フェンスやトレリスにつるを絡めて初夏から秋まで紫の花が咲く、ツルハナナス。オーストラリアで出会ったツルハナナスはおしゃれだった! と言うガーデンプロデューサーの遠藤昭さんの自宅では、長年、壁面を隠す緑化植物としても活躍しています。そんなツルハナナスの特徴や育て方のコツ、同一視されがちなヤマホロシとの違いなどについて教えていただきます。
目次
丈夫なツルハナナスとの出会いはオーストラリア

ツルハナナスという植物をご存じでしょうか?
あまりメジャーではないかもしれませんが、つる性で丈夫で花期が長く、トレリスなどに絡めて咲かせてもお洒落。壁面緑化などにも向く植物です。私が初めてツルハナナスに出会ったのはオーストラリアのメルボルンに住んでいた時のこと。お隣さんの広い芝生の庭で、ウッドデッキのフェンスに絡み、白と紫の花が咲いていて、とても洒落た植物に見えました。

それがツルハナナスだったということを知ったのは、帰国して数年経って、園芸店で見つけた時でした。メルボルンでは、とてもお洒落な植物の印象だったので、「ツルハナナス」という和名には正直、ちょっとガッカリした記憶が。なんで、茄子なの? と思いました。

とは言うものの早速購入して、我が家のフェンスと擁護壁を緑化しようと植え付けました。すると、成長が早く、凄い勢いでフェンスと擁護壁を覆うようになりました。今では、すっかり擁護壁に蔓延って壁面緑化をしてくれています。

冬でも咲くことがあるほど年中咲いてくれるし、丈夫で長もち。コンクリートの擁護壁を緑で隠してくれているので、ありがたい存在です。

私は「名前は花がナスに似ているから、ツルハナナスというのだろう」くらいにしか思っていなかったのですが、ツルハナナスの学名がSolanum jasminoidesで、野菜のナスの学名がSolanum melongenaと、同じナス科の植物であることを知ったのは、少々、驚きでした。そしてSolanumには何と世界に1,700種もあり、それらには草本、低木、高木、つる性があって全世界に分布する一大グループであることも分かったのです。
ツルハナナスの基本情報

学名:Solanum jasminoides
和名:ツルハナナス(蔓花茄子)
科名 / 属名:ナス科 / ナス属(ソラナム属)
原産地:南米のブラジル、エクアドル、パラグアイ
形態:つる性木本

花は集散状に付き、紫がかった水色と白があり、白から水色に変化するものもあります。我が家の斑入り品種Solanum jasminoides ‘Variegata‘の花は白のみで、変化はしません。

これが、斑入り品種Solanum jasminoides ‘Variegata‘です。
ツルハナナス=ヤマホロシではない!
じつは、今回この記事を書くにあたっていろいろ調べていると、国内ではツルハナナスとヤマホロシが同一視され、ネット上でも苗の流通でも、実態はツルハナナス=ヤマホロシとして扱われていることが分かりました。
本来のヤマホロシの基本情報は以下です。
学名:Solanum japonense
和名:ヤマホロシ 別名、ホソバノホロシ
原生地:中国、朝鮮半島、日本

ヤマホロシの花は淡紫色で5つに深く分裂し、花径1cm程度で、はじめは平たく開花しますが、のちに各裂片は強く反り返ります。裂片の中央には黄緑色の腺体があります。
ということで、ツルハナナスとヤマホロシは別の品種なのです。
ツルハナナスの魅力
【魅力1】さまざまな花との相性がよくてお洒落
我が家のツルハナナスは、育て続けてかれこれ20年以上になりますが、さまざまな植物とコラボする写真が残っています。

まずは、つるバラの‘ピエール・ドゥ・ロンサール’とコンボルブルスとの競演です。
青いコンボルブルスの花と入り乱れて咲き、‘ピエール・ドゥ・ロンサール’の華やかさを引き立てています。

