秋が深まり、咲く花も少なくなってきた庭。昆虫たちもすっかり姿を消したように思えますが、じつは11月になっても、花壇にはさまざまな虫たちが訪れています。なかには、植物の根を食べるコガネムシの幼虫を減らしてくれるハチや、アブラムシを食べてくれるアブの仲間も。見た目はちょっと怖かったり、普段は気にも留めなかったりする虫たちですが、その生態を知れば、庭の頼もしい味方に見えてくるかもしれません。今回は、晩秋から初冬にかけて出会える昆虫たちの意外な素顔を、豊富な写真とともにご紹介します。
目次
花を訪れる虫たち、じつは庭仕事を手伝ってくれている?

昆虫というと、一般的に夏の生きものと思われがち。確かに数も種類も夏場が最も多いことは間違いありません。しかし、あまりに多すぎるせいで食事や縄張りを巡って争うこともあるためか、あえてライバルの少ない晩秋期に活発に動くものも結構多いのです。上の画像にある3種類の昆虫は、まさにその代表的なもの。近年は温暖化の影響もあってか、これまで10月下旬には姿を消していたような昆虫が12月頃まで見られることも多々あります。
さて、チョウやハチにとって命綱となるのは、食糧となる蜜や花粉を蓄えた花の咲く植物(蜜源植物)。夏を彩る花は軒並み見られなくなってしまいますが、逆にキク科の植物などは10月下旬頃より花の最盛期を迎えます。例えば、黄色い花を咲かせるツワブキには、ハチやチョウ、ハエの仲間が次々と訪れます。なかでも、金色の毛に覆われたキンケハラナガツチバチは、見た目こそ少し怖いものの、庭の植物を食い荒らすコガネムシの幼虫を退治してくれる、ガーデニングでは頼もしい存在です。
ほかにも、幼虫がアブラムシを食べ、成虫になると花粉を運んでくれるアブの仲間など、植物と深く関わりながら暮らしている昆虫は少なくありません。今回は、具体的にどんな植物がどのような昆虫を呼び寄せるのか、豊富な写真とともにひもといてみましょう!

秋から冬にかけて咲く代表的なキク科の植物といえば、このツワブキが真っ先に挙げられます。半日陰環境にも適応しやすいためか、東京都内でも街中の植え込みなどでよく見かけることでしょう。花に顔を近づけると甘いバターのような独特の香りが漂ってきますが、この香りに誘われてか、右写真のように多くの昆虫が蜜や花粉を求めて訪れます。近年は都内でもビルの屋上などに巣箱を置いて養蜂をされる方がいらっしゃいますが、ツワブキはミツバチにも好まれやすく、なかなか心強い味方になっているようです。もちろん他にも多彩な昆虫の拠り所となっていますので、街中でツワブキを見かけたらよ~く花をチェックしてみましょう。
代表種1:コガネムシの幼虫を減らしてくれる、黄金色の毛をまとったハチ

上のツワブキの写真にもいるキンケハラナガツチバチ(金毛腹長土蜂)は、晩秋を代表するハチの仲間。夏はまだ少ないですが、10月下旬頃から一気に数が増えてきます。名前の通りもふもふとした金色の体毛が特徴で、大きさはアシナガバチなどと同じくらい。ツワブキ以外にもアザミやイソギクなど都市公園に多い花をよく訪れるため、目にする機会は非常に多いことでしょう(見られるのは12月上旬頃まで)。

アシナガバチと似た外見に一瞬身構えてしまうかもしれませんが、キンケハラナガツチバチの性質は非常に温厚。メスには確かに毒針がありますが毒性は非常に弱く、積極的に人を刺すこともありません。この毒針は、土の中にいるコガネムシの幼虫などを麻酔し、卵を産み付けて自身の幼虫のエサにするために使うもの。お庭や花壇の植物を食い荒らしてしまうコガネムシの幼虫が増え過ぎないよう抑制する効果があるため、ガーデニングを楽しまれる方にとってはじつはありがたい益虫と言えます。見た目はやや怖いですが、ぜひ温かく見守ってあげてください。
代表種2:冬も活躍! オールシーズン花粉を運ぶ働き者の小さな花粉媒介者

