台木となる別の植物に接合して生育させる方法。病害に強い丈夫な個体を得るために、バラをはじめトマト、キュウリ、ナスなどの果菜類にもよく用いられます。

株分け
親となる植物を根とともに分けて、複数の株を得ること。いちどに得られる株数は少ないですが、大株になったものや老化した株の更新にも用いられる手法です。

分球
スイセンやチューリップなどの球根植物に用いられ、球根を分けて個体を増やす方法。球根類は成長すると、親球から小さな子球(しきゅう)ができます。その子球を切り離して、数を増やしていきます。子球が増え過ぎると、親球がやせたり花が咲きにくくなったりするので、何年かにいちどの割合でこの作業が必要な植物もあります。

このほかに、ムカゴや木子(きご)といった形で増える植物も存在します。また、家庭栽培ではほとんど行いませんが、「組織培養」と呼ばれる人為的な増やし方もあります。

アガパンサスを増やす、最適な方法と時期

アガパンサスは、「株分け」「挿し芽」「種まき」で増やすことが可能です。ただし、「挿し芽」は成功率が高くなく、種から育てる場合は開花までに4~5年かかるうえ発芽率がよくありません。そのため、一般的には「株分け」で増やします。

株分けの適期

株分けに適しているのは3月下旬~4月下旬、または9月中旬~10月中旬です。鉢植えは2年に1回程度、地植えは3~5年に1回程度行うのが理想的。また、植え替えと併せて株分けを行うと、植物へのダメージが軽減されるのでおすすめです。

挿し芽の適期

挿し芽は挿し木と同じく、茎などを用土に挿して発根させる方法です。手軽なのは、株分け(3月下旬~4月下旬、または9月中旬~10月中旬)をした際に出た、折れた茎や根が少ない株を使う方法です。または、梅雨時期も植物が傷みにくく枯れにくいので適しています。挿し芽は、地植えではなく鉢やポットで行いましょう。

種まきの適期

アガパンサスは5月下旬~8月上旬に開花し、花が枯れたあとにできた種を採取します。種まきは、おおむね4~5月と9~10月が適期です。

※市販の種で袋に「交配種」「○○交配」「F1」と記載されているものは、育てたものから種を採ってまいても、親株と同じような花を咲かせないことがあります。しかし、考えようによっては、今までにない花を育てられるおもしろさも。もし、同じ花を求めているなら、株分けの方がよいでしょう。

知りたい! アガパンサスの増やし方「株分け」

準備するもの

鉢植え、地植え共通
・株分けするアガパンサス
・肥料(肥料が含まれていない土を使う場合に必要)
・ハサミまたはナイフ(あると便利)
・土入れ、またはスコップ
・ラベル
・ジョウロ

*鉢植えで増やす場合は、下記のものも用意
・6~10号の深鉢、または横長プランター(品種により育つ大きさが異なるため、大型種の場合は大きな鉢を使用)
・土
・鉢底ネット
・鉢底石

土は、草花用培養土、または赤玉土と腐葉土を7:3の割合にして緩効性化成肥料を混ぜたものを使います。
※詳しくは、「アガパンサスを元気に育てるには、適した土作りと植え替えが必要です」を参照。

株分けの手順

①鉢植えで増やす場合は、新たに植える鉢(またはプランター)に鉢底ネットを入れ、鉢底石を敷き、培養土を鉢の高さ2/3ほどまで入れます。
地植えで増やす場合は、新たに植える2~3週間前に、花壇の土などに腐葉土や堆肥を3割程度混ぜ、植えつけまで寝かせておきます。植える際には土に、30㎝程度の間隔でアガパンサスの株を植えつける穴を掘ります。
②ひと株につき、芽が5つほど出ている株を選んでください。根を傷つけないようにしながら、鉢から株を抜きます。
③根の周りに付いている土を丁寧に落とし、手で株と株を切り分けます。分けにくい場合は、熱消毒をした清潔なハサミやナイフを使いましょう。
④傷んでいる根や葉、下の方の大きな葉を取り除きます。
⑤鉢植えの場合は、植え替え先の鉢(またはプランター)の中心に苗を置き、その周りを埋めるように土を隙間なく入れます。地植えの場合は、掘った穴にアガパンサスをひと株ずつ植えます。 いずれも、芽が地上に出るような位置で浅めに、かつ、土が少し盛り上がっている状態で植えると水はけがよくなります。プランターや花壇などに複数植えるときは、株同士の間を30㎝ほどあけて植えてください。
⑥株分けを終えたら、水をたっぷり与え、品種名や植えつけ日を書いたラベルを土に挿しておきます。暖地なら、秋も地植えで株分けできます。その場合は腐葉土やワラなどを土の上にまいて覆い、霜や寒さから株を守りましょう。
⑦鉢植えの場合は、レースのカーテン越しなどの明るい日陰に置いておき、新芽が出たら日が当たる場所に移動してください。

