いまい・ひではる/開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ガーデンローズカレンダー』も好評。
今井秀治 -バラ写真家-

いまい・ひではる/開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ガーデンローズカレンダー』も好評。
今井秀治 -バラ写真家-の記事
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ガーデン
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。冬枯れに美を見る宮崎県「綾ナチュラルガーデン錦原」
ピート・アウドルフ氏に影響を受けて 今月ご紹介するのは、宮崎県綾町にある「綾ナチュラルガーデン錦原」、冬枯れの庭です。3年前の春に、長野県須坂市の園芸店「GARDEN SOIL(ガーデンソイル)」の田口勇さんからピート・アウドルフさんの写真集を見せてもらい、その時、枯れた庭の美しさに目覚めて撮影を始めました。その後、ピート・アウドルフさんの映画『Five Seasons ガーデン・オブ・ピート・アウドルフ』を鑑賞したこともあり、近年、僕の一番興味のあるテーマが「冬枯れの庭」になったのです。 2017年11月、紅葉の「GARDEN SOIL(ガーデンソイル)」の撮影を皮切りに、北海道の「大森ガーデン」、神奈川県愛甲市の「服部牧場」、群馬県太田市の「アンディ&ウイリアムスボタニックガーデン」、横浜の新港中央広場に清里の萌木の村……、と機会があるごとに撮影を続けてきました。そして12月、僕の冬の撮影のもう一つのテーマ「宮崎育種ビオラ」の撮影も兼ねて訪れた宮崎滞在の2日目の朝、日の出とともに撮影したのが、今回ご紹介する「綾ナチュラルガーデン錦原」の写真です。 朝日が昇る前にガーデンに到着 当日は日の出が7時だったため、宮崎市内のホテルを6時過ぎに出発。まだ薄暗い道を車で走りつつ景色を眺めながら、7時少し前に馬事公苑の交差点に到着しました。ガーデナーの平工詠子さんのSNSの投稿で、あまり広くはない道沿いのガーデンだということは分かっていたし、薄暗い光の中でも黄色いマムや赤いコリウスがはっきり見えたので、ここで間違いないと確信し、邪魔にならない場所へ車を止めて庭に入っていきました。 ちょうど正面の空が明るくなってきました。その方角が東で逆光、右手が南側で庭の奥は田園風景。そのさらに奥には山並みが見え、左手が北側で馬事公苑があり、共にサイドからの光になります。僕は常々、ガーデンの撮影の時の基本のライティングは、サイドからの光にしています。この庭の場合は、馬事公苑側に立って南の方向にレンズを向けるか、南の山に背を向けて馬事公苑の方向にレンズを向けて撮るのがサイド光になります。また、時々はレンズを東に向けて、逆光でドラマチックな撮影をすることもあります。 光の確認の後は、庭の真ん中に立ち、ぐるっと見回してよいアングルを探します。幸い撮影の邪魔になる電信柱や畑の網などの気になるものは何もなく、どの方向を向いてもとても綺麗でした。そうこうしているうちに、そろそろ日の出の時間が迫ってきたので、急いで車に戻り、カメラをセットしていると、東の空から一筋の光が差し込んできて、庭が一気に輝き出しました。 ちょっと肌寒い、静かな日の出の瞬間。神々しいとさえいえる光に包まれた「綾ナチュラルガーデン錦原」の撮影開始です。レンズを南や北に向けてサイドの光で庭の全体を撮ったり、太陽が低い位置まで上がってきたところでレンズを東に向けて、ちょっとドラマチックな逆光の撮影をしたり。庭の中を走り回って、時計が8時を回る頃に撮影は終了しました。 美しい冬枯れの庭の撮影を終えて 12月12日の夜。自宅のある千葉に帰って、すぐに写真をPCに取り込んで写真チェックをしてみると、狙い通りの美しい冬枯れの庭が写っていました。が、撮影は終始僕一人でしたし、終わった後はすぐに宮崎市に戻ってビオラの撮影だったため、「綾ナチュラルガーデン錦原」の関係者の方とはお会いしていませんでした。 よい撮影ができたので『Garden Story』に掲載したいと思っていましたが、あいにく連絡先も分からず、宮崎の「こどものくに」のガーデナー、源香さんに聞いてみようと思っていたら、偶然にも僕のSNSに「綾ナチュラルガーデン錦原」の写真がアップされていました。すぐにそこから「みんなでつくる綾町花壇プロジェクト」にメール送信。自己紹介とGarden Story掲載の許可をお願いすると、ものの10分もしないうちにガーデナーの谷口みゆきさんから返信が。そのすぐ後、役場の田牧さんからも連絡をいただきました。返信を待っている間に僕のSNSにアップしていた写真を見て、お二人ともとても喜んでくださったようで、掲載の許可もいただきました。 綾町に根付いている花を育てる習慣 この原稿を書くにあたって、谷口さんと田牧さんのお二人から町の話を伺ったのですが、綾町は50年ほど前から「花いっぱい運動」を展開し、町のあちこちに花壇があったそうです。じつは、どうして宮崎の綾町にこんなに今風なコンセプトのガーデンがあるのだろうと不思議に思っていたのですが、綾町には「花を育てる、庭を楽しむ」という習慣が昔からあったのですね。 町と住民のボランティアさんが一緒になって庭をつくり、花を楽しむ。そのために平工詠子さんのような専門家を招いて勉強もする・・・美しい自然の中で、こういった環境がしっかりできあがっている綾町。宮崎県に、また一つ好きな場所ができてしまいました。次回は、庭の周囲にある桜が咲く頃に撮影に伺いたいと思います。
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みんなの庭
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。花緑の濃淡が空色の建物に寄り添う山梨・芝田邸
山中湖の画家さんの庭 今回ご紹介するのは、山中湖付近にある芝田美智子さんのお庭です。とってもナチュラルな雰囲気で、新緑が目に優しく、いつまでも眺めていられるような、本当に気持ちのよい素敵な場所です。 山中湖といえば、「GARDEN STORY」でも以前ご紹介した塚原さんご夫妻のお庭も有名で、僕も何度も撮影に通わせていただきました。その塚原さんが確か5〜6年ほど前、撮影が終わる度に「すぐ近くに画家さんの素敵なお庭がありますから、ご紹介しますよ」とおっしゃっていたことがありました。塚原さんがすすめてくださるのだから、きっとよい庭なのだろうとは思ったのですが、「画家さん」というワードが、ちょっと引っかかりました。 僕のような「カメラマン」も「画家」さんも、平面にビジュアルを構築する点では同じ作業をしている訳で、僕にとっては普段気軽にお付き合いしている園芸好きの庭主さんたちとはちょっと違う……。気をつかうのかなぁなどという思いが頭をよぎり、その時は、もし機会があったらと答えたまま、実行には至りませんでした。 その後、何かのタイミングで芝田さんが描いているのはボタニカルアートだと知り、俄然お会いしたい庭主さんに変わったのですが、今度は、そのお庭が某雑誌に大きく取り上げられたのです。僕のような古いタイプのカメラマンは、他の媒体に載ったお庭にはしばらくは近づかないという“仁義”のような考えがあって、芝田さんのお庭には縁がなかったのだと諦めて、伺うことがありませんでした。 宮崎県で偶然の出会いから友達に それから数年が経ち、僕が芝田さんに初めてお会いしたのは、昨年の11月、熊本空港のロビーででした。宮崎の育種ビオラの火付け役である「アナーセン」の川口のりこさん主催の「新花を見る(買い付けも)ツアー」に偶然にも一緒に参加していたのです。 僕にとって育種ビオラは、今一番気になる花なのですが、芝田さんも育種ビオラを描いてみたいという思いがあって参加されたようでした。ツアーは2泊3日。コオロギノブコさんや石川園芸さん、大牟田さんなど、生産者さんのハウスを回って最新の花を見せてもらい、ツアー参加のバイヤーさんは買い付けをするなか、僕は撮影で忙しくも楽しい育種ビオラ漬けの3日間を送りました。生産者さんのハウスやアナーセンさんでの撮影中に「今井さんがどんな花を撮るのか気になって」と芝田さんが見に来たり、僕が「これは」と思った花を持って芝田さんに見せに行ったりなんてしているうちに、宮崎育種ビオラのお陰で、すっかりお友達に。最終日に「来春、撮影に伺いますね」と約束をして宮崎空港で別れました。 芝田さんのお庭へ初訪問 6月27日、朝6時。前日に芝田さんがメッセンジャーに送ってくれた手書きの地図のお陰で、一度も迷うことなく別荘地の森にある芝田邸に到着。ちょうどご主人が鹿除け用のネットを外しているタイミングでご挨拶をして、すぐにお庭に入れていただきました。事前に、ここを訪れた方のSNSの投稿を見て、可愛い空色のお宅や、お庭の雰囲気も大体は分かっているつもりでしたが、実際に庭に入ってみると、入り口からお宅までは広々とした園路があり、両サイドに高い木々が植わっていて、ゆったりとしたデザイン。森の中の爽やかな空気に包まれて、小鳥の声だけが聞こえる、とても静かなお庭でした。 