季節を楽しむユズ湯やショウブ湯のお風呂、くず湯やしょうが湯といった温かい飲み物など、日本人は古くから植物の香りと力を生活の中にうまく取り入れてきました。近年、アロマテラピーにおいても、ユズやクロモジをはじめ、ヒノキ、青森ヒバ、トドマツ、ゲットウ、ハッカなど、日本生まれの植物から精油が作られるようになって、和精油として親しまれています。どれも日本人にとっては馴染みやすい、穏やかな香り。和の香りの魅力をご紹介します。

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日本人の暮らしに根付く柑橘 ユズ

ユズの実
HikoPhotography/Shutterstock.com

鍋物に、お風呂に、冬の寒い日々にほっこりと良い香りを添えてくれる、黄色いユズの実。ユズ(柚子、Citrus junos)は中国を原産とするミカン科ミカン属の常緑小高木で、飛鳥時代から奈良時代の頃に日本に伝来したといわれます。学名のユノス(junos)には、ユズの古い呼び方である「ゆのす(柚之酸、柚の酢)」の意味があります。古くから生活の中で親しまれてきた和を代表する柑橘で、他の柑橘に比べると耐寒性が高いので、寒い地方でも栽培されますが、産地は四国と九州に多く、特に高知県は国内総生産量の半分を担う一大産地となっています。高知県馬路村は、ユズを使った村おこしで有名になりました。

柚餅子(ゆべし)や柚子胡椒など、各地の名産品の材料としても使われるユズ。近年ではフランスでもYuzuブームが起こり、ソースやデザートなどに、高級レストランで使われています。

身体を温め、ほっと和む香り

たくさんの実をつけたユズ。Contrail/Shutterstock.com

果皮から抽出されるユズの精油は、ユズの実そのままの、さわやかでほっとする香り。鎮静作用があり、なんとなく寂しい時や不安な時に、安心感を与えてくれる香りです。また、精油の主な成分の一つであるリモネンは、血行を促進して体を温めるため、冷え性の改善に役立ちます。冬至に入るユズ湯の習慣は、江戸時代にはすでに庶民の間にあったそうですが、先人たちは体験からその高い保温作用を知っていたのでしょう。ユズの精油には消化器系の働きも高める作用もあり、近年では、アレルギーを抑制する効果についても研究されています。

古くから伝わる香りの木 クロモジ

クロモジの木
春の新緑が美しいクロモジ。patchii/Shutterstock.com

クロモジの姿をパッと思い浮かべられる方は少ないかもしれません。クロモジ(黒文字、Lindera umbellata)は、日本の山に広く自生する、クスノキ科クロモジ属の落葉低木。軽やかな緑の葉を持ち、春には、傘のように開く小さな黄色い花を咲かせます。名前の由来は、緑の枝に浮かぶ黒い斑点模様が文字のように見えるためといわれています。樹皮や枝葉に強い芳香のある低木で、日本各地で、古くから生活に役立てられてきました。

香りを持った枝は邪気を払うとされて、狩りの獲物を刺すのに使われ、転じて神へ供物を供える際にも使われるようになったといわれます。一方で、油分が多く水を弾きやすい枝は、かんじきや傘の柄の材料として重宝されました。また、生活の中で民間薬として使われた歴史が各地に残っており、幹を乾燥させたものは烏樟(うしょう)という健胃薬の生薬として今も使われています。島根県隠岐諸島中ノ島の海士町では、枝葉を乾燥させたものが「ふくぎ茶」として伝統的に飲まれており、皮膚の軽い傷や炎症を癒す入浴剤として風呂にも使われます。

和菓子に添えられる「黒文字」

黒文字の楊枝
高級楊枝の「黒文字」。Yukikazu/Shutterstock.com

クロモジと聞くと、和菓子に添えられる楊枝の「黒文字」を思い浮かべる方も多いでしょう。その名の通り、この楊枝はクロモジから作られたものです。いま普及している楊枝は主に白樺を材料にしていますが、伝統的には、折れにくく芳香のあるクロモジが楊枝づくりに使われていました。現代でも高級楊枝として、江戸時代から続く老舗楊枝屋さんなどで手作りされています。殺菌力の高いクロモジは先を細かく割いて歯ブラシのように使われていたこともあり、そこから、楊枝に使われるようになったそうです。

