青い縁取りのある白い花弁がさわやかなものから、バラに似たボリュームたっぷりの花をつけるものまで、花色や咲き方のバリエーションが豊富なトルコギキョウ。切り花で大人気の花は、条件によっては栽培の難易度が高く、生育が遅い期間もありますが、世話が焼けるほどつぼみや花がより愛おしく思えるでしょう。トルコギキョウの基本的な育て方や日々のお手入れを、NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
トルコギキョウを育てる前に知っておきたいこと
トルコギキョウは北アメリカの南西部から南アメリカの北部にかけて2~3種が分布するリンドウ科の1年草です[環境によって宿根性(多年性)にもなります]。原種の花は一重咲きで花弁は薄紫~紫色をしています。
1930年代に日本に伝わり、1980年代にピンクの花が誕生したことをきっかけに品種改良が進み、今では300以上もの園芸品種が存在します。
トルコギキョウの基本データ
学名:Eustoma
科名:リンドウ科
属名:トルコギキョウ属(ユーストマ属)
原産地:北米、メキシコ
和名:トルコギキョウ
英名:Prairie gentian
開花期:6~9月
花色:赤、ピンク、黄、白、緑、青、紫、茶、複色
発芽適温:20℃(地温)
生育適温:15〜25℃
切り花の出回り時期:通年
花もち:10~14日
切り花では通年出回っていますが、もともとの開花時期は夏で、種から育てる場合は一般的には秋まきします。しかし種は超微細で、種から育てるのは難易度が高いので、ガーデニング初心者の方は春に苗から育てはじめることをおすすめします。
乾燥地帯で生まれた草花なので、生育期に雨に当たるのを非常に嫌います。地植え用に開発された強健品種を除き、トルコギキョウは移動させやすい鉢やプランターで栽培しましょう。
種類を知ると、選び方がわかります
トルコギキョウは現在、世界中で300以上の園芸品種が流通しており、そのほとんどが日本産です。切り花用(高性種)/鉢物用[矮性(小型)種]、八重咲き/一重咲き、大輪/小輪、複色、地植え用など種類は多彩。代表的な品種には次のようなものがあります。
「エクローサ」シリーズ
切り花用に品種改良された八重咲きの大輪品種で、バラに似た整った花形が特徴。薄緑色の花を咲かせるエクローサグリーン、純白の花色のエクローサホワイトなどがあります。
「シャララ」シリーズ
トルコギキョウには珍しく、細くしなやかで折れにくい茎をもちます。生育が非常に旺盛なので、施肥や水やりを控えめにして育てます。花は中輪の一重咲きで、色はブルーとピンクがあります。
ユーストマホライズン
鉢植え用に開発された、分枝数や花数の多い品種。草丈が15cmほどで、従来の矮性(小型)種「トムサム」シリーズより小ぶりです。花色はライラック、サーモン、プラムなどがあります。
シェリー
地植え用に改良された強健品種。普通のトルコギキョウに比べて線が細く華奢な印象を与えますが、雨だけでなく病害虫にも強く、スプレー咲きの連続開花性で花を長い期間楽しめます。
トルコギキョウを育てるときに必要な準備は?
トルコギキョウは種からも苗からも育てられますが、種はおよそ7万粒で合計1gと非常に小さく、扱いづらいので、園芸にあまり慣れていない方は苗から育てることをおすすめします。地植え用に開発された品種もありますが、雨に当てないよう、ふつうは管理しやすい鉢やプランターで育てます。栽培を始める前に以下のものを用意しましょう。
準備するもの
・トルコギキョウの苗
・ラベル
・鉢またはプランター(4号以上)
・鉢底ネット
・鉢底石
・土
・肥料
・支柱、ひも
鉢やプランターは、「4号(直径12cm)鉢に1株」を目安に、育てたい株の数などに合わせて用意してください。
種から育てる場合は、上記の「トルコギキョウの苗」の代わりに以下のものを用意します。
・トルコギキョウの種(特殊コーティングが施されたペレットシード)
・ピートバン(まき床)
・ピートバン用受け皿
・育苗ポット(直径6cm前後)
・遮光ネット(50%遮光)
適した土作りが、育てるコツの第一歩
トルコギキョウの育成には弱酸性(pH6.5前後)の水はけのよい土が適しています。赤玉土(小粒)7:腐葉土3の割合で配合した土に緩効性肥料を混ぜたものや、市販の草花用培養土を利用しましょう。
トルコギキョウの育て方にはポイントがあります
トルコギキョウは暖かく乾燥した気候を好みます。日当たりがよく、風通しのよい場所で育てましょう。暑さに強く、30℃前後の気温にも耐えますが、真夏日は日陰で管理し、雨の日は軒下や屋内に移動させましょう。
一般的には苗を3~5月に植え付けて栽培を始めます。
種から育てる場合は、温暖地では9~10月にまき、苗の状態で越冬させます。種は超微細で、新芽や幼苗も小さく、扱いや移植時期の見極めが難しいです。また、寒さに弱いため冬期でも5℃以上を確保しなければならず、種からの栽培は初心者にとってはかなり難易度が高いです。