僕はたくさんのバラや草花が咲いている庭を想像していたので、ちょっと驚きました。園路を奥に進むと、左手につるバラが咲く空色のオシャレなお宅。右手にあるつるバラのアーチを潜って、ゆるやかな上り坂が宿根草とバラの植栽されたエリアへと続いています。当日の天気予報は晴れマークだったのですが、さすがにここは山中湖。朝の光が射したかと思ったら、たちまち霧に包まれたり、霧が晴れてからも低い雲に覆われてしまったり。その度に撮影を止め、また雲間から光が差してくると慌てて走って撮影を始めたり……。なかなか忙しい撮影でしたが、結果的には、しっとりとした森の空気感を感じられる写真が撮れたと思います。 庭づくりの物語が詰まったアルバム 8時過ぎ、光が強くなってきたところで撮影は終了。そして、お宅の横の納屋に行ってみると、テーブルの上に庭のアルバムが置いてありました。手に取ってページをめくると、木を切って更地から土留めをしている写真や、雪の中での作業、春の球根花の写真があったりと、だんだんお庭が出来上がっていく様子が。どの写真にも2人が楽しそうに笑っていて、芝田夫妻がこの庭を大切に思っていることが伝わってくる、とてもよいアルバムでした。 さっと来て2時間ほど撮影して帰ってしまう僕の写真では、アルバムに写っているような様子は伝わらないなぁと思いながら、ご挨拶をして次の約束の軽井沢に向かいました。 この撮影日は、6月末の貴重な晴れの日だったようです。 きっかけはイギリス住まい 今回、この原稿を書くにあたり、芝田さんがボタニカルアートを描くことになったきっかけを伺ってみました。 美智子さんは、ご主人のお仕事で3年ほどイギリスに住んでいたそうで、その時に何か新しいことに挑戦してみようと、植物をありのままに描く「ボタニカルアート」について、キュ—ガーデンとチェルシーフィジックガーデンのコースを受講したそうです。 僕も自称大のイギリス好きカメラマンです。二十数年前には、ガーデニング誌『BISES(ビズ)』から『イギリス家庭のガーデニングアイデア200』という書籍を出版してもらうために3年間、毎年6月のイギリスにライターである妻と通っていました。そんな経験もあって、芝田さんのイギリス暮らしや、キューガーデンとチェルシーフィジックガーデンでコースを受講した経験を羨ましく聞きました。次回お会いした時は、ぜひイギリス話で盛り上がりたいところです。 東京で植物画の教室もされている芝田美智子さんのボタニカルアートは、インスタグラムでもご覧になれます。どれも素晴らしい作品です。 芝田美智子さんのインスタグラム
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みんなの庭
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。オールドローズと宿根草が訪問者を癒やす長野「ペンション・カスティール」
バラが素敵なペンションへ初訪問 今回ご紹介するのは、長野県軽井沢町で「ペンション・カスティール」を営む丹羽まゆみさんのオールドローズと宿根草の庭です。僕がこの庭に初めて伺ったのは2014年6月のこと。ガーデンストーリーでもおなじみの橋本景子さんから「軽井沢にあるバラの素敵なペンションのお庭を見せていただくことになったので、ご一緒にいかがですか?」と誘っていただいたのがきっかけでした。 当時は僕も毎日のようにバラの庭の撮影をしていましたから、バラの咲くペンションも何軒か知ってはいました。ペンションの場合は建物が素敵なので、つるバラなどをうまく使うと簡単に絵になり、また、比較的ローメンテナンスの庭が多い印象でした。撮影当日も、今回の庭はどんな感じだろうと期待しながら、車で橋本さんと一路、軽井沢に向かいました。 旧中山道から細い道に入り、ナビを見ながら左折、右折と進むと、左手にたくさんのバラが咲く「ペンション・カスティール」が現れました。駐車スペースに車を止めて外に出てみると、右を見ても左を見ても、僕好みのピンクの可愛いバラが、これでもかというくらい咲いています。「これはよいお庭に誘っていただいた!」と、早く撮影を始めたくて、丹羽さんに挨拶するのもそこそこに、カメラを出して撮影を開始しました。 馴染み深いはずの品種を言い当てられず レンズ越しに見るバラはどれも本当に可愛くて、すぐにシャッターを切りたい気持ちを抑えつつ、まずは品種名が書かれたラベルを探して撮っておかなくては……。そうしておかないと、後から名前の分からないバラ写真になってしまいます。探してみると、鉢植えのオールドローズにはラベルがあるのですが、見たことも聞いたこともない名前ばかりで、ちょっと困惑。地植えのバラは、どこにラベルがついているかも分からないし、なぜか花を見ても、さっぱり名前が浮かんできません。 あの頃は、オールドローズの撮影ばかりしていて、撮影に伺った庭主さんからは「さすがに今井さんは、バラの名前をよくご存じですね」なんて、いつも言われていたのに、「カスティール」のバラは全然名前が分からないし、丹羽さんに聞いても、聞き覚えのない名前ばかりでした。階段沿いのピンクの綺麗なバラも撮りたいと思って、丹羽さんに名前を聞いてみたら、「ファンタン・ラトゥールです」とのこと。‘ファンタン・ラトゥール’は、僕のなかで1番といってもいいくらい好きなバラなのに、「カスティール」に咲く子の花は、綺麗すぎて。僕の知っているオールドローズの‘ファンタン・ラトゥール’ではなくて、モダンローズじゃないかと思うくらい綺麗に咲いていました。 軽井沢の気候のせいなのかと勝手に納得して帰りましたが、その後、この庭に通うようになってから、その理由が分かりました。軽井沢の気候もあるのでしょうが、一番の理由は、丹羽さんの花がら切りによるものだったのです。丹羽さんは、少しでも終わりかけた花がついているのが嫌なようで、僕からしたら、まだまだ綺麗な花であってもどんどん切ってしまいます。 たくさんのバラたちの中には初対面の品種も 肥料も消毒も、上手に栽培しているのでしょうが、普通はオールドローズが満開のフェンスには、咲き進んだ花や、ちょうどよい花、咲き出しの花、 つぼみがそれぞれあって、中には少し傷んだ花があったり、ちょっと形が崩れた花があったりするものなのです。そんな中に輝くように咲く一輪の花を見つけるのがオールドローズの見方だと僕は思っていたのですが、「カスティール」では、咲き進んだ花や形の悪い花がないため、雰囲気が違って感じられたのだと思います。 また、「カスティール」で僕が聞いたことの無いバラが多いのは、咲いているバラの多くは丹羽さんが海外から輸入した苗だったからで、「カスティール」は僕にとって、まるでオールドローズ好きの子どもが、大学の研究所か何かに迷い込んでしまったくらい驚きがいっぱい詰まった魅力的なバラのお庭でした。 帰ってフェイスブックにアップしたこの日の写真を見て、丹羽さんが「プロのカメラマンが撮るとウチじゃないみたいです。素敵に撮っていただき、ありがとうございました」とコメントをしてくださり、それからすぐにフェイスブック上でもお友達になりました。 「カスティール」に集まるバラ仲間たち 毎年6月20日前後に丹羽さんのオールドローズの友人が各地から集まり、「カスティール」に泊まってバラを見たり、食事をしたり、夜遅くまでおしゃべりしたりの楽しいイベントがあるのですが、翌2015年にはそのイベントに誘われて、2016、2017年には写真講座もさせていただきました。メインイベントは、京成バラ園芸の入谷さんが持ってくる、いわゆる“入谷苗の販売会”で、オールドローズ好きが目の色を変えるのですが、僕も毎年少しだけ買わせていただいています。 2018年も2019年もカスティールに通って、カレンダー用のオールドローズの写真を撮らせていただきました。2018年辺りから、庭にはグラス類をはじめとする宿根草がどんどん増えて、とてもいい雰囲気になってきたので、「いつかガーデンストーリーに載せられたらいいな〜」と思っていました。今年はコロナの影響で、軽井沢は遠慮しないといけないかなと諦めていたのですが、丹羽さんのフェイスブックの写真があまりに素晴らしく綺麗だったので、マスク着用、ソーシャルディスタンスを守り、万全な備えをして訪問するということで許可をいただきました。今年6月20日の午後に伺って撮影をしてきた写真も本記事にご紹介しています。 今回この記事に掲載するために選んだバラは、比較的ポピュラーなものが多かったのですが、「カスティール」には、本当にちょっとやそっとでは見ることのできないオールドローズがいっぱいあります。ここに写っていない宿根草も多種あり、6月中旬にはランブラーが主役だった小道では、7月になると足元にヤマアジサイのコレクションが咲き出して主役が交代し、これもまた素晴らしいのです。さらには、早春のクリスマスローズや球根類も見逃せません。植物好きの方には、軽井沢方面に行く機会がありましたら、ぜひ連絡して寄らせていただくことをおすすめします。
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ガーデン&ショップ
「中之条ガーデンズ」の魅力、苦労話、メンテまでバラの専門家・河合伸志さんにインタビュー!