樹皮や枝葉に強い芳香のあるクロモジですが、じつは、精油の蒸留は昔から行われていました。化学香料が大量生産される以前のことで、最盛期の明治時代には、伊豆半島に20を超える蒸留所があったといわれ、精油は、香水や化粧品、石けんの原料として重用され、欧州にも輸出されていました。化学香料の登場によって一度は衰退した天然の香りが、今またアロマテラピーによって注目を浴びているのは嬉しいことです。

爽やかで甘さもある木の香り

クロモジの花
春に咲く、薄い黄緑色の花。F_studio/Shutterstock.com

和精油の木の香りは、山林と切り離せない生活を送ってきた木の文化を持つ日本人にとって、安心感のある香りです。クロモジの精油は、木々の爽やかさの中に、花を思わせる香りがします。抗菌、抗ウィルスに優れ、鎮静や血圧降下を促しリラックス作用のあるリナロールと、鎮痛、鎮静や、肌の弾力回復の作用のあるゲラニオールが含まれています。

軽やかなクロモジの香りは気持ちを落ち着かせ、呼吸を楽にして、疲れをとってくれます。リラックスして質の良い眠りが得られ、また、免疫を強くするので、気温が変わりやすく、風邪の流行る季節の変わり目に使うと効果的です。スキンケアとしては、白癬菌による水虫の手当てに役立ちます。

クロモジの香りは、同じクスノキ科のローズウッドの香りに似ていて、成分的にも似ています。南米産のローズウッドは乱獲により激減し、今は採取が制限されていますが、じつは日本に自生するクロモジも、香川県と徳島県で絶滅危惧Ⅰ類、福岡県で絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。古くから身近にあり、恩恵を得ていた有用な植物を、私たちの知恵を持ち寄り、これからも大切にしていきたいものです。

芳香浴レシピ:ユズ3滴+クロモジ2滴

クロモジの実
秋に黒い小さな実を結ぶクロモジ。patchii/Shutterstock.com

6~8畳のディフューザー用のレシピです。

ユズとクロモジは、異なる性格ながらもお互いの良さを知る親友のように、うまく引き立て合います。春の日差しを思わせるような、爽やかさのある温かい香りで、その人らしくそのままに、気負わずにいられるよう後押ししてくれるような、ニュートラルな香りです。本格的な春に向かって、寒さでこわばっている身体をゆるめ、新しいことを吸収できる状態にリセットする。そんなイメージで使ってみてください。

*『おうちでアロマテラピー』シリーズ、その他のブレンドはこちらからどうぞ。
*精油はアロマテラピー専門店での購入が安心です。下記に取り扱い時の注意をまとめましたので、ぜひご一読ください。

〈精油を使用する際の注意〉
・ 原液を皮膚につけない。ついたらすぐ石鹸で洗い流す。
・飲用しない。目に入れない。
・火気に注意する。
・医師による治療や投薬を受けている場合は、必ず当該医療機関に相談する。
・3歳未満の乳幼児には芳香浴以外は行わない。また3歳以上であっても使用量を半分以下にし、十分注意を払う。
・高齢者、既往症のある方は半分以下の量を目安に。妊娠中は体調を考慮し、芳香浴以外のアロマテラピーを楽しむ場合は十分注意する。

〈精油の保管・保存について〉
・直射日光と湿気を避け、火気のない冷暗所に保管する。
・子どもやペットの手の届かないところへ保管し、誤飲に注意する。
・開封後1年以内を保存期間とし、柑橘系の精油は半年以下を目安にする。
・香りに異変を感じたら使わない。

〈精油の品質について〉
・次の内容を箱やラベル、使用説明書で確認できるものを選ぶ。ブランド名、品名、学名、抽出部分(位)、抽出方法、生産国(地)または原産国(地)、内容量、発売元または輸入元。

Credit

アドバイス/Miho Takahata
AEAJ(公益社団法人 日本アロマ環境協会)アロマテラピー・インストラクター。香りとクラシック音楽が大好き。

〈参考文献・ウェブサイト〉
沢村正義(2008)『ユズの香り ―ユズは日本が世界に誇れる柑橘―(香り選書⑦)』フレグランスジャーナル社
吉武利文(2012)『香料植物(ものと人間の文化史・159)』
村上志緒・編(2013)『日本のメディカルハーブ事典』東京堂出版
木田順子(2014)『あたらしいアロマテラピー事典』高橋書店
古谷暢基・平川美鶴(2017)『和ハーブ図鑑』一般社団法人和ハーブ協会
『クロモジ研究会』https://www.kuromoji.jp/index.html

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