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コミュニティを育て健康を育むガーデンセラピー〜日本ガーデンセラピー協会ビジネスセミナーより〜

コミュニティを育て健康を育むガーデンセラピー〜日本ガーデンセラピー協会ビジネスセミナーより〜

Svetlana Gorbacheva/Shutterstock.com

暮らしに緑を積極的に取り入れ、健やかに生きることを提唱している日本ガーデンセラピー協会。2022年7月28日(木)に行われた第3回ビジネス専門セミナーでは、ガーデンセラピーを活用した国内事例が紹介されました。保育施設や病院などの公共施設の実例や、住宅のエントランスデザインがリハビリにつながり身体機能が回復した例など、最先端の貴重な情報に参加者たちは熱心に聞き入っていました。

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ガーデンセラピーとは

ガーデンセラピー
Svetlana Gorbacheva/Shutterstock.com

緑があるとホッとしたり、花の香りをかいで気分がリフレッシュしたりという経験は、誰しも覚えがあるものでしょう。これまで主観的な感覚として語られてきた緑による癒やしの経験は、近年の研究によって科学的に裏付けされ始めています。

緑が人の身体に及ぼす影響

例えば、ある特定の植物の香りをかいだ際に、脳の血流が刺激され認知機能が上がったり、植物がそばにあるだけでストレス値が下がったり、また血圧を正常化させる働きなども明らかになっています。

ガーデンセラピーを学べる日本ガーデンセラピー協会

こうした科学的な裏付けに基づいて、緑を暮らしの中に積極的に取り入れて、健やかに生きようというのが「ガーデンセラピー」という考え方です。日本ガーデンセラピー協会は、こうした学術的な研究の最新情報を発信したり、暮らしのさまざまなシーンで効果的に植物を取り入れるすべを、講習会などを通じて広く普及しています。

ガーデンセラピー協会
(左より)水口真理子氏、岩崎寛准教授、和泉玲実氏、新井規夫氏

ガーデンセラピーの実例を紹介したセミナー開催

2022年7月28日(木)に行われた同協会主催のビジネス専門セミナーでは、株式会社いずみガーデン 設計部長 和泉玲実氏によるガーデンセラピーを取り入れた社会福祉施設や公共・商業空間の事例、及び株式会社緑と暮らしの庭設計 取締役 新井規夫氏による一般住宅へのガーデンセラピーの提案事例が紹介されました。また岩崎寛千葉大学大学院准教授(同協会理事)、株式会社メディカル・デザイン 代表取締役 水口真理子氏(同協会理事)を加えたトークセッションによって、予算やその後の管理など、現場の詳細についてテーマを深めて話が展開されました。

ガーデンセラピーを取り入れて設計された保育園の庭

いずみガーデン

「いずみガーデン」和泉玲実氏からは、自身が設計した「エンジェル・フィールド」の事例が紹介されました。この庭は北海道旭川市にある認定こども園「エールこども園」の園庭です。

もとは砂が敷かれた広大な園庭で、緑がなく大型遊具のみが設置されていたため、職員たちは常に危険を回避することに気を張らなければならない環境でした。より子どもたちが自由に動くことができる遊び場に、そして同時に子どもにも職員にも、送迎をする家族や近隣の人にとっても癒やしの場にしたいという園の依頼を受け、和泉氏はガーデンセラピーの考えを取り入れたを設計・施工しました。

多様性を受け止めるガーデンセラピーのデザイン

エールこども園

園庭は上図のように全体的に芝生を敷き、子どもたちが転んで擦り傷をつくる心配を大幅に減少させました。さらに、大型遊具の代わりに「つちのひろば」や「つきやま」、ユニークな形の木々や植物などを遊びの場とし、怪我のリスクを減らしながら創造性を刺激することに成功しています。各エリアはそれぞれ空間特性が異なり、例えば「のっぱら」は駆け回ることができ、「つちのひろば」ではじっくり泥団子を作ることができます。このようにエリアごとに「動」と「静」の特性を持たせて、子どもたちの多様性や日々移り変わる気持ちの変化を受け止めることを意識しました。

ガーデンセラピーは庭を介した人との関わり方

エールこども園

また、木製アーバーの下やキッズカフェなどにはガーデンファニチャーを設置し、人が集まったり、くつろげる場に。子どもを安心して遊ばせながら、お迎えに来た親同士や先生がリラックスして話せる場所になっています。ガーデンセラピーは、植物そのものに癒やされることのほかに、植物を介して人と人とが関わり、いい関係を築くことも重要な目的としています。

ガーデンセラピーに通ずるバイオフィリックデザイン

バイオフィリックデザイン

それぞれのエリアは曲線でつながり、小道も花壇の縁も有機的なラインを描いています。このデザインは和泉氏が大事にしているバイオフィリックデザインの考えがもとになっています。バイオフィリックデザインとは、自然とのつながりを感じられるデザインのこと。和泉氏は自然の生み出す柔らかな曲線やバランスを庭デザインに生かすだけでなく、設計図には落とし込めない“自然の息吹”を大切にしていると話します。

「例えば、木陰や木漏れ日の心地よさとか、葉擦れの音、草花の香り、庭を訪れる小鳥のさえずりなどは設計図に描けるものではないですが、そういう目をつむっていても感じられる庭の心地よさをデザインすることが、私の考えるバイオフィリックデザインであり、ガーデンセラピーに通ずると思います」(和泉氏)