河合伸志さんにズバリ質問! 感動分岐点を超える「中之条ガーデンズ」の魅力 群馬県中之条町にある「中之条ガーデンズ」には、冷涼な気候を生かした、バラや植物の生き生きとした色彩に目を奪われる美しいバラ園があります。このバラ園の植栽デザイン・管理指導は、「横浜イングリッシュガーデン」のスーパーバイザーも務めるバラの専門家、河合伸志さん。そんな河合さんに、バラ好きさんなら一度は訪れたい、「中之条ガーデンズ」の魅力を伺います。 Q. 全国の美しいガーデンの中でも、「中之条ガーデンズ」ならではの魅力は? 「中之条ガーデンズ」の魅力は、なんといっても一つのバラ園の中で、違った景色を散策しながらいくつも楽しめることですね。各地にあるバラ園の多くは、入り口で全体を見通せることがしばしばです。これはこれでスケールを体感できてよいのですが、全てが一度に見えてしまうため、奥まで行く楽しみが半減します。ですが、この「中之条ガーデンズ」は、あえて小さな庭に分け、入り口からは全てが見渡せないようにしたことで、園路を進む楽しみがあります。これは中之条ガーデンズ全体のランドスケープを担当した吉谷博光さんと私の考えによるものです。 また、バラと合わせるアーチなどの構造物は、すべて吉谷博光さんデザインのオリジナルで準備しました。「美味しい料理は美しい器に美しく盛り付ける」というのが私の考えですが、「中之条ガーデンズ」では、最高の器を準備できたと思っています。ぜひ、バラと構造物とのハーモニーも楽しんでいただきたいです。 Q.「中之条ガーデンズ」のコンセプトを教えてください! じつは、このガーデンには明確なコンセプトがありません。「中之条ガーデンズ」の「ガーデンズ」とは、いくつかの庭が集まっているという意味合いで、ガーデンズ全体のプロデュースは、「あしかがフラワーパーク」の大藤の移植でも知られる樹木医の塚本こなみさんが行っています。私がどのようなコンセプトでバラ園をつくればよいかと塚本さんに尋ねたところ、「感動分岐点を超えるものにしてください」と言われました。ですので、強いて答えるならば、「感動分岐点を超えるバラ園」でしょうか。 Q.「中之条ガーデンズ」で見逃さないでほしい見どころスポット&個人的なお気に入りスポットはどこでしょうか? 「中之条ガーデンズ」の一番の見どころは、やはり満開に咲くバラのガーランドでしょう。開花のピークは、一年にほんの数日間ですが、この最高に美しい瞬間を見ていただきたいです。特に奥の八角形のガーランドのエリアは、サークル・ベンチに座ると、まさに四方をバラに囲まれ、より芳しいバラの香りが漂います。「中之条ガーデンズ」を訪れたら、ぜひこのベンチに腰掛けて、瞼を閉じて思いっきり香りを吸い込んでみてください。至福のひとときが味わえることと思います。 ガーランドのあるエリアでは、ガーランドの柱の縦ラインを生かすため、あえて樹木はファスティギアータ(箒性)のものを選んでいます。バラの美しさはもちろんですが、背景の樹木にも目を向けていただけると、よりこのガーデンを楽しめますよ。 河合伸志さんが語る 「中之条ガーデンズ」の制作&管理秘話 「中之条ガーデンズ」に、河合さんが主なバラや樹木などを植え付けたのは、2018年7月のこと。それから、2020年6月現在の美しい姿になるまで、約2年弱。この間、ガーデンをより美しく管理・維持するために、ガーデナーや町の職員さんたちは日夜さまざまな作業を続けてきました。また、「中之条ガーデンズ」のある群馬県中之条町は標高が高く、冷涼な気候が特徴で、平地のガーデンとは異なる品種選びや管理が必要です。そんなガーデン制作や管理の裏側のエピソードを、少しだけご紹介します。 Q. 河合さんがスーパーバイザーを務める「横浜イングリッシュガーデン」と比べて、異なる点はありますか? 大きく異なるのは、バラの品種選びの基準です。「中之条ガーデンズ」ではバラの品種を決めるに当たり、それぞれのエリアの景観イメージにマッチすることを第一に優先して選びました。次に基本的に四季咲き性の品種で、しかも可能な限り秋の開花数が多いことを考慮しました。従ってオールド・ローズは一部を除き植栽していません。一方の「横浜イングリッシュガーデン」では、バラはコレクションの意味合いも持たせているため、性質が弱いものや、秋には咲かない品種、花数が多くない種類なども含み、歴史上意味のある品種や、コレクションとして価値があるものであれば植栽しています。それぞれのガーデンのコンセプトに合わせたバラを楽しんでいただきたいと思います。 また、当たり前ですが気候の差を考慮し、寒さに弱い植物は中之条では使用していません。逆に多少耐暑性に欠けているものでも、このガーデンでは見ることができます。 Q. 美しい景観を守るための、病害虫対策はどのようにしていますか? この景観を薬剤散布なしでつくり出すことは難しいため、多いシーズンでは1週間に1回のペースで薬剤を散布しています。地域的に、春と秋はベト病の問題がありますし、バラは景観のイメージに合うことを重視して選んでいますので、黒星病やうどんこ病に弱い品種も植栽されています。この春もベト病が発生してしまい、一時的に危機的な状況に陥りました。幸い、病葉の摘み取りと薬剤散布によって、かろうじて首の皮一枚で何とか持ち直しましたが…。 Q. ガーデンの制作・管理にあたって、想定外だったことや困ったことはありましたか? 標高の高い山間部にある「中之条ガーデンズ」は、そもそも平地よりも生育期間が短く、さらには冬の寒さが厳しいため、バラは品種によってはおおむね8月までに生育した枝しか越冬できないことが分かってきました。9月以降の枝は未熟(十分に光合成できていない)なうちに冬を迎えるので、厳しい寒さに耐えられないのです。そのため、平地ではつるバラとして扱える品種でも木立ち性として扱えることもある反面、つるバラとしては伸長力不足の場合もあります。また、山沿いの地域のため夜露が発生しやすく、平地ではめったに発生しないベト病に悩まされています。 また、寒さが厳しいため、常緑広葉樹は種類を選ばないと越冬できないようです。トキワマンサクやセイヨウヒイラギ‘サニー・フォスター’はギリギリ越冬できていますが、ヒメユズリハは寒さで枯死してしまいました。ツバキやヒラドツツジなども、防寒をしても多少の傷みが発生します。今後周囲の樹木がもう少し大きく生育し、完全に樹下に入ればそこまで傷まないのかもしれませんが…。一方、ヤマボウシ‘ヴィーナス’などは、平地では見ることができない本来の特性が存分に発揮され、人目を惹き付ける巨大な花を咲かせています。これは「中之条ガーデンズ」の気候ならではですね。横浜での姿しか見ていなかった「横浜イングリッシュガーデン」のガーデナーなどは、その姿を見て平地での限界を嘆いていました。 下草類では、ヘデラは場所と品種を選ばないと越冬できません。また耐寒性がある宿根草でも、秋植えでは枯死してしまうことがあり、品種によっては早春植えにする必要があります。半面、夏がやや涼しく短いため、平地では夏越しできない植物も生き残っているようです。中にはリグラリアや黒葉のクローバーのように平地で管理するよりも大きく育ちすぎ、株数を減らさなくてはならないほど旺盛に生育するものもあります。 河合伸志さんからアドバイス! 自宅のガーデニングに生かせるアイデア&テクニック集 美しいガーデンを堪能したら、自宅の庭にも生かせるガーデンづくりのコツを知りたくなるのがガーデナーの性。「中之条ガーデンズ」をお手本に、美しいガーデンをつくるためのポイントやテクニック、おすすめの植物の組み合わせについて、河合さんにアドバイスをいただきました。さっそくチェックして、自宅のガーデンで実践してみましょう! Q.「中之条ガーデンズ」に使われているテクニックの中で、個人の庭で実践できることを教えてください! 「中之条ガーデンズ」では、バラの組み合わせで、枝変わりの品種を上手に用いているシーンがあります。枝変わりの品種のうち、色違いのパターンは、花色以外の特性が同じなので、株姿や咲く時期などがピタッと揃い、理想的な景色になります。異品種でこの演出をしようとすると、なかなか相性のよい品種を見付けることが難しいのです。例えば自分の庭でアーチにバラを植える場合、同様に枝変わりの品種を合わせるテクニックを用いると、開花や咲き姿が揃った見事なアーチを作ることができます。 色違いの花が咲く枝変わりの品種の具体例には、‘ピエール・ドゥ・ロンサール’と‘ル・ポール・ロマンティーク’、‘サマー・スノー’と‘春霞’、‘珠玉’と‘玉鬘’、‘レオナルド・ダ・ヴィンチ’と‘アントニオ・ガウディ’などがあります。ぜひ参考にしてみてください。 Q. ガーデニングを始める人へ「イメージ通りの庭をつくるための、はじめの準備」のアドバイスは? 最初に、庭のイメージに合う植物がどのような性質(開花期や生育の早さ、好む環境など)のもので、どのように姿を変化させながら生育していくかを、ある程度知っておくことが重要です。