建築と庭は、本来切り離せない存在です。けれど実際の家づくりでは、建物が完成してから「あとで緑を足す」ケースも少なくありません。今回ご紹介するのは、構造(建築・素材)とソフト(植栽・緑)を、はじめから一体として設計した住宅。外壁タイルの色や目地幅、床材の質感。それに呼応するように選ばれた樹木や下草。そこには、派手さではなく、「長く心地よく暮らすための理由」が丁寧に積み重ねられていました。
家を建てる人にも、これから庭を整えたい人にも、参考にしてもらいたい建築と緑の関係をひもときます。
目次
構造と緑を一体で考えた、建築家住宅
今回拝見したのは、メインガーデンと中庭を備えた、建築家設計の住宅です。印象的だったのは、庭だけが主役になるのでも、建築だけが目立つのでもなく、構造と緑が同じ温度感で存在していること。どちらかが前に出すぎることなく、互いを引き立て合う関係が、家全体の心地よさにつながっていました。
素材の選び方に表れる「ハードとソフト」の関係

花壇と外壁タイルに注目してみましょう。床は御影のピンコロ、花壇の立ち上がりも石積みで統一され、落ち着いた基調がつくられています。
外壁タイルは暖色系の色ムラを持たせつつ、一部に黒を差し込むことで空間を引き締め、やや幅を持たせた白目地が清潔感をプラス。この表情のある外壁に合わせて選ばれた植栽は、株立ちの枝ぶりに細かい品のある葉のヒメシャラと、きれいな青緑色の葉の低木ローズマリー。どちらも樹形や葉の質感が美しく、主張しすぎない樹種です。
派手な花や色を加えなくても、素材と緑が響き合うことで、十分な豊かさが生まれる。それが、この空間の「センス」の正体です。
中庭がつくる、光と緑のバランス

玄関を入ると現れるのは、間口5〜6mほどの、広がりを持つ中庭。明るい外壁と大判タイルの舗装が、光をやわらかく反射し、閉じた空間でありながら、伸びやかさを感じさせます。ここに配置されたオリーブは、視線を受け止めるシンボルツリーでありながら、空間を重くしない存在。構造の直線美を、緑がやさしく和らげる中庭ならではの役割を果たしています。
メインガーデンは「空」を感じさせる設計


シンボルツリーの左手を見ると、間口2m程度の長いテラスがあり、リビング、ダイニング前の床は30cm角のベージュ色のタイルに変わっていました。リビング前にもオリーブの木がありました。
メインガーデンでは、あえて高木を増やしすぎず、空の広がりを感じられる構成に。ミモザをポイントに据えつつ、中低木や下草は自然風に配植され、土が見える部分もそのまま活かされています。庭づくりではしばしば、芝生やコケなどで土を隠すデザインがありますが、すべてを覆い尽くさないことで緑が呼吸し、庭全体に余白が生まれます。緑が多いのに、重くならずに広い空の開放感を受けやすい気持ちのよい空間でした。

参考までに、ミモザはマメ科アカシア属の植物の総称として使われています。2~4月に黄色い房状の花が咲き、シルバーがかった細かい可愛らしい葉も美しい植栽です。ミモザの花言葉は「友情、感謝、優雅」であり、お施主様の清い思いを感じました。




ミモザのあたりまで進み、振り返って戻るときもオリーブの木がアイストップになっていて退屈しない中庭でした。オリーブの木を右手に曲がると、左側はパーキング、右側は住宅になります。

パーキングには高級車が3台並んでいましたが、興味を持ったのが木板にダウンライトの光がセンスよく並んでいるところです。木板に落ちる光は温かみがあってよい感じですね。
室内へ。緑と暮らしがつながるエントランス空間



それでは、いよいよ室内に入ってみましょう。
エントランスホールの床には、大判タイルを敷き詰め、外部空間から室内へと自然につながる落ち着いた雰囲気をつくっています。奥のドアの先にはキッチンがあり、帰宅後の動線もスムーズ。
愛犬と暮らす住まいのため、エントランスから直接外へ飛び出さないよう、さりげなく柵を設けている点も、暮らしを丁寧に考えた設計です。
シューズクロークは木板の面材を用い、ホワイトベースの壁に温もりを添える存在。空間の随所には、お施主様ご主人のお気に入りのアートが飾られ、住まいに個性とストーリーを与えています。
吹き抜けが生む、立体的なドッグランスペース

