これまで長年、素敵な庭があると聞けばカメラを抱えて、北へ南へ出向いてきたカメラマンの今井秀治さん。カメラを向ける対象は、公共の庭から個人の庭、珍しい植物まで、全国各地でさまざまな感動の一瞬を捉えてきました。そんな今井カメラマンがお届けするガーデン訪問記。第30回は、山梨県山中湖近くの個人邸。植物画家の芝田美智子さんが丹精する清々しい緑にバラが彩る別荘の庭と撮影秘話をご紹介します。

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山中湖の画家さんの庭

宿根草と草花の庭
斜面を利用した宿根草と草花のエリア。

今回ご紹介するお庭は、山中湖付近にある芝田美智子さんによる庭です。それはとってもナチュラルな雰囲気で、新緑が目に優しく、いつまでも眺めていられるような、本当に気持ちのよい素敵な場所です。

山中湖と言えば、「GARDEN STORY」でも以前ご紹介した塚原さんご夫妻のお庭も有名で、僕も何度も撮影に通わせていただきました。その塚原さんが確か5〜6年ほど前に、撮影が終わる度に「すぐ近くに画家さんの素敵なお庭がありますから、ご紹介しますよ」とおっしゃっていたことがありました。塚原さんがすすめてくださるのだから、きっとよい庭なのだろうとは思ったのですが、「画家さん」というワードがちょっと引っかかりました。

シモツケとオルラヤ
黄金葉のシモツケを背景にオルレアがふわふわと咲く優しげな組み合わせ。

僕のような「カメラマン」も「画家」さんも、平面にビジュアルを構築する点では同じ作業をしている訳で、僕にとっては普段気軽にお付き合いしている園芸好きの庭主さんたちとはちょっと違う……。気を使うのかなぁなどと頭をよぎり、その時はもし機会があったらという風に実行には至りませんでした。

その後、何かのタイミングで芝田さんが描いているのはボタニカルアートだと知り、俄然お会いしたい施主さんに変わったのですが、今度は、芝田さんのお庭が某雑誌に大きく取り上げられたのです。僕のような古いタイプのカメラマンは、他の媒体に載ったお庭にはしばらくは近づかないという“仁義”のような考えがあって、芝田さんのお庭には縁がなかったのだと諦めて、伺うことがありませんでした。

宮崎県で偶然の出会いから友達に

ガーデン
まるで山の中で自然に広がったシダの自生地を思わせるような、瑞々しく美しいシダが茂るエリア。

それから数年が経ち、僕が芝田さんに初めてお会いしたのは昨年の11月、熊本空港のロビーででした。宮崎の育種ビオラの火付け役である「アナーセン」の川口のりこさん主催の「新花を見る(買い付けも)ツアー」に偶然にも一緒に参加していたのです。

僕にとって育種ビオラは、今一番気になる花なのですが、芝田さんも育種ビオラを描いてみたいという思いがあって参加されたようでした。ツアーは2泊3日。コオロギノブコさんや石川園芸さん、大牟田さんなどの生産者さんのハウスを回って最新の花を見せてもらい、ツアー参加のバイヤーさんは買い付けをするなど、僕は撮影で忙しくも楽しい育種ビオラ漬けの3日間を送りました。生産者さんのハウスやアナーセンさんでの撮影中に「今井さんがどんな花を撮るのか気になって」と芝田さんが見に来たり、僕が「これは」と思った花を持って芝田さんに見せに行ったりなんてしているうちに、宮崎育種ビオラのお陰ですっかり芝田さんとはお友達に。最終日に「来春、撮影に伺いますね」と約束をして宮崎空港で別れました。