簡単なようにも思えますが、決してそうではなく、地域によって大きく変わりますし、たとえ同じ庭の中であっても、微細な差で育つ場所もあれば、そうでない場合もあります。ネットや書籍、地域のガーデンの見学などをしながら調べましょう。もっとも、こうして厳選した植物で計画を立てても、それだけでパーフェクトなものはできません。後は状況に応じて手直しをして、よりイメージに近づけていきます。 近年のガーデニングでは即興の寄せ植えやハンギングなどが人気です。これらはイメージに合った植物をその場で選び、すぐに完成しますが、庭はそんなに短期間でできるものではなく、少なくとも1年以上かけてつくり上げていくものです。単純に見た目で選び、枯れたらまた植え替えればよいという発想からまず脱却することが、イメージした庭をつくるための近道かもしれません。 Q. 魅せるガーデンづくりで押さえるべきポイントは? ガーデンの設計図は、通常上からの方向で作成されていますが、実際の庭での人の視線は横向き。そこで、まずは現場をしっかりと自分の目で把握し、空間全体を摑むことが大切です。どこにポイントとなるものを置くべきか、そのポイントはどの程度の大きさのものがよいか、どこに園路を設けるべきかなどを考えていきます。ポイントを樹木など植物とした場合、成長に伴って変わっていくその将来像を見据える必要もあります。このようにして、ガーデンデザインの骨格を最初に決めます。 次に、具体的な植物を配置する際には、色彩計画をしっかり立てておくことがポイントです。特にバラのように派手な花は、あれこれ色を混ぜると目がチカチカするような印象になり、今一つまとまりがなくなります。一番簡単なのは、同系色でまとめる方法。慣れてくれば反対色を上手に使用したり、トリカラーなどの組み合わせにチャレンジするのも一案です。また、色と同時にポイントとなってくるのが形状です。隣同士に同じ形状のものがひたすら並ぶと、凹凸のない公園のサツキの植え込みのようになってしまいます。なるべく異なる形のものをバランスよく並べて、変化のある景観を目指しましょう。なお、植物の配置の際は、図面では気付きにくい植栽地の背景や、樹陰の裸地など、見落としがないかの確認もしましょう。 Q. バラと合わせるおすすめの組み合わせを教えてください。 ガーデニング初心者向けのおすすめは、定番ですが、オルラヤやシノグロッサム、ネペタ(キャット・ミント)‘シックス・ヒル・ジャイアント’、サルビア・ネモローサ‘カラドンナ’、ヤグルマギク、ジギタリス・プルプレアなど。このうちシノグロッサムは平地では秋植えするのが理想的ですが、中之条など寒冷地では早春植えにしたほうが無難なようです。 Q. 植物を元気に生育させる秘訣はありますか? 植物の健全な生育の秘訣は、常に植物と向き合うこと。そして向き合いながら、植物に今どのような作業が必要かを感じ、適宜実施していくことです。そして、このことこそが庭づくりの醍醐味だと思います。手入れによって、誰よりもいち早く季節の到来に気付いたり、自分の行った作業でみるみるよくなっていったり。ガーデン作業はすぐに結果が出るものばかりではありませんが、植物が見せてくれる変化は、管理者に大きな喜びを与えてくれます。庭は設計・施工も大切だと思いますが、もしかしたらそれ以上に管理が重要かもしれないと、私は考えています。 「中之条ガーデンズ」に行ってみよう! 平地での開花が終わってから咲き始める中之条のバラは、涼しい気候のもとで咲くため、平地よりもずっと色鮮やか。中には同じ品種とは思えないほどの変化を見せるものもあります。また開花の早晩の差が平地よりも少なく、一気に花を咲かせるため、ピークがやや短い反面、満開時はとても華やかです。 バラの開花時の「中之条ガーデンズ」は、バラ園はもちろんのこと、スパイラル・ガーデンやパレット・ガーデンも楽しめますので、訪れた際にはぜひ、ゆっくりと時間を取って園内を散策してみてください。 また、中之条町には泉質が高く名湯とされる四万温泉や沢渡温泉などの観光スポットもあります。時間に余裕のある方は、1泊してたっぷりと楽しむのもおすすめです。同じ群馬県内の草津や伊香保の他、長野県側の軽井沢や上田方面にも抜けられますので、週末の小旅行に訪れてみてはいかがでしょうか? ●7つの景色が楽しめる新ローズガーデン誕生!「中之条ガーデンズ」に行ってみよう!
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ガーデン&ショップ
バラ園は甦る「佐倉草ぶえの丘バラ園」14年目の春の輝き
開園から14年「佐倉草ぶえの丘バラ園」の大事な役割 佐倉草ぶえの丘バラ園は14年前の春、2006年4月29日に開園しました。子どもも大人も楽しめる憩いの空間として、また、散策しながらバラの歴史や文化を学ぶことができる場所としてつくられました。そしてもう一つ、ほかとは違う草ぶえの丘バラ園独自の大切な目的が「品種の保存」です。 貴重な遺伝資源としてのバラを後世に伝える バラの歴史上、重要な役割を果たした原種やオールドローズ、育種にまだ用いられたことはないけれど無限の可能性を秘めている野生種のバラ、日本人の育種家が作り出したバラなど、誰かが守らなければ後世に伝わらなくなってしまう貴重なバラが、ここには数多く植栽されています。遺伝資源としての植物を保存するこのような取り組みは、海外では「リビング・コレクション」と呼ばれます。日々の繊細な管理と個々のバラについての深い知識を必要とするため、維持し続けるのはたいへんな事業ですが、開園以来14年、さまざまな苦労を重ねて、ようやく、草ぶえの丘バラ園には確かな基礎が築かれたところです。現在、佐倉市民の森に囲まれた13,000㎡の敷地に、1,250種類、2,500株のバラを栽培・保存しています。 日本のバラ文化を世界に伝える 草ぶえの丘バラ園は、2008年に世界バラ会連合に準会員として加盟し、2012年に国際へリテージローズ会議をアジアの加盟諸国の中で初めて開催しました。2014年にはアメリカのThe Great Rosarians of the World Programから殿堂入りバラ園として表彰を受け、2015年には世界バラ会連合の優秀庭園賞を受賞しました。バラ園を管理するNPOバラ文化研究所の理事長、前原克彦さんが世界各国のバラのエキスパートと細やかな交流を続けていることに加え、成田空港に近いという地の利もあります。落ち着いた風情を持つ独創的なデザインのバラ園として、ほかにはない珍しいバラが見られる保存園として、また日本のバラ事情の発信の拠点として、海外のバラ関係者にはよく知られた存在となっています。 地域に根付いたバラ園 草ぶえの丘バラ園は、NPOバラ文化研究所に所属する地元のボランティアにより運営されています。50名ほどの登録ボランティアが週1回、それぞれ曜日を決めて園内の作業にあたります。さまざまな構築物、アーチ、スクリーン、パーゴラ、ゲートや園路まで、すべてがボランティアの手作りです。暑い夏も寒い冬も、草取り、花がら摘み、剪定、誘引、施肥など、季節によってはかなり辛い重労働もありますが、楽しみ、学びながらバラ園を支えています。春の花のシーズンには毎年、「佐倉フラワーフェスタ」の一環として「ローズフェスティバル」を開催し、来園者の皆様にガーデンコンサートなども楽しんでいただいてきました。 台風による壊滅的な被害 その草ぶえの丘バラ園が、昨年(2019年)9月9日の台風15号で、壊滅的な被害を受けました。バタバタと倒れたスクリーンやパーゴラ、それらの構造物に引っ張られて根が地上にむき出しになってしまったつるばらや、倒れた木材で押しつぶされたたくさんのバラを見たときには、さすがにこれは立ち直れないかもしれないと、その場に立ち尽くしてしまいました。被害の詳細は、当サイトに2019年9月19日に公開された『千葉県佐倉市「佐倉草ぶえの丘バラ園」復興を願って緊急レポート』で、今井秀治さんが伝えてくださった通りです。 クラウドファンディングによる募金活動 私自身はそう頻繁にバラ園に通うことはできないので、何かできることはないかと思い悩んでいたところに、カリフォルニアのバラ園のグレッグ・ラウアリーさんから、クラウドファンディングを勧められました。「Yuki, I know the world community of rose lovers will step up to donate to a fund to repair the damage. Sakura belongs to all of us who know it and want to visit it.」訳しにくいのですが「ユキ、バラへの愛で結ばれた世界中の人々は、バラ園復旧のために喜んで寄付すると思うよ。佐倉草ぶえの丘バラ園は、それを知る人と、いつか訪れたいと思っている人すべてのものなんだから」。 クラウドファンディングの経験はなかったので、いろいろ調べることになりましたが、よいサイトが見つかり、募金活動<佐倉草ぶえの丘バラ園を台風15号の被害から立ち直らせよう!>を、10月4日に立ち上げることができました。 