エントランスホールの右手には、思わず目を引く吹き抜け空間が広がっています。
ここは、なんと室内ドッグランスペース。
1階から3階まで縦に抜ける構成とし、フェンスを設けることで、愛犬2匹が安全に過ごせる空間になっています。単なるペット用スペースではなく、住まい全体の一部としてデザインされている点が印象的です。
階段を上がるほどに広がる、空間のつながり


階段を上がると、2階ロビーへ。少し濃い色味の木質フローリングと建具、黒いフレームの階段手すりが組み合わさり、落ち着きのある大人の空間が広がります。
さらに3階の階段上り口付近からは、1階エントランス横のドッグランスペースを見下ろすことができ、上下階が視覚的につながる構成に。縦桟を主体としたフェンスデザインが、空間にリズムを与え、機能性とデザイン性を両立しています。
緑を眺めながらくつろぐ、特別な水まわり空間


2階ロビーのドアを開けると、そこには屋外の緑を望めるジャグジー空間が現れます。ジャグジーの手前にはシャワールーム、その奥には洗面スペースが配置され、水まわり全体がひとつのリラクゼーション空間としてまとめられています。視線の先に常に緑が入ることで、室内にいながらも屋外とのつながりを感じられる設計です。

トイレ空間も印象的でした。スタイリッシュな水栓と浅めの洗面に合わせ、壁面にはヘキサゴンタイルを採用。花のように広がるパターンがアクセントとなり、グレーイッシュトーンが空間に上質さをもたらしています。
緑とともに暮らす、ワンフロアのLDK


1階は、キッチンからダイニング、リビングへと一直線につながる開放的なワンフロア構成。エントランスロビー脇の吹き抜けドッグランスペースを通ってリビングへと至る動線は、この住まいならではの特徴です。
リビングと並ぶダイニング、その左手に配置されたキッチン。それぞれの空間が緩やかにつながり、どこにいても窓越しに緑を感じられるため、室内全体がのびやかで心地よい印象に。建築の構造、暮らしの動線、そして屋外の緑。そのすべてが自然に結びつくことで、人も、愛犬も、無理なく心地よく過ごせる住まいがかたちづくられていました。


まとめ|建築と緑が心地よさをつくる、ということ
この住まいのメインガーデンで印象的だったのは、オリーブやミモザといった樹形の美しいシンボルツリーを軸にしながら、全体をゆったりと見せる植栽構成です。
中低木や下草は、すべてを覆い尽くすのではなく、あえて土の見える余白を残しながら自然風に配置。そのことで、庭に奥行きと呼吸するようなリズムが生まれていました。
また、緑は見た目の美しさだけでなく、暮らしの環境そのものにも働きかけます。樹木があることで風の通り道ができ、植栽の蒸散作用によって周囲の温度が和らぐ。さらに二酸化炭素を吸収し、酸素を放出することで、住まいの空気をやさしく整えてくれます。
この家が心地よく感じられる理由は、「たくさん植えているから」でも、「珍しい植物を使っているから」でもありません。建築の構造や素材と、緑の量・種類・配置が、最初から一体として考えられていること。それこそが、長く快適に暮らせる庭と住まいをつくる鍵でした。
これから家づくりや庭づくりを考えるとき、どんな植物を植えるかと同時に、「この建物に、どんな緑が似合うのか」そんな視点を持ってみる。
そこから、自分らしく、ゆったりと過ごせる住まいがきっと立ち上がってくるはずです。
設計:株式会社スリーパワーユニット+ケイズアーキテクツ一級建築士事務所 山下弘治
Credit
写真&文 / 松下高弘 - エムデザインファクトリー主宰 -

まつした・たかひろ/長野県飯田市生まれ。元東京デザイン専門学校講師。株式会社タカショー発行の『エクステリア&ガーデンテキストブック』監修。ガーデンセラピーコーディネーター1級所持。建築・エクステリアの企画事務所「エムデザインファクトリー」を主宰し、大手ハウスメーカーやエクステリア業のセミナー企画、講師を行う。
2007年出版の『エクステリアの色とデザイン(グリーン情報)』の改訂版として、新刊『住宅+エクステリア&ガーデンの色とデザイン』が大好評販売中! 色の知識、住宅デザイン様式に合わせたエクステリア&ガーデンデザインとカラーコーディネート、プレゼンシートのレイアウト案など、多岐に渡る充実の内容! 書籍詳細はグリーン情報ホームページから。
著書
『住宅エクステリアのパース・スケッチ・イラストが上達する本』彰国社
『気持ちをつかむ住宅インテリアパース・スケッチ力でプレゼンに差をつける』彰国社
『住宅+エクステリア&ガーデンの色とデザイン』グリーン情報 など他多数
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