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カメラマンが訪ねた感動の花の庭。オールドローズと宿根草が訪問者を癒やす長野「ペンション・カスティール」

カメラマンが訪ねた感動の花の庭。オールドローズと宿根草が訪問者を癒やす長野「ペンション・カスティール」

これまで長年、素敵な庭があると聞けばカメラを抱えて、北へ南へ出向いてきたカメラマンの今井秀治さん。カメラを向ける対象は、公共の庭から個人の庭、珍しい植物まで、全国各地でさまざまな感動の一瞬を捉えてきました。そんな今井カメラマンがお届けするガーデン訪問記。第29回は、長野県軽井沢町の庭が素敵な「ペンション・カスティール」。オーナー自身が海外からもバラの苗を取り寄せ、完璧な手入れで訪問者をもてなすバラ咲くペンションの庭と撮影秘話をご紹介します。

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バラが素敵なペンションへ初訪問

モスローズの‘カンバーランド・ベル’
コンディションのよい花に巡り合うのがなかなか大変なモスローズの‘カンバーランド・ベル’が、丹羽さんのお庭だと何事もないように、こんなに綺麗に咲いていた。2017年6月20日撮影

今回ご紹介するのは、長野県軽井沢町で「ペンション・カスティール」を営む丹羽まゆみさんのオールドローズと宿根草の庭です。僕がこの庭に初めて伺ったのは2014年6月のこと。ガーデンストーリーでもおなじみの橋本景子さんから「軽井沢にあるバラの素敵なペンションのお庭を見せていただくことになったので、ご一緒にいかがですか?」と誘っていただいたのがきっかけでした。

バラ‘ローラ・ダボー’
オールドローズにはよくある話だが、以前からこの‘ローラ・ダボー’もいくつかの花が存在するといわれている。丹羽さんが、この花が本物だろうと話す、「カスティール」に咲く‘ローラ・ダボー’。2016年6月23日撮影

当時は僕も毎日のようにバラの庭の撮影をしていましたから、バラの咲くペンションも何軒か知ってはいました。ペンションの場合は建物が素敵なので、つるバラなどをうまく使うと簡単に絵になり、また、比較的ローメンテナンスの庭が多い印象でした。撮影当日も、今回の庭はどんな感じだろうと期待しながら、車で橋本さんと一路、軽井沢に向かいました。

バラの小道
お隣のペンションとの間の、それほど広くはないスペースをつるバラで演出したランブラーの小道。左手前は‘セブン・シスターズ’、その奥が‘ユアインネルン・アン・ブロ’、右が‘ローラ・ダボー’。株元に植わるのは宿根草とヤマアジサイ。このヤマアジサイのコレクションが素晴らしく、7月になると空色のグラデーションで株元が染まる。2020年6月20日撮影

旧中山道から細い道に入り、ナビを見ながら左折、右折と進むと、左手にたくさんのバラが咲く「ペンション・カスティール」が現れました。駐車スペースに車を止めて外に出てみると、右を見ても左を見ても、僕好みのピンクの可愛いバラが、これでもかというくらい咲いています。「これはよいお庭に誘っていただいた!」と、早く撮影を始めたくて、丹羽さんに挨拶するのもそこそこに、カメラを出して撮影を開始しました。

馴染み深いはずの品種を言い当てられず

バラの小道とアーチ
駐車場から見たランブラーの小道の入り口付近。ブルーのアーチには、左にイングリッシュローズの‘シンベリン’を。右が同じくイングリッシュローズの‘メアリー・ローズ’。奥が‘セブン・シスターズ’。足元の宿根草と低く咲いたバラが見事にコラボしていた。2020年6月20日撮影

レンズ越しに見るバラはどれも本当に可愛くて、すぐにシャッターを切りたい気持ちを抑えつつ、まずは品種名が書かれたラベルを探して撮っておかなくては……。そうしておかないと、後から名前の分からないバラ写真になってしまいます。探してみると、鉢植えのオールドローズにはラベルがあるのですが、見たことも聞いたこともない名前ばかりで、ちょっと困惑。地植えのバラは、どこにラベルがついているかも分からないし、なぜか花を見ても、さっぱり名前が浮かんできません。

バラ‘ファンタン・ラトゥール’
初めて「カスティール」に伺った時、あまりに綺麗なバラなので名前を聞いたら、僕の大好きな‘ファンタン・ラトゥール’だという。‘ファンタン・ラトゥール’だと気づけなかったことにショックを感じた。2017年6月20日撮影

あの頃は、オールドローズの撮影ばかりしていて、撮影に伺った庭主さんからは「さすがに今井さんは、バラの名前をよくご存じですね」なんて、いつも言われていたのに、「カスティール」のバラは全然名前が分からないし、丹羽さんに聞いても、聞き覚えのない名前ばかりでした。階段沿いのピンクの綺麗なバラも撮りたいと思って、丹羽さんに名前を聞いてみたら、「ファンタン・ラトゥールです」とのこと。‘ファンタン・ラトゥール’は、僕のなかで1番といってもいいくらい好きなバラなのに、「カスティール」に咲く子の花は、綺麗すぎて。僕の知っているオールドローズの‘ファンタン・ラトゥール’ではなくて、モダンローズじゃないかと思うくらい綺麗に咲いていました。

長野「ペンション・カスティール」のバラ
2017年は「バラのコンディションが素晴らしいので、雨が降り出す前に撮影に来ていただけたら嬉しいです」と丹羽さんから連絡が。急いで行ってみると、なるほど! どこを見回しても完璧で、なかでもこの‘マニントン・モーヴ・ランブラー’と‘ファンタン・ラトゥール’のフェンスは本当に綺麗だった。2017年6月20日撮影