台風ふたたび 募金期間が始まってすぐの10月12日、台風19号が再びバラ園を襲いました。15号より軽傷でしたが、せっかく修理した巨大なウィーピング仕立てのロサ・バンクシアエ・ノルマーリスの支柱や、前回は無事だった佐倉堀田邸ミステリーローズのフェンスが倒れました。直すならもっと頑丈な作りにしなさい、と言われたような感じでしたが、さすがにがっくりです。 もう台風は来ないで、と思っていたところにさらに10月25日、台風くずれの暴風雨が吹き荒れました。このときは構造物に被害はありませんでしたが、サンタ・マリアの谷は大きく土がえぐられました。 何度もくじけそうになる災害の連続でしたが、その頃すでにたくさんの皆様からご寄付が寄せられていて、本当に心強く励みになりました。 国内外の皆様からの支援 2019年10月4日から11月24日までの募金期間に、131名の方々が1,286,500円ものご寄付をくださいました。国内だけでなく、アメリカ、オーストラリア、インドなど海外の方からも温かいメッセージとともにご寄付をいただきました。クラウドファンディング以外に直接寄付をお届けくださった方もあり、台風被害の復旧に十分な資金が集まりました。 考えた結果、必要な資材や工具を買って、さらに専門的な技術を持つ3人の方を雇い、倒れたスクリーンやゲートを再建していただくことができました。ボランティアの方々には、傷めつけられたバラを助けるために、いつも以上に気を配って冬のバラ園の作業を進めていただき、貴重なコレクションが守られました。 バラ園復旧!…しかし 台風直後から片付けや一部の構築物の復旧を始め、資金を得て本格的な復旧作業にとりかかったのが12月。それから3月まで、合わせて半年以上の月日をかけて、ようやくバラ園はもとの姿を取り戻しました。大きなつるバラのいくつかは枝が折れ、短くまとめられて残念な姿になりましたが、木立ち性のバラはたっぷりと肥料をもらい、草取りもばっちり。すべての棚が倒れてつぶされたシェードコーナーのバラも、何事もなかったかのように春を待っていました。 しかし残念なことに、新型コロナウイルスという予期せぬ敵が現れて、感染拡大防止のため、2020年4月7日からの休園が決まりました。5月の連休明けには再開できるかと淡い期待を抱きながら、草ぶえの丘バラ園は春を迎えました。 さらに事件が そこへまた大事件。4月14日、バラ園にいつもとは逆の、北からの強風が吹きました。今までなんともなかったモッコウバラの東屋で、その半分を覆っていた巨大なキモッコウが丸ごと滑り落ちました。あまりの大きさに人力ではどうにもならず重機で引き上げましたが、絡まった枝をかなり切ることになり、咲き始めたキモッコウが哀れな姿に…。ホワイト&ピンクコーナーの‘フォーチュニアーナ’のアーチなど、小型のアーチやポールもいくつか倒れ、ボランティア総出での復旧作業となりました。 そして5月 今年の草ぶえの丘バラ園の花は見事でした。台風で折れた桜の木を切ったおかげで、鈴木省三コーナーの日当たりがよくなり、花付きも花の大きさも見違えるようになりました。比較的被害が少なかった歴史コーナーは、ランブラーの誘引がうまくいって葉がよく茂り、全体を覆うように花が咲きました。ジギタリス、デルフィニウム、オルレア、カモミール、ガウラ、クラウンベッチなどのコンパニオンプランツも元気いっぱい。サンタ・マリアの谷は、株がどれも大きくなって、まるで花の絨毯のようでした。オールドローズガーデンはバラもよく咲きましたが、芝生が美しく、夕暮れ時にはバラの葉がきらめき、緑の芝生に長い影が伸び、甘い香りに包まれて、うっとりと夢見るような別世界でした。 それなのに開園できないまま、5月が過ぎていきました。皆様のお力添えで復旧できたバラ園の姿をぜひともご覧いただきたかったのですが、まさかこのようなことになるとは…。 やっと開園 緊急事態宣言が解除され、6月1日にバラ園がやっと再開されました。4月の咲き始めが早かった割には、まだまだきれいなバラ園を皆様に見ていただくことができて、ほっとしました。遅咲きのランブラーはよく咲いていましたし、カカヤンバラやロサ・クリノフィラなど南方系の野生種は、ちょうど花盛り。お客様を迎えるバラ園のスタッフやボランティアの皆さんも嬉しそうでした。 このまま新型コロナウイルスが落ち着いて、平和な日常が続いてくれれば、秋にはまたローズヒップと秋咲きのバラの競演が見られます。もうすっかり頑丈なバラ園になったので、今年は少しくらい大きな台風が来ても大丈夫でしょう。そして来年の春には、今度こそ完全復活した佐倉草ぶえの丘バラ園を、たっぷりご覧いただきたいと思います。 今回の被災で、たくさんの方々がいつも遠くからバラ園を見守っていてくださるのだと気づきました。そして皆様の温かいご支援で、バラ園は救われました。甚大な被害を受けてもバラ園は、愛情と努力と体力で甦ることができると知りました。心からの感謝と共に、皆様のご来園をお待ちしております。
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みんなの庭
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。南仏風の建物にバラが群れ咲く愛知・大澤邸
SNSで出合った一目惚れの庭 2019年4月末のある日、仕事を終えてから、いつものようにフェイスブックを眺めていると、滋賀県の上田政子さんによる「愛知県の素敵なお庭を廻ってきました」という投稿を見つけました。 どんなお庭なのか? 覗いてみると、とても雰囲気があって、日本とは思えない素敵な2軒の写真でした。ちょうど愛知の知り合いの庭の撮影もあるし、同じ頃に岐阜の「花フェスタ記念公園」で写真講座もある。この予定に合わせることができれば、伺えそうだなと思い、早速、上田さんに連絡を取って先方のご都合を聞いていただきました。 1軒はどうぞと快く了解をいただくことができました。しかし、残念ながらもう1軒は予定が合いませんでした。それを気の毒に思ったのか、上田さんからさらに「花フェスタ記念公園のそばに、今井さんにご紹介したいお庭がありますよ」という提案があり、予定を伺っていただきました。ですが、あいにくその日は関東に出かけるということで撮影は断念。5月というと、毎年庭を持つ皆さんは大抵忙しいので、撮影スケジュールは思った通りにいかないこともよくあること。またの機会を信じて、諦めることにしました。 撮影本番前の偶然の出来事 それから5月になり、各地でバラも咲き始めて、庭の撮影も順調にスタートしました。まずは5月8日、ガーデンストーリーでも連載執筆中の千葉・流山の橋本景子さんのお庭の撮影に伺いました。橋本さんのお庭は夕方の撮影がベストなので、午後3時過ぎに到着。その日はオープンガーデンで、たくさんのお客様がいらしてました。皆さんが帰られた後くらいが撮影本番の時間になりますから、ぶらぶらしながらお客様の様子を見ていると、橋本さんが「愛知の大澤さんのお庭は素敵ですよ、ご紹介します」と大澤さんご夫妻を連れてきてくれたのです。 「愛知」「素敵なお庭」このキーワードを聞いて、すぐに先日、上田さんが「花フェスタ記念公園のそばのお庭」と紹介してくださったところ、撮影が実現しなかった方だとピンと来ました。まさか、橋本さんの庭でお会いすることができるなんて、素敵な偶然もあるものです。橋本さんも「今井さんに撮ってもらったら素敵よ〜」と大澤夫妻にアピールしてくれたので、「早朝の1時間だけでもお時間をいただけたら撮影ができるのですが」とすかさず頼んでみました。すると、「その日はお友達が来る約束ですが、早朝なら大丈夫ですよ。どうぞお越しください」と言っていただき、5月18日の朝5時からの撮影が決まりました。 当日は快晴無風の撮影日和 約束の5月18日、早朝4時過ぎ。「花フェスタ記念公園」近くのホテルから大澤邸がある犬山市に向かって車を走らせました。空は快晴、無風。これ以上ない撮影日和です。ドライブも順調で、少し早すぎただろうかと思いながら車を進め、そろそろかな……と角を曲がりました。すると目の前に、南仏風の塀にピンクのつるバラが枝垂れ、足元にはジギタリスが咲くお宅が現れました。 大澤さんのお宅に間違いないと確信し、車を止めようとすると、門の向こうからご主人が笑顔で出迎えてくれたのです。まだ5時前だというのに、すっかり掃除も済ませてくださっていて、花びらは一枚も落ちていません。挨拶もそこそこに小走りに庭へ向かい、黄色いバラの絡む南仏風のレンガ作りの門をくぐると、目の前にはヨーロッパの田舎の村を思わせる、バラの絡む可愛い建物がいくつも建っていました。建物沿いには、さまざまな草花が咲いていて、これは凄い! と唸りながら、記憶するように頭の中で1枚シャッターを切って先へ進むと、今度は素敵なアイアンのゲートが! ここでも1枚エアーシャッターを切って後ろを振り向くと、今度は最初に見た小屋をバックに可愛い風景が広がっています。 