たとえ狭い場所でも、デッドスペースであっても、地面を整え、少しの緑を植えれば、眺めて癒やされる庭に変えることができます。ここでは、どうしてよいか分からなかった狭い場所を、プロの手で和の庭にリノベーションした実例をご紹介。施工と解説は、「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー・遠藤昭さんです。
目次
狭いからと庭を諦めていませんか?
都市部に暮らしていると、広い庭の確保はなかなか難しい。そのために多くの人が庭をつくることを諦めてはいないだろうか。狭いスペースでも工夫次第で庭のある暮らしができるのに、それはとても残念に感じる。
以前、「狭い植栽スペースをカッコよく楽しもう!」というタイトルで、オージープランツを中心にした記事を書いたことがあるが、今回は植物選びもデザインも、ガラッとテイストが違う「茶庭」を紹介したい。和の庭には「箱庭」もあるが、狭い場所にも和の庭は適していると思うのだ。
じつは、これからご紹介する作庭は、僕がサラリーマンを定年退職してから手掛けたもので、ガーデニングの専門学校に6カ月通って卒業した直後、プロとして初めて挑戦した処女作である。世の中は洋風ガーデンが主流のようだが、和の庭もいいものである。
デッドスペースが庭に! Before&After
まず、Before(写真左)の状態を見たときに気になったのが、隣接する隣地の洗濯物や収納庫だ。この場所を茶庭に変身させるためには、“俗世間を離れた独立空間の確保”が必要である。予算が限られていることもあり、最初は、この狭い空間で理想の茶庭をつくるのは無理難題と頭を抱えた。というのは、茶庭は庭づくりの中でも最も難易度の高い部類のもので、駆け出しの庭師(ガーデナー)が手を付けるものではない。しかし、知人に頼まれたことに加え、駆け出しの時代ではあるがプロになったのだから、これは「やるしかなかった!」のである。茶庭づくりの書物をいろいろ読めば読むほど、難しさが分かってきた。
施工現場で感じる庭づくりの楽しさ
小さな庭の工事は、不要な植物を抜いたり移植したりして整理し、隣地が見えないように目隠しのフェンスを作ることからスタートした。敷地の角にあたる部分は、横板の木製フェンスにして、板と板の間に少し隙間を設けることで、風通しを確保している。これらの構造物は、専門学校で知り合った友人に手伝ってもらって作った。
やればできるものである。形になっていくのが楽しかった。思えばサラリーマン時代は主にデスクワークだったので、こうした肉体労働の成果が形になる喜びを初めて知ったのだった。
フェンスや格子戸は、既製品を使用した。室外機カバーも和風の既製品が見つかるものなのである。既製品を使うほうが安価になる。ただし、四ツ目垣(竹の垣根)は既製品がなかったので、京都から青竹を取り寄せ、自分で竹を切って棕櫚縄を使用して男結びで作った。社会人になって、大学で学んだことが役立ったという記憶はないが、ガーデン専門学校で学んだことは、庭づくりの現場で本当に役立った。
和の庭づくり、横浜から千葉の現場まで片道1時間半かかったが、何度通っただろうか?
1カ月で完成した和の庭での工夫
ここで新しく植えたのは、モミジとヤブランなどの下草。もともとあったサザンカやバラなどは、そのまま生かした。ここは敷地の南側ではあるが、隣家との間に高い塀を設けたので、日陰に強い植物を植えている。
飛び石は既存のものを配置し直したが、周囲の砂利だけは新しくした。明るい色を選んで敷き詰めたので、以前の暗いイメージが改善されたかと思う。
経費削減のために、ヤブラン、カレックス、シルバードラゴン、ホスタなどの下草や石材などは我が家から持ち込み、伊勢ゴロタとBBQ用の炭を新規のデザインに使用した。
和の雰囲気を出すために、植え込みを囲うように低い四ツ目垣を青竹で組んでプラスした。そして、関守石(せきもりいし)も作って置いた。
関守石とは何か、ご存じだろうか?
お茶を嗜んでいる人は、これが何であるかお分かりかと思う。そう、茶庭で、簡単にいえば、ここより先は遠慮してほしいという意味で置かれる石である。
1級造園技能士の検定には、制作して持参する課題でもある。
作り方に興味がある方は、私のブログを参照していただきたい。
和の庭のテイストを醸すアイテム
格子戸や室外機カバーは、ホームセンターで既製品が売られており、自分で作るより安上がりだ。洋風ガーデンでも、室外機カバーはぜひ取り入れたいアイテム。
既存の植物も、できるだけ使用した。ピンクの花咲くバラが意外とマッチしている。使用する植物は、和とか洋とか既成概念を捨ててみると、意外と新鮮なデザインができたりする。やはり、青竹の四ツ目垣が、和の雰囲気を支配している。四ツ目垣作りは和風庭園の基本技術で、2級造園技能士検定の必須項目である。棕櫚縄の男結びは、支柱を立てるときなどガーデニング作業でも応用が効き、覚えておくと便利だ。
苦労した部分に、水回りがある。施工前はホースが収納できず、雑然とした感じがする場所だった。水を受ける流し部分には伊勢ゴロタ石を敷いて、瀬戸焼きの植木鉢を水受けとして置いた。そして、水栓のデザインを一新するために、周囲に青竹を巻き付けた。
注:塵壺(ちりつぼ)の代わりに塵穴を用いる場合もある。落ち葉などの塵を入れる壺(穴)で、必ず塵を挟む青竹の箸も添える。この塵箸は1尺から1尺5寸で、上から1/3の所に節がくるように作る。
今見直したい和のテイスト
この庭づくりから、かれこれ10年経過してしまった。今思うと、プロとしての初仕事として、小さいながらも茶庭づくりに関われたことは、ある意味ラッキーだった。ベテランの庭師から見れば、稚拙な作品かもしれない。しかし、貴重な実績となる機会を与えてくれて友人に感謝している。
ところで、僕はオージーガーデニング一筋と思われがちだが、我がAlex‘s Gardenの片隅には、オージープランツに埋もれて、石灯籠の和のコーナーが存在する。
日本の伝統文化を大切にしながら、オージーガーデニングを楽しむのも面白いものだと改めて感じている。
Credit
写真&文/遠藤 昭
「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー。
30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。川崎市緑化センター緑化相談員を8年務める。コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施し、園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。趣味はバイオリン・ビオラ・ピアノ。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)、『はじめてのオージープランツ図鑑』(青春出版)。
ブログ「Alex’s Garden Party」http://blog.livedoor.jp/alexgarden/
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