ライラックはヨーロッパ原産の落葉低木。ヨーロッパでは街路樹として植えられ、花が咲くと春が来たと喜ぶそうです。日本の桜と一緒ですね。1輪ずつの花こそ小粒でも、香水の原料にもされるほど、香りのよい花としても知られています。この花の季節には部屋に迎えて、やさしい香りを楽しんでみませんか? ここでは、東京・自由が丘の花のアトリエ『ランコントレ』の大髙令子さんに、ライラックを美しく飾るためのコツを教えてもらいました。ぜひ、参考にしてください。
目次
葉つきで飾るなら「国産」のライラック
ところで、切り花のライラックはいつからいつまで、花屋さんに出回るかご存知ですか? なんと真冬の1月から始まり、梅雨入りの便りも届く6月中旬まで! 初夏の花のはずが、ずいぶん長い期間、流通しています。そのわけは、「輸入」と「国産」の花でリレーしているため。その年、最初に登場するのは、おもにオランダからの輸入のライラック。1~4月に花屋さんに並びます。そして、桜前線が北上する4月中旬に国産のライラックがいよいよシーズン入り! そのあと、6月中旬まで、産地を変えながら比較的、長く出回ります。
では、国産のライラックはどこから来るのでしょう? 東京・世田谷市場の仲卸に尋ねたところ、切り花ライラックの産地は埼玉、長野、山形、群馬。そして、ライラック祭りでも知られる北海道。4月中旬に埼玉から始まり、点々と産地を移しながら、5月下旬、北海道産の花が出回り始めたら、その年のライラックはフィナーレのシーズンを迎えます。
今年はライラックを飾り忘れてしまった…なんてことにならないように、ぜひ覚えておいてくださいね。
冷涼な気候を好むライラック。↓の写真は、国内でもっとも栽培が盛んな長野・須坂市での露地栽培の様子です。海外では6~7mもの樹高になるライラックもあるようですが、ここでは2mほどと小ぶり。それでも、花を収穫できるまでには、なんと10年はかかるそうです。生産者の皆さんが手塩にかけて育てたライラック。精いっぱい、きれいにいけてあげたいものです。

須坂市では、紫からピンク、白、ブルーとさまざまな色の花を栽培していますが、最近人気なのは「ピンクのライラック」。ふんわりとやさしげで、母の日に向けて注文が増えるそうです。初夏は時期的に結婚式が多いため、白いライラックも人気とか。

さて、早くから楽しめる輸入のライラックと、旬の初夏に出回る国産ライラック。そのふたつには大きな違いがあるんです。それは…葉の有り無し。
輸入の場合、花の鮮度を保つために葉をすべて落とした状態で入ってくるのに対し、国産は“葉つき”! 葉つきのライラックの需要が高いことに加え、鮮度のあかしとして、みずみずしい葉をつけたまま出荷されます。