まるで撮影されるために存在しているかのような素晴らしいお庭で、ガーデンスタジオのようだと感心していると、地平線から朝日が少し昇ってきました。母屋の屋根の辺りに光が差し込んできて、庭はまさに魔法の光に包まれ始めました。「よし!」と気合いを入れてファインダーを覗けば、石造りの建物に黄色いオールドローズが咲き競い、田舎風の小屋の入り口にはアンティークなほうきが立てかけてあったりして、次から次へと絵になる光景が現れます。 魔法の光が差すわずかな時間 「どうか太陽さん、今日はゆっくり昇ってきてください」と念じながら、横を見たり後ろを振り向いたり。太陽の位置を確認しながら、最初に撮ったエリアに戻ってもう一度撮ったりしながら、1時間ほど無心で走り回って撮影を終えました。建物が可愛いうえ、バラのコンディションも素晴らしく、大満足の撮影となりました。邪魔にならないようにと気遣って室内に入ってくださっていた大澤さんは、窓の外で走り回る僕を見て笑っていたかもしれませんね。 撮影後、ご主人の趣味だという、クラシックなジープや、『大脱走』でスティーブ・マックイーンが草原で走り回っていたようなバイク(ご主人は違うバイクだとおっしゃっていました)が止まっているガレージで朝食をご馳走になりながら、お庭について話を伺いました。まず「庭中の建物がなんでこんなに素敵なのか?」とお聞きすると、左官業を営むご主人が、17年前に家を建て替えた時に、奥様も好きな南仏風の建物にしようと決めたといいます。 洋書でデザインなどを勉強しながら、一人で建てたお宅だそうで、一軒ずつそれぞれがこだわりいっぱいの建物になっていることも納得のエピソードでした。建物にピッタリのバラ選びは奥様が担当で、これも納得。素敵なお庭の撮影ができて幸せな朝だったな〜と余韻に浸りながら、大澤さんご夫妻に感謝して、8時過ぎには写真講座を行う予定の「花フェスタ記念公園」に向かいました。
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みんなの庭
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。グラスとオールドローズが調和する愛知・内田邸
SNSでつながったバラ愛溢れる人の庭へ 今回ご紹介するのは、愛知県豊橋市の内田美佐恵さんによる、女性的で、きれいなグラスとオールドローズの庭です。 「バラが好きで、イギリスに留学経験があって、写真を撮るのも好きで、雑誌『BISES(ビズ)』の愛読者さん」という内田さんからフェイスブックに友達申請をいただいたのは、今から8年前のことになります。まるで趣味が一緒で、フェイスブックの中ではすぐにお友達になりました。初めてお会いしたのは、その数年後、名古屋在住の牧さん(Garden Story主催のバラのフォトコン編集長賞)のお宅で写真講座をさせていただいた時に、ご主人と参加されていたのです。その後も雑誌やカレンダー撮影など、僕の仕事を通じてお付き合いが続き、2017年には内田さんのお宅でも写真講座を実現。また最近では、僕の趣味の一つである原種シクラメンやケープバルブを差し上げたりして、内田さんとはバラ以外でも仲良くしていただいています。 内田さんが丹精する新エリアの庭 いつの頃からか、内田さんのフェイスブック投稿で「ポタジェ」や「オールドローズ」、「グラス」という言葉を見かけるようになりました。伺ってみると、僕の知っているご自宅の可愛いお庭とは別に、亡くなられたお祖母さまの畑だった土地に6年前から野菜作りのための「ポタジェ」と、その一角にオールドローズとグラスの庭をつくり始めたというのです。「今井さんに見ていただけるようになったら連絡しますので、その時は撮影に来てください」とのこと。僕自身も長野の「ガーデンソイル」さんの影響で、グラスを撮影することに興味が日に日に増していた頃だったので、内田さんの「オールドローズとグラスと野菜のポタジェ」は、気になる庭でした。 それから時は経ちましたが、内田さんの新しい庭のことが気になって仕方がありませんでした。そうして、とうとう2018年5月末頃、名古屋周辺の撮影の帰りに様子を見に行きました。内田さんのポタジェは広い駐車場の一角にあって、日当たりも風通しもよすぎるほどの環境。時期的にバラは終わりかけていましたが、ナチュラルに仕立てられた宿根草が風に揺れていい感じです。「これなら来年は撮影できる」と確信して、内田さんとは来春の撮影の約束をしました。 2019年5月、連休が終わった頃から内田さんのフェイスブックを見続け、メールでお庭の状況を聞いたりしながら撮影日のスケジュールを立てて、5月16日早朝に撮影に伺うことにしました。前日はこの企画の21回、静岡県植野さんの庭に伺って、18時過ぎに撮影を終えてから、きれいな夕焼けを見つつ東名高速で豊橋に向かいました。 早朝の庭で美しい植物たちと対面 16日早朝、ホテルの窓から外を見ると、まだ日の出前。空には雲一つなく完璧な撮影日和になりそうです。ホテルからポタジェまでは車で5分ほどの距離ですぐに到着。約300㎡を4分割した左手前側がオールドローズのエリアで、細い道の反対側がグラスのエリア。その後ろ側は、野菜と一緒にのびのびと風に揺れる宿根草によるメドウガーデン風のエリアになっていました。 三脚にカメラをセットして、まずは左側のオールドローズのエリアに向かいます。オールドローズの雰囲気とよくマッチする、内田さんらしい草花に縁取られた中で、僕の大好きなガリカローズやダマスクローズが最高の表情を見せてくれています。「いいぞ〜」と思いながら振り向くと、反対側のグラスのエリアにも、つるバラ‘ギスレーヌ・デゥ・フェリゴンド’が咲いていました。実際の庭を前に、「やっぱり内田さんはバラ使いがうまい」と納得。そうこうしていると、東の空から朝陽がポタジェに差し込んできて、慌てて撮影を始めました。 このポタジェは正面が東南を向いているので、右前方から光が差し込んで左側に影が出ます。左のオールドローズのエリアはまだ少しの間は日陰ぎみなので、まずは全景を撮ってから、右側のグラス類の撮影をして、次にオールドローズのエリアへ。時計とは反対回りで一通り撮影をしたら、また正面にカメラをセットします。朝はわずか10分程度で表情が変わってしまうので、そのままポタジェの中を何周かしていました。すると、内田さんも来てくれて、花の名前を教えていただいたりしながら6時過ぎには撮影を終了しました。その後、内田さんのお宅にお邪魔してオシャレな朝ご飯をごちそうになりながら、Garden Storyに載せましょうね、とお約束。夕方予定していた撮影地、岐阜に向かいました。 グラスの撮影を3カ所終えて グラスの庭も三者三様で、2019年11月公開の北海道「大森ガーデン」さんの庭は、宿根草のナーセリーの見本園的要素が強く、グラスも圧倒的なパフォーマンスを見せていたし、2020年1月公開の「服部農場」では、グラス愛が強いガーデナー、平栗さんの「バラには頼らない」というこだわりが伝わってきて素敵だと感じました。そして一方では、今回ご紹介したように、お花好きで、フラワーアレンジもお好きな感性で、自分の好きな植物を集めた内田さんのポタジェは、彼女らしさに溢れていて、いい空間でした。 内田さんの庭はご覧の通り、メドウガーデンの風に揺れる宿根草、フェンスにはつるバラ、カラーリーフにグラス類もきれいだし……。何より、オールドローズがどれもきれいだったので、Garden Storyには何月頃に紹介するのがベストだろうと思っているうちに、季節は過ぎました。ふと「内田さんの庭でも、グラスは秋の方がいいのかな」と、秋の内田さんのフェイスブックを拝見。すると、春とはまた違う表情をしたグラス類が写っているではないですか。これは秋、もう一度伺ってグラス類をちゃんと撮らないといけない! と思い立ったのです。そうして、2019年10月30日に2度目の撮影へ。こうして、春はオールドローズと宿根草とカラーリーフ、秋は紅葉のグラス類という、2シーズンのご紹介が叶いました。
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ガーデン&ショップ
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。神奈川・愛甲郡「服部牧場」