軽井沢の気候のせいなのかと勝手に納得して帰りましたが、その後、この庭に通うようになってから、その理由が分かりました。軽井沢の気候もあるのでしょうが、一番の理由は、丹羽さんの花がら切りによるものだったのです。丹羽さんは、少しでも終わりかけた花がついているのが嫌なようで、僕からしたら、まだまだ綺麗な花であってもどんどん切ってしまいます。

たくさんのバラたちの中には初対面の品種も

長野「ペンション・カスティール」のバラの庭
手前のバラはまだ咲き出したばかりだが‘レイニー・ブルー’(左)と‘ローラ・ダボー’(右)の窓が可愛い。ブルーのデルフィニウムがいい仕事をしているガーデンファニチャーのあるエリア。2020年6月20日撮影

肥料も消毒も、上手に栽培しているのでしょうが、普通はオールドローズが満開のフェンスには、咲き進んだ花や、ちょうどよい花、咲き出しの花、 つぼみがそれぞれあって、中には少し傷んだ花があったり、ちょっと形が崩れた花があったりするものなのです。そんな中に輝くように咲く一輪の花を見つけるのがオールドローズの見方だと僕は思っていたのですが、「カスティール」では、咲き進んだ花や形の悪い花がないため、雰囲気が違って感じられたのだと思います。

また、「カスティール」で僕が聞いたことの無いバラが多いのは、咲いているバラの多くは丹羽さんが海外から輸入した苗だったからで、「カスティール」は僕にとって、まるでオールドローズ好きの子どもが、大学の研究所か何かに迷い込んでしまったくらい驚きがいっぱい詰まった魅力的なバラのお庭でした。

バラと宿根草の窓辺
窓辺のバラ、‘ルイーズ・オディエ’を背景に、宿根草とグラス類のコンビネーションが美しい。右から、ベロニカ‘フェアリーテール’、鮮やかなグリーンのグラスの隣はブルーのグラス、エリムス・マジェラニカスと同じく、ブルーのエリンジウム‘ビッグ・ブルー’。2020年6月20日撮影

帰ってフェイスブックにアップしたこの日の写真を見て、丹羽さんが「プロのカメラマンが撮るとウチじゃないみたいです。素敵に撮っていただき、ありがとうございました」とコメントをしてくださり、それからすぐにフェイスブック上でもお友達になりました。

「カスティール」に集まるバラ仲間たち

バラ‘ピンク・ギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンド’
2018年は、北海道から高橋かつえさんをはじめとした計3名のお客様をお連れしたら、いつものメンバーの他に、当時婚約されたばかりのデビッド・オースチン・ジャパンの平岡さんや京成バラ園芸の入谷さんもいらしていて、とても賑やかな日だった。この綺麗に咲いた‘ピンク・ギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンド’の前で記念撮影をしたのも、よい思い出。2018年6月24日撮影

毎年6月20日前後に丹羽さんのオールドローズの友人が各地から集まり、「カスティール」に泊まってバラを見たり、食事をしたり、夜遅くまでおしゃべりしたりの楽しいイベントがあるのですが、翌2015年にはそのイベントに誘われて、2016、2017年には写真講座もさせていただきました。メインイベントは、京成バラ園芸の入谷さんが持ってくる、いわゆる“入谷苗の販売会”で、オールドローズ好きが目の色を変えるのですが、僕も毎年少しだけ買わせていただいています。

バラの咲く窓辺
「カスティール」では、ちょっと珍しい真紅のバラは‘ゲシュヴィンツ・シェーンステ’。手前のピンクのバラ‘ミストレス・クイックリー’と株元の茶系のグラスとのコンビネーションは、大人の技を感じる。2020年6月20日撮影

2018年も2019年もカスティールに通って、カレンダー用のオールドローズの写真を撮らせていただきました。2018年辺りから、庭にはグラス類をはじめとする宿根草がどんどん増えて、とてもいい雰囲気になってきたので、「いつかガーデンストーリーに載せられたらいいな〜」と思っていました。今年はコロナの影響で、軽井沢は遠慮しないといけないかなと諦めていたのですが、丹羽さんのフェイスブックの写真があまりに素晴らしく綺麗だったので、マスク着用、ソーシャルディスタンスを守り、万全な備えをして訪問するということで許可をいただきました。今年6月20日の午後に伺って撮影をしてきた写真も本記事にご紹介しています。

長野「ペンション・カスティール」のバラの庭
白い窓を背景に、空色のアーチがおしゃれな空間。アーチのバラは‘ブランシュ・ド・ベルジーク’、手前の低く咲くピンクのバラは‘フロキシー・ベイビー’。2020年6月20日撮影

今回この記事に掲載するために選んだバラは、比較的ポピュラーなものが多かったのですが、「カスティール」には、本当にちょっとやそっとでは見ることのできないオールドローズがいっぱいあります。ここに写っていない宿根草も多種あり、6月中旬にはランブラーが主役だった小道では、7月になると足元にヤマアジサイのコレクションが咲き出して主役が交代し、これもまた素晴らしいのです。さらには、早春のクリスマスローズや球根類も見逃せません。植物好きの方には、軽井沢方面に行く機会がありましたら、ぜひ連絡して寄らせていただくことをおすすめします。

Credit


写真&文/今井秀治
バラ写真家。開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ガーデンローズカレンダー』も好評。

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