話題の園芸家・太田敦雄が語る 初の展示ガーデン「火の鳥」3【完結編】

トロピカルな植物から懐かしい素材、ナチュラルな宿根草など、分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんがお届けする連載「ACID NATURE 乙庭 Style」。ここでは、2018年4~6月に「国営武蔵丘陵森林公園」内で公開された、乙庭初の展示ガーデン製作ドキュメントの完結編をお届けします。
目次
植栽劇「火の鳥」完結編

2018年4~6月に、埼玉県滑川町「国営武蔵丘陵森林公園」内にある都市緑化植物園にて公開された、乙庭による初の展示ガーデン「火の鳥」のドキュメント。完結編となる今回は、現場での植栽設営から終演まで、そして完成作品の解説です。新しいお庭づくりの参考・刺激になれば幸いです。
併せて、『「火の鳥」1【構想編】』『「火の鳥」2【デザイン編】』もご覧ください。
いざ、設営へ。

2018年4月の第1週。週末の開幕に向け、いよいよ植栽劇「火の鳥」設営スタートです。3月中にデザインも材料の調達も間に合い、準備も万端。自動車数台に植物を満載して、会場となる国営武蔵丘陵森林公園へと向かいました。

今回は、場所の微妙な空気感を読んでアドリブが効かせられるように、デザインの立体的な骨格となるメインプランツの配置のみを図面化(上図)。それ以外のグラウンドカバーなどの植物は、「火の鳥」のテーマに合わせて、キャラの立った出演者(品種)を厳密に決め、数量多めに準備し、現地でアレンジすることにしました。即興要素が多い分、その場でのひらめきも大切になってくるので、緊張感も高まってきました。

現場到着。事前に業者に手配してあった敷き詰め用の浅間石も、置き場所を指定した通り花壇の端にまとめて置いてあり、まず一安心。順調な滑り出しです。
はやる気持ちを抑え、植える前には必ず配置してバランス確認を

事前に植栽図を作成してあっても、実際の植栽では高さや株張り・樹形など、平面図では表せない植物個体のキャラクターやボリューム感を観察し、バランスよく配置しなくてはなりません。
また、現地に行ってみないと分からない周囲の景色や日照条件など、図面からは読めない環境要素もたくさんあるので、現場での植物の向き・配置の微調整はとても重要です。

音楽にたとえるなら、クラシックのように作曲者の意図を楽譜から読み解いて誠実に再現する厳格さと、ジャズのようにその場の雰囲気に合わせてアドリブを繰り出していく柔軟な即興性の両方を発動して植栽にあたります。

時間も限られているので、早く植え始めたいのはやまやまなのですが、私の場合、植える前に実際に植物を配置して、向きや位置を入念にチェックします。庭の植栽でもそうですが、いったん植えたものを後からやり直す手間を考えると、植える前によく考える方が手戻りがなく絶対的に効率がよいのです。

そして、深く考えられた配置からは、必ず、考えられただけの凄みや知性が漂うものです。
20世紀を代表する建築家の一人、ミース・ファン・デル・ローエが残した言葉「神は細部に宿る」のように。
配置が決まったら一気に植え込み!

入念に植物の位置を調整し、配置が決まったら、いざ、植え込み作業です。
植物の場所も向きもしっかり決めてあるので、この時点で植え込みはかなり単純作業化されています。あとは全員で黙々と植えて完成へと進むのみ。植える前にじっくりと細部まで考えておくことで、ちょっと進んでは中断してあれこれ悩んだり、やり直したりという時間や手間を大幅に省けます。勢いとパワーで乗り越える場面なので、ここで迷いが生じないようにしたいですね。
設営にあてられた期間は5日ありましたが、全員で意識を集中して取り組み、敷石や最終調整も含め、手抜かりなく2日間で設営完了しました。

焼け焦げた大地が、野に還っていく再生のストーリー 植栽劇「火の鳥」、開幕です!
植栽劇「火の鳥」各部解説

では、植栽劇「火の鳥」各部を解説します。
ケヤキの木陰となるシェードエリア。

丸太のような芽吹き前の樹性シダ、ディクソニア・アンタルクティカ(Dicksonia antarctica)を中心に、

オシダ(Dryopteris crassirhizoma)など鳥の羽根を思わせる葉ものや、

ユーフォルビア ‘ファイアーグロー’ (Euphorbia griffithii ‘Fire glow’)などで構成。
幕開けは、モクレン ‘イエローバード’ (Magnolia liliiflora ‘Yellow Bird’)の開花からスタートする目論見。まさにドンピシャリ、会期初日にほころび始めました。

日照のよい中央遠路に沿っては、火焔の禍々しさを象徴する植物や、炙り焦がされたグラスや鳥のモチーフを感じさせる植物を転々と配置。「噴火後の世界」を表現します。







とドドナエア ‘プルプレア’(Dodonaea viscosa ‘Purpurea’)
毒々しい赤花や棘もの、極楽鳥を感じさせるリューコスペルマムなど、それぞれのキャラクターが異彩をぶつけあいつつ、不思議な交響を奏でていきます。
4月上旬の開幕以降、春が進むにつれ勢いよく芽吹く、ホスタやシダ、グラス類など落葉性宿根草も数多く仕込まれており、会期中にどんどん焼け石の野原が緑に覆われていく、破壊から再生へのストーリーです。
「火の鳥」終演。そして次の舞台へ!