SNSの投稿で知った美しい庭 前回は、北海道のグラスが素晴らしい「大森ガーデン」を2回に渡ってご紹介しましたが、2020年最初のストーリーも、またまたグラスと草花のガーデンです。 ここは、グラスが大好きなガーデナー、平栗智子さんが丹精込めてつくり上げた「服部牧場」。 僕がこのガーデンを初めて知ったのは、知人のガーデナー、Sさんの「いざ 服部牧場へ」と書かれたフェイスブックの投稿でした。2019年11月8日の彼女の投稿写真には、大小さまざまなグラスがピンクや白の穂を出し、株元には青や紫の草花が咲き乱れる美しいボーダーが写っていました。それを見て、今すぐにでも飛んで行って撮影したい! くらいの気持ちになるほど、それは美しいものでした。 昨年くらいから僕の一番の撮影のテーマは「美しいグラスガーデン」でしたので、いつも頭の片隅には「何処かで秋のステキなグラスガーデンが撮れないものか」という思いがありました。ですから、車ですぐに行けるほどの距離に、こんな素晴らしいグラスガーデンがあったとは! Sさんには教えていただき本当に感謝しています。幸いにも数日は天気も安定しているようです。投稿を見た2日後はスケジュールも空いていたので、11月10日に撮影に伺うことにしました。 晩秋の庭へ初の訪問 撮影当日は爽やかに晴れ渡り、気温は暑いくらいの秋の終わりとは思えないほどの行楽日和でしたから、高速道路も結構混んでいました。高速を降りて「服部牧場」が近づいてくると、のどかな風景の中、道路脇の木々の紅葉も黄色く輝いていました。その風景もすぐに車を停めて撮影したくなるほどでしたが、寄り道などしている心の余裕はありません。まだ撮影にベストな時間には早すぎるとは分かっていても、アクセルは緩めず、まっすぐに「服部牧場」へ向かいました。 牧場の駐車場に着いたのは2時半くらいでしたが、天気もいいし家族連れで駐車場は満車。子どもたちが元気に走り回っています。秋から冬の撮影は、午後4時頃の光がきれいですので、まだ大分早く着いてしまったのです。でも、車の中にいても仕方ないので、ロケハンを兼ねて、カメラも持たずにぶらっとガーデンに向かいました。 ガーデン入り口の看板を見ながら石の階段を上ると、お目当てのガーデンが現れました。牧場というのだし、きっと広いガーデンなんだろうと勝手に思っていたので、意外と小さいガーデンにちょっと驚きました。しかし、その小さなガーデンにはびっしりといろいろな植物が植えられていて本当にきれいでした。Sさんの写真で見た、赤い穂のミューゲンベルギアも風に揺れていました。 いやー、きれいだなぁと歩き回っていると、ガーデンの西側には高い針葉樹があってその木々の影が、だんだんガーデンに迫ってきていることに気がつきました。優雅に4時まで待っていると、ガーデンは完全に影になってしまう。これは大変! と走って車に戻り、カメラと三脚を担いで、再びガーデンに戻りました。その間5分ほどですが、先ほどまでは誰もいなかったガーデンの隅で黙々と作業をしている女性を発見。Sさんのフェイスブックのコメントにあった「植物を愛してやまないガーデナー」さんだろうと思い、ご挨拶と撮影の許可をいただくため近づいていきました。 ガーデナーさんも僕に気がついて軽い会釈をしてくれました。早速撮影の許可をもらおうと話しかけると、子どもが走り回るので三脚は遠慮してほしいとのことでした。でもガーデンの撮影には三脚は必需品なので、何とかお願いしなくては思っていると、彼女の表情が突然一変して「もしかして今井さんですか?」と。以前千葉の貝殻亭というレストランで写真講座をしたことがあったのですが、その時に参加してくれたようで、一件落着。僕も子どもがそばを通ったら気をつけますと約束して撮影を開始しました。 グラスが美しく輝く瞬間を狙う 前回ご紹介した北海道の「大森ガーデン」さんのように、近くに背の高いものが何もないガーデンの場合は、夕陽が地平線に沈む瞬間くらいの光がきれいなのですが、このガーデンは西側に背の高い木々があって、割と早い時間から影がガーデンを覆ってくるので、撮影のタイミングは、撮りたい植物が影に入った瞬間を狙います。 ガーデンの東側はまだ強い日差しが差し込んでいて、ギラギラしています。でも、影に入ったばかりの一番西側のボーダー花壇は、明るい日陰でどの植物もきれいに見えています。カメラを三脚にセットして、じっくりとファインダーを覗いてみると、何種類ものグラスが入ったボーダー花壇は、グラスの穂の柔らかい線や直線的な茎の線、アスターのブルーや枯れた草の黄色や茶色と、いろいろな要素が混じり合っていました。春の宿根草のボーダーとは全然違う、とてもきれいな表情を見せてくれています。 あとは、逆光になるように西にレンズを向けて狙ったり、サイド光になるように南や北の方向にレンズを向けたり、ガーデンの中を歩き回って同じグラスを撮ったり…。こうして光と影をチェックしながら、少しずつ東側のボーダーまで撮影して、4時過ぎに撮影は終了しました。 撮影中は、僕の邪魔にならないようにとガーデンの隅のほうにいてくれたガーデナーさんがコーヒーを入れてくださるというので、お言葉に甘えてガーデナールームへ。行ってみると、そこも天井からドライになった昨年のグラスがズラリと飾ってあり、彼女のグラス愛がハンパじゃないことを感じました。僕が「大森ガーデン」さんに行った時の話をすると、彼女も随分前から大森さんにグラスの苗を送ってもらっては、あちこちの庭に植えて経過を観察しているそうです。あたりがすっかり暗くなるまでグラス談義は続き、この日撮影した写真は「Garden Story」に載せますと約束をして、美しい月を見ながら帰路につきました。 凍った庭への期待 この日の写真は大満足。何もいうことはない仕上がりでしたが、もう一つ、冬のガーデン写真といえば「凍った庭」があります。以前はよく群馬県太田市の「アンディ&ウィリアムス・ボタニックガーデン」に行き、日が昇る前の暗いうちから撮らせていただいた経験がありますが、久しぶりにグラスガーデンが凍って、真っ白になった「服部牧場」の写真が撮りたくなりました。「凍った庭」になる条件には、「今シーズン一番の寒波」というような、放射冷却のよく晴れた寒い朝であることが必要ですが、11月29日がちょうどそんな気圧配置だったので「凍った庭」を撮影するために午前3時に出発して、6時前、まだ暗い駐車場に着きました。でも、何だか寒くない。痛いくらい寒くてスキー用の帽子に手袋でガタガタ震えるくらいの朝のはずが、それほど寒くなく……。 残念ながら今日はダメだった、と思いながらもガーデンに行ってみましたが、案の定全く凍っていませんでした。でも、以前の撮影から2週間が経ち、さらに枯れた庭が朝日の中でとても美しく輝いていました。凍った庭の撮影は、またこの年末年始にでも行ってみようと思っています。
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ガーデン
千葉県佐倉市「佐倉草ぶえの丘バラ園」復興を願って緊急レポート
異常気象でもバラの最盛期は見事に咲いていた 2019年、今年の春は珍しく4月に寒い日が続いたので、バラの開花はどこも遅れるのだろうかと思っていたところ、5月に入ってからは一転、気温が高い日が続いたため、結局、開花は例年通りでした。ただ、今年はどこのバラ園へ行っても花がとてもきれいで、バラの専門家に聞いてみると、4月の気温が低かったことから、つぼみから開花までがゆっくりだったのがよかったのではないかということでした。 2019年5月26日ファインダー越しの美しい花々 5月26日、今日はオールドローズの聖地「佐倉草ぶえの丘バラ園」で撮影です。天気は晴天。しばらく雨も降っていないし、気温はちょっと高めだけど空は真っ青で、これならきれいなオールドローズが見られるはずと、気分は上々で一路佐倉へ向かいました。バラ園に到着したのは午後3時。まだ日差しは少し強いのですが、バラ園の入り口のアーチをくぐって、すぐ正面の「サンタ・マリアの谷」は西側が高い傾斜地になっているので、もうゆっくりと西側から影が伸び始めています。 僕が花を撮る時の基本は、「日向と日陰の境目の花を狙う」こと。早速「サンタ・マリアの谷」へ下りて行き、まずはじめはティーローズ、その次はチャイナローズという順序で撮影を進めました。一番下はノワゼットと可愛い花ばかりが揃っていて、気分は早くもうっとり。きれいな光が当たっている花を見つけては、「可愛いな〜」とつぶやきながらシャッターを切っていきます。 コンディションのよい花たちに出合える喜び たとえ可愛く咲いていても、日差しが強すぎる花はひとまず後に回して、次はバラ園の一番西側、奥の林の高木の陰になっているエリアへ向かい、日本の野バラの辺りから影ができている場所に沿ってオールドローズのエリアを一回り。すると、まだ強すぎる光の中で、何輪も美しい花が咲いています。もう少し光が柔らかくなったらまた来るからねと心の中でつぶやいていると、顔見知りのボランティアさんに会ったり、バラ園の理事長である前原さんとすれ違ったりしました。 花のコンディションが素晴らしいからでしょう、「今日が一番きれいですよ」「いい日に来ましたね」なんて皆さんが笑顔で声をかけてくれます。僕の好きなエリアの一つ「歴史コーナー」では、ガリカローズからダマスクローズ、ケンティフォリアローズ,アルバローズ…。オールドローズの名花にため息をついて、また「サンタ・マリアの谷」へ戻ります。先程は日差しの具合がよくなくて撮れなかった、可愛いノワゼットを撮ったり、ガーデンの中を光の美しい場所を探しながら、最後はオールドローズガーデンの入り口にあるアイアンのアーチ越しの宿根草のカットです。 アーチの写真はこのバラ園ができた12年前から必ず撮る、いわばお決まりのカットで、この日はつるバラも左奥の宿根草のボーダーも、5時過ぎのきれいな逆光に美しく輝いていました。