コツと注意点

株分け直後の植物は、とても弱っている状態です。直射日光は刺激が強いため、すぐに日なたへ置くのは避けましょう。

知りたい! アガパンサスの増やし方「挿し芽」

準備するもの

・挿し芽をするアガパンサス
・育苗箱や駄温鉢など
・挿し芽用土(鹿沼土やバーミキュライトなどを配合した、肥料分のない新しい土)
・剪定用ハサミ(茎の導管を潰してしまわないよう、よく切れるもの)
・発根剤(発根促進剤)
・穴あけ用の細い棒(箸などでも可)
・土入れ、またはスコップ
・ラベル
・ジョウロ

挿し芽の手順

アガパンサスを挿し芽する場合は、以下の手順で行いましょう。

①栽培中のアガパンサスで、今年出てきた成長途中の若い茎を選び、5~10cmの長さのところを剪定用ハサミで切ります。なるべく断面を広く、切り口が斜めになるように切りましょう。切り口がギザギザだと植物の細胞や組織が破壊され、うまく発根できなくなります。また、断面積が広いと根が多く出ます。葉は1~5枚ほど残し、残りは取り除いてください。この切り取った茎を「挿し穂」といいます。株分けの際に出た折れた茎や根が少ない株を、挿し穂として使うのもよいでしょう。
②カットした挿し穂の切り口を1~2時間ほど水に浸けたあと、断面に発根剤を塗ります。
③②で挿し穂を水に浸けている間に、育苗箱や駄温鉢に挿し芽用土を入れて、挿し床を作ります。
④挿し床に、穴あけ用の細い棒か箸などで穴をあけます。挿し穂を穴にまっすぐ入れ、1~2節程度の深さまで埋めてください。挿し穂の周りの土を指でおさえながら、隙間をなくすように固定させます。
⑤最後にたっぷりと水を与え、品種名や植えつけ日を書いたラベルを土に挿しておきましょう。

知りたい! アガパンサスの増やし方「種まき」

種を採る

準備するもの(鉢植え、地植え共通)

・保存用紙袋(封筒など)
・密閉保存容器
・乾燥剤(あるとベスト)

種と採る手順

アガパンサスは種を採取しない場合、花が咲き終わったら茎を株元から切り取ります。なぜなら、そのままにしておくと種を作るために栄養分が使われて株が弱るからです。

一方、咲き終えた花をそのままにしておくと、種ができます。さやが熟して黒い種が見えてきたら採りましょう。採取した種を封筒などの保存用紙袋(ビニール袋は避ける)に入れ、それをさらに密閉保存容器に入れて乾燥させます。容器に乾燥剤を入れておくとベスト。植えつけまで、冷蔵庫などの冷暗所で保管してください。

コツと注意点

種の採取は晴れた日に行いましょう。雨降りの日や雨上がりなどで湿気を含んでいるときに採取すると、種が腐ってしまう可能性があります。

種をまく

準備するもの

・2~3号のポット
・種まき用の培養土か、元肥が入っていない用土
・鉢底ネット
・鉢底石
・土入れ、またはスコップ
・ラベル
・ジョウロ

種をまく手順

種まきは4~5月か9~10月がベストシーズン。ポットにまいて発芽させるのがおすすめです。以下の手順でまきましょう。

①ポットの底に鉢底ネットを敷いて穴をふさぎ、用土を入れます。
②土の上に種をまきます。ひとつのポットにつき3~5粒を目安に、種同士が重ならないように置いてください。その後、軽く土をかぶせて水をそっと与えます。種が水で流されないように気をつけましょう。
③しばらくは明るめの日陰で管理し、発芽して葉が数枚出てきたら、日当たりのよい場所に移動します。

アガパンサスは育てやすいので、園芸初心者でも栽培を楽しめます。ぜひ、株分けなどで増やして、美しいアガパンサスを大切なかたにプレゼントしてみてはいかがですか?

Credit

記事協力

監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。

構成と文・白神雅子

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