約2カ月の展示期間も終わり、6月の上旬に「火の鳥」を撤収しました。会期の最後はグラス類も緑の葉を伸ばし、開幕時には丸太のようだったディクソニアも大きな葉を展開していました。

焼け野原が野に還っていく雰囲気は表現できていましたが、一方で、想定通りにいかず、残念だったこともありました。
赤い炎や、ざわめきたつ火の鳥のイメージで会期ラストを盛り上げる予定だった、モナルダ (和名:タイマツバナ) ‘ファイアーボール’ が、会期中に開花が間に合わず、緑の葉の状態で終演となってしまったのです。

事前に開花期をよく調べたうえで、モナルダを起用したのですが、その辺は会期中に人工的な補植を行わず、自然の見えざる手に導きをゆだねたプロジェクトだったので、人間の計算通りにはいかないこともありますよね。それにつけても、モナルダの真っ赤な花に覆われたラストシーン、見たかったです。今後に向けての大きな学びとなりました。
以上、デザインから調達・設営までに与えられた期間の短さや、「火」という難しいお題など、きびしい条件のもと挑んだ乙庭初の展示ガーデン「火の鳥」、これにて終劇です。
「火の鳥」は、一介の素人園芸家だった私が、編集者や建築家に見出していただき、ボタニカルショップ ACID NATURE 乙庭を立ち上げ、ガーデンデザイナー、執筆者としても駆け抜けてきた、この約10年の表現活動の一つの集大成となりました。
2019年の乙庭は新たなステージへ

そして、2018年末現在。2019年竣工予定で、ACID NATURE 乙庭の新たなステージとなる乙庭新社屋の工事が進んでいます。建築家の藤野高志/生物建築舎さんとACID NATURE 乙庭とのコラボレーションで、私の実家をフルリノベーションして変化(へんげ)させる、攻めのプロジェクトです。
最終的には建築と植栽が一体的に絡み合う空間となりますが、まずは建築内装のパートから工事進行中です。
建築的にも植栽的にも画期的な試みをたくさん盛り込んだプロジェクトです。詳細は今後のお楽しみ。ほんの少しだけ予告させていただきますね。

乙庭の新社屋では、内装のほぼすべてにさまざまなメタリック塗装を施し、この建物(つまり私の実家)への、ほろ苦くやるせない記憶を薄い塗膜の下に封印します。

過去への対峙と決着、そして未来へと進むストーリーです。
では、次なる幕開けへ。2019年も、より幅広く刺激的な植栽・園芸の世界を発信していきます。どうぞお楽しみに!

「ごらん火の鳥だ 私たちを招いている さあ行こう あの鳥が導く方に! 私たちの世界へ!」
(手塚治虫 漫画家 1928 – 1989)
併せて読みたい
・ 話題の園芸家・太田敦雄が語る 初の展示ガーデン「火の鳥」1【構想編】
・話題の園芸家・太田敦雄が語る「ACID NATURE 乙庭 Style」とは
・乙庭Styleの植物1「懐かしカッコいい! 耐寒性のアロエはいかが?」
Credit

写真&文/太田敦雄
「ACID NATURE 乙庭」代表。園芸研究家、植栽デザイナー。立教大学経済学科、および前橋工科大学建築学科卒。趣味で楽しんでいた自庭の植栽や、現代建築とコラボレートした植栽デザインなどが注目され、2011年にWEBデザイナー松島哲雄と「ACID NATURE 乙庭」を設立。著書『刺激的・ガーデンプランツブック』(エフジー武蔵)ほか、掲載・執筆書多数。
「6つの小さな離れの家」(建築設計:武田清明建築設計事務所)の建築・植栽計画が評価され、日本ガーデンセラピー協会 「第1回ガーデンセラピーコンテスト・プロ部門」大賞受賞(2020)。ガーデンセラピーコーディネーター1級取得者。(公社) 日本アロマ環境協会 アロマテラピーインストラクター、アロマブレンドデザイナー。日本メディカルハーブ協会 シニアハーバルセラピスト。
庭や植物から始まる、自分らしく心身ともに健康で充実したライフスタイルの提案にも活動の幅を広げている。レア植物や新発見のある植物紹介で定評あるオンラインショップも人気。
「ACID NATURE 乙庭」オンラインショップ http://garden0220.ocnk.net
「ACID NATURE 乙庭」WEBサイト http://garden0220.jp
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