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【日本庭園 超・入門】なぜ日本庭園には“飛び石”があるのか? 茶の湯が育んだ「露地」の美学

【日本庭園 超・入門】なぜ日本庭園には“飛び石”があるのか? 茶の湯が育んだ「露地」の美学

東京・明治神宮内の茶室、隔雲亭(かくうんてい)。kuremo/Shutterstock.com

日本庭園の象徴ともいえる「飛び石」。じつはこれ、茶室へと続く小径「露地(ろじ)」から始まった、茶の湯の美学が詰まった装置であることをご存じでしょうか。単なる足場としての役割だけでなく、俗世から離れて茶事に向かうための「心を清める移行の空間」として、歩くリズムや景色の見え方までもが緻密に設計されています。フランスでは「パ・ジャポネ(日本の歩)」と称賛される飛び石や灯籠が、いかにして究極の「侘び寂び」を形作ってきたのか。日常を忘れさせる庭園に隠された物語を、フランス在住の庭園文化研究家、遠藤浩子さんが紐解きます。

茶の湯のための庭、露地・茶庭

「露地(ろじ)」という言葉、日常生活ではあまり耳にしないかもしれません。「露地」は、茶室へ向かう小径がつくられた、茶の湯のための庭を指します。室町時代以降の茶の湯の発達とともに現れた「露地または茶庭」は、日本庭園に新たな姿を与えていくことになります。

露地の発祥

愛知・犬山市「有楽苑」国宝茶席「如庵」
愛知・犬山市「有楽苑」にある国宝茶席の一つ「如庵」の路地。Lanhang Ye/Shutterstock.com

村田珠光に始まり、千利休が完成した侘び茶とともに、茶庭を意味して使われるようになる「露地」は、仏教用語における、露に打たれた野外の自然の場であり、建物の外側、修行の場として、修行僧が清浄な心で歩く、俗世から悟りへの道という意味も重ねられています。

茶の湯においての庭は、俗世から離れ、歩を進めながら、茶事に向かって心を清め整えるための、移行の空間としての役割を担います。そのため露地には「市中の山居」と表現されるような、茶の湯の侘び寂びの精神を反映する、野趣にあふれる自然の雰囲気が大切にされました。茶庭で理想とされる自然風景は、それまでの島々が浮かぶ海景などの開かれた風景から離れ、深山幽谷に踏み入ったような、侘びた自然のままの素朴な景観へと変化していきます。

構成と特徴

愛知「有楽苑」
愛知「有楽苑」の茶室「如庵」を囲む庭園。Lanhang Ye/Shutterstock.com

茶室に向かう露地では、すでに茶事へのプロセスが始まっています。表門を入って客が亭主の迎えを待つ待合の外腰掛け、客が亭主の迎えを受ける中門、その奥の内腰掛け、腰掛けそれぞれには雪隠(せっちん)が付随し、茶事の前に手と口を清める蹲踞(つくばい)、それぞれの場所をつないで客を茶室へと導く飛び石を渡した園路や、暗い時間帯には足元を照らす灯りともなる灯籠(とうろう)など、庭の景物(または添景物)と呼ばれる設備は、一定の約束事をもって造られる、露地に特有の構成要素として導入されたものです。

比較的限られた露地の空間を囲む、簡素でありながら洗練された竹垣なども、その景観に欠かせません。また、露地の景の一部でもある、簡素の美を旨とする茶室の建築は、数寄屋造建築の源流となりました。

臥龍山荘(大洲市)
臥龍山荘(大洲市)、四万十川を借景にしつつも、露地の要素が強く取り込まれた庭園。茶室不老庵に向かう道筋に据えられた基本形の石灯籠(※ミシュラングリーンガイド・ジャポンの一つ星)。

小径を囲む深山幽谷の景には、余計な装飾は避け、季節による変化の少ない常緑樹が用いられることが多いのは、小径を歩く人の、心の落ち着きを乱さないようにといわれています。飛び石は、地面の苔などを保護し、足元を汚さないようにというばかりでなく、庭園空間の歩行のリズムをつくり、連続する場面(シークエンス)の展開を司る装置でもあります。茶庭では、一歩進むごとに細やかに変化する景を視線で捉えるばかりでなく、歩く、佇む、といった動きとともに、身体感覚で味わうという空間という、新たな側面が加わります。

