季節を彩る花々は、私たちの生活を豊かにしてくれます。梅雨時期から夏にかけて花咲く、アガパンサスもそのひとつ。丈夫な性質で、植えっぱなしでも育つため、街中の公園や道沿い、草原や川沿いなどで見かける機会も多いでしょう。一方で、栽培するならより適した環境で育てて、美しい花を咲かせたいものです。そのために欠かせないのが土作り。今回は、アガパンサスの栽培に適した土と植え替えについて紹介します。NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。

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アガパンサスを育てる前に知っておきたいこと

アガパンサスは、冬でも葉が枯れない多年草タイプの品種と、冬になると地上部が枯れる宿根草タイプの品種があります。また、1m以上育つ大型種から、鉢植え栽培しやすい30~40㎝程度の小型種まであり、“どのように育てたいか”で選ぶのがおすすめです。

まずは、アガパンサスと仲よくなるための基本情報を知っておきましょう。

アガパンサスの基本データ
学名:Agapanthus africanus
科名:ユリ科
属名:アガパンサス属
原産地:南アフリカ
和名:紫君子蘭(ムラサキクンシラン)
英名:Lily-of-the-Nile、African lily、Agapanthus
開花期:5月下旬~8月上旬
花色:白、紫、青、複色
発芽適温:20~25℃
生育適温:15~30℃
切り花の出回り時期:4~7月
花もち:7~10日

アガパンサスは種、苗、根茎の3パターンから、育て始めることができます。ただし、種はほとんど市販されてなく、育てても開花までに4~5年かかり、親の株と同じような花が咲くとは限りません。そのため、苗か根茎から育てるのが一般的です。苗および根茎の植えつけは、4月中旬~6月上旬がベストで、9月中旬~10月中旬も可能。市販の苗と根茎も、ちょうどその頃に出回ります。

アガパンサスは、ガーデニング初心者がトライしやすい植物です。育て方のコツを知れば、栽培がより楽します。次の項以降で見てみましょう。

よい土は、水はけ、水もちに優れています

植物を育てるために使う土を「用土」といいます。用土にはさまざまな種類(後述参照)があり、それらを何種類かブレンドしたものが「培養土」です。

植物は根の働きが弱るとだんだん元気がなくなり、放置しておくと、やがて枯れてしまいます。つまり、根がしっかりしていれば、植物は健やかに成長するのです。その根を育てる土台であり、住処となるのが”土”です。

植物にとって「よい土」とは、栄養分に富み、水はけ(排水性)、水もち(保水性)、通気性、保肥性に優れた状態のものです。土には、成長に必要な栄養素がバランスよく、豊富に含まれていないといけません。また、乾きやすく通気性があると、土中に新鮮な水と酸素が保たれ、根腐れしにくくなります。土中の酸素は、土に保温効果や断熱効果をもたらし、寒さや暑さなど急激な気温の変化から根を守ります。ただし、乾きやすさは度が過ぎると水不足を招くため、適度な保水性が必要なのです。

このようなよい状態の土は、“団粒構造”になっています。団粒構造とは、砂や粘土など、さまざまな土の粒子(単粒)がくっつき合って、小さな固まり(団粒)を形成して重なっている状態。団粒の中には小さな隙間が、団粒と団粒の間には大きな隙間があります。これらの隙間が排水、通気、保水、保肥に役立ち、植物が根を張りやすい環境を作っています。団粒構造の土は、フカフカと柔らかいのが特徴です。

一方、水はけの悪い粘土質の土や、水もちしない砂土を“単粒構造”といい、一般的な植物の栽培には向いていません。

園芸店やホームセンターには、あらかじめブレンドされた培養土のほか、赤玉土や黒土、腐葉土など、さまざまな用土が販売されています。園芸初心者のかたは、どの用土を買えばよいのか迷うでしょう。次の項で紹介する用土の特性を参考に、育てる植物や環境に合わせて、よい土を作ってください。