ライラックの葉は、このようにとても明るい緑色をしています。オンシーズンに国産の花を飾れば、初夏の爽やかさをたっぷりと感じることができますよ。
ライラックを飾るときに、必要なアイテムってあるの?
では、飾り方へと話を進めていきますね。ライラックをいけて楽しむときに、なにか特別なものが必要なわけではありません。ほかの花と一緒。ただし、花木であるため、下処理のための道具が、ほかの草花とは少し違います。
必要なアイテム
・花をいけられる器
・花切りバサミ
・ナイフもしくはカッター
・金槌と厚手の木の板
・新聞紙
・バケツなどの深い容器
花を飾るための器は、ピッチャーなどの日常の器でもOKです。また、水を入れられるガラス瓶などを併用するとバスケットにもアレンジできます。
そして、ハサミだけは必ず、「花切りバサミ」を用意しましょう。普通のハサミで花の茎を切ると、水の通り道である“導管”がつぶれてしまう可能性が大だからです。花の茎をつぶさずにカットできるよう工夫された、花切りバサミは100円ショップでも購入できるので、持っていなかったらぜひ、ご用意を! 花切りバサミは使うたびに洗って汚れを落とし、しっかり水分を拭いておくと、切れ味をキープできます。
家庭で楽しむなら、吸水性スポンジはいりません。とにかく「水が大好きなライラック」なので、直接、水にいけてあげましょう。大きなブロックの吸水性スポンジを使うぶんには安心ですが、小さくカットしたスポンジでは、あっと言う間に水不足に…。ボウル形などの、どうしても花が留まりにくい器を使う場合は、剣山を使うのも手です。
金槌や木の台などは水あげに使います。使い方は、つぎの項目でご説明します。
ライラックを美しく飾るために、準備したいこと
美しく飾るための大前提として、花屋さんでは、鮮度のよい花を選ぶことが肝心です。でも、年中ある花ではないため、見分けるのは難しそうですね…。
↓の写真を参考にしてください。左の花は鮮度が落ちた状態で、右は咲いたばかりのいきいきライラック。左の花に茶色く変色した花が交っているのにくらべ、右のよい花は、すべてまっ白! よく見て。水が行き渡っているサインとして、花穂全体が膨らんでいます。

繰り返しになりますが、ライラックは「花木」です。木の花。ほかの花木がそうであるように、少々、水落ちしやすいという特徴があります。花木の水あげの方法は以下の2通り。
方法1 枝を叩いて、割る
まず、金槌か花バサミの柄で枝の根元を叩きます。そう、専門用語でいうところの「根元割り」。↓の写真のように枝が縦に割れるまで、力を入れて叩きましょう。そのあと、新聞紙で包んだら(根元の割った枝は露出させます)、すぐに水を張ったバケツにいけ、ひと晩、しっかりと水を吸わせます。
なお、枝をテーブルの上で直接、叩くと、テーブルを傷つけるので、必ず、厚い木の板かレンガの上で叩くこと。そのどちらもなかったら、ベランダなどのコンクリートの上で。

方法2 ハサミで割って、表皮をそぐ
細い枝の場合は、この方法でOKです。枝の切り口にハサミの刃を入れて、十字に切れ込みを入れます。さらに、ナイフかカッターで、表皮をそぐことで水が上がりやすくなります。その後、新聞紙で包み、水にひと晩、いけて休ませるのは方法1と同じです。

いずれの場合も、切り口から7cmほどを目安に枝を割ると、水がしっかりと花に届きます。丁寧に水あげをしたライラックの日持ちは、約1週間。意外に長く楽しめます。
ライラックが素敵になる飾り方のコツ
ひと晩かけて、しっかり水を吸い上げたライラックは花穂がふっくらと膨らみ、準備万端になっていることでしょう。そこで、少量のライラックでも、フラワーアレンジに不慣れな人でも、簡単に、きれいにいけられるコツをご紹介します。
コツその1 ライラック1種でいける
水がよく上がったライラックほど、美しいものはありません。シンプルに1種だけをいけると、ふっさりとした花穂の様子はもちろんのこと、星のような小さな花もしっかりと見届けることができます。国産なら葉を添えるだけで十分。輸入のライラックの場合は、その季節の葉ものを合わせます。バスケットなど暮らしの「器」でセンスアップしてみませんか?

コツその2 口が狭くて、膨らみのある器で
↓の写真をご覧ください。挿したライラックは1本だけですが、やさしげな角度がついて、よい雰囲気です。そう、口が狭めの器ならではの、さりげないいけ方。また、胴体に膨らみがある器を選ぶことで、大きな房にも安定感が生まれます。おすすめはピッチャー。持ち手がアクセントになるんです。

コツその3 ボリュームのある花を脇役に
ライラックは房状の花。ほかの花を合わせてアレンジするなら、ライラックの房とバランスのとれる「大きめの花」を選んでみましょう。たとえば、↓の写真では、ウイキョウとトルコギキョウを添えました。ウイキョウなどの花が四方に広がる花でいえば、レースフラワーもおなじみですね。アジサイも初夏の風情を添えてくれそうです。