つる性のナニワイバラもツルハナナスもどちらも成長が早く、やや暴れますが、両方とも丈夫で白花同士で清楚に競演してくれました。

半つる性のルリマツリも垂れ下がるので、白と水色の花が爽やかでもあり、量感もたっぷりで見た目もゴージャスです。
【魅力2】立体的に育てられる
つる性なので、トレリスや行燈仕立て、さらには擁護壁などの壁面緑化に最適。花壇や植え込みのアクセントとしてトレリスに仕立てるのもお洒落です。

我が家は公道より住宅が高い位置に建っていて、歩道に面してコンクリートがむき出しの擁護壁が見苦しかったのですが、敷地の縁沿いに植えたツルハナナスは、数年で壁面を覆い隠してくれました。こんな緑化が低コストで自分でできて、花もきれいなので道行く人にも好評です。
ツルハナナスの育て方

最後に、ツルハナナスの育て方と手入れについて解説します。
育てる場所
原産地がブラジル、エクアドル、パラグアイで熱帯~亜熱帯の植物なのですが、耐寒性があり、私が住む神奈川・横浜でも冬に葉が散ることがありません。耐寒温度はマイナス5℃とされています。関東以西地域ならば、鉢植えでも冬に屋内に取り込む必要はありません。日当たりのよい所で育てます。日照不足になると他の植物同様に花数が少なくなります。我が家は、西日の当たるコンクリートの擁護壁を隠すように上部から垂らしていますが、西日にも耐えています。
栽培用土
庭に植える場合は、一般的な植木や草花のように腐葉土を漉き込んで植えこみます。鉢植えの場合は、通常の赤玉土:腐葉土=3:2または、市販の園芸用土でOKです。
日頃の水やり
地植えで成長すれば不要ですが、鉢植えは通常の植物同様に表土が乾いたらしっかり与えます。
施肥
地植えは、発酵油粕を寒肥として与えるとよいでしょう。鉢植えは、液肥、または置き肥を成長期に施します。
剪定
生育旺盛でかなり暴れるので、地植えの場合は花後の秋にバッサリ剪定しておくとよいでしょう。成長期にはつるがあちこちに伸びてくるので、随時誘引して、よけいな枝を剪定します。
増やし方
挿し木で比較的簡単に増やせます。他の挿し木と同様に、長さ10cm弱の枝を穂木とし、葉を減らして鹿沼土などの清潔な土に挿します。熱帯植物で発根には温度が必要なので、6~7月が適期です。
病害虫の心配
まずありません。20年間でゼロでした!
ツルハナナスの仲間をご紹介
付録的情報として、ツルハナナスの仲間、Solanumをご紹介しましょう。
まずはナスから(学名:Solanum melongena)

ツルハナナスは本当にこのナス(茄子)の仲間なのです。ナスは、ナス科ナス属の灌木性多年草です。ナスの原産地はインドの東北地方で、中国から8世紀以前に日本へ伝わったとされています。
ツノナス(学名:Solanum mammosum)

よく花材に使用されますが、これも原産はブラジルです。ツノナスもツルハナナスの仲間だったとは驚きです。
ルリヤナギ(学名:Solanum melanoxylon=Solanum glaucophyllum)

我が家の庭にある常緑で小低木のルリヤナギ(琉球柳)もツルハナナスと同じ仲間とは……。確かに花は似ていますね。
このように一つの植物を深く調べると、派生した情報までたどり着きます。植物って、知れば知るほど面白いですね。秋ナスの美味しい季節ですが、食卓で秋ナスに出会ったら、ツルハナナスなど仲間のことも思い出すと、もっと美味しく召し上がれるのでは?
Credit
写真&文 / 遠藤 昭 - 「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー -

えんどう・あきら/30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。川崎市緑化センター緑化相談員を8年務める。コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施し、園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。趣味はバイオリン・ビオラ・ピアノ。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)、『はじめてのオージープランツ図鑑』(青春出版)。
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