芝田さんのお庭へ初訪問

山中湖のガーデン
このカットだけは、どうしても朝の光が欲しくて何回も何回も同じ場所でカメラを構え、やっと撮れたお気に入りの1枚。

6月27日、朝6時。前日に芝田さんがメッセンジャーに送ってくれた手書きの地図のお陰で、一度も迷うことなく別荘地の森にある芝田邸に到着。ちょうどご主人が鹿除け用のネットを外しているタイミングでご挨拶をして、すぐにお庭に入れていただきました。事前に、このお庭を訪れた方のSNSの投稿を見て、可愛い空色のお宅や、お庭の雰囲気も大体は分かっているつもりでしたが、実際に庭に入ってみると、入り口からお宅までが広々とした園路があり、両サイドに高い木々が植わっていて、ゆったりとしたデザイン。森の中の爽やかな空気に包まれて、小鳥の声だけが聞こえる、とても静かなお庭でした。

芝田さんの庭
ナチュラルに統一されたお庭も、空色の建物があることで都会的にも見えてくるから不思議だ。

僕はたくさんのバラや草花が咲いているお庭を想像していたのでちょっと驚きました。園路を奥に進むと、左手につるバラが咲く空色のオシャレなお宅。右手にあるつるバラのアーチを潜って、ゆるやかな坂を上りながら宿根草とバラの植栽されたエリアへと続いています。当日の天気予報は晴れマークだったのですが、さすがにここは山中湖。朝の光が射したかと思ったら、たちまち霧に包まれてしまったり、霧が晴れてからも低い雲に覆われてしまったり……。その度に撮影を止めたり、また雲間から光が差してきて慌てて走って撮影を始めたり。なかなか忙しい撮影でしたが、結果的にはしっとりとした森の空気感を感じられる写真が撮れたと思います。

庭づくりの物語が詰まったアルバム

玄関のつるバラ
白い玄関扉を囲むように何種ものつるバラが壁面を伝い、一枚の絵のように美しい。

8時過ぎ、光が強くなってきたところで撮影は終了。そして、お宅の横の納屋に行ってみると、テーブルの上に庭のアルバムが置いてありました。手に取ってページをめくると、木を切って更地から土留めをしたり、雪の中での作業があったり、春の球根花の写真があったりと、だんだんとお庭が出来上がっていく様子が写っていました。どの写真に写っている2人も楽しそうに笑っていて、芝田夫妻がこの庭を大切に思っている事が伝わってくる、とてもよいアルバムでした。

さっと来て2時間ほど撮影して帰ってしまう僕の写真では、アルバムに写っているような様子は伝わらないなぁと思いながら、ご挨拶をして次の約束の軽井沢に向かいました。

この撮影日は、6月末の貴重な晴れの日だったようです。

きっかけはイギリス住まい

芝田邸のガーデン
庭はナチュラル、建物は都会的。とてもセンスを感じる芝田邸。

今回、この原稿を書くにあたり芝田さんがボタニカルアートを描くことになったきっかけを伺ってみました。

美智子さんは、ご主人のお仕事で3年ほどイギリスに住んでいたそうで、その時に何か新しいことに挑戦してみようと、植物をありのままに描く「ボタニカルアート」について、キュ—ガーデンとチェルシーフィジックガーデンのコースを受講したそうです。

緑の美しい庭
庭の中にいるはずなのに、まるで風景写真のよう。庭の主役はやっぱり木々の緑の美しさだと気付かされた。

僕も自称大のイギリス好きカメラマンです。20数年前にはガーデニング雑誌『BISES(ビズ)』から『イギリス家庭のガーデニングアイデア200』という書籍を出版してもらうために3年間、毎年6月のイギリスにライターである妻と通っていました。そんな経験もあって、芝田さんのイギリス暮らしや、キューガーデンとチェルシフィジックガーデンでコースを受講した経験を羨ましく聞きました。次回お会いした時は、ぜひイギリス話で盛り上がりたいところです。

東京で植物画の教室もされている芝田美智子さんのボタニカルアートは、インスタグラムでもご覧になれます。どれも素晴らしい作品です。

芝田美智子さんのインスタグラム

Credit


写真&文/今井秀治
バラ写真家。開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ローズカレンダー』も好評。

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