種類を知ることが、適した土作りへの近道

土の種類やその特徴を知ることは、植物栽培に必要な「よい土」作りに役立ちます。ここでは、園芸店やホームセンターでよく見かける用土について紹介しましょう。

【基本用土】

基本用土は鉢土のベースとなるもので、ブレンドの配合割合が大きい土。代表的なものは以下のとおりです。

黒土
一般的に畑用の土として知られている黒い土。柔らかく、保水性と保肥性に富みますが、排水性と通気性はやや劣るため、単体で使うことはあまりありません。

赤玉土
関東ローム層の赤土を玉状に乾燥させたもので、粒の大きさは大・中・小があります。通気性、保水性、保肥性に優れており、ガーデニング用の基本の土としてよく利用されています。

鹿沼土
栃木県鹿沼地方でとれる火山性の玉土。通気性、保水性、保肥性に優れています。酸性なので、山野草やブルーベリー、サツキ、ツツジなどと相性がよいとされています。

真砂土
花崗岩が風化した粒子の細かい用土で、粘土質。排水性が悪いため、通気性に優れた改良用土(後述参照)と一緒に使います。

【改良用土】

基本用土をよりよい性質にするために、加える土です。

腐葉土
広葉樹の落ち葉を腐熟させたもの。有機質に富んでいるので、土中の微生物の働きを高め、土を肥えさせてくれます。また、排水性、保水性、保肥性も高く、土質改良に有効です。

ピートモス
水ゴケ、シダなどが泥炭化したもので、腐葉土とよく似た性質。軽くて、排水性、保水性、保肥性がよく、室内園芸に適しています。酸度が強いので、酸性の土を好む植物には「酸度未調整」のものを、一般的な草花には「酸度調整済み」のものを使い分けましょう。

堆肥
わらや落ち葉、枯れ草などを腐熟させたもので、通気性と排水性をよくする働きがあります。腐葉土よりも有機質の肥料分が含まれていて、花壇や畑の用土に最適です。

【調整用土】

バーミキュライト
蛭石(ひるいし)を焼いて発泡させたもので、軽いのが特徴。通気性と保肥性に優れ、保水性もよい土です。

パーライト
真珠岩(しんじゅがん)を高温高圧で焼成したもので、軽くて無菌。通気性と排水性に富むため、水はけの悪い用土に混ぜて使います。


排水性や通気性を高めるために使います。桐生砂(きりゅうすな)、矢作砂(やはぎすな)、富士川砂など種類はさまざまで、川砂が一般的。

【特殊用土】

水ゴケ
湿地に自生する水ゴケを乾燥させたもので、保水性と通気性に優れています。水をたっぷり含ませてから使います。

※「○○用」として市販されている培養土は、これらの用土の特性を生かして、配合割合を各社で研究して対象植物用にブレンドしたものです。

元気に育てるための、アガパンサスの土作り

日本の土壌は一部地域を除いて一般的に酸性です。アガパンサスは、この酸性土壌を好みます。地植えで育てる場合はまず、苗や根茎を植える2~3週間前に、花壇の土などに腐葉土や堆肥を3割程度混ぜ、植えつけまで寝かせておきます。苗から育てるときはさらに、元肥としてリンを多く含んだ化成肥料も混ぜておくとベスト。土がなじんだら、苗や根茎を植えつけます。花つきを多くしたい、より立派に育てたいということであれば、春と秋に少量の緩効性化成肥料を追肥で与えると効果的です。

鉢植えで育てる場合は、市販の草花用培養土で問題ありません。自分で土をブレンドするなら、赤玉土と腐葉土を7:3の割合にして、さらに緩効性化成肥料を混ぜておきます。4月中旬~6月上旬と、9月中旬~10月中旬に追肥をします。この期間に、2か月に1回程度置き肥をするか、または2週間に1回程度液体肥料を与えてください。

アガパンサスは多湿に弱く、常に土が湿っている状態だと根腐れしやすくなります。鉢植えも地植えも、水はけのよい環境が大切。土の状態次第では、軽石や鹿沼土などを1割程度混ぜ、水はけをよくしておくのが理想的です。

市販の草花用培養土のなかには、元肥入りの商品があります。これらは、自分で元肥を与える必要がないので便利です。培養土は、できるだけ清潔で新しいものを使ってください。過去に別の草花を育てたときの土を使い回すと、病原菌が潜んでいることがあるからです。これはアガパンサスの栽培に限らず、どの植物においても同じことがいえるので注意しましょう。