今までの撮影の中でも一番、まさにベストタイミングです。西側の林に少しずつ隠れて行く太陽を見ながら、5分おきくらいに何回も何回もカメラのシャッターを切って、午後6時過ぎに林の向こうに太陽が隠れたのを確認して撮影を終了しました。 オールドローズを教えてくれたバラ園 このバラ園の前身は「ローズガーデン・アルバ」という名称で、佐倉の隣の志津地区にありました。畑に囲まれた小さな、でも手作り感いっぱいの可愛いバラ園で、僕が初めて行ったのは、もう二十数年も前のこと。ガーデニング誌『BISES』の八木編集長から「ローズガーデン・アルバ」でオールドローズの写真を撮ってほしいと頼まれたのがきっかけでした。当時の僕は、オールドローズのことは何も知りませんでしたが、「オールドローズ」という名前からして魅力的な、未知のバラの世界の入り口に立たせてもらったようで、少しワクワクしながらそのバラ園に通ったことを覚えています。 シーズンに入り、いざ撮影を開始すると、初めて見るオールドローズはどの花も小さくて可愛く、上品できれいなものばかり。すっかり魅了されてしまい、そのシーズンは何日通ったか分からないほどで、僕のオールドローズ愛は、その時に芽生えて今日に至るといっても過言ではありません。 「ローズガーデン・アルバ」の写真は、2019年の春亡くなられた故野村和子先生、前原克彦理事長の執筆で『憧れのローズガーデン』(主婦の友社)として平成18年に出版されました。 台風15号による「佐倉草ぶえの丘バラ園」被害緊急告知 2019年9月9日深夜のこと。みなさんもニュースなどでご存じの通り、強烈な台風15号が千葉県を直撃しました。千葉県各地で停電などの被害が出たことはテレビなどの報道でご存じだと思います。停電で水もない、電気もつかない。屋外は35℃だというのにエアコンも使えない。コンビニの棚には食べ物が何もないし、ガソリンスタンドも閉まっている。こんな不便な生活を続けていて、あと何日したら復旧するのかも分からない。そんな苦労の只中にあるたくさんの人が千葉県各地にいると思うと、ただただ一日も早い復旧を願わずにはいられません。 そんな中、9月12日朝、千葉県立中央博物館研究員の御巫由紀さんが、「佐倉草ぶえの丘バラ園」の被害状況をフェイスブックに写真付きで投稿してくれました。「佐倉草ぶえの丘バラ園」を主会場として平成24年(2012年)には「国際ヘリテージローズ会議2012佐倉」が開催され、平成26年にアメリカのグレート ロザリアンズ オブ ザ ワールド プログラムより殿堂入りバラ園として表彰。平成27年には世界バラ連合から優秀庭園賞を受賞した、オールドローズを中心に1,300品種のコレクションを誇る、日本を代表するバラ園です。 そのバラ園で今、台風でラティスフェンスが倒れ、大きく育った原種のバラが根こそぎ倒れてしまっています。ボランティアさんたちが暑い中、必死で復旧作業に取り組んでいますが、まだまだ長い作業になりそうです。御巫さんも寄付を募る方法などを考えてくださっているようです。 バラが好きな方、「佐倉草ぶえの丘バラ園」が好きな方、どうかご協力をお願いします。幸いにブッシュローズの被害は少なかったため、10月にはまたこのバラ園でしか見ることのできない、きれいなティーローズや可愛いチャイナローズ、ノワゼットローズがたくさん咲いてくれるはずです。 今年の秋は「佐倉草ぶえの丘バラ園」の秋バラを、ぜひ皆さんで見に行ってください。そして募金箱がありましたら、募金も宜しくお願いいたします。 <クラウドファンディングを開始しました> 佐倉草ぶえの丘バラ園を台風15号の被害から立ち直らせよう! <公開URL> https://camp-fire.jp/projects/view/200167 <開始日> 2019年10月4日(金) <終了期限> 2019年11月24日(日)
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ガーデン
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。長野・信州小諸「夢ハーベスト農場」
オールドローズを追いかけて 「夢ハーベスト農場」の名称を初めて聞いたのは、もうずいぶん前のこと。おそらく長野市あたりに取材に行った時に、どなたかから近くにあるオールドローズのバラ園に行ってきたという話を聞いたのだと思います。 当時の僕は、オールドローズと聞けば行かない訳にはいかないほどオールドローズを追いかけていて、長野市あたりからの帰りに立ち寄ったのが最初の訪問だったと思います。その時は、バラの開花期はすでに終盤で、素敵な写真が撮れたという記憶がありません。 その後も、もう一度、何処かへ行く途中か、帰りがけだったかに寄ってみた時は、まだ開花には早くて、ほとんど何も咲いていませんでした。「夢ハーベスト農場」は、浅間山の麓で標高900mの高原にあるため、開花のタイミングが長野市とも軽井沢とも違います。ふらっと立ち寄って、さっと撮影とはいかず、なかなか難しいと実感しました。とはいえ、よい撮影ができる確証もない小諸のバラ園のためだけに撮影のスケジュールを組むこともできず、その頃は、また近くに行くことがあったら寄ってみよう、そのうちよいタイミングが訪れることもあるだろうと考えていました。 開花のタイミングでの初訪問が叶う 2014年6月27日。この日は「軽井沢レイクガーデン」で早朝からの撮影がありました。その後は他に何も予定が入っていなかったので、天気もいいし「夢ハーベスト農場」に行ってみることにしました。遅い昼食をすませて、軽井沢からR18を少し走り、追分宿を右折。バラ園に向けて浅間サンラインを走っていくと、前方斜め右手、斜面の上方に満開のバラ園が青いラベンダー越しに見えてきました。 「夢ハーベスト農場」の看板を右折して駐車場に到着すると、フェンスの向こうは、つるバラもオールドローズも色とりどりに、草花も本当にきれいに咲いていました。時計を見ると、午後3時を大分過ぎています。急いで入り口に行って入園料を払い、バラ園へ。やっと会えたオールドローズ一つひとつの花に挨拶しながら、まずは花の表情を撮ることにしました。気候もオールドローズに合っているのか、どの花もとても表情がよく、可愛く咲いていました。あっちこっちと園内を歩き回っていると、時刻はあっという間に午後5時過ぎに。気がつくと、バラ園全体が優しい光に包まれていました。 夢中で撮影をしているとフランスにいる錯覚に ここのバラ園は、つるバラのアーチやパーゴラも各所にあり、ハーブや宿根草もたくさん植わっているので、「この光ならきれいな撮影ができるぞ」とますますテンションが上がりました。園内を歩き回りながらシャッターを切りまくっていると、ファインダーの中の景色が、なんだか日本じゃないように見えてきました。 当時、僕が見慣れていたイングリッシュガーデンの白、ピンク、ブルーといった淡い色の組み合わせとは全然違い、濃いピンクや黄色や赤いバラが多用された植栽と、足元の宿根草のオレンジや飾り気のない木製アーチが、行ったことはないけれど、「フランスの田舎のガーデン」のように見えてきました。 そこに降り注ぐ柔らかい光も相まって、南フランスあたりの田舎の農場の一角にあるバラ園にいるような、最高な気分で撮影ができました。この日以来、6月中旬以降の晴れた日の夕方は「夢ハーベスト農場」に行くように。大好きな撮影スポットの一つになりました。 2020年には「夢ハーベスト農場」写真講座を予定 その後は、軽井沢にあるオールドローズで有名なペンション「カスティール」さんで、オーナーのオールドローズ仲間が集まる会に参加させていただいた時などは、皆さんで「夢ハーベスト農場」に行って写真撮影会をしたりしながら、このバラ園には毎年のように伺っています。昨年2018年には、「カスティール」さんに「夢ハーベスト農場」のオーナーの小林さんご夫妻がお見えになったので、ご挨拶もさせていただき、今年2019年も6月25日に伺って、来年の写真講座の約束もしました。来年の写真講座の日も、どうか夕方の魔法の光が、このバラ園を包み込んでくれることを祈るばかりです。 “夢を収穫できる農場”は夏の南フランスを感じさせる場所 今回、この原稿を書くにあたり、オーナーの小林千代子さんにいくつか質問をさせていただきました。「撮影していてフランスっぽいと感じることがあるのですが?」という質問に対し、「ハーブやバラ園もありますが、ラベンダーやブルーベリーなどを収穫できる畑もあり、当初南仏の農場をイメージしていました。名称の通り“夢(人それぞれに花を観たり味わったり)を収穫できる農場”を目指しています」というお答えでした。 考えたら、僕はバラの撮影で6月にしか行っていなかったけれど、7月にはブルーベリーの収穫もできるし、ラベンダーの蒸溜もしている農場なんですね。来年はブルーベリーの収穫をしながら、7月の南フランスのバラ園をイメージさせる撮影もしてみたいと思い始めました。