手軽に気軽にフラワーアレンジ。ライラックの飾り方アイデア
ここでは、旬になったら、まねてみたい素敵な飾り方をご紹介します。身近な器を使っているのもポイントです。
その1 小さな瓶にいけわけて

空き瓶でも構いません。高さや形の違う一輪挿しをいくつも並べたら、草花と一緒に思うままいけてみましょう。紫色のライラックは、草花によく似合う「姫ライラック」。アロマを調合するつもりで、ハーブの花を合わせてみました。
その2 ライラックだけで、美しさを愛でる

初夏に出回る国産ライラックには葉がついています。ライラック2種だけでも、みずみずしいアレンジが楽しめます。優雅に飾るなら、こんなふうに白と紫のライラックで。水が見えるガラス器も初夏ならではの涼やかさをもたらします。
その3 野の花を摘んできたように

バスケットにたっぷりのハーブとライラックをいけて、ピクニックで摘んだ花のイメージで楽しみます。ハーブは、ほかの草花でもちろんOK。繊細な雰囲気で、葉色も明るいものを選ぶと、爽やかに決まります。バスケットの中には、水を入れられる器を。
その4 ライラックのシャワーを楽しむ掛け花

部屋の高い場所に吊るすと、風にそよぐライラックの木のイメージで楽しめます! 木には葉がついているので、葉っぱも生かします。ブリキの掛け花入れで、さりげなく飾れるアレンジに。
その5 カスミソウを合わせて、ふわふわ、やさしく

ライラックには、どんな花を合わせようか悩むところかも。白いライラックにはカスミソウ! ライラックの花穂の間をやさしげにつなぎます。清涼感を添えたのは色づく前の房スグリ。ティーカップも含め、白い器でまとめ、白と緑の清涼なシーンを楽しみます。
ライラックを飾るときの注意点は?
ライラックをできるだけ長く楽しむためには、飾る場所もポイントです。花の居場所としてベターなのは、以下の場所です。
・直射日光、照明が直接当たらないところ
・エアコンの風が直接当たらないところ
・電化製品がそばにないこと
・風通しのよい場所
直射日光やエアコンの風が当たると、ライラックは花びらから水分を奪われ、しおれの原因に。花にやさしい場所を選びたいものですね!
飾ったライラックを長く楽しむために
ライラックが旬を迎える初夏は、何日も、花をいけたままにしておくと、水中にバクテリアが発生します。花の寿命を縮めるバクテリアの繁殖を防ぐために行いたいのが、「水替え」と「切り戻し」。毎日のお世話が大切なんです。
いけた水は、見た目には変わらなくても、汚れているもの。毎日するのは難しくても、2日にいちどは、器の中の水をきれいな水に替えましょう。その際、茎も丁寧に洗い、ヌメリを取るのがベター。また、器の中を、食器用の中性洗剤で洗浄すると、バクテリアの発生がぐっと抑えられます。
そして、水替え時にはハサミで茎をカット。さらに深く割り、表皮を剥ぐことで、ライラックはまた吸水しやすくなります。
では、ライラックの季節をもっともっと楽しむための、一助になりますように。
Credit
記事協力
大髙令子
『ランコントレ』主宰。
パリの花に魅せられ渡仏を重ね、1992年、東京・自由が丘にアトリエをオープン。“優雅とナチュラル”が同居した、パリ仕込みの洗練された花装飾が好評で、花教室、ウエディングなどで活躍。植物を素材にしたあらゆる表現において、クライアントのイメージをキャッチする能力に評価を得ている。多くの雑誌に作品を発表するほか、著書に「きほんのフラワーアレンジ」(学習研究社)などがある。
https://www.instagram.com/atelier_rencontrer
撮影・山本正樹、鈴木清子 撮影と構成と文・鈴木清子
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