この庭を舞台に、ワークショップや植栽活動も行っており、こうした継続性のある「仕掛けのある庭づくり」も、園の子どもたちだけでなく地域をよい方向へ動かしていく原動力となっていると語りました。

ガーデンセラピーでは‘間接的’な働きかけを意識することも大事

ガーデンセラピー

和泉氏の話を受け、岩崎氏は「エンジェル・フィールド」における‘間接的’な働きかけの効果を評価しました。

「庭や空間をデザインするときには、対象者のことだけを考えがちです。エンジェル・フィールドでいえば、対象者は子どもたちですね。しかし、彼らにとって本当によい環境を作ろうとするならば、その周囲のことも考える必要があります。職員や親、地域の人々は子どもたちと切り離せない、むしろ大きな影響力を持つ存在です。エンジェル・フィールドでは、そうした周囲の大人たちへの癒やしや楽しみというものも考えてデザインされているところが素晴らしいと思います。大人が元気になったら、接する子どもも元気になります。これは間接的園芸療法といえると思いますが、庭や空間デザインでは間接的な働きかけも意識することが大切です。周囲のコミュニティ全体を意識したデザインは、対象者にとっても結果的によい影響をもたらすということが、この事例では示されていると思います」(岩崎氏)

ガーデンセラピーを取り入れた個人邸実例

ガーデンセラピー協会

緑と暮らしの庭設計、新井規夫氏からは、個人邸のガーデンセラピー提案事例が紹介されました。新井氏が近年、若い施主から受ける依頼で増えているのが、玄関アプローチに「スロープが欲しい」という要望です。将来、足が悪くなったときに車椅子を使用できるように、というのがその理由ですが、元気に歩ける今からそのような要望が出ることに驚いているといいます。将来を考えることは大事なことですが、足が悪くなったときに必要なのは、必ずしもスロープではないと、新井氏はあるエントランスデザインの事例を示しました。

ガーデンセラピーでリハビリ効果を発揮

ガーデンセラピー協会

足を悪くした施主が車椅子を使えるように、玄関までのアプローチにスロープを設計するとともに、小さな螺旋階段も併せて設置。螺旋階段は円形の花壇を囲むようにデザインし、花壇にはシンボルツリーとその株元に季節の花を植栽しました。すると、足の不調によって家の中に閉じこもりがちになっていた施主は、花壇の花を眺めたり、手入れをするためにスロープではなく螺旋階段をしばしば使うようになりました。花壇の花を手入れするには、螺旋階段を数段降りたほうが作業しやすいため、施主は必然的に螺旋階段を上り下りするのが日常的に。それが自然に足のリハビリとなって、好きだったガーデニングをもう一度楽しむことができるようになったといいます。

ガーデンセラピー
写真/https://sora-niwa.co.jp/gallery/works/works.htmlより

これは、日々変化する植物が新鮮な発見や喜びをもたらし、それが歩く意欲を刺激して能動的なリハビリを促し、身体機能を回復する大きなきっかけとなったというガーデンセラピーの実例です。ガーデニングには程よい運動やリハビリ効果があり、さらに緑による癒やしの効果もあります。それらを療法の一つとして捉えたのが園芸療法で、ガーデンセラピーの考えの基礎には園芸療法も含まれています。ガーデンやエクステリアの設計者がこうした庭の意義やガーデニングの有効性を認識した上で設計を行うことによって、施主の暮らしや人生は大きく変わるということが示された貴重な講演となりました。

ガーデンセラピーを取り入れ庭もライフステージごとに変化を

ガーデンセラピー協会

岩崎氏は庭もライフステージに合わせて柔軟に変えていくことが健康につながると言います。

「例えば、働く世代は日中、家にいないことも多いでしょうから、帰ってきて‘眺めるだけの庭’がいいでしょうし、子どもが生まれたら‘遊ぶ庭’に、リタイアしたらガーデニングをたっぷり楽しめる‘植物いっぱいの庭’に、というように変化させることが大事だと思います」(岩崎氏)

庭をライフステージに応じて変化させる提案は、予算の問題をクリアすることにもつながると和泉氏も言及します。

「庭を発達していく絵だと捉えて、変化を楽しむことを伝えるのも設計者の大事な仕事です。その上で、最初から完璧でなくてOKなので、徐々に作っていく柔軟な庭設計の提案ができれば、限られた予算もクリアできます」(和泉氏)

ガーデンセラピーの主役は人。人の笑顔を生むデザインを

ガーデンセラピー協会

日本ガーデンセラピー協会理事長の高岡伸夫氏は、これからの庭やエクステリアデザインには、ガーデンセラピーの考えを取り入れ、人が主役であることが不可欠だと断言します。ライフスタイルが大きく変容する今、モノを提供するのではなく、豊かな時間や暮らしを提供することが大切。なかでもガーデン&エクステリアは施主だけでなく隣近所とのつながりにも影響を及ぼし、デザイン次第で地域社会との豊かなつながりを育む場となります。これは物理的に外とつながっている庭空間ならではの可能性であり、人々の健やかさの基盤となる生活空間としてのガーデン提案につながるよう、今後も日本ガーデンセラピー協会ではさまざまなセミナーを行っていくと語りました。

主催:一般社団法人日本ガーデンセラピー協会
https://www.garden-therapy.org/

Credit

文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

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