トルコギキョウは初期生育が遅く、その後もつぼみが発生してから開花まで3~4週間ほどかかるので、焦らず、じっくりと育てていきましょう。
トルコギキョウの育て方~苗から始める~
苗の選び方
トルコギキョウのポット苗は12月~4月ごろに出回ります。切り花としての用途がメインなら草丈が60~80cmに育つ品種を、鉢植えの状態を楽しむなら矮性種を選ぶとよいでしょう。
よい苗を見分けるコツは他の草花と変わりません。葉が枯れておらず濃い緑色で、茎も色つやがよく、ガッチリしたものが丈夫に育ちやすいです。
ただし「シャララ」シリーズは細くてしなやかな茎が特徴の品種なので、茎の太さそのものより、全体の草姿に勢いが感じられるものを選びましょう。
植え付け時期と方法
地域により異なりますが、3~5月、日中の気温がトルコギキョウの最低生育適温である15℃以上になったら、苗の植え付けによい時期です。種から自分で育てた苗も、本葉が3~5節くらいにまで伸びていますので、育苗ポットより大きな鉢に定植しましょう。
植え付け・定植の方法は次のとおりです。
① 鉢底にネットを敷き、鉢底石を2~3cmの厚みになるよう敷き詰める
② 鉢の高さの約3分の1まで用土を入れる
③ ポットから引き抜いたトルコギキョウの苗を、根鉢(根と土の塊)ごと鉢の中に置く
④ 鉢のふちから2~3cm下の位置まで用土を入れる
⑤ たっぷりと水やりし、日当たりと風通しのよい場所で管理する
作業をするときは根を傷つけないように注意しましょう。トルコギキョウは1鉢1株で栽培すると丈夫に育ちやすく、「4号鉢(直径12cm)に1株」を目安に植え付けましょう。大型プランターに植える場合は株と株の間を15cm空けましょう。
トルコギキョウの育て方~種から始める~
種まき時期
発芽適温が20℃なので、温暖地(関東以西)では9~10月が、寒地・寒冷地(北海道、東北、中部山岳地帯など)では3~4月に暖かく感じる日が続いたら種まきによい時期です。
種まき方法
種は超微細で雨風に流されやすいうえ、好光性のため覆土もせず、発芽まで半月~1か月ほど要するトルコギキョウは、種をまいた直後の管理が難しいです。したがって、鉢に直まきはせず、床まき→育苗→定植の工程を経て丁寧に育てていきましょう。種は扱いやすいコート種子をまくことをおすすめします。ピートモス(泥炭)を圧縮・乾燥させ板状にしたピートバンにまくことをおすすめします。
種まきの方法は次のとおりです。
① ピートバンを受け皿にセットし、たっぷりと水を含ませる
② 種が重ならないようにピートバンにばらまきし、指で押さえて軽く沈める(覆土はしません)
③ 風通しのよい日陰で、種が流れないように底面給水(受け皿からの水分補給)で管理する。
④ 2週間~1か月ほどして発芽したら、日に当てる時間を徐々に増やす。混み合っているところの苗をピンセットで間引きする
双葉がよく展開するまで3~4週間ほどかかります。その後、本葉が2~4枚になったら鉢上げ(鉢=ポットへの移植)の時期です。
鉢上げ~育苗の方法
トルコギキョウの苗の本葉が2~4枚になったら鉢上げ(鉢に初めて植え付けること)をして、より大きく育てていきましょう。このころの苗はまだ小さく繊細なので、ピンセットで丁寧に扱うようにしてください。鉢上げ~育苗の方法は次のとおりです。
①育苗ポットに、湿らせた用土(小粒の赤玉土6:腐葉土4の割合で混合した土)をふちから1cmほど下の位置まで入れる
② 苗の周りの土(ピートモス:泥炭)を十分に湿らせて柔らかくし、本葉が2~4枚ついたトルコギキョウの苗をピンセットでそっと掘りあげる
③ 苗の根の先端を用土に対して斜めに差し込み、先端が入ったら根が真下に伸びるように角度を調整する
④ 土が乾かないように霧吹きで水やりしながら管理する。鉢上げ後2週間ほどはネットなどで覆って50%遮光し、その後、しっかり根づいたら遮光をはずす。冬場は室内やビニール温室に入れて防寒する
育苗中は雨に当てないように注意します。地域によって時期が異なりますが、3~5月になったら鉢やプランターに定植しましょう。定植の具体的な方法は、「トルコギキョウの育て方~苗から始める~」の「植え付け時期と方法」の項を参照してください。
トルコギキョウと仲よくなる日々のお手入れ
水やりのタイミング
トルコギキョウは過湿を嫌いますが、乾かしすぎても生育が悪くなります。自生地では生育期が雨季、開花期が乾季にあたるので、水やりもこれにならい、つぼみがつくころまでは毎日たっぷりと与え、開花が近づいたらやや控えめにします。また、全生育期間を通して雨に当てないように注意しましょう。
なお、生育初期(種からポット苗のころまで)は絶対に土を乾かさないように心掛けてください。その後は、土の表面が乾いたら水をやるようにします。水やりの際は、水が芽や花にかからないよう、根元にゆっくり与えるようにしましょう。