花壇の花に目を向けると、全長6~7mmくらいのゾウのような顔をした小さな虫を見ることはないでしょうか? これはツマグロキンバエといい、街中の花壇などでもよく見られるありふれた昆虫です。花に集まるハエというと、あまりよい印象を持たないかもしれませんが、ツマグロキンバエは花の蜜や花粉を食べながら、花粉を運ぶ役割も担っています。じつはハエの仲間にも、植物の受粉を助ける種類がいるのです。例えば、別種のヒロズキンバエでは、イチゴの受粉を助け、形の悪い実を減らす効果が研究で確認されています。普段は気にも留めない小さな虫たちは、植物の命をつなぐ一端を担っているのです。
ツマグロキンバエの顔の長い突起は口に該当し、この口で花の蜜や花粉などを舐めます。本種が飛んでくるのは「花」だけ。汚物に群がることがないので全く不衛生ではなく、人には一切害をおよぼさないので、もし見かけたとしても慌てて駆除しないようにしましょう。ちなみに寒さに強いため、秋のみでなく真冬でも暖かい時には飛び回ることがあります。加えて暑い夏にもよく現れるため、秋の虫というより「オールシーズン無休の虫」というのが正しいかもしれません。

季節を問わず花を訪れ、花粉を運んでくれるツマグロキンバエ。上写真で分かるように翅の先端部が黒くなっていることが名前の由来です。一度花にとまると長時間滞在してくれるため、もしルーペなどがあるようでしたら拡大してみましょう。ハチのように刺したりすることもないので、子どもとの昆虫観察などにもピッタリです。
庭の害虫退治の助っ人! 晩秋に見られる、ハチやアブの仲間をご紹介!

秋になると、よく「スズメバチがたくさん飛ぶ」「秋は攻撃的」という情報を耳にします。とはいえ、スズメバチの仲間が活発に動くのは10月下旬頃までで、11月に入るとその数もガクッと減ります。凶暴さばかりが毎年注目されますが、じつは寒さに弱く、越冬できるのは女王バチだけ。働きバチたちはみな冬の前に死んでしまうのです。
写真のクロスズメバチもそのひとつ。といっても体はミツバチ程度と小さく、性質も大人しいタイプです(もちろん刺激すれば刺されることもあります)。他のスズメバチと比べると比較的寒さに強いのか、長い時には12月中旬くらいまで姿を見かけます。
人との関わりについては、農作物につくイモムシなどを捕らえるので益虫としての側面を持っているほか、信州の山間部などではこのクロスズメバチの幼虫やサナギを「はちのこ」と呼び、貴重なたんぱく源として食用にしている所もあります。もっとも、このハチ自体は首都圏でもそれほど珍しい存在ではなく、公園などでもよく見かけるポピュラーな昆虫です。

スズメバチよりも比較的寒さに強く、冬場でもまれに飛び回ることがあるのがミツバチの仲間。特に在来種であるニホンミツバチは耐寒性が強く、晩秋はもちろん真冬から早春期にかけても天気のよい日には活発に動き回ります。住宅地などではお庭や街並みが寂しくならないよう、冬場にも何かしら花の咲く植物を植えることがありますが、これが蜜や花粉を集めるのにちょうどよいらしく、サクラなどの春の花が咲くまでは貴重な食事場所となっています。
近年、ニホンミツバチが激減しているという話をよく耳にしますが、公園や花壇で蜜源植物の種類が増えたりした結果、首都圏ではむしろ増加傾向にあるようにすら窺えます。さて、皆さんのご近所ではいかがでしょうか?

ハチと同様、寒さに強く12月前後まで見られるのがアブの仲間。特に右写真のホソヒラタアブは成虫で越冬することもできるため、ミツバチやツマグロキンバエと同じくほぼ春夏秋冬を問わず見られます。もちろん、どちらも刺したりはしないのでご安心ください。
ちなみにホソヒラタアブの幼虫は、園芸の大敵であるアブラムシやカイガラムシなどを食べてくれる益虫。そして成虫になれば花粉を媒介してくれるので、見た目は少々嫌われがちですが、じつは私たちにとって非常にありがたい昆虫なのです。
種類は少ないものの、チョウの仲間もまだまだ健在です