露地の三大景物

松江「明々庵」
松江にある大名茶人・不昧公ゆかりの茶室「明々庵」庭の蹲踞、灯籠、飛石の風景。背景には竹垣の中でも基本の四つ目垣も見える。

茶道の所作が無駄なく美しいように、露地の景物も、それぞれが実用と装飾を兼ね備えた用の美を体現しています。さらに興味深いのは、露地に取り入れられた景物が、今日では伝統的な日本庭園をイメージさせるアイコン的な存在となっていることでしょう。中でも一般的に広く普及していく主な景物に、飛び石・灯籠(とうろう)・蹲踞(つくばい)が挙げられます。

飛び石(とびいし)

「明々庵」の飛び石
同じく「明々庵」の茶室に至る自然石の飛び石の様子。園路の役割を果たしつつ、簡素で美的な景観の演出にもなっている。

自然石を用いて有機的な曲線を描きつつ、庭園の連続するシークエンスの展開に散策者を導く飛び石は、それ自体が景を完成する要素にもなります。露地に限らず、日本庭園に広く使われる要素になっており、フランスでは、飛び石が「パ・ジャポネ(直訳すると日本の歩)」と呼ばれているのも面白いところです。

灯籠(とうろう)

奈良の春日大社の石灯篭
奈良の春日大社、参道に並ぶ石灯籠。元々は神社仏閣で使われる献灯のためのものでした。Wirestock Creators/Shutterstock.com

元来は仏教寺院や神社での献灯のための祭祀具だった灯籠に、露地に通ずる美を見出し、夜の茶会の灯りとして露地に導入したのは利休だと伝えられています。

単なる照明というよりは、光と影をつくり、空間を結界化するような効果をももたらす灯籠は、空間のアイストップとして、景の演出にも活躍します。神社仏閣で使われていた基本的な型から、露地での使用に適した形、サイズ、さらに特別な形の創作型まで、さまざまな型の灯籠が作られており、中には庭園のトレードマークとなった名物灯籠もあります。

金沢・兼六園「雪見灯籠」
金沢・兼六園。流れ沿いに見えるのは「雪見灯籠」と呼ばれる型で、背は低く安定感があり、光を水面によく反射させるよう笠が広い、水辺のための灯籠。
金沢・兼六園の琴柱灯籠
金沢・兼六園。主池、霞ヶ池を背景にした琴柱灯籠は創作灯籠で、この庭園を代表する名物灯籠になっている。Travellingdede/Shutterstock.com

蹲踞(つくばい)

蹲踞は、茶事の前に手と口を清める儀礼のための手水鉢(ちょうずばち)とその周囲を囲う石組で構成されます。寺院の参道や堂前に同様の用途の手水鉢があったところから、利休が着想したもので、露地には不可欠な要素です。蹲踞の呼称は、「踞(つくば)う」という身を低くかがめる所作からきていますが、これは、謙虚をもって心身を清めることを象徴する所作でもあります。後世には、本来の機能や精神性を離れ、美的な要素として評価されて、茶庭以外にも、装飾的に、和風の庭の雰囲気を演出する庭の景物として設置されるようになります。

臥龍山荘(大洲市)の蹲踞と石灯籠
臥龍山荘(大洲市)の蹲踞と石灯籠。茶道においては、茶室に入る前に、手水鉢手前の前石の上につくばって、手や口を清めるための施設。

これら三つの景物は、茶事と一体となった露地において、それぞれの機能と精神的な象徴性を持った中心的な存在で、設置場所や型の選択などには細やかな決まり事が存在します。しかしながら、これまでの歴史の中で、典型的な日本庭園のイメージを象徴的に示す記号・アイコン的な存在として国内外に普及し、露地の約束事を離れた場所にも広く使われるようになっているのは興味深いところです。

侘び寂びの美の空間

京都・桂離宮
京都・桂離宮の一角。園路を構成する延段(のべだん)の中央に見えるシュロ縄が結ばれた石は「関守石」。この石が置かれていたら、この先は通行禁止のサイン。

私たちに日本庭園らしさを感じさせる象徴的な景物の多くが、露地に由来するのだとすれば、実際にその場所を訪れてみたくなるのではないでしょうか。茶事に付随する庭園であるがゆえ、露地にはどこか閉ざされた印象があります。しかし、伝統的な寺院や旧家、あるいは大名庭園の一角には、茶室とともに茶庭が整えられ、公開されている場所も少なくありません。

関守石
京都・ 妙心寺に見る関守石。

さらに、たとえ「茶庭」と明確に位置づけられていなくとも、多くの日本庭園には露地の美意識が取り込まれています。日本文化の中心的な要素ともいえる侘び寂びの精神や美学を庭園空間の中で体感できるのは、何よりの魅力です。心の静けさにそっと触れような、非日常のひとときを過ごせることでしょう。

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