アガパンサスの、植え替えの時期と頻度

アガパンサスの根はとても太くよく伸びます。そのため、鉢や市販の苗用ポットでしばらく育てると、土中が根でいっぱいになる”根詰まり”現象が起きて、成長が妨げられます。また、用土の劣化も生育悪化の一因に。鉢植えで育てている場合は、2年に1回程度の割合で、4月中旬~5月中旬か9月中旬~10月中旬頃に、新しい鉢へ植え替えるのがおすすめです。

植え替えをするときは、抜いた株の周りについている土を落としてから、ひと回り大きな鉢に移して植えます。このとき、太い根はなるべく傷めないように注意してください。なお、植え替えのときに株分けも一緒に行なうと、植物のあまり傷めることなく、効率よく増やせるのでおすすめです。

最初から地植えで育てている場合は、株分け以外で植え替える必要はありません。

土のほか、植え替え時に準備したいもの

ここでは、アガパンサスを植え替えるときに必要なものをまとめました。事前に以下のものを用意しておきましょう。

準備するもの(鉢植え、地植え共通)
・適した土(前述のとおり)
・植え替えするアガパンサスの苗、または根茎
・土入れ、またはスコップ
・ジョウロ
・ラベル

*鉢植えの場合は、下記のものも用意
・ひと回り大きなサイズの深鉢、または深鉢タイプのプランター
・鉢底ネット
・鉢底石

苗や根茎を複数並べて植える場合は、苗(根茎)と苗(根茎)の間を30㎝程度あけるのがポイント。幅60㎝のプランターなら、ふた株ほどを目安に植えます。また、アガパンサスは日なたを好むので、植え替え先や鉢の置き場所は日当たりのよいところを選んでください。

アガパンサスの植え替え方法が知りたい

必要なものを準備したら、実際に植え替えしてみましょう。手順は以下のとおりです。

鉢植えの場合の手順

①鉢(またはプランター)に鉢底ネットを入れ、鉢底石を敷きます。土を鉢の高さ2/3ほどまで入れます。
②鉢(またはポット)からアガパンサスを、なるべく根を傷つけないように引き抜きます。
③植え替え先の鉢(またはプランター)の中心に株を置き、その周りを埋めるように、隙間なく土を入れます。地中に大きな隙間があると根が伸びないため、気をつけましょう。プランターに植える場合は、30㎝程度の間隔で複数株を植えてください。
④たっぷり水を与えて、日当たりのよい場所で管理します。品種名や植えつけ日を書いたラベルを挿しておくと、わかりやすくて便利です。

地植えの場合の手順

①植え替えの2~3週間前に、花壇の土などに腐葉土や堆肥を3割程度混ぜ、植え替えまで寝かせておきます。植える際には土に、30㎝程度の間隔でアガパンサスの苗を植えつける穴を掘ります。
②各穴にアガパンサスをひと株ずつ植えてください。株が少し盛り上がっている状態で植えると、水はけがよくなります。
③たっぷりと水やりをして、品種名や植えつけ日を書いたラベルを土に挿しておきます。

上手に植え替えるコツは、根を傷つけないことです。鉢やポットからアガパンサスを引き抜くときは、根鉢(土と根がくっついて固まりになったもの)を触らず、そのまま植えましょう。

植え替えをするときの注意点はこちらです

アガパンサスに限らず、植物の植え替えで特に注意したいことは2点あります。ひとつは、根を傷つけないこと。前述のとおり、根鉢には触らず、そのまま植えてください。ただし、黒ずんで腐っている根があれば、切り取ってしまって構いません。もうひとつは、植え替え先の土をよい状態にしておくこと。鉢植えの場合、培養土はできるだけ清潔で新しいものを使います。また、鉢植えも地植えも、肥料を施した栄養たっぷりの用土を用意しましょう。

肥よくな土で育て、適切な植え替えを行えば、アガパンサスは毎年美しい花を咲かせてくれます。ぜひ、栽培を楽しんでください。

Credit

記事協力

監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。

構成と文・白神雅子

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