肥料の施し方
トルコギキョウは定期的に肥料を与えながら育てましょう。
種まき後の10~12月は新芽と幼苗の育成を促すため、1000倍に薄めた液体肥料を月に2回ほど与えます。育苗中~つぼみがつくころは、緩効性肥料を2か月に1回ほど与えるか、固形肥料の置き肥をします。秋に2巡目の花を楽しみたいなら、夏の初めに茎の切り戻しをした後、夏越しさせる前に追肥として緩効性肥料を施しておくとよいでしょう。
非常に生育旺盛な「シャララ」シリーズを育てるときは、施肥をやや控えめにします。育苗中~定植後も引き続き1000倍に薄めた液体肥料をひと月に2回のペースで与え、様子を見ながら量や濃度、頻度を調整してください。
トルコギキョウの花が咲いたら…
咲き終わったトルコギキョウの花をそのままにしておくと、種を結ぶことにエネルギーが奪われて花つきが悪くなったり、終わった花が灰色カビ病の原因になったりするので、花がら摘みは必ず行いましょう。
咲いた花の花弁が萎れて色褪せてきたら、花柄の付け根から早めに摘み取ります。こまめに摘み取りましょう。
トルコギキョウの倒伏防止
特に高性種(草丈が高くなる品種)のトルコギキョウは、定植後しばらくしたら茎が倒れないように保護しましょう。5月中旬から6月上旬ごろになって茎が15~20cmくらいまで伸びたら支柱やフラワーネットを立て、茎を固定します。
剪定は時期に注意して摘心と切り戻しをします
わき枝を増やして花数を多くしたり、花をより長く楽しむために、トルコギキョウは摘心や切り戻しといった剪定作業を行いましょう。
5~6月ごろ、トルコギキョウの茎が5~6節まで伸びたら、茎の先端を切り落とします(摘心)。わき芽が伸びて枝が増え、花をより多く咲かせる株に育ちます。
初夏に花がひと通り咲き終わったら、株元から2~3節を残して茎の頂部側を切り落とします(切り戻し)。追肥を施して風通しのよい場所で夏越しさせると、新芽が出て、初秋に二番花を楽しむことができます。
毎日の観察が、病気や害虫を防ぐコツです
育てるときに注意したい病気
病気には比較的強いトルコギキョウですが、過湿や風通しの悪さを原因とする次のような病気にかかることがあります。
立ち枯れ病
(種の)まき床や、植え付けて間もない幼苗でも発生することがあります。発病部には赤や黄色のカビを生じ、茎は茶褐色になって腐敗します。さらに悪化すると株が立ったまま枯死します。
灰色カビ病(ボトリチス病)
気温と湿度が上昇する春に発生しやすい病気です。葉や茎に淡い褐色の斑点やシミが現れます。予防のために、春から初夏にかけて殺菌剤を葉の両面に散布します。
いずれの病気も病原はカビの一種で、治療法はないので、症状を見つけたらすぐに発病部を(症状によっては株ごと)取り除いて焼却または廃棄処分し、周囲には殺菌剤を散布して消毒します。また、土中にも病原菌が残っている可能性があるので、株元の土も処分するか、太陽熱などを利用して殺菌しましょう。
育てるときに注意したい害虫
トルコギキョウは害虫に強い植物ですが、あらゆる草花や農作物に加害するような虫を完全に避けるのはやはり難しいです。特によく見られるのは次の2種類です。
アブラムシ
全生育期間を通じて付着します。新芽や葉について株の養分を吸い取ったり、ウィルスを媒介して病気を生じさせたりするので、発生初期のうちに殺虫剤を散布して駆除します。
ヨトウムシ
3月ごろのトルコギキョウの幼苗に食害を与えることのあるガの幼虫です。葉や茎が食われてボロボロになっているのを見つけたら、株の周辺だけでなく土中や鉢の裏などもよく探し、捕殺します。
トルコギキョウと相性のよい寄せ植えの植物は?
トルコギキョウとの寄せ植えに向く植物は、生育の時期や条件が共通するものです。開花期が夏から秋で、日当たりを好み、過湿を嫌うものがおすすめです。
バラと見間違うような八重咲き系のトルコギキョウを植える場合は、たとえばキク科のアスターやミストフラワー、マメ科のオジギソウなど丈の低い草花や花径の小さいものを周囲に配して、トルコギキョウのゴージャスさを引き立てましょう。
ナチュラルで涼しげな風情の一重咲き系のトルコギキョウを植える場合は、実が風船のように膨らむフウセンカズラや、楕円形の花穂がユニークなワレモコウ、こげ茶色の花が大人っぽいチョコレートコスモス、キク科のフジバカマなど、野趣に富む草花を合わせてみてはいかがでしょうか? 素朴な味わいや和の雰囲気を感じさせる寄せ植えになるでしょう。
花色や咲き方のバリエーションが豊富なトルコギキョウ。寄せ植えのアイデアも果てしなく広がりますね。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・橋 真奈美
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