波打つような裏地と翅を開いた時の控え目な美しさが目を惹くウラナミシジミは、毎年春頃に九州などの南方で発生し、その後秋頃になると関東などへ北上していくという変わった習性を持っています。卵から成虫まで約1カ月、成虫の寿命は1~2週間と短いですが、世代交代を繰り返しながら移動を続け、首都圏では近年12月初旬頃まで成虫の姿を見ることができます。
ただし、成虫だけでなく卵やサナギの状態でも極端な寒さに弱いため、温暖化の進んだ昨今でも関東地方の冬には耐えられずに死滅してしまいます。そして翌年の秋、再び南方から渡ってくる……というサイクルを繰り返しているのです。「なら渡ってくるだけ無駄なのでは?」と思われがちですが、これもまた分布を拡大するための一つの戦略。いずれ関東での越冬に成功する日を夢見て(?)彼らは長い旅を続けているのです。

写真のキタテハを始めとしたタテハチョウの仲間には、成虫の状態で冬を越すものも多く存在します。彼らは翅を閉じると右写真のように枯葉のような姿になりますが、これは冬場に鳥に狙われにくくするため。実際、動かずジッとしているとどこにいるのかなかなか気づけません。

タテハチョウではありませんが、このムラサキシジミも秋に羽化し、成虫の姿で越冬するチョウの仲間です。幼虫がブナ科の植物(コナラやシラカシなど)の葉を食べるため、住宅街よりは、郊外の自然公園や雑木林などに多い様子。ただ、越冬中はやはり右写真のように枯葉に扮してカモフラージュしてしまうため、見つけるのに苦労することでしょう。
チョウというと「サナギで冬を越す」というイメージが根強いですが、成虫越冬する種も意外と多く、そうした種は晩秋期はもちろん、真冬でも暖かい晴天時などにたまに動くことがあります。冬にチョウが飛んでいても「異常気象の影響か?」と慌てず、まずはどんな種類かをよく観察し、調べてみましょう。
晩秋期、枯れ行く草むらを探ってみると…?

11月ともなるとススキなどの葉も褐色に染まり、幾ばくかの寂しさを覚えますが、この時期でも草むらを少しガサゴソしてみるとバッタの仲間などがよく飛び出します。ホシササキリなどのキリギリス科の「鳴く虫」たちは11月中くらいまでしか見られませんが、右写真のツチイナゴは日本のバッタの中で唯一成虫越冬できるという変わり者。褐色の身体は冬の草むらにとけ込みやすく、鳥などの天敵から身を守ることができます。

草むらではバッタのほか、カマキリの姿もよく見かけます。じつはほとんどのカマキリは夏の間は幼虫で、秋にようやく成虫になるのです。首都圏だと、近年では11月下旬~12月上旬まで成虫の状態で生きられることが多いようです。特にメスのカマキリはサイズが大きく、なかなかの迫力。ただし産卵前のお腹の大きくなった個体は気性が荒いので、迂闊に手を出して挟まれないようにしましょう。
最後に、気候変動が叫ばれる昨今ですが、今でも日本ではそれなりに春夏秋冬の移ろいがあり、季節ごとに見られる昆虫の変化はまさにその証です。秋はもちろん、それ以外の時期でも身近な昆虫にどんなものがいるか? 興味を持って探ってみると、散歩や庭仕事がさらに面白くなるかもしれません。
Credit
写真&文 / 中村 桂祐

1982年3月生。東京理科大学大学院 応用生物科学専攻終了。小学生の頃に地元の植物園に行ったり『昆虫記(今森光彦著)』などの図鑑を多数読んだことから動植物に興味を持つ。2012年4月より㈱マルモ出版で雑誌「マイガーデン」および「ランドスケープデザイン」の編集・ライターおよび広告営業など多彩な仕事に従事。2020年4月より自然環境ジャーナリストとして独立し、それまで個人ブログとして更新してきた『首都圏生きものめぐり』を2021年4月よりツアー講座として展開し、首都圏の昆虫や野鳥などを案内するガイドを務める。現在は業界専門誌「グリーン情報」で編集担当を務め、生物多様性関連の連載記事も執筆中。
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